作品タイトル不明
生態系の覇者 ㊵
「・・・じゃあ、始めよっか」
「どうすれば良いの?」
「・・・このへんに土を落としてくれる?」
首を傾げるルナリアの問いに、斜めに落ち込む格好でひっくり返っている“2号”の足を指し示す。
人間の体で言えば爪先の甲、あるいは脛にあたる部分だね。
足の太さに合わせて側面に垂直な壁を建てて塞ぎ、天井部分を水平な平面にする。
この平面が階段の踏み段部分になるんだよ。
仮設住宅を建てるときと同じく空間で定義して、そこに土を吸収していくんだけど、さらに魔力の手をもう一つ踏み段の上に重ねておく。
この重ねた方の「手」はコピペを行う増殖機だ。
ルナリアが生み出して制御を放棄した土は、一旦、増殖機で私の制御下に入って体積を増やしてから定義された空間へと落とされる。
「こんな感じで良いのかしら」
「・・・良いね良いね。さすがルナリア。良い感じだよ~」
カメラマンがグラビアモデルを 煽(おだ) てるような嘘臭い口調だけど、煽てられることでルナリアが気分よくドバドバと土を作ってくれるなら、私としても煽て甲斐がある。
爆速で体積を増やした土はどんどん踏み段に吸い込まれていく。
吸収されて飽和した土を圧縮してカチカチに固めるわけだけど、飽和する前に定義する空間そのものもコピペして、20センチメートル奥側の20センチメートル低い位置にズラして設置しておく。
このズレが階段の段差だね。
階段を作る上で注意すべき点は、上面を水平に保って高さと奥行きを一定にすることだ。
山歩きに慣れていた私でも、踏み段が傾斜していたり間隔が不均等だったりする階段は歩きにくいものだと知っている。
階段を踏み外せば足を挫いたりと仕事に差し障りが出てしまうだろう。
本番は地下のダンジョンに下りてからなんだから、命懸けの仕事場へ送り込むところまではサービスしてあげれば良い。
「送り込む」なんて言い方をすると鬼畜の所業に聞こえるかも知れないけど、私たちもまた国防という命懸けの仕事を担っているのだから純粋な心配りだよ。他意はない。
人間が踏んで歩く歩幅に合わせるのが最適解なんだろうけど、人間科学を専門に学んだわけでもない私には寸法をどうするのが最適なのかは分からない。
だから、何となく記憶に有る寸法ということで、踏み段の奥行きと段差の高さを20センチメートルずつにしてみた。
転落すると危ないから腰の高さで手摺りも付けておく。
逆さまに傾斜した“2号”の爪先から1段1段、踏み段が完成する度に制御を手放せば、“2号”と融合する形でダンジョン自身が階段を取り込んで維持してくれる。
私たちから奪い取ったのだから、後の責任はダンジョンに取って貰うよ。
一度ダンジョンに制御を奪われると取り戻せなくなるのが問題だけど、セメントで壁の破損を補修するように土を上乗せすれば形状の修正も容易に出来るのだから、そういうものだと割り切ってしまえば問題が問題じゃなくなるんだよね。
作りっ放しで丸投げすれば維持管理してくれるなんて、ある意味ではコストが掛からなくてメンテナンスフリーじゃん。
ダンジョンがこの場に存在し続ける限り、“2号”も永久にこのまま残り続けるのだろう。
お星さまになった“2号”よ。あなたのことは忘れない。
私たちは、あなたの屍を乗り越えてダンジョンを有効活用するからね。
ルナリアと2人、横並びに並んで1段ずつ段差を作っては下りていく。
私たちの歩みと共に階段が延びていくんだよ。
かつて、特徴的な顎を持つ元国会議員は言った。
「危ぶむなかれ、危ぶめば階段はなし。踏み出せばその一足が階段となり、その一足が階段となる」と。
名前を呼んではいけない呪いの生物のように遅々とした歩みだけど、一歩一歩確実に階段は出来上がっていく。
歩道橋みたいに階段だけが宙に浮いた構造物って、こっちの世界では見ないから珍しいのかな?
実体を持って形になった階段を踏んでみたお母様は、面白そうにポンポンと手摺りを叩く。
「これは下りて行きやすくて良いな」
「・・・仕事を始める前に怪我をする場所に人は来て貰いにくいかと思って」
現場内の安全確保は「ご安全に」の精神に則ったものだ。
ダンジョン内の安全確保までは面倒を見切れないから自己責任でお願いするけどね。
私の意図を察したお母様が呆れた目を向けてくる。
「お前。本気で冒険者を呼び込む気か?」
「・・・私が欲しいのは魔石だけだから、後は勝手に稼いで税金を払ってくれれば、それで良いかな」
働きやすい環境は用意するけど、ウォーレス領に何よりも重要な国境防衛の使命が有る。
採掘場の情報と同じでダンジョンの情報もカリーク公王国の耳に入るだろう。
専守防衛でこちらから攻め入らない以上、カリーク公王国は今後も攻めてくるのだろうし、ダンジョン攻略にまで関わる余裕は無いはずだ。
攻略はダンジョンで儲けたい人たちに 外注(アウトソーシング) すれば良いじゃん。
「魔獣素材取引の税はギルドが徴収者で、王宮の権益だぞ」
「・・・迷宮や街道を維持管理するのはウォーレス領なんだから、儲けの一部を落として貰う名目なんて入場料でも何でも良くない?」
領内に存在するダンジョンなんだから、ウォーレス領にも利益は落として貰わないと。
本音を言えば、発生する利益に比例して税金を徴収する累進課税にしたいけど、王宮の権益だと言われてしまうと、あんまり贅沢も言えない。
元々の目当ては魔石なんだから、一定額の徴収で妥協することも、やむなしかな。
私が提示した「名目は何でも良い」という考え方はお母様の心に刺さったようで、お母様も思案顔になる。
「ふむ? 迷宮の入口を城壁で囲ってしまえば入市税の名目は付けられるか」
「・・・魔獣素材取引の管理責任者が来てるんだから訊いてみよう」
せっかく採れた魔石を領外へ持って行かれては困るしね。
王様と交渉するにも現場の責任者と合意が有れば有利に交渉を進めることが出来るだろう。