軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

628 ガーディアン

六百二十八

「さて、お主らは先に──」

完全封鎖した黄金都市からミラ達が出る方法は、入ってきた時と同じ場所まで移動して三神に出してもらうというもの。

そのためミラは、そこで待っていてくれと、言おうとしたわけだが──。

『ミラ殿、どうやら戦うのは無理だそうだぞ』

ふと精霊王より、そんな言葉が告げられた。

続く精霊王の話によれば、なんと今のミラ達は、この黄金都市において三神の使徒という肩書で登録されているそうだ。

そのためもあってか、ミラの方から仕掛けていってもガーディアンがミラに対して戦闘態勢に入る事はないという。

つまり、戦って勝って認めさせるというスタンダードな方法が実行出来ないわけだ。

「なん……じゃと……」

ガーディアンに備わっていたまさかの仕様に愕然とするミラ。こんな素晴らしい武具精霊に出会えたというのに、これでは召喚契約が出来ないではないかと崩れ落ちる。

「え? なに急に、どうしたの?」

輝かんばかりだった様子から一転、もはや絶望すら垣間見えるくらいに項垂れたミラにドン引くカグラ。

だがそれは、束の間の出来事だ。

『あー、だがミラ殿。そう嘆く事でもないぞ。これまでミラ殿が目にしてきた武具の精霊は、どういった存在だっただろうか。そしてそこにいるガーディアンは、どういった存在か。その本懐とは何か。そのあたりに条件が隠れているかもしれないな』

精霊王より、そんな助言が齎された。

「なるほど、そうか……その通りじゃな!」

するとミラは、また一転。その目に希望を取り戻して元気よく立ち上がる。精霊王の助言は、ミラにとってみるともはや答えのようなものだ。

「なんなの……? まあとりあえず先に行っているからね」

召喚術が絡むと、相変わらず感情の変化がよくわからない事になる。幾度と目の当たりにしてきたカグラは、さっさと諦めて歩き出す。いや、歩き出そうとしたところで、ミラが「大丈夫じゃ、そこで見ておるとよい!」と自信満々に言い切った。

「何をする気なの?」

召喚術が絡むと、面倒事も多く呼び寄せてきたミラの事だ。尚更余計に訝しむカグラ。

「人の想いと精霊の想いは、共感しやすいところにあったりするものなのじゃよ」

突き刺さるカグラの視線をものともせず堂々と答えたミラは、胸を張ってガーディアンの前に立った。

そのまま戦い始める気配はない。それを感じ取ったカグラは、ではどうするつもりなのかとミラの後ろ姿を見守る構えだ。

「これは、いよいよな感じですか?」

召喚契約とは、どうするものなのか。それに立ち会うのは初めてらしい。カシオペヤの目には期待がいっぱいだった。

ミラは様々な感情が込められた視線を背に受けながらガーディアンに触れる。そして語り掛けた。

「偉大なガーディアンよ。神々が創ったこの大地を護るため、共に戦おうではないか」

神に仕えていた神殿騎士。信仰に篤かったその騎士達の想い、そして望みといったら神のために他ならない。

そう考えてガーディアンに寄り添い合うミラ。するとどうだ。ガーディアンの中に、それこそ呼応するかのように何かが生まれたではないか。

瞬間、それを確かに感じ取ったミラは、いざここだと気合を入れて《契約の刻印》をガーディアンに対して発動した。

「おお、よいぞよいぞ!」

その反応は劇的だ。それこそ、まるで爆発でもしたかのような光がガーディアンより溢れ出した。それと同時にミラの手を伝って光が全身に巡っていく。

「これは……!」

直後にミラは、そこに宿った意思までも流れ込んでくるのを感じ取っていた。

ガーディアンとなった武具精霊に遺されていた意思。それは、神々が大切にしているこの大陸を護りたいというもの。

そしてもう一つ。その大陸に危機が迫っている今に機会を与えてくれたミラへの感謝まで、そこには含まれていた。

(うむ、その想い確かに受け取った。共に護ろうではないか)

ミラがそれらも全て受け止めたところで召喚契約が成立する。ガーディアンの武具精霊が宿り、その存在を強く感じたミラは全身と心の隅々にまで巡っていく力をゆっくりと把握していく。

