軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 海鮮丼つくります

「ああ。クリスウィン公爵が美味しかったと言った海鮮丼だな。新鮮じゃなきゃ食べられないと聞いている。私が大陸に行っていた数日間、海が荒れて漁に出れない日が続いているということで、一緒に行った通訳が海鮮丼を食べることが出来なくて残念がっていた。タイミングが合わなかったから仕方ないが、『大陸での楽しみだったのに』と相当嘆いていたな。それを聞いて私も期待していたのだ」

おう。通訳さん残念だったね。

生のお刺身は新鮮だからこそ食べられる。それにあまり保存技術が普及していないこちらの世界では本当に産地でしか出会えないだろう。

「まあ。通訳の方も海鮮丼がお好きなのね」

マリアおば様も期待しているようだ。

「サーモンやマグロも美味いそうだ。冬の漁で獲るのが楽しみだな」

うわ! それは絶対美味しいやつ!!

それも冬のは脂がのって美味しいはず!!

どうやらそれらは寒くなってから回遊してくるらしい。次は冬にデイン領に来たい!!

では、今は手に入った海鮮で海鮮丼を作ろう。

「久しぶりに、アーシェと一緒に作れるな」

うん。ローディン叔父様、一緒に作ろうね。

「お手伝いさせてください!」

とポルカノ料理長。もちろん。今日はお祝いも兼ねていろいろ作るからね。

さて、今日のメインは宣言通り海鮮丼だ。

でも、前評判はいいものの、初めて食べる生ものに抵抗がある人もいるかもしれないので、別の物も用意しておくことにする。

まず手始めに、興味津々だったかつおぶしをポルカノ料理長に削ってもらい、出汁を引く。

昆布だしと一緒にするのが好みなので、昆布を取り出した昆布だしの鍋を沸騰させて火を止めてかつお節をたっぷり入れてかつお節が沈むのを待って、布を敷いたザルで濾す。

これで出汁はオッケーだ。

これを使って簡単にお味噌汁を作ってみた。

「なんだか小魚の出汁よりも、かつお節の方が上品な味がするような気がします」

ポルカノ料理長や料理人さん達が言う。

うん。小魚の出汁はとっても美味しい。ただ、下処理を少しでも怠ると雑味がでるのが難だった。

かつお節はかつおの内臓を取り除いているので雑味を感じることはなく、さらに生のかつおを時間をかけてかつお節に加工することでうまみ成分が何倍にもなる。

「これは本当にいいものですね。これからも使って行きたいです」

味のプロのお墨付きで、ローランドおじい様がこれからも輸入することにしていた。

ツナ缶もどきを年中作っているらしいから、かつおは年中とれるらしい。かつおも回遊魚だったはずだけど? こっちでは違うのかな。

それならかつお節の加工もしたらいいだろうけど、それを決めるのはデイン伯爵だ。

さて。では海鮮丼づくりかな。

クリスウィン公爵が食べたという具材で作ってみよう。

初めての生食。

クリスウィン公爵が食べて美味しかったという証言があった具材ならば、みんな受け入れてくれるだろうし。

まずは、ホタテ貝を殻から外してもらって、貝柱だけにする。それを食べやすくスライスしておく。

次に大好きなエビだ。殻を剥いて背ワタを取った後、海水と同じ濃度の塩水で洗う。

エビの血液は透明なので見た目には分からないがそのまま食べると生臭みを感じる。塩水で血液を洗い流して生臭みを取ると、甘味を感じる美味しいエビのお刺身が食べられるのだ。

