軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

563 神器チャージ

五百六十三

目的の場所への入り口は、なんと大司教の部屋の奥に隠されていた。

幾つもの祭具を他所へとどかしていった先に秘密の扉があり、厳重な封が施されたそれを大司教が解放する。

するとそこには、地下深くへと続いている階段があった。

「──しかしまた、どこまで深いのじゃろうな」

「もう十分くらい下りてきたよな」

大司教の後に続き、ひたすらに階段を下りていくミラ達。幾度となく折り返しては、先の見えない階段が何度も現れる。

どれほど地下に向かうのか。目的地はどこにあるのか。後どれ程かかるのかと、自然に愚痴が零れる。

「戻るのが大変そう……」

ミラ達のみならず、一緒についてきた教皇も後ろを見上げながら、そんな言葉を口にした。

「何と言いましょうか、私もここに入るのは初めてなものでして何ともかんとも……。ただ、この先に行くとだけしか……」

大司教にしてみれば、世界の救世主になるかもしれない二人と所属組織のトップが相手だ。そんな事を言われてもと冷や汗を流しながら、彼はただひたすら一秒でも早く目的地に到着するのを祈った。

「見えてきましたよ!」

更に深くまで下りていったところで、遂に階段の終着点らしきところに到着した。ようやくかと声を弾ませつつも安堵のため息を漏らす大司教。

そこから先は少しの廊下が続き、一番奥には真っ白な扉があった。

「ご神託によると、この扉の先に入ればいいとの事です」

どうやらここが目的地のようだ。ただ大司教は、この場所に案内する事までしか告げられていないという。後は神器の持ち主がそれを手に、この先へ行けばわかるそうだ。

「昔から知ってはいたけど、こうして本当にある事を目にすると否応なく未来への不安を思い知らされるものね」

永い間、今の立場を勤め続けた教皇にとっては、随分と感慨深いものがあるようだ。神託通りの扉を見つめながら物憂げな顔で呟く。

「それを回避するためじゃが、気が重いのは確かじゃな」

「まあ、あと十人くらいは欲しいよな」

切り札を持つからこそ、その決戦に参戦する事になるとあって流石のミラとソウルハウルも自信満々とまではいかなかった。

だが、こうやって軽口を言い合えるくらいの気概はあるようだ。二人は選んだ神器を取り出して白い扉を開け、その先に踏み込んでいった。

そこには、これまた白い部屋が広がっていた。そこまで大きくはないが、それでも地下にしては大きな空間だ。

「はて、それでどうすればよいのか」

とりあえず部屋の中央付近にやってきたところで、ミラは何をどのようにすれば神器のチャージが出来るのかと周囲を見回す。

と、直後に不思議な音が聞こえた。電子音か何かに似た、そんな音だ。

「お、もうこれでいいみたいだな」

自身の神器を確認したソウルハウルがそんな事を口にする。

何がこれでいいのかと思ったところで、また先ほどと同じような音がする。そして今度は、その音がどこからしたのかもわかった。

神器だ。音は、神器から聞こえてくる。

「なるほどのぅ。確かにこのまま待てばよさそうじゃな」

手にした神器を確認してみたところ、その柄の部分にあった三つの球体の一つが、ゆっくりと明滅していた。

どうやら、特別な儀式だなんだといった事をする必要はないらしい。神器を持ってこの部屋にいると自動でチャージ出来るという仕組みのようだ。

「何というか、充電中みたいな感じだな」

「そうじゃのぅ……」

その球体は、きっと三神を意味しているのだろう。見ていると、透明な球体の色が少しずつ白く染まっていっているのがわかる。つまり、これが完全に白く染まればチャージ完了というわけだ。

