軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

627 代替案

六百二十七

「本当に助かりました。これで、またやるべき事を続けられそうです」

一通り話し終えたカシオペヤは、最後に己の使命について少しだけ触れた。

彼女の使命。幾つかあるが、そのどれもが決戦に向けての準備であった。

そして現在、中途半端になっているものがあるという。

それは、魔物を統べる神が復活する際、大陸中に散らばっている無数の因子が全て残さず器に戻るようにする事。更には二度と飛び散ってしまわぬよう、大陸全土の要所に魔法を仕込んでいくという作業を進めていたそうだ。

厄介なのは主因子だけではない。大陸全土に潜む小さな因子もまた、そのままにはしておけない存在だ。たとえ魔物を統べる神を討ち取ったとしても、これが残ってしまっていたら遠い未来で間違いなく災いとなる。

「あともう少しってところでした。これでようやく完成させられそうです」

カシオペヤは、そんな遠い未来を守るために使命を遂行していた。そして助かった今、また続きを進められそうだと嬉しそうだ。

「ふむ、とはいえまずは一緒に戻るのはどうじゃろう。まだ体調も万全というわけではない。敵もどう動くかわからん。また捕まったりでもしたら大変じゃろう──」

話によると、探されて見つかったという事だ。だとしたら生きている事を知られて、また狙われたら今度こそ命がないかもしれない。だからこそ使命を遂行するにしても、しっかり作戦を練ってからの方がいい。それこそ今回の作戦の中心にいるアンドロメダにも色々と相談してみてはどうか。そうミラは提案する。

「そうですね……。あれから結構時間も経っているみたいなので色々と調整が必要かもです」

カシオペヤもまた、そうした方が確実だと考えたようだ。その通りだと頷いた。

そうして話もまとまり、ここで一度研究所に戻ろうと決まったところで黄金都市での任務は完了となった。

なお、人が迷い込み黄金都市の噂が流れた事についても、カシオペヤが原因となる点について把握していた。

早い話が、三体の公爵と共に黄金都市へ入った時に開けた穴が空間に干渉し、時折外と繋がってしまったのだろうという事だ。

「では、帰るとするかのぅ!」

フォーセシアの封印を調べに来た結果、天魔族のカシオペヤを救出する事になった。

予想外ではあったが、頼もしそうな味方が増えた事には違いない。と、結果に満足したミラが、いざ帰ろうと歩き出したところ──。

「待って待って、こっちの用事がまだなんだけど!?」

「そうだよミラちゃん!」

「うん、調査希望」

そう声を上げたのはカグラ達だ。何といっても、今回この三人が一緒に来たのには理由がある。

それは、黄金都市で見つかったという黄金の水の確保だ。五十鈴連盟の重要な活動に役立つそれを求めて、カグラがどうしてもと付いてきた。加えてサソリとヘビに至っては、これを求めて既に二ヶ月も前から調査していたほどだ。

その末に念願叶って黄金都市に来られた今、やはりそれだけは是が非でも確保しておきたいという。

「ん、どうかしたんですか?」

ただ事情を知らないカシオペヤは、必死そうなカグラ達の声に何事かと振り返る。

「あー、そうじゃったそうじゃった。実はじゃのぅ──」

色々と驚く事があり過ぎて忘れていたと悪びれる事なく笑い飛ばしたミラは、もう一つあった目的についてもカシオペヤに説明した。

この三人は五十鈴連盟という環境保護団体のメンバーである事。最近多発している死霊系の魔獣が多くの呪詛を振りまいているため、森への影響が甚大になっている事。そしてこれを解呪する効果を持つ黄金の水がこの黄金都市にあるとわかり探していた。

と、ミラはそこまでの内容をざっくり話した。

「死霊系が多発、ですか。その点も気になりますが、森への影響も確かに放ってはおけませんね」

状況を把握したカシオペヤは、そういう事なら確かにここにある水などは効果的だとも納得を示した。

なんといっても黄金都市は、かつて神も暮らしていた街。ゆえに神聖な力がそこかしこに宿ったままになっている。その黄金の水も神の力によって生じているものである可能性が高い。だからこそ呪詛だって祓えるわけだ。

「──とはいえ、神々はもう去っています。その水も有限でしょう。そうすると、今後の方も対処しきれるか不安ですね」

少しだけ考え込んだカシオペヤは、現実的な意見を述べた。

今回、黄金の水を持ち帰れば一先ず今の事態は解決出来るだろう。ただ黄金都市は、このまま完全に封鎖するため、もう一度取りに戻る事は出来ない。

ゆえに魔獣の発生がまだ続くようならば、そこから先の対策も必要になってくるだろうとの事だ。

「それは確かにそう、だけど……」

カグラもまた、その思いはあったようだ。しかし現時点において明確な打開策がないため、まずは今を凌ぐ他ないという状態であった。

「その時はまたその時に考えるしかないよね」

「まずは、今」

ただ、それでも頼りたいほど厄介な状態のようだ。サソリとヘビも将来的な問題が残っていると理解しつつも、現状をどうにかする事が優先だと答える。

「そういう事ならば、私が手伝いましょう。助けて頂いた恩もありますし、血を分けて頂いたお礼も兼ねて。それと何より、森を守る活動なんて素敵じゃないですか。応援したくなりますよね」

