軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

608 お披露目

六百八

「さて、こんな感じかな」

「うむ、そんな感じじゃろう」

こちら側から一気に仕掛けると決定した後、更に作戦もまとまった。

まずは先制攻撃にて、相手側に大打撃を与える。次にメンバーでそれぞれに対応して、最終的にはヴァレンティンが男爵級と伯爵級を浄化する。

それと並行して、アンドロメダが魔法陣の解析と解除を行う。全ての安全を確保出来たら、ミラが潜水開始。骸を入手して戻ったら、そのまま飛空船のゲートを使い、これを消滅させて任務完了だ。

「準備も万全じゃな」

そうしてやる事が決まれば、行動に移るのも早い。それから数分後には、全員が支度を終えて甲板に揃っていた。

現在地は、目標地点から十数キロメートルほど離れた海の上。今回は、海上戦であり空中戦でもある。

そんな戦場にゲートを搭載した飛空船を持ち込むのは危険なため、ここから先はミラ達だけで進む事になる。よって甲板に揃う皆もまた、それぞれに手段を整えた状態だ。

ミラは、ペガサスに騎乗。カグラは、麒麟のリン兵衛。ソウルハウルは謎の空飛ぶゴーレムで、ノインもそれに相乗りしている。またハミィは、ミラにグリフォンを借りた形だ。

そしてアンドロメダはというと、普通に飛んでいた。

「それじゃあ、行こうか。皆、私の後ろからついてきて。少し光を散らせていくから、ギリギリまで見つからないはずだよ」

そんな言葉と共に先陣を切ったのはアンドロメダだ。しかも魔法で、光学迷彩に似たものを展開しながら進んでいくという。

海の上という、これでもかと視界が開けた場所ながら、数キロメートルまでなら全員の姿を誤魔化せるそうだ。

「うんうん、そこまでいければ十分だね!」

その意味するところをいち早く察したのは、ハミィだ。それはもう不敵な笑みを浮かべながら、その目にはハンターの如き火を宿していた。

空から接近する事、三十分ほど。

場所は海上上空、天気は快晴、視界は良好。目視でもギリギリ遠くに悪魔の姿が確認出来る場所まで接近したミラ達は、そこでいよいよ戦闘開始の口火を切ろうとしていた。

アンドロメダの魔法のお陰で、まだ悪魔側がこちらに気づいた様子はない。

ならばどうするかといえば、こんな時は不意打ちによる先制攻撃こそが常套手段というものだ。

ただ今回に限っていえば、ちょっとした理由もある。

「どうじゃ、いけそうか?」

「うん、これだけ見えれば十分かな」

ミラが問えば、ハミィは自信満々に答えた。

そんな彼女が手にするのは、虹色に輝く大弓。今回支給されたアーティファクトの一つだ。

そう、最も効果的な初撃は、ハミィのアーティファクトの実戦テストも兼ねているのだ。

「それじゃあ、いっちゃうよ!」

大弓を構えたハミィは、その目を鋭く前方へと向ける。照準するのは悪魔を囲むように群れる空の魔物達だ。

それからゆっくりと大弓の弦を引くが、彼女の手に矢はなかった。

けれども、それで問題はない。何故ならその大弓は、矢を必要としないからだ。

「凄い凄い、思い通りだよ!」

ハミィが手にする大弓は、マナを属性力に変換し、極限まで凝縮してから放つという特殊なもの。つまり矢がなくとも射る事が出来る代物だ。

その弓でハミィが放ったのは、凝縮された炎の矢。それがロケットのように飛んでいく。

ともあれ、そんな炎の矢が飛来してきたとあれば、流石の悪魔達も気づくというもの。直後に警戒するが、加速された炎の矢は通常の矢よりもずっと速く、瞬く間に魔物が群れる中央に到達する。

直後、煌々と燃え盛る爆炎が海上に広がった。そして瞬く間に数十という数の魔物が焼け落ちていくのが確認出来た。

「試し撃ちの時より、凄いわね」

「でしょー。あの時は、抑えていたから!」

遅れて響く爆音が過ぎ去っていくのを感じながら燃え盛る炎を目に映すカグラは、呆れたように、だが少し羨むように呟く。対してハミィは、それはもうすっきり爽快とした顔で答えた。