ただ、三神の力を神器に注ぐというだけあって、非常に神々しい何かがあると期待していたミラ。物語的には壮大なイベントが起きる場面だ。

だが実際は、まさかのオートサービスとあってか、その心境は複雑であった。

しかも用意されていた特殊な神器は、その種類の割に機能は同じという話だ。もしかすると三神は、思った以上に効率重視なタイプなのかもしれない。

「しかしまあ、お主ならきっとそれを選ぶと思ったが、大当たりじゃな!」

神器という事で改めてソウルハウルが選んだそれを見たミラは、したり顔で笑う。

「そう言う長老は、またつまらないものを選んだもんだな」

対してソウルハウルは、ミラが手にするそれを見て呆れたように笑い飛ばした。

ミラが選んだ神器は、剣。無数にあった神器の中でもシンプルで使いやすく、最も無難な一振りだ。

そしてソウルハウルが選んだ神器は、大鎌。非常に特徴的な形をしたそれは、正しく世の男子が好むカッコいいのど真ん中をいくタイプであった。

誰ならどの神器を選んでいそうか。話題をそこまで膨らませながら雑談する事、三十分ほど。遂に神器のチャージが完了した。

これまでと違う音が鳴り確認してみると、球体の一つが真っ白に染まっているとわかる。

「ふむ、これで一つ完了じゃが、何とも凄いのぅ」

「ああ、どこか気軽な感じだったが、間違いなく神器だな」

セルフサービスな神の力のチャージが完了した。何とも手軽に始まり終わった事もあり有難みのようなものは一切実感出来なかったが、神器という名に嘘偽りは一切なさそうだ。

手にする神器からは莫大な力の波動が感じられた。どことなく万能感すら錯覚しそうになるほどの圧倒的な力だ。

どんな敵が現れようと、その一振りで全て解決出来るのではないか。そんな気になってくる。

しかもこの神器は、更に二柱の力も注ぎ込む事を前提として作られている。

(いったい、どれほどの化け物なのじゃろうな……)

