軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

668 実験日和

六百六十八

神々の実験場の空は明るいままだが、時刻は七時過ぎ。ミラ達は今日の実験を終えて拠点に戻っていた。

リビングにいるのはミラとソウルハウルにフローネだ。

「雷が落ちたかと思えば、鉄の槍とはのぅ」

「レールガンみたいなものか。原理はまったく別だが」

「やっぱり、速さこそパワー」

ここで開かれているのは、九賢者の情報交換会だ。研究し実験し、得られた結果などを全て情報として共有する。そして更に上を目指していくのが九賢者のやり方だ。

理論の権利だ成果の独占だなどというものは、ここに存在しない。全ての知識と技術を合わせて、まだ見ぬ頂点を目指していくのである。

「ところでお主も変なゴーレムを飛ばしておったのぅ──」

「長老も面白い組み合わせ方をしていたな──」

特に今回は皆がとっておきの研究成果を持ち寄ったものだから、より白熱していた。どれを何に流用出来るか、どこに改良の余地があるかで盛り上がる。

「ふぅ、こればっかりは唯一無二よね」

そうした中、そんな感想を口にするのは風呂上がりのカグラだ。爽快な様子で更衣室から出てきた彼女は、コーヒー牛乳の瓶を手に満足顔である。

いつでもどこでも、どんな環境でも快適な居住空間を提供する屋敷精霊。その恩恵というのは、やはり偉大だ。色々と口うるさいカグラも、これがあるからこそミラに対して幾らか寛容な傾向にあった。

「厄介なところヨ……」

一緒に風呂から出てきたメイリンはというと、しょぼくれた顔でソファーに寝転がった。風呂嫌いだからこそ、その恩恵はむしろ逆効果のようだ。

とはいえ、そんな様子も次には消し飛ぶ。カグラが「はい、これ」とコーヒー牛乳を差し出せば、一転して笑顔満面だ。

「あー、それってあれでしょ、すっごいドーンってきたやつ。もっと加速させる気?」

コーヒー牛乳を味わいながら、ひょっこり顔を覗かせたカグラはフローネの研究ノートに目を落としながらそこに触れる。

フローネが書き込んでいる改良案では、更に今日よりも威力を突き詰めていく気概がこれでもかと見て取れた。

「目指せ、秒速三キロメートルの世界」

ふふんと鼻を鳴らしながら得意げに笑うフローネ。とはいえ、目標までには色々とクリアしなければいけない課題も多いようだ。研究ノートには、そういった調整点も羅列されていた。

