軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138 海辺のデイン辺境伯家

「う~み~!!」

海だ!!

転生してからはじめて見た!!

砂浜が白い! 海の色がエメラルドグリーンだ!!

キレイ~! 前世で好んで旅行に行った南国の海みたいだ!!

「数年ぶりに来たが、本当にキレイだな」

ローディン叔父様がどこまでも続く青い海に目を細める。

ここはデイン辺境伯領。王都から河を下ってきて先ほど到着したばかりだ。

「アーシェ。デイン領はアースクリス大陸の南端に位置している。海に面している唯一のアースクリス国の領地になる。だからおのずと漁業が盛んな領地なんだ。西側に行くと漁船の船着き場と加工場があるぞ。反対側は軍船の港になっている」

リンクさんが私を抱っこして、遠くに見える建物を指差して説明をしてくれる。そうなんだ。

「アーシェラ~~!!」

「おじいしゃま!!」

近づいてきた漁船からローランドおじい様が手を振っていた。

「いいタイミングだな。アーシェに新鮮な魚介を食べさせたいって言っていたから朝早くから漁に出てたんだろう。見に行くか」

「あい!!」

「ほら、リクエストされていたエビとホタテ。イカもあるぞ」

水揚げされたばかりのホタテはまだ動いている。新鮮そのものだ。

「しゅごい!!」

「あっちに魚もたくさん下ろしてある。夕食用に魚も持っていくから楽しみにしておいで」

「あい!!」

船着き場にほど近い場所にはコンブの加工場や加工食品を作っている所があるそうだ。そこには明日改めて行くことにして、今日は早々にデイン辺境伯家の本邸へと向かうことにした。

◇◇◇

「アーシェラちゃん。ようこそ。デイン辺境伯家に!! 待っていたのよ~~」

到着するなり、マリアおば様にぎゅうぎゅう抱きしめられて頬ずりされた。

「ローディン、半年間のお務めご苦労様。本当に無事でよかったわ」

「ありがとうございます。無事に帰ってこれて私も安心しました」

「本当に良かった。今日はローディンが無事に帰って来たお祝いだ。ロザリオとホークも今日は本邸に帰ってくるぞ」

ウルド国との戦争が終わり、事実上属国となったウルド国への支援物資を船で輸送するのはデイン辺境伯家に託された。

なにしろ天候が悪くても、デイン伯爵やホークさんが乗った船は絶対に沈没しない。

なので、デイン伯爵やホークさんは、辺境伯軍の統率とウルド国への支援物資の輸送で、忙しいのだ。

「これまではデイン辺境伯家の両隣に対して戦々恐々していたのだ。ウルド国との戦争が終わって少し気が楽になったぞ」

とローランドおじい様が言った。確かにこのデイン辺境伯領はウルド国とジェンド国との国境があった領地だ。ひとつ敵対勢力が減ったことはとても安心できただろう。良かった。

「まりあおばしゃま。おじしゃまにおむらいすちゅくりたいでしゅ」

小さな声でマリアおば様に言うと。

「そうだったわね。いいわよ」

王都からデイン辺境伯領へ直行してきたので、まだオムライスを作ってあげられていなかったのだ。

「海鮮丼なるものの食材も用意して来たぞ。さあ、どうするんだ?」

ローランドおじい様の言葉で、厨房に向かうことになった。

「初めてお目にかかります。アーシェラ様。デイン伯爵家本邸の厨房を任されておりますポルカノと申します」

こげ茶色の髪と瞳のポルカノ料理長をはじめとして、料理人さん達が厨房から出てきて一斉に挨拶してくれた。

「あい。あーちぇらでしゅ。よろちくおねがいちましゅ」

王都のバーティア商会支店に来てくれていた見覚えのある料理人さんもいた。開店準備期間と開店後2カ月の間にここにいる料理人さん達全員、もちろんポルカノ料理長も王都のお店に修行(?)に来ていたそうだ。