マナを変換するほどに威力を増す、大弓のアーティファクト。

ただこれには、注意事項も存在していた。それは、絶対に雷属性で使ってはいけないというものだ。

この大弓が作り出す矢は、あくまでも属性力を凝縮しただけ。ゆえに指向性を与え辛い雷の矢は、放った直後に落ちやすい所に落ちてしまうのである。

つまり、雷の矢は極めて自爆しやすいというわけだ。

また他にも、一度番えた属性力は放つまで消えなかったり、リミッターのようなものもないため使用者のマナを枯渇させてしまったりと数々の危険も孕んでいる。

だからこそ三神の宝物庫にて保管されたままとなっていたわけだが、その特性さえしっかり理解しておけば強力な武器となるのは、今しがた見た通りである。

「さて、沢山来おったぞ」

当然ながら先ほどの一撃で、悪魔達もこちらの存在に気づいたようだ。また遠距離は不利と判断したのか、魔物達を一気にこちらへと差し向けてきた。

ただ、浄化を考えるのなら先に魔物達だけで来てくれた方が好都合である。悪魔達の相手をしながら魔物の処理も並行するとなると、少々手間となるからだ。

「それじゃあ、次は私ね!」

これはチャンスだと前に出たのはカグラだ。そして当然、目的は多くの魔物を片付けるだけに止まらない。彼女もまた、ここでアーティファクトの実験をするつもりだ。白い球体を取り出して、それを放り投げた。

するとどうだ。ただ投擲されただけだった白い球体は自由自在に空を飛び始め、そのまま魔物達の方へと向かっていったではないか。

「うん、問題なさそうかな」

それは陰陽術の一つである、《御霊乗せ》による挙動だ。手に持つ事が出来る程度のものならば、式符を張り付けさえすれば自由自在に操れるのである。

カグラが操る白い球体は、複雑な軌道で相手を翻弄しながら、群れる魔物達のど真ん中に飛び込んでいった。

そうしたら次には白い球体が開き、あっという間に変形する。球体だったそれは今、まるでウニのような状態に変わっていた。

すると次の瞬間、そのアーティファクトの真価が発揮される。トゲのようにみえるその先端から、全方位に向けて光の球をバラ撒き始めたのだ。

一見、ビー玉程度の大きさな光の球。けれどそれは魔物に触れた瞬間に爆発した。

その規模自体は先ほどの火の矢に及ばないが、こちらの方は数が異常だった。全方位に向けて秒間で百を超える光の球を放つとなれば、その数によって十分過ぎるほどの範囲を影響下におけてしまうというもの。

「なかなかえぐい絵面じゃな……」

加えて、一つ一つの爆発の威力もかなりのものだ。強靭な魔物の甲殻にも傷を穿つ。しかも範囲内に入ってしまえば、一発二発程度で終わるようなものではない。瞬く間に数十発と撃ち込まれ、甲殻から何から全て砕かれ海に落ちていく。

攻撃範囲内にいた魔物は、もはや原型すら留めないものも多く、だからこそアーティファクトの威力は目に見えてわかりやすかった。

攻撃開始から、十数秒ほどが経過したところだ。アーティファクトは内包したエネルギーを放出し終えて球体に戻り、チャージモードに移行する。こうなったら、もう安全だ。

「うんうん、そう、こういうの! 私の手札って、こういう純粋な殲滅力に乏しいから、このくらいわかりやすいのが欲しかったのよ!」

彼女にしてみると、これは実験成功だったようだ。しかも想像以上の結果だったのか、ご機嫌な様子でアーティファクトを回収する。

「でも、素材回収が困難になるのが欠点ね」

「いや、もっと何かあるじゃろう!? こう、見ため的なあれやこれが!」

迅速に魔物を倒せはするものの、その損壊が著しいため素材としては使えなくなる。五十鈴連盟では魔物素材も資金繰りの一貫として有効活用してきたからか、カグラはそこが気になったようだ。

