軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㊴

私の人生経験に刻まれた匂いに関する常識がこっちの世界でも罷り通るのならば、その可能性も微粒子レベルで存在する?

ていうか、なんで糖分?

虫が糖分に集まる例は珍しくはないけど、虫が糖分を体内で生成する例というのは聞いた記憶がない・・・はずだ。

「フィオレがノーアを追って行く前から臭ってたけど、気付いてなかったの?」

「・・・そうなの!? ぜんっぜん気付いてなかったよ!」

魔力の反応を探るのに意識を集中していて、匂いなんてものに意識を割く余裕なんて無かったなあ。

これ、匂いじゃなく毒ガスだったりしたら、全滅してたんじゃ?

私も気付いてなかったんだから一緒に全滅していた側だけど。

「バルトロイ叔父様と一緒にアスクレーが魔石を取り出すって言ってたけど、見に行く?」

「・・・行く! ―――、お母様! アスクレーくんが蜻蛉の親玉の魔石を取り出すらしいから、見に行っても良い!?」

ルナリアと私のやり取りにザワッと空気がざわめいた。

お? 何? この反応。

予想外の反応に私の首が傾ぐ。

周囲の反応にお母様が小さく笑う。

「蜻蛉の親玉か。私も見に行くとしよう」

ははぁ。ドラゴンフライの弱点にはみんな興味が有るんだね。

次の機会には、もっと上手く倒してやろうって感じかな?

大穴から戻って来たばかりのルナリアが先導に立って、手が空いているみんなでゾロゾロと移動する。

レティアの住民にとっては馴染み深い魔獣なのに、ほとんど詳細が知られていない魔獣だから、余計に興味を引くのかも。

後片付け前の休憩を取っていたらしい新人さんたちもゾロゾロと付いてくる。

意外なほどの大所帯になったけど、ちゃんと警戒監視要員の割り当てはされているようで、槍を手に動かない子たちも居るから問題は無さそうだね。

穴の縁に立って底を見下ろすと、頭側を下にして斜めに傾斜した“獰猛くん2号”の胸の上に10人ほどが集まっている。

アスクレーくんもその中に居て、バルトロイさんだけじゃなくドネルクさんも一緒に居る。

こうやって人間の大きさと対比すると、体長20メートルを超える昆虫は大怪獣にしか見えないね。

仰向けに寝ている“2号”の両腕が大怪獣の胸の下を”鯖折り”のように抱き抱えているから、あの死骸がラクネに食い尽くされたりすれば両腕のアーチの下を潜ってダンジョンへ下りていくようになるのかな。

それはそれでダンジョンの風情を引き立てるモニュメントになりそうだ。

あの尻尾の先に取り付いて切開するなり斬り落とすなりしようとすれば、刃物を扱うことになるんだろう。

あんな斜めになった不安定な足場で作業するよりも、穴の外に“2号”を出せれば楽に作業が出来そうだけど・・・。

あわよくば、で試してみようかな。

こんがりと焼かれて素焼きっぽい色に変わった“2号”に魔力の手を伸ばしてみる。

予想通りと言えば予想通りだけど、“2号”に干渉を拒まれて「手」が入らないな。

「・・・やっぱりダメか」

「どうしたの?」

”2号”の移動を断念した私の呟きを耳聡く捉えたルナリアが首を傾げる。

「・・・うん? “2号”が迷宮の一部になっちゃったことを確かめてた」

「そうなのよね。焼かれたドラゴンフライが動かなくなったから、もう大丈夫かと気を抜いたら、すぐに掌握されちゃってたわ」

制御を奪われたことにルナリアがバツの悪そうな顔をする。

生み出して地面にポイッと落とした土がすぐに浸透されるぐらいだから、そんなことも有るだろうね。

ボーダーラインがどこに有るのかも全く分からなかったのだし、敵を倒した後なら何の問題も無い。

私がルナリアにお願いしたのは「敵を倒すまで現状を維持すること」なのだから、お母様が教えてくれた通りルナリアは必要な仕事を完遂してくれている。

「・・・目的は果たせたし、予想通りの結果だから気にしなくて良いよ。ありがとね」

「そ! なら良かったわ!」

精一杯頑張ってくれた上で、どうってことないと言わんばかりにペッタンコの胸を張るけど、ホッと胸を撫で下ろしている心中がルナリアの表情に表れている。

素直なんだか素直じゃないんだか、こういうところもルナリアの可愛い部分だよね。

クスリと笑って“2号”へと視線を戻す。

傾斜45度の斜面って結構な急勾配だよ。

しかも、滑落した先は全く調査がされていない迷宮(仮)だ。

万一、足を滑らせた際の危険性を思えば、現状のまま作業をするのはリスクが高すぎるように思える。

「・・・でも、あの足場じゃ作業しにくいよね?」

「どうするつもり?」

私の性格を知るルナリアは、私が何らかのアクションを起こそうとしていることを敏感に察知したようだ。

「・・・どのぐらいの速度で制御を奪われるのか、どのぐらいの強さの魔力なら制御を奪われるのか、私も体験しておきたいと思って」

「え~。また土を作るの?」

嫌そうに不平を零すけど、自分が手伝う前提で言っているルナリアが面白い。

今日は散々、土を作らされてるからね。

ルナリアが嫌がるのも分かる。

分かっていても、やるんだけれども。

ダンジョンに取り込まれた以上、“2号”崩落したり崩壊したりすることは無さそうに思う。

レティアの町からたった30キロメートルの距離にダンジョンが口を開けてしまった以上、調査もせずに放置する選択肢は無い。

だったら、安全な侵入ルートを確保する意味でも、この場で整備してしまうべきだろう。

侵入ルートとは脱出ルートでもある。

高山に登る登山家だって、ハーケンやアンカーを岩壁に打ち込んで安全なルートを確保しつつ上るものだよ。

調査できる環境を整備してしまえば、調査そのものを外注しやすくなるだろうしね。

「・・・足場を―――、階段もかな。足下が水平になる程度の量だから、楽勝、楽勝」

「まあ、そのぐらいなら」

名目上とはいえ当代の領主本人であるルナリアが頷く。

インフラ整備は領主の仕事で、用意されたインフラを利用して利益を追求するのは民間の仕事だ。

民間の仕事は民間に任せておいて、税金という形で上前を刎ねるのが領主の仕事とも言える。

盛大に儲けて貰って、どんどん税金を落として貰うことを目指そう。