てっきりデイン伯爵家王都別邸の料理人さんだけが修行という名のお手伝いをしてくれるのかと思ったら、お店の話を聞いた本邸の料理人さんも自ら希望してオープニングスタッフとして参加してくれた。ありがたい。

私も頻繁に王都のお店に足を運んだが、タイミングが合わず会ったことが無い料理人さん達もいた。ポルカノ料理長もその一人だ。

同じ店で働いたことがあるせいか、みんなすごい笑顔で出迎えてくれた。

ちなみに王都のお店は、少し前にお店専属の料理人を数名雇用することができた。

顔の広いクリスウィン公爵が信頼できる料理人や従業員候補となる人を紹介してくれて、ディークひいおじい様とデイン伯爵が何名か採用を決めていた。

とはいえ、嬉しいことに繁盛しているので未だに王都別邸の料理人さん達がお手伝いに来てくれているのが現状だ。

「お店が繁盛していると聞いて私たちもとても嬉しいです。人手が必要な時はまたいつでもお声がけください。喜んでお手伝いさせていただきます」

「ああ。よろしく頼む」

ポルカノ料理長の言葉にリンクさんが頷いた。

「長旅で疲れたでしょう? 海鮮丼を作るのは、ひと休憩してからにした方がいいのではなくて?」

「ああ。そうだな。河を下って来て、船酔いしてきたって言ってたしな」

マリアおば様とローランドおじい様が私を見て話す。

そうなのだ。

私は今世で生まれて初めて船に乗った。

王都外れの船着き場から船に乗って河を数日かけて下ってきたのだ。

この数日で、生まれ変わっても三半規管が弱かったと思い知った。

酔い止めの薬を飲んでこの数日を耐えたが、実際はまだ船の揺らぎが身体に残っていてまだ体調が完全ではなかった。

厨房近くの海の見えるテラスで休んでいると、簡単な軽食と飲み物を侍従さんたちが運んできた。

その後にポルカノ料理長がワゴンを押して入ってきた。

「イチゴを使ったジュースをお作りしました。どうぞお召し上がりください」

「いちごじゅーす!! しゅき!!」

ポルカノ料理長が出してくれたのは冷たいイチゴジュースだった。

イチゴにお砂糖、そして少しだけミルクが入っていた。絶妙な美味しさだ。

「おいちーい!! だいしゅき!!」

「本当に美味しいわ。とっても滑らかだし。どうやったらこの滑らかさが出るのかしら」

確かに。ちゃんとイチゴの果肉を感じるけど滑らかで美味しい。ジューサーミキサーで作られたような舌ざわりだ。

ローズ母様の言葉にローランドおじい様が。

「実はな。加工場でえびの殻を粉末に出来るように、魔道具をいくつか試作したのだよ。なにしろえびの殻は沢山でるし、それを手作業で粉末にするのは大変だから、ディークに手伝ってもらっていくつか試作したのだ。そしてつい最近完成したのがミキサーで、いろいろ試しているうちにエビ殻を粉末にするだけでなく、ジュースを滑らかに出来ることを発見してな。そしてミキサーの製作途中で出来たのが食材を切り刻むフードプロセッサーなのだよ」

なんと! いつの間に。ローランドおじい様とディークひいおじい様、すごい!!

こっちの世界には電気がない。だから灯りも電気ではなく魔力を使う。

前世ではあらゆるものが電気製品で作られていたけれど、こちらの世界ではそんなに種類を見たことがなかった。

「しゅごい!! しょれ、ほちい!!」

「よしよし。加工品がこうして増えたのはアーシェラのおかげだからな。もちろんプレゼントしよう」

ローランドおじい様がにこにこと笑いながら頷いた。

やった~!! ミキサーとフードプロセッサーがあればいろんなものが出来る!!

