軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

580 ヴァレンティンからの報告

五百八十

「うむ、なかなかじゃな!」

ソロモンの執務室にて、到着早々に一級品のケーキを頬張るミラは、そう満足げに微笑む。

「まったく、ふらっとやってきてケーキが食べたいとか、僕は君のお母さんじゃないんだよ?」

これでも忙しいんだからとため息交じりに呟きながらも、ミラの前にティーカップを置くソロモン。そして「ちなみに今日のお茶は、フロレンシア産のピュアリーフなんだ」と、嬉しそうにお茶を注ぐ。

「ほぅ、前に注文待ちしていると言っておったアレじゃな。どれどれ」

ミラは報告だの用事だの関係なく、ちょくちょくソロモンの話し相手になったり遊びにきたりしていた。

そんな時に話題になった取り寄せグルメの一つが、このお茶だそうだ。折角だから一緒に楽しもうと、とっておいたようである。

「この香りの強さ。好いのぅ!」

ミラはそのお茶を一口含み、鼻腔一杯に広がる香りを堪能した。そしてソロモンもまた同じように口にしては、「うん、取り寄せた甲斐があったね!」と嬉しそうだ。

そうしてケーキとお茶を楽しみながら、のんびりと談笑するミラとソロモン。

出かけていた間の数日。短い時間ではあるものの、何かと話題には事欠かない。

天空島の利益がウハウハだったり、フローネを狙う侍女達の暗躍だったり、城内ウサギカフェの盛況ぶりだったり、大陸一の劇団が来ていたり。ソロモンは毎日が騒がしいと苦笑しながらも、それでいて楽しそうだ。

と、そんな話をしながら、暫くしたところだ。

「と、さてさて、例の件の報告なのじゃがな──」

おやつを存分に堪能し終えたミラは、それでは本題を片付けてしまおうかと口を開き、悪魔暗躍の調査についてを報告していった。

調査の結果、その疑惑は正しく、その裏には確かに悪魔の存在があったと。

「──というわけで、例の噂は本当じゃった。しかも調査を進めていった先にいたのは、まさかの公爵三位でのぅ。流石のわしもあの時は肝が冷えたものじゃよ」

最悪な形で予想は当たってしまった。そのように説明していたところだ。ミラはさりげなく、けれどもどこかわざとらしく金属の棒を取り出してテーブルの上に置いた。

その金属の棒は、小さく震えている。

「公爵三位か……厄介だね。で、それはなんだい?」

悪魔が暗躍しているとわかったのなら、そのまま放置しておくわけにはいかない。けれども公爵三位となると国家戦力の動員が必須の難敵だ。

どうしたものかと考え込むソロモンは、それでいてミラがこれみよがしに置いた棒に反応する。何やら振動しているところも気になるが、『このタイミングで出したという事は当然なんらかの打開策だよね』と期待した顔だ。

「これは、ちょっとしたびっくりアイテムでな。とりあえずこれが震えたら、準備完了という合図にもなっておる。というわけで色々わかりやすく説明するためにも、まずは会ってもらった方が早いじゃろう」

悪魔がどうたらこうたらといった詳細については、ヴァレンティン本人を交えて話し合った方がいい。そう考えたミラは震える金属棒を再び手に取り、そのまま大きく振り回したり叩いたりして合図を返した。

「さあ、何が出るじゃろうな」

ソロモンの驚く顔が目に浮かぶ。そんな楽しみを胸に待つ事数秒。金属の棒が微かに光ったかと思えば、その変化は直ぐに現れた。

僅かに空間が歪んだ直後、そこにヴァレンティンが転移してきたのだ。

「え……ええ!?」

突然の登場もそうだが、何よりも登場した人物の唐突ぶりに最も驚いたようだ。ソロモンはヴァレンティンの姿を目にした瞬間、それはもう勢いよく立ち上がり駆け寄った。

「本物!? えー、ヴァレンティン君じゃない!? これどういう事!?」

行方知れずだった九賢者最後の一人が、これといった前兆もなく急に帰ってきた。流石にこれは予想不可能だったと驚嘆するソロモンは、それでいてとても嬉しそうに「とにかく無事でよかったよ」と笑うのだった。

