軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

652 二週間の出来事

六百五十二

マーテル産の果物で、お腹も心も大満足した頃だ。賑やかな声が近づいてきた。

何かと思えば、カシオペヤだ。更にアンドロメダやミケを筆頭に、多くをぞろぞろと連れて戻ってきたようだ。

「それじゃミラさん。また後でね」

「うむ、ご馳走様じゃった!」

皆にも積もる話はあるだろう。マーテルは直接確認出来て良かったと告げて帰っていった。そしてリーズレインも、どことなく安心した様子だった。

「思った以上に元気そうだね」

一緒にマーテルを見送ったところでテーブルに並ぶ果物と芯を見たミケは、溌溂としながら恍惚としたミラの顔を見て呆れたように言う。そして死にかけていたとは思えないくらいの元気っぷりだと、安堵して笑った。

「うんうん、特に問題もなさそうかな」

続けてミラの目をじっと見据えたアンドロメダは、興味深げな表情で頷いてみせる。無事な事に加え、神気を帯びたミラの目に様々な可能性を感じたようだ。

他にもオリヒメやアラトなど、元気なミラの様子をその目で確認しては安堵したように「よかった、よかった」と口を揃える。

「ああ、それと皆も凄く心配していたよ──」

一通りの顔合わせが済んだところだ。ミケが、もう帰っていった皆についても教えてくれた。

まず教皇と大司教だが、それはそれはミラの事を心底心配していたという。

ただ何だかんだでやはりただ者ではなかった、その四人。ミラの中に渦巻く神気を感じ取るのみならず、昏睡状態に陥った原因でもあると見抜いたようだ。

だからこそというべきか、教皇達は英雄であるミラが、なぜこのような事になってしまっているのかと困惑したらしい。神に、何かされたのかと。

そして随分と動揺していたため、骸の処理の方法などについて教皇達に明かしたそうだ。

「まあ、そうじゃな。そうなったらはっきりさせるべきじゃな」

今回の件は、自身の不注意で招いた事だ。三神教のトップ勢を変に誤解させたままにはしておけないだろうと、ミラもまたその対応に納得する。

ただ、神域に行っていた事がバレた今、次はどんな反応があるだろうかという不安は残った。

なお教皇だが、ミラの無事を確認するまではと、目が覚めるまでここにいるなどと言いだしていたらしい。

そして大司教達も同じように残る意思を示していたが、非常に重要で扱いの難しい立場の四人だ。ロア・ロガスティア大聖堂の方で、この四人の不在がちょっと問題になり始めていたため、流石にこれ以上、長く出払っているわけにもいかなかった。

よって教皇と大司教は、魔王討伐の次の日にロア・ロガスティア大聖堂まで飛空船で丁重に送り届けたとの事だ。

ちなみに魔王討伐という偉業の達成と、その戦いに加わったという実績を以て凱旋したため、長期不在についてはうやむやとなり、暫くの間は別の意味で大変だったらしい。

「それで魔王の件も片付いたって事で、一先ず討伐チームなんかも一通り解散になったよ──」

今回の戦いには、複数の国から集まった猛者達が参戦していた。特に元プレイヤー勢は国家戦力級ばかりだ。長期出張、長期滞在になってくると、各所で色々と問題が噴出していくものである。

よって一週間ほど前には、その全員がそれぞれの国に帰っていた。魔王という脅威が一先ずは解決したため、研究所の防衛任務についても解かれた形だ。

なお、今回の成果を持ち帰ると共に、この先に控える最終決戦に向けての調整が既に始まっているとの事だ。

また、三神国から参戦したヘルムートと四聖将は、その少し前に帰国していた。

特に、そのメンバーは国の中でもトップクラスのお偉いさん揃いだ。今回の戦いについては三神国も相当に重く受け止めてくれたからこそ、それだけ優秀な人材を送ってきてくれたのだろう。