「ありがとうございましゅ!!」

「この前大陸に行って帰って来たばかりだから、お土産もたくさん用意してある。休憩が終わったらみせてあげよう」

お土産! それはもちろん。見たい!

ローランドおじい様は次々と新しいものを購入してくる。

前回は米酢を買ってきてくれたのだ。

それと 菜箸(さいばし) と、私の名前入りのマイお箸も。アースクリス国はお箸を使う文化の無い国だったのでずっとフォークで代用していたから物凄く嬉しかった。

菜箸は油の中のドーナツをひっくり返す時にも大活躍だったので、お店でも重宝された。

おかげで、バーティア家とデイン家の厨房では調理に必要なものとしてお箸がおかれるようになったのは、とっても嬉しい。

さて、今度は何が入っているかな。

休憩を終えて厨房横の従業員用の食堂に移動すると、お土産が箱で積みあがっていた。

また箱買いですか。いつ見ても豪快だなあ。

定番の調味料とお酒と味醂。もち米と海苔。まずは定番のお土産のあと。

「こっちは海産物の加工品だが見た目が不気味でな」

と言ってローランドおじい様が箱を開けた。

「なんですか? これ? 茶色い木片ですか?」

手渡されたローディン叔父様が首を傾げた。

私はそれを見て目を丸くした。

あれは絶対木片じゃない。

そもそもお土産のほとんどは食材なのだ。

ふたつ打ち鳴らすとカンカンと音がした。

「これはカツオを加工して乾燥させたものらしい。大陸では料理に欠かせないものらしいぞ」

やっぱり。とはいえ、この形のモノを実際に見たのは、前世で子供の頃家にあるのを見たきりだ。

後年は使いやすくパックになったものをよく使ったなあ。

「カチコチですがどうやって食べるんですか? あ。説明書が入ってる」

説明書を開いたリンクさんが予想した通りの商品名を言った。

「かつおぶし―――ふーん。この箱型の削り器で削るんだ。でもどうやって食べるんだ?」

またしても説明書には食べ方が載っていないらしい。

美味しい食べ方は、もちろん。

「―――おだしにしゅるとおいちいの!!」

「そうなのか」

ローディン叔父様とリンクさんは私の言葉をまったく疑わず当然のように受け入れている。

そうそう。前世の知識の引き出しよ。便利だなあ。

「おだし、こじゃかなしゃん、おいちい。かちゅおぶしだともっとおいちい!!」

力いっぱい言うと、ローズ母様が反応した。

「まあ! あのお出汁より美味しくなるの?」

「え? そうなのですか!?」

ポルカノ料理長が同様に身を乗り出してきた。

すぐに出汁を引きに厨房に行きたいけど、まだお土産の箱が何個かある。そっちを見てからにしよう。

「おじいしゃま、そっちのはこは?」

「ああ。なんだか珍しいもの売っているなと思ってね。試しに一本買ってみたんだ」

「一本?」

「うちでは見向きもされてこなかったものだったからね。何か違うのかなと思って」

箱の中身を見て納得した。なるほどね。

確かにこっちでは見向きもされず廃棄されてきたものだろう。

「それと、これ。大陸で『家で海鮮丼を作る』って言ったら、店の店主に必需品だと言われて買ってきた。ワサビだ」

「ワサビって、これ。ウチの領地の沢でも自生してるよね。辛くて食べられないって誰も採らないけど」

え? ワサビ自生してるの? いいことを聞いた!

その他にもいろいろ珍しいお土産を堪能した。

ローランドおじい様は大陸で目についた珍しいものをたくさん購入してきてくれる。

食材の他に、料理に合わせた食器や調理器具も。

茶碗蒸しの件で器も大事だと思っていたから大歓迎だ!!

ああ。やっぱり久遠大陸は私の心のパラダイス。

お土産を見て、作りたいものがたくさん浮かんできた。

「かいせんどん、ちゅくりたいでしゅ!!」

お土産の中に丼の器を見つけて、テンションが上がった!