その次はイカだ。料理人さん達は手際よく内臓を取り除いて皮を剝いでいった。

その途中でリンクさんに寄生虫がいないか鑑定してもらった。

どうやらこちらの世界には寄生虫のアニサキスがいないのか、たくさんあったイカには寄生虫が一匹もいなかった。よかった。安心して生で食べられる。

隠し包丁を細かく入れた後、細く切る。

これで海鮮丼の具材は出来た。

「うん? これで終わり?」

そう。刺身は食材の美味しさを味わうので、下処理はこれだけだ。

「あい。これをごはんにのせて、おしょうゆをかけてたべりゅ」

「まあ。シンプルな料理なのね」

「素材の旨味を味わうのだろうな」

ローズ母様の言葉にローランドおじい様が頷いていた。

よし。もっと作ろう。

「あのおしゃかな、しゃばいてくだしゃい」

立派な魚を一本捌いてもらって、指示をして薄くスライスしてもらった。

私は魚を捌くのが得意ではない。常にスーパーで切り身を買ってくる派だった。

でも今世でスーパーのように捌いてくれるサービスはお店にはないので見て覚えることにした。

そうじゃないと今後自分でお刺身を作れないだろう。

―――ああ。そこに包丁入れるのね。うわ。そうやって内臓取り除くんだ。

ローズ母様が小さく悲鳴を上げた。うん、気持ちは分かる。

流石に毎日魚を捌いている料理人さん達は手慣れている。

あっという間にカツオの刺身が大皿にのせられた。

そして、今度は漬ける為の調味液を作る。

醤油に味醂と砂糖を入れてひと煮立ちさせて冷ます。

薄く切ってもらったカツオのお刺身に冷ました調味液を加えて、漬け込む。

その間に別の料理人さんに、ショウガを薄く切ってもらい、塩をまぶして少し置いて水洗いし、軽くゆでて冷ます。

酢に多めの砂糖と少しの塩を加えて煮溶かした後、冷めたら、薄くスライスしたショウガと合わせてなじませておく。

そう、これはお寿司に欠かせない生姜の甘酢漬け。よくガリと呼ばれていたものだ。

前世でなぜガリと呼ばれたかというと、大きい生姜をガリガリと噛んでいたとか、包丁で切る時にガリガリと音がしたからだそうだ。なるほど。確かに包丁で切った時ガリガリ音がしていた。

これで二時間ほど漬ければ出来上がりだが、こっちの世界はショートカットが多い。

実際30分ほどで程よく漬かり、食べられるようになった。

「あら。甘くてさっぱりしているわね。ちょっぴり辛みもあっていい感じね」

「甘い酢の漬物か。なかなか美味い」

「口の中がスッキリするな」

どうやらおおむね好評のようだ。

さて、仕上げに行こう。

酢と砂糖と塩で作ったすし酢を温かいご飯にかけて混ぜ、カツオの漬け汁も少し混ぜ合わせ、さらに作っておいたショウガの甘酢漬けを混ぜ込む。個人的にはミョウガも入れたかったけど、ないのは仕方ない。

大きな皿にすし飯を広げて、その上にカツオの漬けをのせ、ネギの青い部分を散らし、海苔を細く切って散らした。

全体的に少し暗い彩りなので菊の花の花びらを散らしたらいい感じになった。

「かつおのちらしずしかんしぇい!!」

「ちらしずし??」

ずっと私の指示を聞きながら調理を担当していたポルカノ料理長が首を傾げた。

「これ!!」

指差ししたのは、大陸からローランドおじい様が購入してきたという米酢のラベル。

そこにはちらし寿司のイラストと料理名が載っていた。ラベルとはちょっと色合いが違うちらし寿司だけど。

私が作ったのはカツオの漬けを使ったちらし寿司。

前世では手こね寿司と呼ばれていたものだ。

家族で旅行に行った時に食べた手こね寿司が本当に美味しくてハマり、何度も家で再現して食べた思い出の味だ。

「お酢の香りが食欲をそそるな。食べてみてもいいか?」

リンクさんがそう言うと、皆も試食を希望した。

「あい!」

もちろんだ。私も酢の香りのせいでお腹が空いていた。

お酢って食欲増進効果があるんだよね。

「火を通すとカツオの身は白っぽくなります。生の状態では鮮やかな赤です。調味液に漬けましたところ深い色合いになりました」

ポルカノ料理長がカツオの身の状態をローランドおじい様に説明をしている。

加工場でツナみたいな加工品を製造しているのでローランドおじい様も生の状態と加熱後の状態を把握しているようだ。うんうんと頷いている。

「ほう。ではこの色はカツオに調味液が染みているということなのだな」

そう。生のカツオを漬けたので色が少し変わり、照りとつやが出ている。

食欲をそそる色と香りだ。

これなら、ハードルの高い生の刺身を乗せた海鮮丼を食べる前の前哨戦(?)としていいかもしれない。

全員に取り分けて。皆に渡ったね? では。

「いただきましゅ」

みんなが私のあとに『いただきます』を言う。

何故かいつも食事の挨拶は私が最初だ。んん? 作った人が言うシステムなのかな?