「あれ、この感じって……もしかして、もう終わった?」

武具精霊との召喚契約において、戦わずに完了する事もあるのかと驚いた様子のカグラ。

「うむ、武具精霊もまた人工精霊じゃからな。武具とて戦うばかりではなかったというわけじゃよ」

家具精霊や屋敷精霊もまた同じ人工精霊だ。人とどのように関わってきたのかで、その存在の有り様も変わる。ゆえに召喚契約においても、その点が重要になってくるのだ。

今回は三神のため、この大地を護るためという気持ちが一致した。更に加えてミラの立場が三神の使徒であるという点も、うまい具合に働いた次第だ。

「真摯に寄り添えば、精霊は応えてくれる。召喚術士というのは、それをしっかりと理解する事がとても重要じゃからな」

黄金都市のガーディアン。きっとこれまでに誰も契約した事のない相手だろう。だからこそもあってか、ミラのテンションは急上昇中だ。それはもう召喚術士代表といった顔で心構えを饒舌に語り始めた。

「まあ、用事が済んだなら早く帰りましょ」

ミラが明らかに調子に乗り始めた気配もあってか、相対的に冷めたカグラはとっとと歩き出す。そして状況と雰囲気を察してか、サソリとヘビもまた直ぐその後に続く。

「なんじゃまたせっかちじゃのぅ。今回の召喚も、かなりとんでもない感じなのじゃがな」

まだ誰も見た事のない新召喚。是非見てみたいという言葉を待っていたミラは、ここで早速披露させてはくれないのかと不貞腐れる。だが、とっておきにしておくのも悪くないと考え直し「ほれ、待たんか。わしがおらんと帰れんぞ」と口にしながらカグラ達の後を追った。

「あれほどの精霊までも宿してしまうなんて。召喚術士とは思った以上に面白いですね」

そんなミラ達から少し遅れて続くカシオペヤは、興味深げにミラの背を見つめていた。

黄金都市の中央、来た時と同じ場所に戻ってくると、そこに置きっぱなしにしてあった砂ゾリに乗り込んでいく。

帰りはミラにカグラ、サソリとヘビに加えカシオペヤも一緒だ。

『では頼む』

そう精霊王に伝えてから暫くしたところ、入った時と同様に再び周りの風景が歪み始める。

「お、おおー……」

「摩訶不思議」

三神の干渉による空間移動となれば、そう体験出来るようなものではない。だからこそかサソリとヘビは、その感覚に一喜一憂していた。

入った時と同様に、黄金都市からの脱出もまたあっという間だ。

移動しているというような感覚は一切なく、ただ歪んだ景色が戻ったと思えば、そこはもうオリアト砂漠の真っ只中だ。

「ふむ、何もおらんな」

「入ってから出るまでの間に、結構移動した感じ?」

脱出後、ミラとカグラは砂ゾリから顔を出して周囲を見回した。

黄金都市に入る直前には、ブラズニルの魔法の帆船が後方からずっとついてきていた。しかし今は後方どころか、周囲のどこにも見当たらない。

精霊王から事前に受けた説明によると、移動している黄金都市の直上に出たという事。つまり、入った時の地点から随分と場所がずれたわけだ。

そしてどれほど移動していたのかというと、その答えは直ぐにわかった。

「あ、あっちあっち。すっごい遠くだけど見えるよ」

その声に振り向けば、サソリが砂ゾリの上に立っていた。そしてそこからずっと遠くを見晴らしている。

どれどれとミラとカグラも砂ゾリの上に立ち、サソリが向く方向へと顔を向ける。

「あー、何か見える」

カグラは眩しさに目を細めながらも両手で庇を作り、彼方を見やる。続きミラもまた遠くにある僅かな影が見えたところで望遠の無形術を使い、それをはっきりと確認した。

「確かに奴らじゃな。つまり、あの辺りからここまで移動しておったという事か」

見えたのは魔法の帆船だ。流石の大きさというべきか、その地点までは五、六キロメートルほどありそうだが、それでも目印になるくらいには目立っていた。

「おや、懐かしいですね。こんなところで使われていましたか」

まだ調査を続けている様子のブラズニルを観察していたところだ。何を見ているのかと気になったのか、カシオペヤも上がってきた。そして魔法の帆船を目にすると、そんな言葉を口にする。

