軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春の草原

「夕ご飯に使うくらいなら一番小さいトカゲで十分なんだけどね」

「確かにねえ」

ショウがぶつぶつ言うと、ハルも頷く。草原沿いに進むとはいえ、丘はたくさんあって、しかも岩でごつごつしていたりするので、草原の魔物に限らず、いろいろな魔物が出ていた。

狩りの腕は上げなくてはいけないと思うものの、狩りそのものはやはりあまり好きになれないので、つい愚痴が出てしまうショウなのである。

ショウとハルは、ファルコとレオンに連れられ、一つ一つ種類の違う魔物とも戦い方を学んでいた。草原に多い黄褐色のハネオオトカゲは、体の半分の大きさがあっても、すでに狩った経験があるから平気だ。

しかし、平原へと続いている草原の中の街道では、見たことのない魔物にもいくつか遭遇した。その中でも圧巻はアオハネザウルスだった。長さ2メートル以上あり、空を飛ぶ。濃い青色の体はじっとしていると岩と間違えそうなくらいだし、いったん空を飛ぶと日に透ける羽は空の色に紛れて見えないという、厄介な魔物でもある。救いは単独行動しかしないことだ。

初めて見た時は、丘にある岩にしか見えなかった。

「ショウ、あの岩のように見えるやつをよく見ておけ」

そう言われてふと目をやると、確かに周りの岩と比べて色が濃い。そのうちこちらの気配に気づいたのか、もぞりと丸めていた体を伸ばすと、青い羽を広げた。

「きれい……」

思わず感嘆したショウに、しかしファルコは一言だけ告げた。

「来る」

それはそのまま丘の中ほどから滑空するようにこちらにまっすぐ向かってきた。

「正面から当たっても力で押し負ける。一度地面に落とす」

ファルコのその言葉と同時に、レオンがショウを抱えて数歩横にずれた。

「これがライラを襲ったやつなの……」

「襲ったというより、飛びかかったらはずみで鋭い爪で引き裂いてしまったというのが正しいだろうな」

ショウのつぶやきにレオンが冷静に答える。

「魔物は大きくても小さくても、細かい動きが苦手だ。あの魔物は丘を飛び立つ時、ファルコを狙った。途中で相手を変えるために方向転換するようなことはまずない」

ファルコは剣を構えて、静かに立っている。そしてハルはやはり少しずれたところで、すぐに炎の魔法を撃てるように構えている。

危ないと言いそうになるショウに、レオンが冷静に教えていく。

「ショウは魔法も使えるが、とっさに魔法と剣を使い分けるのは難しい。剣士としてどう対応するのかよく見るんだ」

ある程度の距離に近づいた時、ファルコはフッと横にずれ、アオハネザウルスに剣を振るう。羽に傷をつけられた魔物は、バランスを崩しズザザッと地面に落ちた。ファルコは魔物が体勢を立て直す前に近寄り、とどめを刺した。

「すごい……」

「まあ、腕のいい狩人さ」

ファルコがこちらにすたすたと戻ってきた。

「というわけだ。次、アオハネザウルスを見かけたらショウがやれ」

「こういう人だったよ……」

出会ったばかりの時、スライムをやれと言って、剣を置いて何も説明せずに出かけてしまったファルコは、元からこういう人なのだった。何が「というわけで」だ。何も説明していないではないか。先生にはとても向いていない。

こんなスパルタな暮らしをしながらも、街道を平原に南下する一行にとって、季節の移り変わりはいつもより早いものだった。春の初めに出てきたはずなのに、見る間に草原は青さを増し、風が温かさを増す。

「本当に魔物が減って来たね」

ショウが何気なく周りを見渡し、思わずぽつりと口にしたのは、旅立ってから二週間ほどが経ち、もう少しで平原に入るという頃のことだ。

このあたりはまだ深森なのだが、森というほどのものはなく、農地も多くなってきていた。しかし行く手の左側、つまり東側にはかなり高い山がそびえ、深森と平原を分けており、深森から草原に入るには、西寄りの岩洞のそばを通ることになる。