ちょっと不思議で首を傾げたら、くすりとローディン叔父様が笑った。

「ああ。いただきます」

カツオの漬けを乗せたすし飯をぱくり。

漬けにすると生臭みが消え、カツオの旨味ととろりとした食感が絶妙だ。

ガリやネギの薬味もいい仕事をしている。

ああ。懐かしの味だ。美味しーい!!

「へえ。生のカツオの漬けって、旨い」

「本当だな。火を通したものと全然違うが、また違う美味しさだ」

リンクさんやローランドおじい様が口を綻ばせると、マリアおば様とローズ母様も頷いていた。

「すし酢とやらをかけると、お米がとても美味しくなりますね」

「さっぱりしてていくらでも入りそうです」

「このカツオの漬け。トロっとしてすごく旨味を感じます!!」

「火を通さなくても美味いんだな、魚って」

料理人さん達にも抵抗なく受け入れられたようだ。

よかった。これならこれからもお刺身を作ってくれそうだ。

「調理していた時の魚の臭いが感じられません。これはこのすし酢やショウガの甘酢漬けのおかげなんでしょうね」

さすが、ポルカノ料理長。その通りだ。

カツオは旨味があるけれど、結構臭いがあるので薬味をたっぷりにするとそれを打ち消してくれるのだ。

「おちゃかな。なまはおいちいけど、においしゅる。おす、しょうが、わしゃびがしょれをけしゅ」

「なるほど。だから大陸の店の主人は私にワサビを勧めたのか」

ローランドおじい様が納得して頷いた。

「じゃあ、ワサビを用意して海鮮丼も食べてみよう。カツオが美味かったから、海鮮丼も美味いはずだ」

ローランドおじい様の言葉を受けて、続いて海鮮丼だ。

今はとにかく料理人さん達に受け入れて貰うことが一番なので、晩餐までおあずけするようなことはしない。

ここはきっちり一緒に食べて美味しいことを証明しなければ。

まずはワサビをすりおろしてもらった。

海鮮丼用のご飯は二種類用意した。

すし酢をかけたものと、普通のご飯。

これも好みなので、食べ比べてもらおうと思ったのだ。

ローランドおじい様がどんぶりの器を数種類大陸から買ってきてくれたので、すし飯を軽く盛り、その上に三種類の海鮮を前世の記憶通りに並べる。白っぽい具材ばかりなのは仕方がない。

彩に小葱の青い部分と菊の花を散らし、細く切った海苔を散らして完成だ。

ワサビを少しといた醤油を、エビ、イカ、ホタテの乗った海鮮丼に回しかけ、皆でいただきますをして、皆一斉に頬張った。

先ほどカツオのちらし寿司で生に対するハードルを下げたからか、皆あまり抵抗感がなくなったらしい。

エビをちゃんと下処理したおかげで、トロリとした美味しさが口いっぱいに広がった。

おいし~い!!

「うわ! エビ甘い。甘くてトロっとしてて美味い!!」

「ホタテもそうだ! さっくりとした歯ごたえがいいな。旨い!」

「イカも歯ごたえがあるし、なんだか甘さを感じるぞ!!」

リンクさん、ローディン叔父様、ローランドおじい様が次々と絶賛した。

うんうん。この三つは私の大好きな海鮮だ。

前世は海に囲まれた国に住んでいた。海鮮が豊富でイカもホタテも小さい頃から食べていたし、エビも大好きだった。

まさか転生したこの世界でこんな完璧な海鮮丼を食べられるとは思わなかった。

「ワサビ、ピリッとしてるけど、あった方がいいな」

「―――生って美味かったんだな」

「多めに入れたらツーンとなった! 今度からほどほどにしなきゃ」

どうやら料理人さん達、次からも作ってくれる気になったらしい。ふふふ。

自生しているワサビを採りに行く算段もしているし。

「普通のご飯でも、すし酢をかけたすし飯でも美味いな!」

「どっちでもいける!!」

「美味しいわ。エビやホタテが火を通さなくてもこんなに美味しいなんて」

「そうですわね。イカもとても美味しかったですわ」

マリアおば様やローズ母様も大丈夫そうだ。

よかった。食の好みというのは人によって違う。

特に生のお魚を食べるということは、これまで食生活になかったことなので受け入れられるかドキドキしていたのだ。

「晩餐にもお作りしますね」

とポルカノ料理長が言ったので、無事に受け入れられたらしい。よかったよかった。

―――さて。さっきから私の視界に入っていたもの。

あれを使って大好きなアレを作ろう!