軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

681 最終決戦前

六百八十一

「前に見た時は無骨な感じじゃったが、完成したらしたで簡素なものじゃな」

シンギナライトの指環によって、決戦の地まではあっという間だった。

ミラが転移で送られた場所は、第零ヴァルハラに用意された決戦場の傍の建造物内だ。

景色が一転した後、目にしたのは大きな部屋。けれどただの部屋ではない。奇怪な黒い門のようなものが据えられた白い部屋で、ここには幾つものベッドと医療機器、無数の医薬品が納められた棚が並べられていた。

そう、これこそが最終決戦のために用意された医療シェルターだ。

魔物を統べる神との戦いで負傷した者達を迅速に移送し、速やかに治療するためだけに用意されたからか、余計な装飾だ塗装だなんだは全て排した造りとなっていた。

「こうなると、余計にあのモニターが目立って見えるのぅ」

医療特化のシェルターだが、その壁には大きなモニターが掛けられてあった。

そのモニターは、決戦場に配置されたカメラの映像を映し出す事が出来る。治療中でも戦況を把握し、戻るタイミングを計るためのものだ。

「さて、ここに来たら砦に行くんじゃったな」

今はまだ誰もいない医療シェルター。けれど戦いが始まれば、ここもまたもう一つの戦場と化す事になるだろう。

誰もが無事に戦いを終えられるように。並ぶベッドを横目にしながら医療シェルターを出たミラは、そのまま隣接する砦に足を踏み入れた。

「なんじゃ、もう随分と集まっておるのぅ」

砦に入って直ぐ。作戦室代わりにもなっている大きな広間には、この最終決戦に挑む者達が集まっていた。

アトランティスの将軍達を筆頭に元トッププレイヤーが揃い踏みとあってか、ここには覚えのある顔があちらこちらに見受けられた。

共に大物を狩りに行ったり難関ダンジョンを攻略したり、幾つもの思い出と歴史が頭を過ぎる。

しかもここにいる多くがダンブルフ時代以来の再会であるため、今もまだ保身に執着するミラは、そっと気づかれないように奥へと向かっていた。

とはいえだ。三神の神器を持つミラは作戦の要である。ゆえに、ここにいる誰もがそれを把握しており、だからこそ自然と注目が集まっていく。

「話には聞いていたけどさ」

「ああ、実際に見ると中々だ」

「あれが、あのダンブルフとはねぇ」

「これまた可愛くなっちゃってまあ」

「俺も、ちょっと試してみようかなぁ」

渋く威厳のあった当時を知っているからこそ、その変貌ぶりに何とも言えない表情を浮かべる者がちらほら。

中には『そうかそうか、そういうのが好みか』と、にまにま微笑んでいる者までいる。

「何やら憶測が飛び交っておるが、これには崇高な目的があってじゃな──」

もはや風前の灯といった状態ではあるが、それでもミラはダンブルフの名誉のためにと、わざわざ立ち止まりいつもの言い訳を始めた。

と、その直後だ。

「よし、揃ったみたいだな。それじゃあ決戦前の最終確認から始めるぞ」

広間の奥の壇上。とりわけ大きなモニターの隣に立った男が、取りまとめるように声をかける。

その男は、ここにいる誰もが知る指令役。名も無き四十八将軍の一人、レイヴンであった。

彼がこの最終決戦における総指揮官だ。

「堂に入ったものじゃのぅ」

名も無き四十八将軍の参謀的立場でもある彼こそが適任だと満場一致で決まった結果だ。

なお、この決戦部隊のリーダーとして、役割の重要性からミラを推す声もあった。だがそうすると指揮系統がややこしくなるという事で、ミラ自身がそれを辞退している。

「まずは、対応パターンのおさらいから始めるぞ──」

これからの未来を決定する一大決戦だ。これまでの間にも入念に打ち合わせてきたが、それでもまだ万が一を考えて念入りに確認作業を続ける。

魔物を統べる神との戦いについて三神や精霊王達から聞き込んだ内容を参考にしつつ、そこから派生しそうな状況も考慮に入れて緻密に作戦のおさらいをしていく。

有り得そうな能力や起りそうな問題など、幾度と話し合って来たそれらの解決策を復習し、更には各々が追加の対抗策まで並べる。

それらをレイヴンが要所で切り取り、作戦に組み込んでいった。

「よし、全体としてはこんなものだな。それじゃあ続きは部隊ごとに分かれて進めてくれ」

戦いの大きな流れの共有が完了したところで、レイブンは全体会議の終了を告げる。

そして次は部隊ごとの会議だ。各々で別室に移動していく。

「しかし、今までにない規模の戦力が揃ったものじゃな」

広間から解散していく皆を眺めながら、ミラはよくぞこんなに集まったものだと感心していた。

ここにいる元プレイヤーは、この最終決戦の地に挑むと名乗りを上げた者達だ。そしてここには、そんな挑戦者達が二百近く集まっていた。

その内の戦闘要員は、ミラを含めて八十名ほど。魔王戦の時より増え、その誰もが歴戦の英雄ばかり。ミラ達のような将軍級の実力者が勢揃いとあってか、全体の士気も高い。