その実力は戦場で示してくれた通り。魔王と直接は難しいが、魔物や魔獣の相手は十分以上にこなしてくれたため、主戦力の負担が大きく軽減されたのは確かだ。

「あの後、ゴットフリート君やローザン君にメイリンちゃんが修行だなんだって言って、彼らに付き合っていたんだけど……こっちは関係ないからね」

ミケが言うに魔王戦の後の数日間、その熱も冷め切らなかったヘルムートと四聖将が特訓したいと申し出たそうだ。

これに応えたのが、ゴットフリートにローザン、そしてメイリンである。そしてこの三名とも、何かと実践寄りの性格だ。ゆえに数日間、実戦形式での特訓を繰り広げ、その都度容赦なくヘルムートと四聖将を叩きのめしていたという事だ。

三神国のお偉いさん達を相手に容赦が無さ過ぎると苦笑するミケは、何かあったら責任は各国でよろしくと続けた。

「そういえば、あのヘルムートって人は特に君の事を心配していたよ──」

なお、帰国の際も皆がミラの事を心配していたが、中でも特にヘルムートの落ち着きのなさは相当だったらしい。いっそ不安を打ち消すため、がむしゃらに特訓に挑んでいたようにすら見えたそうだ。

「ああ、特に心配していたといったらカグラちゃんもだね」

そんな言葉と共にミケが指さした装置の上。そこには、とぐろを巻いて待機するニョロ蔵の姿があった。

先に帰ったが、ミラを見守れるようにとそこに置いていったらしい。ミケいわく、目が覚めたら皆に心配かけるなと文句を言ってやるんだと意気込んでいたそうだ。

「手厳しいのぅ。まあわしとしても、あれはちょいと油断があったのは確かじゃが」

三神が傍にいたからこそ頼り切り、自衛をおろそかにしてしまった。その自覚があるミラは、もっと巧い立ち回りもあっただろうと苦笑する。

「すまんかったな」

そう言葉にしながらニョロ蔵に向かって手を振るミラ。

カグラの事だ。式神を介してこちらの状況を察知するくらいの術は仕掛けているだろう。ゆえに今頃、様子を探りながら文句の文面でも考えているのではないか。そして直ぐにでも位置交換でやってきて、お小言を浴びせられるのではないか。

そう思ったミラは、先制して謝った。

『──おはよ、バカ』

少し様子を見ていたところ、そんなカグラの声がニョロ蔵から返ってきた。そして直ぐにぷいっとそっぽを向いたかと思えば、そのまま式符に戻ってしまった。

「む、バカと言われたのじゃが……」

「まあ、仕方がないんじゃないかい?」

どことなく控えめだったカグラの声。もう少し何かあると思っていたミラは、思わぬ反応に首を傾げる。対してミケは、そんなやり取りを前に呆れたように苦笑していた。

「ああ、それともう一人、なんか凄いのもいたよ──」

ミラとカグラの関係性について深く突っ込むつもりもないミケは、けれど次にちょっとだけ興味を示しながら、ダンタリオンの名を挙げた。

ミラがどこで何をしているかについては把握している彼である。ゆえに、傍にいながら主君をこんな目に遭わせるなんてどう責任をとるつもりだと、三神に弓射る勢いで憤怒していたという。

なお、ミラが昏睡しているのをいい事に、つきっきりで看病すると言っては添い寝しようとしたり、清潔がどうと言っては脱がせようとしたり、食べさせるのは任せてくれと言っては口移ししようとしたり。

ちょっと看過出来ない問題行動を繰り返していたため、ヴァレンティンとペネロペが強制的に彼らの拠点へ連れ帰っていったとの事だった。

「……二人には、今度菓子折りでも持っていくとしよう」

寝ている間に、そんな事が。遂にそこまで攻めてきたかと、ダンタリオンの異常行動に背筋をぞくりと震わせたミラ。誰かが止めてくれていなかったら、きっと間違いなく貞操の危機だった。