カグラ達の真剣な目と真っすぐ向かい合ったカシオペヤは、どこか嬉しそうに微笑みながら協力を申し出た。

いわく、黄金の水に頼らずとも死霊の呪詛を祓う方法があるというのだ。

「天魔族の中でも随一の魔法の使い手である私ですからね。死霊の呪詛の一つや二つに三つや四つ、どうって事ありません!」

自信満々に言い放ったカシオペヤは、何ならそういった類の魔法こそが得意分野ですらあると胸を張った。

戦闘については、それこそアンドロメダの方が一枚も二枚も上手だが、サポートや補助といった戦闘以外の方面は誰にも負けないそうだ。

「それじゃあ今の呪詛だけじゃなくて、今後についても……?」

「当然、ばっちりな対策をお教えしましょう!」

現状の打開のみではない。カグラが希望を抱きつつ窺えば、カシオペヤは将来的にも保障出来る対策方法を伝授すると約束してくれた。

カグラ達が求めていた黄金の水以上の対策を用意出来ると豪語したカシオペヤによって、今度こそ本当に黄金都市での用事は完了した。

細かい部分については落ちついてから話し合うと決め、まずはここから出ようと歩き出すミラ達一行。

「──という感じで遭遇してのぅ。骸の一つを奪われたのじゃが、向こうの隠れ家の見当もつけられたという状況じゃ」

「それでミラさん達が、ここにきたというわけですね。なるほど、なるほど。結構、順調そうで安心しました」

途中、ミラが決戦に向けての準備状況を簡潔に伝えたところ、カシオペヤは自分が捕まってしまった事以外は問題なく進んでいそうだと笑った。

と、そうしてちょっと暢気な気持ちで言葉を交わしつつ、そろそろ街の中央に到着しようかといったところだ──。

突如目の前に、衝撃音と共に何かが降り立ったではないか。

「ちょっ、なに!?」

「どういう事!?」

「これは、敵?」

実に派手に登場したそれは、大きな鎧を纏う騎士であった。ただ先ほどまでとは一転して場違いなほどに緊張感を漂わせる騎士は、明らかに友好的とは思えない雰囲気を纏っている。

「なんじゃなんじゃ!?」

しかもそれで終わりではない。目の前の騎士を始まりとして次々と大きな騎士が降ってきては、ミラ達を瞬く間に取り囲んでいったのだ。

まさかの事態に慌てふためくミラ達。ただそんな時──。

「あ、忘れてました」

どこかあっけらかんといった顔で、カシオペヤがそう呟いた。そしてそんな彼女が現状を簡単に説明してくれた。

この大きな騎士は、黄金都市を護るために配備されているガーディアンだそうだ。

機能としては、都市を破壊する行動や、それに準じる何かが検知された場合に動き出す仕組みらしい。

「たぶんですが、封印の解除に反応したのかもしれません。前回は私が入れ替わっただけでしたが、今回はしっかり解除していますからね。都市の中にあるものを変化させた事が破壊行動と検知されたのでしょう」

黄金都市のガーディアンが起動した理由について、そう推測するカシオペヤ。

ただ、ミラ達にしてみればそんな悠長な事を言っている場合ではなかった。流石は神々も暮らしていた黄金都市のガーディアンか。その全てが、ただものではない気配に満ちている。

「どうするのどうするの!?」

「緊急事態……」

まさかの事態に震えあがるも臨戦態勢を整えるサソリとヘビ。

だがその直後だ。ガーディアンは直ぐに構えを解き、ミラ達を見送るかのように整列したではないか。

『すまんすまん、だそうだ』

そして精霊王経由で三神からの伝言が届いた。ここで動き出すとは思っていなかった、との事である。黄金都市の機能は三神の制御下にあるため心配は無用であった。

「三神様より、すまん、だそうじゃ」

動きを止めたガーディアンにまだ警戒の色を浮かべていたサソリ達は、ミラがそう伝えたところで、ようやく安心したようだ。ただ同時に『三神様より』という言葉の方に驚いていた。