「あ、この辺りとか私の制御用術式が利用出来そうね」

「詳しく」

さらりと眺めながらさらりと口にすれば、カグラの言葉にフローネが喰いつく。そしてあれよあれよとカグラもその席に着いて情報交換が始まった。

対して理論ではなく感覚派のメイリンは、皆の会話を何となく聞きながらテーブルに並ぶお菓子を堪能していた。

ただそれでいて皆で話し合っているそれらを感覚のまま自分の技に絡めていってしまうところが、メイリンの九賢者たる所以でもある。

なお、そういった感覚のものを理論としてまとめるのは彼女の補佐官であるグラーフバイロンの仕事だ。

パンダの賢獣であるグラーフバイロンは、メイリンの良き理解者として、また同時に武芸者としても有名な存在なのだ。

情報交換も一通り終わったら、夕食の時間だ。ミラがテーブルの上に料理を並べていけば、皆の顔に喜びが浮かんでいく。

それらは全てマリアナがたっぷりと用意してくれた絶品である。どれもこれもが高級レストランにも負けず劣らず、それでいて家庭的な優しさまでも兼ね備えた逸品揃いだ。

ここにいる誰もがそれを知っており、だからこそ我先にと手が伸びた。

「これ、好き」

好物ばかりをひたすらに狙うのはフローネだ。サーモン寿司を次から次へと集中的に狙い、ぱくりぱくりと口にする。

「とっても美味しいヨ!」

唐揚げを頬張るメイリンは満面の笑顔だ。更に続けて豚の角煮やいなり寿司と、バリエーション豊かに攻めていく。

また言葉はなくとも、ソウルハウルは静かにのんびりと肉じゃがを口に運んでいた。随分とお気に召したのか、大皿ごと手前に引き寄せているほどだ。

「もう完璧におふくろの味ってやつよね」

豆腐とネギの味噌汁を啜るカグラは、ほっこり微笑みつつその完成度に感嘆している。

ここに並ぶ和食は元プレイヤーが持ち込んだ食文化だ。そんな新しい食文化にもかかわらず、今のマリアナは熟知して完璧に仕上げているのだからカグラが驚くのも無理はない。

「そうじゃろう、そうじゃろう!」

何といっても和食を好むミラのためという気持ちがそこには多分に含まれていた。つまり和食の完成度も含め、ここにある全てはマリアナの愛の証というわけだ。

などと勝手に思って盛り上がるミラは、それはもう自慢げに胸を反らし笑っていた。

夕食後は、各自でそれぞれに過ごしていた。改造魔物が跳梁跋扈する神々の実験場だが、この場所だけは随分と静かなものだ。

「うん、こんな感じヨ」

デザートも食べて大満足のメイリンは、外で食後の運動中だ。軽く身体を動かす程度ではあるが、既に先ほど皆で話していた研究内容を一つ二つと組み込みつつあった。

頭ではなく身体で覚えるからこそ、ちょっとした運動も重要。特にメイリンの場合、食後は満足感も高く効率アップだ。

「なんかどこかで見たかも」

「お、どこだ?」

明日の予定についてそれぞれにどこで何をするのかと、あらかじめ伝え合っていたところだった。

ソウルハウルは改造魔物研究のために多くの種類を探していたわけだが、どうやらまだ見つけていない種類をフローネが見かけていたらしい。

「うーん、今日行ったどこか?」

詳しく思い出せないというフローネに、ならばとソウルハウルは紙を取り出してその中心に点を書き込んだ。

「よし、範囲を絞りこめ。この中心が拠点だ」

大まかでもいいから、どの辺りか。二人は紙の上でフローネの今日の足跡を辿り始めた。

「っていうか、ほら。おじいちゃんもしっかり手を動かして」

「むぅ、わかっておるわかっておる」

「止まっていたじゃない。わかってなかったでしょ」

「ぐぬぅ……」

明日の予定の話し合いについては、再開まで暫くかかりそうだ。そんな状況を見守りつつ、ミラとカグラはキッチンで皿を洗っていた。

いつもは、そのままアイテムボックスに片付けてしまうミラであるが、カグラがいる時はそうもいかないのだ。

特にこんな立派なキッチンがあるのだから、そんなに手間でもないだろうと、こうして付き合わされているわけである。

「はい」

「ほいっと」

カグラが洗ってミラが乾かしアイテムボックスに戻す。それを幾度と繰り返していった。

そうして洗い物が終わる頃には、ソウルハウルらも確認が終わったようだ。また直ぐに明日の予定についての話し合いが始まった。

「今日も張り切っていくとしようかのぅ」

目を覚ましたミラは少しだけベッドの上でぼんやりしてから、ようやく着替え始める。と、その途中。寝巻を脱いだところでふと考え込み、一着のローブを取り出しベッドの上に置いた。