とにもかくにも、ようやくの再会となったヴァレンティン。話の続きも大切だが、やはりヴァレンティン自身についての方が気になるようだ。

これまでどうしていたのか、大丈夫だったのかと、ソロモンは沢山の質問を飛ばして根掘り葉掘りと聞き出していた。

「──なるほどねぇ、そんな組織があったんだ。しかもそんな活動まで」

ヴァレンティンが所属している組織、そしてその組織は悪魔の浄化を目的としている事など。一通りの情報が出揃いヴァレンティンの事情について把握出来た事で、ソロモンも一先ず満足したようだ。

他の積もる話などは食事時にでもと告げたソロモンは、調査報告についての続きへと話を戻した。

「では、細かい部分は僕の方から──」

悪魔関係の話は、ヴァレンティンから説明してもらう方が早い。という事で現場で起きた一部始終について、彼が詳しい部分まで伝えてくれた。しかも噂の主であるダンタリオン本人から聞き出した情報も加えての完全版だ。

噂になっていた『魔界山』だが、どうやらそこは悪魔が転生する拠点のような場所だったらしい。

だが最近、何かしらの接触によって悪魔が転生する仕組みに異常が発生。公爵級悪魔のダンタリオンが、ありえないほど短い周期で転生してしまった、という事だった。

「とはいえ彼については、もう問題ありません。全てはダンブルフさんのお手柄ですね」

噂の主であったダンタリオン。彼は以前にダンブルフがソロ討伐を成し遂げた相手だった。そしてそれがきっかけで、そのままミラの配下となり浄化も完了。

結果として、彼から悪魔側の情報を多く得る事が出来たと説明する。

「ただ彼自身、転生前に何があったのかはわからず、転生後もそれを知る手掛かりは見つけられなかったそうです」

そこまで話したヴァレンティンは、悪魔の転生を早める何かがあるのかもしれないと言及し、けれどもその件については現時点において有益な情報が得られていないと締めくくった。

「公爵級が配下とか気になる部分もあるけど、転生を早める……か。そんな事が出来るってなったら、これはちょっと……いや、かなりの大問題だね」

「そうじゃな。しかも既に成功しているとなると、今後も次々に転生してくるかもしれんわけじゃな」

ダンタリオンとの出会いと浄化までの件が気になった様子のソロモンだが、そこにあまり触れてほしくないミラはさらりと流して問題の焦点を転生に向ける。

ダンタリオンに続き他の公爵級も転生しているとしたら、かなり厄介な問題であると。

だがヴァレンティン側からしたら、少し認識が違うようだ。

「素早く対応しないといけないでしょうね。ただ、だからこそ僕らにとっては、一気に浄化を進めるチャンスでもあります」

なんでもダンタリオンから得られた情報によると、かなり無理矢理に転生を早められたとあって、本来よりも随分と力が弱体化してしまっていたそうだ。

転生を早められた悪魔は、全盛期の力を取り戻すまで数年ほどはかかりそうだという。

ゆえに浄化を狙うヴァレンティン達にとって、それらの悪魔達は厄介ながらも狙い時との事だった。

「とりあえず、その件についてはこちら側で追っていくので大丈夫だと思います。一気に仲間を浄化出来るかもしれないとあって、皆かなり気合が入っていますからね」

早い転生については任せてほしいと豪語するヴァレンティンは、代わりに協力が必要な問題があると告げて、次の話を持ち出した。

そう、『魔物を統べる神』の骸の件だ。

ダンタリオンから得られた情報の中でも特に重要な『災禍の夜』について話し、こちらで把握出来ていない分があるという事をソロモンに伝えた。

「──というわけでのぅ。わしとヴァレンティンとでアトランティスに行く予定じゃ。じゃからお主から向こう側に連絡しておいてくれるか。あちら側の情報網があれば、調査も捗るじゃろうからな」