残る百二十名ほどは、決戦場の仕掛けや兵器運用の技術班と医療班だ。戦闘要員のみならず、彼ら彼女らもまた非常に重要な役割を担った英傑である。

一年もの間ずっと準備に勤しんでいたため、今回は魔王戦の時よりも有利な状態で戦う事が出来る。戦力、そして決戦場と揃った今、勝利は揺るぎないはずだ。

「ほら行くぞ。俺達は上の階だ」

集まった皆の姿を見回しながら、未来も見据えていたところだ。何を呆けているのかと、ソウルハウルに背を叩かれる。

「わかっておる、わかっておる」

少しは感慨に耽っていてもいいではないか。そう唇を尖らせながら、ミラは促されるように階段を上っていった。

砦にある会議室の一つに、戦闘部隊の八十人が居並ぶ。ここにいる誰も彼もが元プレイヤー国家の将軍位と同等の実力者とあってか、物々しい雰囲気が漂っていた。

全員で力を合わせれば大陸中の国をほとんど攻め落とせてしまうだけの戦力があるのだから尚更だ。

一般人であれば、緊張のあまり竦み上がってしまっているだろうほどの英雄が揃い踏みである。

とはいえ、ミラもまたそんな英雄の一人。誰に気後れする事もなく、既にカフェチョコオレを飲みながら落ち着いた様子で会議の開始を待っていた。

「いよいよ決戦目前ですね。緊張してきました」

ミラの直ぐ後ろには、当たり前のようにダンタリオンが控えていた。そんな彼が真面目な目つきで呟くと、ミラは珍しい事を言うものだと不敵に笑う。

彼は戦闘部隊の八十名とは別枠での参加であり、その役割はミラのサポートだ。何といってもミラには、神器使いとして最も重要な役割がある。

その負担を軽減するための専属サポートとして名乗りを上げたのが彼というわけだ。

そのため、この一年の間に幾度と共闘して、そのコンビネーションも磨き上げてきた。そして何よりこの一年で随分と本来の力を取り戻してきてもいた。

今のダンタリオンの実力は、ここに揃った者達が相手でも引けを取らぬほどだ。

「戦いを前に緊張なぞ初めてではないか?」

そんな彼でも、やはり魔物を統べる神が相手では緊張するのか。敵の強大さを改めて認識したミラは、気を引き締めながらカフェチョコオレを飲み干す。

「それはもう。勝利した暁には、君主様にどのような褒美をいただけるのかと今から震えております」

否、彼が緊張する理由は別にあったようだ。しかも言葉通りに心底楽しみなようで、すかさずミラの口元を拭う彼の目は期待に染まっていた。

「自分で出来る事はやらんでよい」

お姫様扱いだが同時に女王様な部分も求められているミラは、周囲の好奇な視線を受けながら、そう返すので精いっぱいだった。

と、そんな事がありながらも戦闘部隊での打ち合わせが始まる。

「とりあえず開始時は予定通りの組み合わせになる──」

戦闘部隊のリーダーであるノインを中心に、確認や調整が進められていく。

魔物を統べる神との戦いは、かつての魔王戦とは違った部隊運用が選択された。

まずは、五人単位の八チームで戦闘開始となる。そして残りの四十人を控えとし、負傷した時や闘気にマナ切れなどで後退を余儀なくされた場合に入れ替わる形だ。

最終決戦は、長期化が予想される。だからこその策だ。

「これまた、至れり尽くせりじゃのぅ」

打ち合わせの途中、現場で確認しながらの方が話しやすいという事で移動した戦闘部隊は、控えメンバー用の部屋を確認していた。

控室には特大のモニターが設置されている。そのためここにいる間も主戦場の状況を逐一確認出来て、交代しても一から戦況を確認する必要はなさそうだ。

更には食事も一通り揃えられており、回復やブースト効果を持つ薬なども揃えられていた。

常に万全な状態で戦場に戻る事が出来る。準備期間というのは大切だなと、ミラは魔王戦の時を思い出しながらしみじみと実感する。

打ち合わせが終わった後は、技術隊も交えて主戦場の方を見て回りつつ連係などを話し合った。

「この辺りはソウルハウルの仕込みじゃな──。これはグランツ鋼か。バリスタの矢にこんな贅沢なものを使うとは──。まさかアコードキャノンを、ここにも用意するとはのぅ──」

最終決戦場の城壁には、様々な兵器や術具がこれでもかと備えられていた。

この一年の間でこの日のために用意されたそれらは、どれもこれもが兵器という名に恥じぬほど殺意増し増しな仕様となっている。

勝利のためにという他に、幾らかは好奇心のまま実験的な目的で造られたものもありそうだ。

とはいえそういったものを咎めるつもりのないミラは、どれだけ怪しくても見て見ぬふりをした。何といっても、その気持ちは十分にわかるからであり、同様にそういった類を胸の内に秘めているからだ。

そうして最終決戦のメンバーが現地入りしてから数日間。念入りなシミュレーションを繰り返し、何度も調整を加え、徹底的に協議を重ねながら最後の調整を進めていった。

快適な環境の中で皆の身も心が充実した状態に至ったところで、遂にその日がやってきた。

そう、これから魔物を統べる神との決着をつけるための最終決戦が始まるのだ。