「ほぅ、あの船は天魔族にも知られておるのじゃな」

ファンタジーの象徴にもなり得る魔法の帆船。天魔族のカシオペヤが懐かしいと言った事から、かなり歴史のある乗り物だとわかり、だからこそ余計に羨望を強めたミラ。

飛空船の登場で時代遅れになったなどと言われているそうだが、やはりそこに詰まったロマンは色褪せてはいないのだ。

と、憧れを抱きつつも、いっそ魔法の帆船精霊とかいないかな、なんて都合のいい妄想まで思い浮かべていたら──。

「知っているというより、造船に関わっていましたからね。あれに使われている魔法の仕掛け部分は私の設計なんですよ」

単に知っているだけではなかった。そもそもカシオペヤは、その誕生にまで携わっていたそうだ。

詳しく聞いてみたところ、基礎設計は彼女と仲がよかった神がまとめたという。そこにカシオペヤが得意の魔法をふんだんに利用した仕掛けを施した結果、あの究極の水陸両用船が完成したという事だ。

「いやはや、とんでもないのぅ……」

神と共同。つまりアーティファクトの制作にまで関係していたわけだ。流石は天魔族随一の魔法の使い手を名乗るだけはある。そう改めて感嘆するミラ。

「ところで、今は誰があれを使っているんですか?」

制作者の一人としては、やはり気になるところだろう。まだあんなに綺麗な状態が保たれているなんてと驚く彼女は、だからこそ大切に使ってくれているのだろうと嬉しそうにしながら、そんな質問を口にする。

「聞いた話じゃが、トレジャーハンター達が拠点も兼ねて使っておるそうじゃよ」

ミラはサソリ達から聞いた情報を、そのまま簡潔にまとめて伝える。

「なるほど。宝を探して西へ東へですか。面白いですね!」

それはカシオペヤにとって、嬉しい使われた方だったようだ。遠くを見通すように目を細めながら、楽しそうに笑う。

「しかしのぅ。今は飛空船の速さと発達した交通網の便利さに押されて、活躍も斜陽気味という話じゃがな」

ただ残念な事にとミラが続けたところ、反応も一転。生みの親の一人としては、やはり悔しくあるのか。次には何とも言えない表情に変わっていた。

「それはともかく、こっちからはわかりやすいけど、向こうからだとこっちは見つけにくいよね」

「まあ、そうじゃのぅ」

どうにもむすりとした顔のカシオペヤを一旦置いておき、次の動きについて話し合うミラとカグラ。

砂ゾリは大型のタイプではあるが、魔法の帆船に比べればずっと小さい。そのため、これだけの距離があれば、常に周囲まで注意深く観測でもしていなければ、簡単には見つけられないだろう。

事実、今もまだブラズニル側に動きはない。

ミラ達がそこにまた戻ってくるのを待っているのか。それともミラ達が消えたそこに入り口があると思い試行錯誤を繰り返しているのか。留まっている理由は定かではないが、かといって横取りを狙ってつけてきたような連中である。わざわざ、もう無意味だと伝えてやる必要もない。

「じゃあ、戻ろっか」

「賛成!」

「承知」

カグラがこのまま帰還すると決めたら、サソリとヘビが直ぐに準備を整える。

このオリアト砂漠で二ヶ月も調査していただけあって、その動きも慣れたものだ。サソリが地図を読み方角を確かめたら、ヘビが牽引ゴーレムで砂ゾリを走らせる。

すると瞬く間に魔法の帆船も見えなくなっていった。

「ほーれ、よろしく頼んだぞー」

そうして走る砂ゾリから顔を出したミラは、召喚したポポットワイズに一枚の手紙を持たせて空に放った。その飛んでいく方向にあるのは、魔法の帆船だ。

「ミラちゃんって、やっぱり結構なお人好しだよね」

「うん、放っておいてもよかった」

そんなミラの行動に関心を示すのはサソリとヘビだ。

「いや、もしかしたら、ただの嫌がらせかもしれんぞ?」

お人好しだなんて言われる所以はないと答えたミラは、何なら相手の捉え方次第だと笑ってみせた。

ポポットワイズに持たせた手紙。そこにはただ一言『おつかれさま』とだけ書いておいたからだ。

これを受け取った彼らは、どう考えるだろうか。そこで待ち続けるのは無意味だと取るかもしれないし、これをただの挑発と考え意地になるかもしれない。

ただ一つ、どちらにしても次の行動に移すきっかけくらいにはなるはずだ。

こんな過酷な環境で、ただ待つだけだったり、ありもしないものを探し続けたりするのは大変である。だからこそ、それはミラのちょっとしたお節介だった。