軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

輝かしい魂

ショウとハルは宿、階下の人たちをかわしながら急いで外に飛び出したが、ハルはまず街道のほうに突っ走って行こうとするショウを止めた。そして外にいた小さい子どもを連れた若い女性にリクを知らないか尋ねた。捜している時間がもったいない。

「リクを、あの、私たちと一緒にいたカナンの少年を見ませんでしたか」

「ああ、あの子? 宿から急に飛び出してきて、最初街道のほうに走っていったんだけど、すぐに引き返して反対側の方へ行ったわよ。その後を困った顔をしながらお父さんがついていったのも見ちゃった」

ショウと同じことをしているリクにハルは思わず笑いそうになったが、何があったのか興味津々な女性にお礼だけ言って、町の反対側へ向かった。

この一週間の間、年少さんとは主に街道沿いで活動していたので、町の反対側のほうはあまり来たことがない。そんな麦畑の間の道の真ん中に、サイラスが困ったような顔をして立っているのが見えた。

「サイラス!」

「ああ、ショウ、ハル」

サイラスはやっぱり困った顔のまま振り向き、そのまままた前を見た。

「体育座りだ。懐かしい」

懐かしいなどと言ってはいけないのかもしれないが、麦畑の間の道の端に、膝を抱えて座り込んでいるリクがいた。わかりやすく落ち込んでいる。

「心配でついて来ては見たが、声をかけていいものかどうかわからなくてな」

そうつぶやくサイラスの顔に思わず見入っているショウを見て、ファルコと同じ顔なのに困り顔がかっこいいとか思っているんだろうなとハルはおかしくなった。しかし、そんな場合じゃないと自分で気がついて、リクのほうに走っていこうとするショウをハルは止めた。

「ショウ、私が行くよ」

「ハル、どうして? ああ、うん、わかった」

ショウは一瞬戸惑ったが、ハルの任せてという目を見てすぐにわかってくれた。

ショウは元気でまっすぐな人だから、落ち込んでいる時には少し眩しすぎるのだ。

ハルはゆっくりとリクに近付き、隣に座り込むとリクと同じように黙って膝を抱え込んだ。

しばらく、何も言わない時間がすぎたが、やがてリクが、膝の間に頭を落としたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。

「俺のさ、大地を癒す力のこと。サイラス以外の誰も知らないんだ。俺が来てから、何度も藪を払うことがなくなって、サイラスが荒れ地を開拓するスピードは上がったんだけど、やっぱり人手が増えると早いなあって、そのくらいにしか思われてなくてさ」

人に評価されるわけでもないのに努力するのはなかなか難しいことだ。

「それでも、楽しかったんだ。元気のない人が元気になっていくように、大地が力を取り戻す。俺がやったことの結果ってさ、次の年に緑が芽生く時までわからないんだ。いつもと違う草が生えてきて、ああ、ちゃんと土が元気になったんだなあってなる」

ハルは何も言わずにそっと頷いた。

「でも、そのせいで魔物が集まってきて、町の人に迷惑をかけていたのか、もしかしてスライムにやられて怪我の痕を残してしまった人もいたのかと思ったら、俺」

ハルは隣にいるリクをそっと見た。

リクはもううつむいてはおらず、麦畑の向こう、カナンのことを見ようとするかのようにしっかり前を向いていた。その顔をハルのほうに向けると、恥ずかしそうに目をそらし、今度は後ろに手をついて空を仰いだ。

「俺のせいだ、って叫んで部屋を飛び出すなんて、恥ずかしいったらないよな。思春期の子どもかよって、いや、まさに思春期か俺。一三歳だもんな」

ハルは我慢できずにくすくすと笑った。

ふと振り返ると、後ろでショウがそわそわしている。もういい? もう行ってもいい? と全身で訴えているが、まだ駄目だ。ハルは小さく首を振って見せた。

「なあ。今回のこと。俺のせいだけじゃなかったんだよな」

「そう。リクの癒しはきっかけだったの。魔物の注意が集まったところで、導師とショウが大きな魔力を使ったから、それで」

「そうか。ここでゆっくり状況を思い返してみて、そうかもしれないとは思ってたんだ」

どうやら落ち着いて考えられるようになったようだ。ハルはちらっとショウのほうを振り返り、目で合図した。

「私と導師のせいでもあるけど、だからといって後悔はしてないよ」

ショウはゆっくりと近づいてきて、リクをハルと挟むように座り込むと、そう言った。だいたい話は聞こえていたのだ。リクは驚いたように隣のショウを見た。

自分はやっと自責の念を抑え込んだところなのに、後悔していないとはっきり言えるショウはやっぱりまぶしいと思ってるんだろうなとハルは心の中でため息をついた。

「アレはきっかけに過ぎなくて、本質ではないもの」

「本質ではない?」

ショウの言葉は少しわかりにくかったかもしれなかった。

「魔物が増えた原因。私たちが多少多めの力を持っていたとしても、同じくらい魔力を持っている人はこの世界にはたくさんいる。それなのに、今までこんなことが起きたことはないんだよ」

「平原では魔力はあまり大きな意味を持たなかったから、よくわからないんだ」

自分の力が大きいのか、特別なのかさえわからなかったんだとリクはつぶやいた。

「魔物が増え始めたのは私たちがここに来た時期と一致するんだ。つまり、原因は女神の狩った、私たちの世界の電車一二両分の魂」

「まさか」

すっかり忘れていたのだろう。ショウの説明にリクの目が大きく開いた。

「補充したその魂がどう使われているのかはわからない。でも、いきなりエネルギーが増えたことが、魔物の増加に何らかの影響を及ぼしているのは確かだと思う」

「そうだったのか」

平原でのんびり生きてきたリクには、確かにわかりにくかったかもしれない。

「リク、俺はお前がいるだけでいい。どんな力があろうと、何をしていようと、お前と過ごせているだけでいい。こんな簡単なことが、悩むべきことなんだろうか」

いつの間にかサイラスが三人の後ろに立っていた。

「父さん」

リクは座ったままサイラスを見上げた。

「もしそれが世界の問題だとしたら、それを子どもだけで背負うのはおかしな話だろう。お前たちが他の世界から来たからと言って、それが何の関係がある。むしろ女神に招かれてきた側だろう」

ショウたち三人は顔を見合わせた。

招かれてきたなどと思ったこともなかった。

どうでもいい魂だから連れてこられたとしか思っていなかったのだ。

その話をしたら、サイラスはしばらく黙り込んでいたが、

「お前たちがどうでもいい魂だとしたら、お前たちの世界はどれだけ力のある魂ばかりだったんだ? 三人ともこんなに輝かしいというのに」

と絞り出すようにつぶやいた。

サイラスは魂の輝きが見えるわけではない。けれど、懸命に生きる自分たちを見てそう言ってくれたのだろう。

つぶやかれた言葉はサイラスのものだけれど、ハルはまるでレオンがそう言ってくれたように感じた。