「なんというか精霊王様と同じ感じで、三神様も大らかよねぇ」

もはやそういう世界なのだろうとカグラも理解したのか。ガーディアンが起動してしまった事も含め、三神のうっかり具合にほんのりとした親近感を覚えたようであった。

「それじゃ、早く戻ろ!」

「いざ、脱出」

警戒は解かれ威圧感も消え去ったガーディアン。しかし立ち並ぶ姿はなかなかに迫力があるためか、直ぐ退散しようとサソリとヘビが足早に進んでいく。

だが、そう簡単にはいかないのもまた冒険というか、こういった未知の場所でのお約束だ。

「ほぅ、ほぅほぅほぅほぅ!」

ただ今回、その原因はミラにあった。急いで帰ろうとした矢先、急にテンションの上がったミラがスキップするような足取りでガーディアンの並ぶそこに飛び込んでいったのだ。

「えー! ちょっとちょっとミラちゃん!?」

ただでさえ強面揃いなのにと、おっかなびっくりなサソリは、どうすればと縋るようにカグラに目を向ける。

「あー、うん。なにか見つけちゃったみたいね……」

カグラはというと、ミラの反応から幾らか察したようだ。そして、だからこそその顔に諦めの色を浮かべていた。ああなっては止めようがないと、これまでの経験で理解していたからだ。

「おお、やはりこの気配は──」

事実、今のミラにはそれしか見えていなかった。それしか感じられていなかった。

今、目の前にあるのは一体のガーディアン。一見しただけでは立ち並ぶ多くの内の一体に過ぎないのだが、ミラはそれをはっきりと見抜いていた。そのガーディアンの中に宿った、僅かな精霊の気配に。

「これまで出会ってきたものとはちょいと違う感じもするが、間違いないじゃろう!」

ミラが見つけたのは、ガーディアンに宿る人工精霊だった。しかし精霊の気配の他にも別の何かが交ざっているようなと気づいたミラは、だからこそ余計に興味を惹かれていった。

『なるほど、そうか。面白い。こういう事もあるのだな!』

ミラが新たな人工精霊との出会いに喜んでいたところ、どこか感慨深げな精霊王の声が届いた。

精霊王が言うに、ここのガーディアンを造るために、かつてこの街を守っていた神殿騎士達の武具が使われたそうだ。

神々への信仰心の篤い者達が揃う神殿騎士団。ゆえにその者達の想いは神々に向けられているが、中には人工精霊が宿るほどに武具も大切に扱っていた者がいたのだろう。

そしてその武具が使われたガーディアンが、目の前のそれである。

『──この特殊な状態にある場所に在り続けた事が要因だろう。ミラ殿が気づいたその違和感の正体は、我ら精霊の力と神の力が融合したからこそ生じたものだ』

精霊王の言葉通りであるならば、つまり目の前にいるガーディアンは、神の力を秘めた武具精霊という存在に進化したという事になる。

「なんという事じゃ……!」

神の力を得た武具精霊。そのような存在が生まれるなど初めてだと精霊王まで驚いた様子だ。となれば当然、そんな存在を前にして黙ってもじっとしてもいられるはずがない。ミラは「このまま素通りは出来んじゃろう!」と気合十分にガーディアンと相対する。

「あ、やっぱりそうだった。でも危ないから、やるなら私達が離れてからにしてよね」

カグラもまた精霊とは深い仲にあるからこそ、ガーディアンに宿るそれも何となく感じ取れたようだ。そしてミラがどんな行動に出るのかも予想済みだったため、真っ先にその言葉を口にした。

武具精霊との契約方法といえば、戦って勝つというもの。だが、それはつまり目の前のガーディアンに喧嘩を売るような行為だ。

するとどうだ、もしかしたら他のガーディアンまで反応してしまうかもしれない。

そうなったら大変だと考えたカグラは、だがミラを止められない事も理解していた。そのため先に安全を確保するよう忠告したわけである。

「むぅ……まあ、そうじゃな」

途中で勢いを挫かれたミラは、けれどそれも仕方がないかと頷き構えを解く。

「ん、どうしたんですか?」

ただ知り合って間もないカシオペヤにしてみたら、なぜ急にミラのテンションが上がったり下がったりしたのかわからなかったようだ。そしてカグラの忠告についても、何がどうしてそのような言葉が出てきたのかピンときていない様子である。

「あー、えっと──」

カグラは、そんなカシオペヤにわかりやすく説明した。ミラが召喚術士であり、目の前に現れたガーディアンは、もしかしたら召喚契約出来るかもしれない存在である事を。

「なるほど、そういう事でしたか。それが出来たら、確かに心強いかもしれませんね!」

呆れるカグラとは違い、理解したカシオペヤは納得の反応を示した。むしろ今後を考えて戦力を強化出来る手があるのならと、ミラの応援側に回ったのだ。

「そうじゃろう、そうじゃろう!」

ここで強い味方が出来た。ミラはカシオペヤの声援を受けて、ますます意欲的に契約へと乗り出した。