目の付け所が違うというよりずれている。ミラは、淡々としたカグラの言動に末恐ろしさを垣間見て震えた。

(しかしまあ、武器というより、もはや兵器じゃったな)

カグラが選んだ球体型のアーティファクト。それは簡単に言ってしまえば、ハンドグレネードのような武器だ。

ただ、よく知られるハンドグレネードとは違い、起動すると同時に砲身が展開して迅速に光球をバラ撒き始めるという、実にせっかちな仕様だった。

そう、起動したら最後、投げるまで待ってくれないのである。ゆえにこれもまた、極めて自爆しやすいアーティファクトであった。

だがカグラは《御霊乗せ》で自在に操る事に加え、起動スイッチを操作する小さな式神を仕込んで対応。その結果が、先ほどの惨劇というわけだ。

「おや、だいぶ効いたみたいだ。ご立腹な様子だよ」

アンドロメダが視線を送る先には、男爵級の悪魔三体の姿があった。

ハミィとカグラ、この二人による遠距離攻撃によって、空の魔物の数は一気に削れた。だからこそ、脅威と認められたようだ。伯爵級だけを残し、魔物の全てを伴い向かってきた。

「これまた、絨毯爆撃じゃな」

次の攻撃を牽制する意味もあるのだろう。三体の悪魔がタイミングを合わせて炎弾を放ってきた。

その数は、数十でも数百でも足りない。それこそ、数千にも及ぶ炎弾がミラ達めがけて降り注いでくる。

空一面を埋め尽くすその様子といったら、きっと絶望に染まるような光景であっただろう。だがミラ達にしてみれば、時々は目にする光景だ。

「じゃあ今度は、俺が試してみる番かな」

それぞれが守りの態勢に入ろうかというところだ。思ったよりも早く出番が来たと、少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべたノインは、そんな言葉と共に右手を空に向けた。

彼もまた、ここでアーティファクトを試そうと考えたようだ。その腕には、彼が選び抜いたアーティファクトがあった。

「確か、こうして……こうか!」

空を睨み集中するノインは、次に払うような動作で右手を振り下ろした。

すると、どうだ。空から殺到していた炎弾が一斉にその軌道を外れて、あらぬ方向へと散り散りに飛んで行ってしまったではないか。

「思った以上に、有効範囲が広い。これはかなり使えそうだ」

炎弾との距離は、まだ数百メートルほど離れていた。しかも広範囲に広がっていてなお、アーティファクトは全てに対して作用する。その範囲と効果に、ノインもまた満足そうだ。

ノインが選んだ、腕輪型のアーティファクト。その効果は、指向性の強制変更。

対象は生物以外という条件はあるものの、動くものに対して作用し、その力の向きを変えてしまう事が出来た。特に慣性で飛ぶような、それこそ飛び道具の類に対しては、その全ての狙いを狂わせる事が可能というわけだ。

つまり、今のノインには遠距離攻撃のほとんどが通用しないという事。

なお、対象の動きをどの方向に変化させるかまでは決められないため、周囲への配慮が必要な点には要注意だ。

「よ-し、それじゃあ後は作戦通りにいこうか」

遠距離は効果がないと察したのか、悪魔側の動きは近接戦重視へと移行したようだ。更に速度を上げて距離を詰め始めた。その様子を前にアンドロメダが号令を出したところで作戦開始だ。

