軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宝石姫の秘密 ①

くちびるのすぐ横には、ほくろがひとつ。

視線は交わらないが、彼女がこちらを見ていることに気がついた私は、姿勢を正した。

「私はここに住むという魔女に会いに来ました。……あなたが魔女?」

「お生憎様。あたしには用はないよ。帰りなさ──待ちな。あんた、その瞳」

その言葉に、一瞬体が強ばった。

そう、私の瞳は隠しようがない。

この瞳を見られば、すぐにでも気づかれてしまう。ここに来るまではフードを深く被ったりすることで、ひとの目を避けてきた。

だけどひとを訪ねるのに顔を隠すのは失礼だと思い、今、私の素顔はあらわになっている。

魔女は数秒間沈黙したが、やがて扉を押し開いた。

「……入りなさい。なにか、用があってきたんでしょう」

「良いのですか?」

「何?冷やかしなら叩き出すけど?そこの男みたいに」

そう言われて、先程中から叩き出されたのは、男性なのだと知った。振り返ると、ほぼ同時にそのひとが木々の間から顔を出す。

「相変わらず容赦ないねー。少しくらい絆されてもいいと思うんだけど」

「あたしにそんな情を期待しているところが甘いって言ってんだよ。坊ちゃんが」

「そうかなぁ。でもこれで三年目になるんだけど──あれ、あなた」

そのひとは、とても風変わりな装いをしていた。

黒のローブを羽織っているのは、私と同じ。だけど、その耳には十字架を象った耳飾りに、着ている服はシンプルな白のシャツだが──装飾品が、とても多い。

首飾りに、腕輪、指輪。それらの全てが黄金だ。だけど、だからといって成金趣味、というわけでもなく、どこか厳かというか、儀式じみた装いに見える。

首から提げた金の首飾りは、なにかの形を模しているように見える。首飾りの先は、鍵のような形になっていた。

白銀の髪に、白の服。

切れ長の薄青の瞳は、どこか神聖に見えて、聖職者のように見える。今にも、教典を取り出しそうだ。

それなのに、そのひとの話し方はとてもフランクなものだった。

「もしかして、あなたが【宝石姫】!」

「……!」

「うわぁ、すごい。王都に向かわなければ会えないと思っていたし、まだ会うには早いとも思っていたんだけど!こうして会えるとは!さすがに俺の力を持ってしても分からなかったな。うーん。未来が変わったのかな」

「……………」

立板に水のごとくまくし立てられて、瞬きを繰り返す。誰?と思っていると魔女が彼を咎めた。

「あんたまだいたのかい?早いところ山を降りな」

「酷いな。俺の目的を忘れたわけじゃないでしょう?悪魔憑きの魔女」

「だとしても、それはあたしには関係ないね」

魔女の言葉を、彼はあっさりと無視すると、私の前まで歩いてくる。距離が近い。

その距離の近さに面食らい、一歩後ずさった。

このひとは一体何なのだろう。

この会話から、おそらく彼は何度も魔女を訪ねているひとなのだろう。三年通っている、とも聞いた。

そして彼の目的は、魔女──ではないようだ。

宝石姫(わたし) に関心を持っている様子からして……もしかして、彼の目的は、宝石姫に関連することなのだろうか。

「はー……すごいな。ほんとうに瞳に蝶を飼っている。まるで、生きてるみたいだ。瞳孔どうなってるの?解剖したら分かるのかな……」

ゾッとする言葉が聞こえ、私はまた数歩彼から後ずさると、男性を静かに睨みつけた。

「……あなたは誰ですか?初対面、ですわよね?」

私に覚えはないから彼とは初対面だろう。彼の言葉は、初対面の人間に言うセリフではない。あまりにも失礼すぎる。

指摘すると、彼は自己紹介していないことに気がついたのだろう。目を丸くし、人懐っこい笑みを浮かべた。

「ああ!俺はリアム。隣国のサミュエルから来たんだ」

「サミュエル……」

ここは、ベリアの最北端。

隣国のサミュエルからはかなり遠い。

それなのに、彼はここを訪れた。それも三年間も通っている、らしい。

訝しく思っていると、魔女のため息が聞こえてきた。

「はー……。とにかく、ここで立ち話もなんだ。入りなさい、お嬢さん。そろそろ日が暮れる」

「俺は?」

「あんたは帰りな。腹を空かせたクマの餌になっても知らないよ」

「えー……さすがに、自国の王子が隣国でクマに捕食されて死ぬ……とか、笑い話にもなんないよ」