ヴァレンティンとペネロペの迅速な対応に感謝したミラは、ダンタリオンとの今後の付き合い方について真剣に悩むのだった。

魔王討伐チームは解散し、今は最終決戦に向けての調整が始まっている。今回の件も踏まえて、その時が来たら更に大規模なチームが出来上がるだろうとの事だ。

「さて他には、この二週間での出来事だけど──」

ミラが寝ている間にも、様々な進捗があったようだ。まずは残りの骸について触れていく。

現時点でミラが処理を終えた骸は、全部で四部位。一番厄介な頭については、もう一つを処理したら三神が教えてくれる事になっている。

というわけで、もう一つの方だが、ミケが言うに準備は整っているそうだ。

魔王陣営も壊滅させたという事で、競争相手はいなくなった。よって五十鈴連盟のメンバーで、封印場所まで開通済みだという。後はミラが現地入りして封印を解除すれば、完了というわけだ。

「もうそこまで進んでおるとは、仕事が早いのぅ」

「君が起きるのが遅かっただけだよ」

二週間でそこまでとミラが感心すれば、ミケは呆れたように、けれどどこか嬉しそうに答えた。

「えーっと、次は魔王についてかな?」

「うん、魔王というよりは魔王の主因子についてだね。そちらは私から話そう」

ミケがちらりと後ろを振り返れば、入れ替わるようにアンドロメダが話し始めた。

魔王の主因子。神域でのごたごたがあったため、その辺りを気にする暇もなかったミラだが、あの時に起きた出来事についても色々と調査していたらしい。

三神と精霊王にマーテル、そしてアンドロメダとカシオペヤ、更にミケとで、魔王の主因子に何があったのか色々と考察したそうだ。

かつてのフォーセシアを直接確認した三神は、その時に魔王の主因子の力がどういったものなのかまで分析していた。

わかっていたのは、憑りついた対象の精神を汚染し、魔物を統べる神の意に添うように操るという事。

だからこそ操れる精神のない依代が、あのように動くのは本来ありえない状況だった。

「けれどフォーセシアという存在は、どうやら普通の人間とは違っていたみたいだね。ミケから興味深い話を聞いて予想が立ち、魔王の拠点を調査した結果で一つの答えに至ったよ」

「私も、聞いた時は驚いたものさ。そんな昔にねぇ、って」

話し合いの中で、ミケもフォーセシアが元プレイヤーではないかと気づいたそうだ。そして、だからこそフォーセシアの体についても理解が及ぶ。

フォーセシアは封印の後、ログアウトしたはずだ。

するとどうなるかといえば、ログアウトした後の体から精神が消え去る。ゆえに魔王の主因子は、汚染する対象を失い動けない状態に陥るわけだ。

「とはいえ、時間はたっぷりあった。きっと封印の中で少しずつ変化していったんだろうね。そして、不足を補うために進化した。つまり、精神のない体を動かすために自我を生み出したんだ」

いわく魔王の拠点には、それを示唆するような記録が残っており、元魔王の部下である悪魔達からもそれらしい証言が得られたそうだ。

その結果、本来は操る事の出来なかった依代に干渉して動かすに至ったわけだ。

「進化とはまた、そんな時にも起きるものなのじゃな」

いい事ばかりではないなと苦笑するミラは、だがそんな厄介な存在も既に消えたので問題はなくなったと、一先ずの決着に喜んだ。

「さて、その自我を得て新生した魔王の目的だけど、どうやら魔物を統べる神の復活ではなかったらしい──」

魔王の主因子が得た自我。アンドロメダが言うに、様々な情報を統合した結果、そこには魔物を統べる神への反逆の意思が見て取れたという。

その様々な情報とは、拠点に残されていたものに加え、今回浄化した悪魔達から聞き出せた事が多く含まれていた。

ペネロペによる浄化は見事なもので、その日の夜には魔王陣営にいた悪魔達も目を覚ました。しかも記憶の方が最初から明瞭であったため、魔王の動きから何から多くの情報が得られたわけだ。

