軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カナンの町

ショウとハルが形だけでも乗馬ができるようになった頃、一行はカナンの町についた。午後遅くの日の中で見る町は、中心部に入るかなり前から広い農地が広がっており、それはアンファの町に比べると数倍の規模であった。

「ほんとに大きい町なんだね」

感心したようにあちこち眺めるショウに、

「ここらでは一番らしいよ。もっとも、南西部ではってことだけど」

とリクが返事を返す。それをなるほどと聞きつつも、ショウはそういえば深森では北の町以外ほとんど行ったことないことにいまさらながら気づいた。

「岩洞の国境の町は同じくらいかなあ。でも、湖沼の学院都市はもっと大きかったよね、ハル」

「たぶん」

学院に閉じこもり、町に出かけることがほとんどなかったため、そうとしか言えないハルに、余計なことを言ってしまったとショウは後悔した。でも、ハルはショウの言ったことで傷ついている様子はない。ただ、ショウの質問に正直に答えただけだ。

「でも、周りに山がなくて、こんなに広々と広がっている町を見るのは初めて」

「そういえばそうだね。なんていうか、すがすがしい気持ち?」

確かに湖沼は、どこも山に囲まれていたなあとショウは思い出す。レオンとファルコも面白そうに周りを見ている。もっとも、さすがに護衛である。油断なく魔物などもチェックしているようだ。

しかしショウはそれを、素直な気持ちで見ることができずにいた。

カナンへ近づくにつれ、ファルコの様子が少しずつ変わっていったからだ。

話したいこと、話すべきことがあるのに話せない感じ。

その感じは、ショウには覚えがある。三年前の、夏の狩りの前のことだ。

「星迎えの祭り」

夏の狩りに行く直前の、星迎えの祭りまで何も言ってくれなかったファルコ。

狩りではいつも冷静で何も恐れないファルコだが、唯一恐れるのがショウと離れること。それ以外のことで悩んでいるファルコは見たことがない。

だからショウは、少し不安なのだ。今回、ファルコを悩ませているのは何なのかと。

しかし町に入った今、悩んでいる暇はないようだった。

「深森の人だ! 深森の人が来たぞ!」

「サイラス! リクも! おーい! 二人が戻ってきたぞ!」

念のため御者席には、深森からわざわざ来たのだとわかるように、導師とレオンが座っている。ファルコとショウとハルは馬車の中に座っている。

「狩人だ……」

「導師なの? 初めて見たわ……」

そんな声も聞こえる。導師とは教会の力のある人に対する敬称なので、だれか一人のことではない。狩人はともかく、こんな大きな町なら導師の一人二人はいるだろうにとショウはおかしくなった。

「セイン様はかっこいいからなあ」

確かにセイン導師はいかにも導師という格好良さなので、感心するという気持ちもわからないではなかった。

「俺は?」

ショウの言葉に、ファルコが不服そうに腕を組んだ。

「今はセイン様が外で感心されてるって話でしょ」

あきれたショウも思わず腕を組んだ。

馬車の中で腕を組んでにらみ合っている二人を見て、かっこいいって言ってほしい養い親と照れくさくて言いたくない養い子との対決だと思う人はいないだろうなと、ハルはおかしくなった。

「ふふっ」

「ハル」

それをわかっているショウはハルが思わずフフッと笑うと情けなさそうな顔をした。結局、心が大人のショウが折れるしかないのだ。

「もう。あのね、ファルコ」

ファルコの顔が、一見無表情ながらも期待に輝いた。言いたくない、なんだか無性に言いたくないけれども言わないとこの対決は終わらない。

「ファルコも、かっこいいよ」

「お、おう。そうか」

ファルコは照れたようにそっぽを向いた。ショウは照れるなら聞かなければいいのにと思う。

「まず顔がかっこいいでしょ。ちょっときつめの目がワイルドでかっこいいよね。それに狩人らしくたくましいし、強いし、頼りになりそうだし、でも優し」

「わあ、もういい、もういいから」

続けるショウの口を慌ててファルコが抑えた。横でハルが声を出さないように笑っている。

ショウが黙ったのを確認すると、ファルコは向かい側のショウを抱き上げて自分の隣に座らせた。

「なあショウ」

「なに?」

「大事な話があるんだ」

「うん」

今晩、ちゃんと話すからそれまで待っていてくれるかと小さな声で続けたファルコに、ちょっとは成長したかなとショウは思う。たとえそれがいい話ではないと分かっていても、ちゃんと言ってくれることが大事なのだから。

依頼主はこの町の教会なのだが、時間も時間なので、教会に挨拶に行く前に、一行は宿をとることにした。

宿屋にはサイラスが案内してくれることになった。リクはといえば、教会に到着の報告に行った。

もちろん、どこの教会でも客を泊めるための部屋はあるのだが、例えばアンファの町は教会が小さすぎて客室と呼べる場所はなかった。リクの話によるとカナンの町の教会は大きいそうだが、夕方から押しかけて泊まる準備をさせるには忍びないと導師は言う。

本当のところは、疲れたから一日くらいのんびりしたいのではないのかなとショウは思っているのだが。

宿につくと同時に、平原には珍しい淡い髪の背の高い青年が顔を出した。

「導師! やっと来てくれましたか」

「エドガー。待たせたな。先行してもらって助かった」

「あまり意味はなかったですけどね」

疲れた顔をしているエドガーの目は明るい空の色で、導師やレオンの存在と相まって、夕食時でにぎわう宿屋の人たちの目を引いている。

そのエドガーのことは、ショウもよく知っている。三〇歳ほどの若い薬師だ。ショウもハルも、北の森にいるときはせっせと薬草を採って薬師に収めているし、そもそも薬草採りは年少さんのお仕事なので、薬師とは全員知り合いだし仲もよい。

深森の北の町でも、治癒師だけでなく、薬師も本当は足りないくらいの状況である。しかし、セイン導師の考えに賛同して、若い薬師の中から腰の軽いエドガーを選んで、カナンの町に先に派遣していてくれたのだ。

アンファの町のロビンのように、薬師は部屋にこもってポーションづくりをするのを好む人が多い。エドガーは年少さんに交じって時々薬草採りをするくらいには、外に出るのが好きな人だ。

そのエドガーの目が導師から下に降りて、ショウとハルと目が合った。

「ああ、ショウにハル。君たちが来てくれたのか。助かるよ」

エドガーは心底ほっとした顔をした。一人で奮闘して大変だったのだろう。

「お疲れさま」

「ああ、深森の子だ」

思わずショウとハルをまとめて抱きしめようとしたエドガーの手をファルコが払った。

「触んな」

「ちっ。ファルコも一緒か。そりゃそうだよな」

その様子を見て宿の受付のおじさんが不思議そうな顔をしている。

「深森の子? どう見てもかわいい平原の子たちだろ。それにあれ、サイラス?」

宿のおじさんはショウとハルを見て、それから視線を上げてファルコを見るとおやという顔をした。