まず残った空の魔物には、ハミィが対応する。アーティファクトのみならず、愛用の弓も交えての対空射撃によって、次から次へと敵の数を減らしていった。

次に海中の魔物については、カグラが担当だ。リン兵衛による容赦ない雷撃によって、表面側を片付けると、続き玄武のカメ吉と青龍のニョロ蔵で追撃をかけていく。

そのように問題なく空と海に対応する中、ミラ達は最も重要な一手、悪魔を浄化するために動いていた。

三体いる男爵級を分断して、それぞれをミラとソウルハウル、ノインで受け持つ形だ。

「さて、お主はこっちに来てもらうぞ」

ミラはペガサスで先制した直後、瞬時に召喚したガルーダで悪魔の一体を鷲掴みにすると、そのまま離れた位置へと場を移した。

「なるほど、面白い」

ガルーダの拘束を力づくで解いた悪魔は、ミラをギロリと睨みながら愉快そうに笑う。分断されたとわかっても、いや、わかったからこそ嬉しそうですらあった。

「存分に楽しめそうだ」

群れるのは不本意だったのだろう。こちらの方がやりやすいと不敵に笑い構える。

「正面から応えてやりたいところじゃが、こちらは生憎と予定があってのぅ」

武装召喚で準備を整えるミラは、苦笑で返す。

今回の戦いだが、何より悪魔を倒す事が目的ではない。むしろ、その逆と言ってもいいだろう。

だからこそ、ミラがやる事は時間稼ぎの持久戦だ。悪魔側からしたら極めて不本意であろうが、浄化が済めばきっと笑って許してくれるはずだ。

そのように始まったミラと悪魔との戦いは、ほどなくして十分に目標を達成出来る形に仕上がっていた。

「ふむ、いい感じじゃな!」

少し離れた位置から状況を見守っているのはミラだ。そして悪魔と闘っているのは、人化の術を使ったアイゼンファルドであった。

空の皇竜だからこそか、人形態でも当たり前のように飛んでいるアイゼンファルドは、悪魔相手に格闘戦を繰り広げている。

しかも合間合間に竜魔法を使ったり、手から光弾を放ったりと攻撃のバリエーションも豊かだ。

ただ、だからだろうか、その絵面は完全に国民的バトル漫画のそれに似ていた。

「もう、完全に使いこなしているといっても過言ではないのぅ」

以前までの人化アイゼンファルドは、その持ち前の能力をぶん回す形で無理矢理戦っていたような状態だった。

けれど今は、見事な技を繰り出している。手足の使い方や、そのために洗練された技を理解してきたのだろう。人化した状態での戦い方に慣れてきた様子だ。

ミラは我が子の成長ぶりを喜びながら、いっそ本格的に、それこそメイリンあたりにでも師匠を頼もうかなどとも考えていた。

ミラ達が戦う場よりも幾らか離れたところでは、ノインが悪魔と対峙していた。

冷気を纏う剣を構えるノインは、氷結した海の上に立ち、一定の距離を保ったまま悪魔を見据えている。そして次々と繰り出される攻撃を全て防ぎいなして、再び元の距離と態勢に戻っていた。

「いったい、どういうつもりだ」

「別に、ただ時間を稼がせてもらっているだけさ」

望み通りの一対一。悪魔からすれば闘志が燃え盛る状況だが、対するノインは冷静沈着に任務を遂行していた。

狙う勝利は、浄化のみ。ゆえにノインは時間稼ぎに徹底しているのだ。

そしてこの状況は悪魔にとって非常に不本意なものだった。けれどノインは《鎖縛の楔》で強引に繋ぎ留めて一対一へと持ち込んでいるため、悪魔がこの場より離れるには彼を倒す以外にない。

「小賢しい真似を……!」

だが鉄壁さこそがノインの真の強さだ。ゆえに、これを突破するだけの力を持たぬ悪魔は全てノインの思惑通りに屈するしかなかった。

また別の場所では、ソウルハウルも悪魔の分断に成功していた。

「とりあえず、こんな感じか」

並行して作戦を遂行していたソウルハウルはというと、むしろこちらは既に決着したといってもいい状態にあった。

宙に浮かぶのは三体のゴーレム。そしてその下には、まるで操り人形の如き姿で吊り下げられた、三体の巨大な骸骨の姿があった。

その姿形は人の骨格に近いが、大きさがまるで違う。更には、髑髏の種類さえも違っている。その三体は、それこそ複数の骨を組み合わせたような姿をした異形の骸骨だ。

その三体の巨大骸骨を相手に、随分と抵抗したのだろう。だが敵わなかった悪魔は今、骸骨によって支えられている黒い棺の中に閉じ込められていた。

まだ暴れているようだが、黒い棺はびくともしていない。

「何分待ってりゃいいんだろうな」

ソウルハウルは振り返りながら、そう呟く。その視線を向けた先にいるのは、伯爵級悪魔。そしてヴァレンティンとアンドロメダであった。