軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋根裏部屋

「なるほどな」

テーブルに腕を乗せてリクの話を黙って聞いていたサイラスは、体を起こすと椅子に背を預けた。

「信じて、くれるのか」

「いや」

信じないのかよ。それはそうだとどこかで納得しながらも、リクはちょっと気分が落ち込んだ。

「お前がいうところのこの世界では、女神とは創世の女神のことで、姿を見たものはいないが、癒しの技を通してその存在は信じられている。教会もあるしな」

確かに、自称女神であって、よく考えたら、地球でも男の神も多かったし、そこから違っている可能性もあったわけだ。それに本当に神様かどうかだって怪しいと言えば怪しかった。

「違う世界、しかも30間近だったと言われても、今のお前は10歳くらいにしか見えないし、そんなことは聞いたこともない。神が魂を狩るというところはまあ、あるかもしれないと思ったが」

そこは信じるのかよ。サイラスが何を基準に話を聞いているのかわからなくて、リクは混乱した。

「そういう常識も知らないということか。この世界では、人は魂の記憶によって体が作られているんだ」

「魂の、記憶?」

「やっぱりわからないか。ここ平原ではひどい怪我をするものもあまりいないからピンとこない者も多いが、狩人の多い深森や岩洞では怪我をするものも多いと聞く。怪我をしても魂の記憶さえあれば、体は元通りに治る。治す力は、治癒師が女神の元から引っ張ってくるのだという」

リクはポカンと口を開けた。それをおかしそうに見ながら、

「この世界には魔物がいて、その魔物を倒すことで食肉と魔石を得る。魔石とは」

サイラスは席を立つと上着のポケットから何かをもって来た。

「さっきのスライムから出てきたものだ」

「これが、魔石」

そうしてリクの手に改めてそれを持たせてくれた。人差し指の先ほどのそれはくすんではいるが薄青色に輝いていて、宝石のようだ。リクはそれを日にかざしてみた。ゲームの世界にしかなかった魔石が、ここにある。

「これがいろいろな道具を動かすもとになるんだ。一番便利なのはやっぱり調理と暖房だな」

石油のようなものなのだろう。いよいよリクは興奮した。

「もっとも、平原には魔物はあまり多くないんだ。出たとしても、さっきのスライムかトカゲくらいで、それも牧場以外ではほとんど見かけない」

「さっき食肉も魔物からって言ってたけど、じゃあ、ここでは肉はどうしているんだ?」

確か今朝のスープにはベーコンのようなものが入っていたと思うんだが。

「うーん、卵を産んで年を取った鶏、若い雄の鶏、雄の牛、それにトカゲ、海が近いから海の魚」

いかにも固そうなラインナップである。しかも魚は肉じゃないし。

「まあ、それは少なくてたいていは深森や岩洞から安く手に入るので困らないんだ。その分麦や何かを輸出して、まあ、全体的にうまく回ってるんだ、この世界は」

サイラスはこの世界という言葉が気に入ったのか楽しそうにそれを口にする。

「それよりリク、お前、魔法を見て目を輝かせてたが、魔法が苦手なのか?」

「魔法!」

リクはぐいっと前のめりになった。

「俺の世界には魔法はなかったんだ。なあ、誰でも魔法ってつかえるの?」

「そこからか……。どっかの偉いとこの子かもと思ったが、それも違うようだな……」

サイラスはそうつぶやくと、さらに追及した。

「試しの儀ではどうだったんだ?」

「試しの儀?」

「それも知らないのか、これは参ったな」

サイラスは眉間にしわを寄せると、手を合わせるような仕草をして見せた。

「こう、大きな水晶柱に力を注ぐと、それが緑や何かに光るやつだ」

「知らないよ、そんなの」

「そうか」

サイラスはそう言うと立ち上がって、リクにお茶のお代わりをついでくれ、

「ちょっと外に行ってくる」

と言うと、上着も着ずに外に出て行った。どうしたのか。しかし、リクも考えることがたくさんあった。魔物、魔石、魂の記憶。魔法に試しの儀。一日で詰め込むには多すぎる内容ではないか?

やがてバタンという音を立ててサイラスが外から帰ってきた。

「考えてみたんだが」

どうやら外で考え事をしてきたらしい。一人になって考えてみたかったのだろう。その気持ちはリクもよくわかったが、どういう結論が出たのかが気になってしまう。

「要はリクは、この世界では親はいない。そうだな?」

「そうです」

思わず丁寧な言葉遣いになってしまった。

「なら最初に決めたとおりだ。ここにいたらいい」

それだけのことだと、おそらく決めてしまっただろうサイラスの顔は晴れ晴れとしていた。

「俺、あの」

「なんだ」

「これからよろしくお願いします!」

「ああ、俺が養い親ということになる。よろしくな」

「はい!」

養い親というのは聞きなれないが、まあ、そう言うことなんだろう。

「さ、この家にいることになるなら、ちゃんとした部屋を決めないとな」

「え、いや、俺、昨日泊めてもらったところでいいんだけど」

「まあ、そこでもいいんだけどな。まあ、ついてこい」

そう言うと、居間の端に向かった。数歩で着くそこには、よく見たら梯子がついている。いや、梯子というより、傾斜した急な階段というほうが正しいだろうか。その階段の行きつくところつまり天井には大人が一人通れるくらいの小さな穴が開いている。

サイラスはその階段を上りながら、

「俺が上がり切ったら上れ」

と指示を出した。リクはわくわくしながら待った。サイラスの足が天井に消えたところで、飛ぶように梯子を上がる。ぴょこっと頭を出してみると、そこは屋根裏部屋だった。そういえばこの家は二階がなかった。

「すげえ」

途中が壁で仕切られているけれど、家の半分ほどある広い部屋は、屋根に沿って斜めになった壁が二面あり、まっすぐになった一面にはガラス窓がはめ込まれていて全体が明るい。その窓際に寄せられたベッドとその前に敷かれた敷物の色は青と緑が基調になっている。小さめの書き物机に、椅子。机の上には、小さなランプ。

これでおもちゃが転がっていたら確実に男の子の部屋だろう。

誰がいても別にいいと思わせた客室とは明らかに違う。

「ここ、誰かの部屋じゃないの?」

「ああ、いや、誰も使ったことはないんだ。だから気にしないで使ってくれ。それより、ちょうどリクのサイズの服があったような気がしたんだが」

サイラスはベッドの横にかがみこむと、ベッドの下から箱を引き出した。

「10歳くらい、となるとここらへんか。まあ、ちょっと型は古めだけど、子どもの服に流行なんてそうないからな」

そう言うと、たたんだ服を一式、厚い上着までまとめて出してきてくれた。

「必要なものはまたそろえるとして、今着ているものとこれで、しばらくはもつだろ。さあ、明日からは結構な重労働だぞ。くじけるなよ」

「うん!」

思わず出た返事はまるで10歳の男の子そのもののようでちょっと恥ずかしかったけれど、生き直すんだからこれくらいでいいんだとリクは自分に言い聞かせるのだった。