「……思えば、これもアップグレードしておきたいところじゃな」

その一着とは、賢者のローブだ。多くの面でトップクラスの性能を誇る伝説級の特注品であり、召喚術士の力をより効率的に引き出してくれる代物となっている。

当然ミラは、その性能を十分に把握している。だからこそ最終決戦には当然これの出番だと考えていたわけだが、そこでちょっとした問題点に気づいたのだ。

「ふーむ、まずは裾じゃのぅ。また武装召喚との整合性も考えると──」

今の賢者のローブは、ダンブルフであった当時の姿や能力などを基準に誂えてある。

だがミラという美少女になって以降、背格好には大きな差が生じた。尚且つ戦闘スタイルも随分と幅が広がった他、新しく入手した装備品などのお陰で余裕が出来ている。

ゆえにミラは、今の自分にぴったり合ったローブが必要なのではないかと思ったのだ。

「ねぇ、おじいちゃん。起きてる? そろそろ朝食にしたいんだけど──」

今に合わせるとしたら、どのようなものがいいのか。そう頭の中で思い浮かべていたところだった。ふと扉が開いたら、カグラがひょっこりと顔を覗かせる。

「──って、そんな格好で何やってんの? もしかしてまた、自分の可愛さに酔いしれていたの?」

下着姿で物思いに耽るミラを目にしたカグラは、直ぐにしかめっ面を浮かべて引き気味に言う。どうやらミラの知らぬところで、これまでにも幾度と似たような場面を目撃していたようだ。またやっているのかと呆れた様子である。

「いやいや、別にそんなんではないぞ!? ほれ、ちょいとこのローブについて思案しておったところじゃ!」

急にとんでもない容疑をかけられたものだと慌てたミラは、その勘違いを打破するべくベッドの上を指し示した。

「これって賢者のローブでしょ。これがどうしたの?」

見たところ別段変わったところはなく傷も汚れもないため、ますますカグラの目つきが疑わしそうに細まっていく。いったいこれに何があるのかと。

「ほれ、これを作ってもらった当時と今とでは色々変わっておるじゃろ? ゆえにわしは、こっちの方も今に合わせられるのならそうしたいと思っておったわけじゃ」

そう先ほど思っていた事をそのまま言葉にしたミラは、賢者のローブを片付けていつも通りのミラカスタムに着替え始める。

「……あー、それは確かに」

ミラが着替えるのを眺めながら考え込んでいたカグラは、暫しの後に一理あると頷いた。

カグラ自身もまた当時に比べて随分と進歩している。だからこそ、ミラの考えが頭にすとんと落ちたようだ。

しかもここでの研究と実験の成果によっては、更に戦略や手札が広がっていく事になる。そうなれば同時に装備などで補いたい、高めたい部分なども出てくるものだ。

「そうじゃろう? それで新調するにしても費用はどうしようかと考えておったわけじゃよ」

「費用か……それは重要ね」

新たな賢者のローブを作ってもらうとしたら、間違いなく億単位の金額になる。しかも今の実力に合わせたものとなったら、二桁億を余裕で突破する可能性が高い。

元より蓄えの少ないミラにとっては、手の届かぬ金額だ。そして大半の財を五十鈴連盟の運営資金に回しているカグラにとっても、それは目が飛び出るほどの大金である。

ポケットマネーでは賄いきれない金額であり、だからこそ新しい賢者のローブの必要性に気づいた二人は揃って唸った。

「とりあえずは皆に相談、じゃな」

「そうね、まずはそれが一番ね」

国の存亡にもかかわる大事な戦いのためだ。国王のソロモンが、どうにかしてくれるかもしれない。

依頼先は、多くの職人が所属する日之本委員会。決戦のために必要だと言えば、その所長オリヒメに融通してもらえるかもしれない。

より勝利の可能性を高めるためにと必死に訴えれば、アンドロメダやカシオペヤ、ペネロペら天魔族が秘密のお宝か何かを提供してくれるかもしれない。

ミラとカグラは、そういった金銭問題を解決出来そうな可能性のある者達を頭に浮かべながら、相談だ相談だと心を一つにする。

そして二人は、その勢いのままリビングに下りていった。

「俺もそう思っていたところだ」

「なるほど、私もそう思うヨ!」

「まあ、時代遅れになってきたのは確か」

そうして直ぐに朝食待ちをしていたソウルハウルとメイリン、フローネにも賢者のローブの使用感などについて触れたところだ。やはり三人とも当時から大きく成長を遂げているため、完全とはいえない状態になっているようだ。

「うむ、やはりそうじゃろう」

「うんうん、そうねそうよね」

更に三人の賛同者を得られたと喜ぶミラとカグラ。一人二人よりも数を揃えて訴えた方が、何かと意見も通りやすいというものだ。

帰ったら残りの四人にも話し、まずは九賢者の総意として具申するのがいいだろうと画策するミラだった。