「この中央の山脈がなければ、各領地にもう少し交流があると思うんだがなあ」

「確かにな。岩洞も湖沼も行くのも大変だが、平原に行くのにも一苦労なんだよな」

「だが、この山脈があることで、岩洞や深森で発生する魔物が平原まで行くことがほとんどないのだから、平原にとっては良いものだろう。しかもこの山のおかげで水も豊かだ」

ファルコとレオンと導師が話している。ショウはと言えば、まだ雪の残っている山脈をひたすら感心して見ていた。深森だって山は多かったし、湖沼の学院都市は山に囲まれた盆地だったが、これほど高いものではなかった。

「この山に登ってキノコとか木の実とか採取する人もいるのかなあ」

「そこかよ」

そしてすかさずレオンに突っ込まれている。

「もちろんだとも。そう言えば次に寄る町が深森最後の町だし、干したキノコや木の実の産地だったように思うぞ」

導師がちょっと自信なさげだが、そう教えてくれた。ショウとハルの目が輝いた。キノコはもちろん北の町にも売っていたが、何と言っても産地で買うのが一番だ。しかも栗などが安く手に入るかもしれないではないか。しかし、ショウはふと気が付いた。

「でも待って! 北の森は魔物が多いし、岩場には魔物がたくさんいる。それならこの山脈を中心に、魔物が大量発生してもおかしくないんじゃないの?」

確かにそうである。けれども、現に山脈に近づくにつれむしろ魔物は少なくなっているし、平原側にも出ないという。

「そこが不思議なのだが、この山脈では魔物は発生しないのだよ。だから狩人でないものが山に入り、その恵みを得ることもできる。そのため女神の慈悲の山と呼ばれているのだよ。もっとも、魔物も出ない代わりに薬草も生えない」

それを聞いてショウは鼻の頭にしわを寄せた。ハルはそれを見てくすくす笑っている。ショウはファルコの近くに落とされたが、偶然ファルコに拾われなければ凍死するところだったし、魔術院の前に落とされたハルに至っては、ちゃんとした世話人すら与えられなかった。つまりショウにとっては、女神はこれと言ってたたえるべき人ではないし、慈悲などあるとも思えないのである。

それでも町に入り、大量の干したキノコとクリなどの木の実、珍しいハーブなどを手に入れたショウは機嫌を直した。理由が女神の慈悲だろうがそうでなかろうが、おいしいものが手に入るのであればそれでいいのだ。

その町を出ると次の日にはもう平原に入る。左手に見える山脈沿いに馬車を駆りながら右手を見ると、草原が広がってはいるものの、幅は狭い。

「ここしか草原に入るところはないの?」

「深森からはな。だからほら、馬車の往来はさかんだろ?」

レオンが言うまでもなく、先ほどから何台もの馬車とすれ違っている。

「でも、ここ、私は嫌い」

「ハル? どうしたの」

珍しいことをハルが言い始めた。

「いい、ショウ、魔物と戦うには位置取りが重要なの」

「ええ?」

ショウはちょっと驚いたが、ハルは見た目通りの穏やかなところばかりではない。湖沼では先頭に立たされ、魔物と二年近く対峙してきた魔術師でもある。弱っていたから深森に連れて来たが、どうやって身を守って戦うかということについては厳しい姿勢をずっと持っていた。

「少しの魔物ならいい。もしかしたら、こないだのハネオオトカゲの移動くらいなら、狩人がたくさんいたら何とかなるかもしれない。でも、もしそれ以上に大きい魔物がたくさん押し寄せたら? この狭さは、十分な準備のない平原にとっては危険だと思う」

「ハル、お前……」

レオンだけでなく、ファルコも導師もハッとしてハルを見たのは、ハルの言う通りの事件が昔起きたことがあったからだ。