行方不明となっている骸の所在は不明だが、それを隠蔽している悪魔デラパルゴがアトランティス王国付近に潜伏している事までは掴んでいる。

次の作戦は、その悪魔を捕まえて浄化し骸の在りかを訊き出す事だ。

「三神国防衛戦の真実がこうさらりと出てくるとか、もうなんかさ……。もっと腰を据えて聞きたいんだけど、まあ現状は理解したよ。そういう事なら協力するし、きっと向こうも協力してくれるでしょ。ただ、迷惑はかけないようにね。君が銀鉱山を一つ潰した事、まだ根に持っているみたいだから」

ちょっと話すだけで飛び出してきた十年前の真実。多大な興味を浮かべるソロモンではあるが、好奇心よりも問題への対応を優先させたようだ。今日中には打診しておくと約束してくれた。

「……善処しよう」

ただそんなソロモンの願いに対して、ミラの答えは曖昧だ。

あれは不運な事故だった。どこか遠い所を見つめながら、ゆっくりと頷くミラであった。

「では現地でな」

「はい、また後日に」

話し合いが終わった後、軽く食事を共にして更に深く談笑し合ったミラ達。

そうしてすっかり日も暮れたところで解散。仕事に戻るソロモンを見送ったところで、ミラとヴァレンティンもまたその場で別れた。

「ふーむ。幾つも転移先があるとは……羨ましいのぅ!」

先に転移で帰っていったヴァレンティン。その様子を見ていたミラは、彼から預けられた金属の棒を手にしたまま呟く。

どうやら彼が転移出来る場所は、この一つだけではなさそうだ。対してミラは、召喚術の塔の一室のみである。

なお、リーズレインの加護がより深く馴染み、リーズレインとの友好関係も強くなれば、これを増やせる可能性はあるそうだ。

(リーズレインと仲良くなった結果、アナスタシアがどう出てくるか……そこが問題じゃな)

彼の傍には彼女もいる。ある程度は認められているものの、どこまで親密になったらアナスタシアの逆鱗に触れるかわかったものではない。

「さて、もうマリアナは帰っておるじゃろうか」

ともあれ、人知を超えた転移という力がこの手にある。今はそれだけで十分ではないか。そうこの先の厄介事について考える事を止めたミラは、早速その力を使って召喚術の塔に帰った。

「ミラ様、おかえりなさいませ」

「うむ、ただいま」

転移先の部屋からリビングに顔を出したところ、そこにはマリアナとルナの姿があった。

直ぐに飛び込んでくるルナを受け止めながら何とも言えぬ安心感に頬を綻ばせたミラは、もう完全に腰を据えて、のんびり過ごす事に決める。

今回の冒険話を語り、今後の予定についても触れる。

まだまだ当分の間は、落ち着く事が出来なさそうだ。

「──と言う事でな。来月頃に基礎が完成するらしくてのぅ、一度確認してみてほしいそうじゃ。折角じゃから一緒に見に行こうではないか」

「はい、是非ともご一緒したいです!」

「きゅい!」

精霊王にも認められた天空島。かなりの爆弾を抱え込んでいる場所だが、ずっと立ち入り禁止のままにしておくわけにもいかない。

そのため相当にハードなスケジュールで隠蔽工作が進められている。

それと同時に、来客者向けの無難なルートを巡るツアーのようなものも企画されていた。

ミラは、その確認とご意見番も兼ねて下見してくれるよう頼まれたのだ。

そしてこれについては感想も多い方がいいと、信頼出来る者なら同行者として連れていっても構わないとの事だった。

観光地として特別に整備し直したようで、ソロモンいわくかなりいい感じになっているという。

実に楽しみだとミラが期待を口にすると、マリアナもまた嬉しそうに微笑むのだった。