「──魔王の主因子に芽生えた自我は、どうも、魔物を統べる神に成り替わろうとしていたようなんだ」

それが、この二週間で集めた情報から得られた答えだと、アンドロメダが告げた。

魔王の主因子は、魔物を統べる神の意に添うよう憑依した対象を操る。だがフォーセシアを乗っ取った事で問題が生じた。操れる精神がなかったため役目を果たせなくなったのだ。

だからこそ独自に進化して自我を生み出した。そしてこの自我だが、その出自もあってか主因子の精神汚染に対して耐性があったと推察出来るそうだ。

「自らが秘める力だからこそ、進化の過程でこれを防ぐ力も生まれたんだろうね」

状況的には十分にあり得る事だと予想を述べたアンドロメダは、次からが特に重要になる部分だと前置きして続けた。

主因子が有する精神汚染を防いだ自我は、ここで一つの疑問を持つに至った。なぜ、魔物を統べる神の意に添わなければいけないのかという疑問に。

けれどそれは、魔物を統べる神が残した呪詛のような命令。完全に支配されてはいないものの、意に反する事は出来ないくらいの強制力を持っていた。

だからこそ魔王は、魔物を統べる神の復活のために動きつつ、けれどその裏でもう一つの作戦も進めていたらしい。

それは、魔物を統べる神が復活した時に、その全てを乗っ取ってしまおうという作戦だった。

「残されていた情報から読み解くと、どうやらそれを可能にするための何かを作っていたみたいだ。けど、魔王の拠点にそれらしいものは見つからなかった」

そこまでの情報を一通り開示したアンドロメダは次に大陸図を広げ、そこに記された点を一つ、また一つと合計で五ヶ所を指し示してみせる。

「これについては、同じく主因子持ちだった悪魔の皆が以前から色々と訝しんでいたみたいでね。この辺りで魔王の不自然な行動を幾度も目撃していたらしいんだ。で、今はその悪魔達の協力の下で、魔王が怪しい事をしていた施設なんかを隈なく調べ回っているところだよ」

復活した魔物を統べる神を乗っ取ろうとして作り上げた何か。もしかしたら転用する事で更に弱体化を狙えるかもしれないと考え、その回収と分析を予定しているそうだ。

「ふーむ。わしが寝ている間に、そこまで話が進んでおったのじゃな」

多くの作戦が次々と進行中だ。それらについて色々と聞き終えたミラは流石の行動力だと感嘆しつつ、やるべき事を考える。

「となると、まずはあれじゃな。骸の回収と神器のチャージか」

「うんうん、ミラさんにはそれを先に済ませてほしいところだね」

現状で自分がすべき事はなにか。ミラは先に自分でなければ出来ないものを片付けようと決める。だがそこで、一つの問題に気づく。

「──っと、そういえば巫女服はどうしたものかのぅ」

神器と骸が用意出来ても、あの巫女服がなければ神域には入れない。思った事をそのまま呟いたミラは、次に代わりの服が用意出来ないかと考え精霊王達に聞こうとした。

だがその時──。

「巫女服……?」

「巫女服だって!?」

「巫女服がどうしたんだ?」

「巫女服はいいものだ」

見舞いだなんだで集まった男連中の一部が妙にざわつき始めたではないか。

「ビキニ巫女──!」

興奮したように叫ぶのは、ビキニアーマーをこよなく愛するハイドボーガ。彼はいったい何を思ったのか、急に飛び出して行ってしまった。

「セーラー巫女──!」

更に呼応して叫ぶのは、学生の服全般をこよなく愛するオペミトラン。彼もまた何を思ったのか、猛烈な勢いで飛び出して行ってしまった。

「まずは骸の方じゃな!」

相変わらずと言うか何と言うか。何をどう考えても悪い予感しかしないため、ミラはさっさと立ち上がり着替えの服を取り出した。そしてミケが男衆を追い払ったところで急ぎ着替えて出発準備を整えるのだった。