つまり敵は、それほどの存在という事だ。

ミラは一抹の不安を抱きつつも、だからこそこれがあるのだろうと神器を見据え、決意を新たにする。

無事に神器のチャージが完了したと戻れば、大司教と教皇は安心したように、それでいて好奇心のまま二人の神器に注目した。

「これは、なんと神々しいのか……!」

神託が遂に形になったとあってか、大司教は祈るように膝をつく。同時に自分の代でこの瞬間を迎えられた事に少し誇らしげでもあった。

「なるほど……これは凄まじいですね」

神器という存在は多々あれど、三神の力そのものを秘めた神器というのは、そう多くなかったりする。ゆえに教皇もまた、神器に秘められた力に興味深げであった。

神器のチャージという目標も達成出来たとあって、これにてアリスファリウスでのミッションはコンプリートだ。

大司教の部屋に戻ったところで解散し、ミラとソウルハウルは談話室でマリアナ、リリィと合流して教会を後にした。

「おお……とんでもないのぅ!」

「はい、とっても大きいです!」

どことなく場違いな声を上げるミラと、楽しそうに同意するマリアナ。

送迎用の馬車に揺られる事、十数分。ミラ達のためにと特別に用意されたホテルは、アリスファリウスで一番と謳われる最上級のホテル『アリスホワイトホテル』だった。

大事な国の行事の会場にもなるほどに、歴史は古く格式の高い場所だ。見上げるほどに大きく立派な佇まいは、宮殿もかくやというほどに堂々としている。

滞在期間中は、このホテルに宿泊する事となっている。更にグリムダートとオズシュタインでも、最上級のホテルが予定されているとの事だ。

贅沢感溢れる旅程とあってか、ミラのテンションも上がりっぱなしだ。

「これが『女神の微笑みパイ』か。これほどとは、まったく想像出来んかった!」

チェックインした後、そのままレストランの個室にやってきたミラ達は、早速そこで最上級のご馳走を満喫していた。

グルメツアーとして予定していた一店が、このような形で味わえるなんてと喜ぶミラ。

「このような使い方が……!」

マリアナもまた存分に味わいつつも、それでいて美味しさの秘密を探る事にも集中している。ミラが気に入った料理は、全て再現してみせるという気概がその目には宿っていた。

なお、そんな二人に比べてソウルハウルは、ご馳走を前にしても実に落ち着いていた。むしろどことなく食べ慣れているとでもいった態度だ。

そしてリリィは、夢中になって食べるミラを盗撮──もとい旅の記念として記録に残す事に余念がなかった。

食後は、各々が自由に過ごした。

とはいえミラの場合は状況からしてわかる通り、風呂から何からまでマリアナとリリィにしっかりと世話された。

ミラの付き人という形で同行しているため部屋も一緒だ。ゆえに逃げ場はなく、しかもいつの間に打ち合わせたのか、それはもう息の合ったコンビネーションをみせる二人。

その結果、ミラはあれよあれよと全身を可愛らしくコーディネイトさせられていった。

一方ソウルハウルはというと、バーに繰り出して悠々自適に夜を楽しんだようだ。

アリスホワイトホテルで迎えた朝は、比較的穏やかに始まった。

とっくに抵抗を諦めたミラは、マリアナとリリィのお世話欲を存分に受け止めながら朝の身支度を済ます。

朝食は、ホテルのレストランでスペシャルなビュッフェを楽しんだ。

「ふぅ、食った食った。マグロのカツが絶品じゃったな。特に、このソース!」

どれもこれもが、そう簡単にはお目にかかれない高級料理ばかりとあって、ミラはあれもこれもとはしゃいで平らげた。

「とても素晴らしかったです」

そしてマリアナは、そんなミラの言葉をしっかりとメモにしたため、皿に残ったソースをそっと舐めて味の分析を始めている。

リリィもまた動きが早い。そっとシェフに話しかけ、レシピを探るようにさりげなく言葉を交わしていた。

朝食後、ミラ達は気合十分に意気揚々とした足取りでホテルを出た。

今日は、丸一日が空き時間である。みっちりと隙間にまで予定を詰め込んでくるソロモンと違い、三神国が組んだスケジュールには、心優しい余裕が設けられていた。

ゆえに、今日は朝から晩まで思いっきり観光を楽しむ気満々なミラ達。

ちなみにソウルハウルは、とっくに出かけているそうだ。

「さて、今日はここからが本番じゃな!」

その気合の入り具合もあってか、三人は服装からして違う。今のミラは精霊女王スタイルではなく、しかもマジカルコーデでもない。それこそ一般的な町娘といった服で統一されているのだ。

とはいえ下着から何からまで全てにマリアナとリリィの趣味嗜好──配慮が行き届いているため、その仕上がりはとびきり可愛い町娘となっている。

「はい、これからです!」

マリアナもまた、いつものメイド服ではなく普段着の装いだ。華やかなワンピースに合わせるのは、ちょっと大人なロングコート。それでいて、所々にさりげなくミラの服とお揃いの部分が見え隠れする。

「存分に遊び尽くしましょう!」

リリィも今日は私服だった。いや、私服なのだろうか。黒革のコートにタイトなスカート姿は、秘密のエージェントとでもいった雰囲気すら醸し出している。しかし彼女の様子からして、それが一番楽な服装のようだ。

と、そうして準備万端に整え、いざ出発といったところだった。ここでまさかの事態に遭遇する事となる。

「一応聞かせて頂くが、なぜ、ここにおるのじゃろうか……?」

ミラとマリアナ、そしてリリィ。ここまでは予定通りだ。

けれど、どういうわけかもう一人、一般通過民の如き地味な服装をしたエルフの女性が三人の並びにしれっと加わっていたのだ。

そう、当たり前といった顔で教皇が交じっていたのである。

「だって皆はこれからグルメツアーしたり、お土産見たりするのでしょう? 行きたい行きたいー」

仮にも、超ビッグなお偉いさんだ。こんなところにひょいひょいと出てきていい立場ではないはずである。それでいて完璧に変装済みな点から何となく目的を予想したミラだが、どうやら大正解だった。

教皇は、観光をご所望だ。ミラ達がその計画を立てていると知り、これに便乗するつもりで待っていたようだ。

とはいえ、相手は三神教のトップである。万が一にも何かがあっては大変だ。

そして何よりも、それほどの立場ともなれば、そもそもこんな気軽に出歩けるのかどうかという疑問が残る。

こういった場合に、お偉いさんがよくやりそうなパターンがある。護衛なりなんなりの目を盗んで、こっそり出かけるというアレだ。

「確認なのじゃが、無断で抜け出してきたりなどは、しておりませぬか?」

教皇には悪いが、そこまでの重責は背負いきれない。と、お帰り頂くためのキーワードを白状してもらおうとしたところだ。

「それならばっちり大丈夫!」

どうした事か、ここでまさかの答えが返ってきた。教皇いわく、関係者達は既に説得済みだというのだ。

しかも同時に彼女は、証拠だと言わんばかりに少し離れた場所を指し示してみせた。

朝から多くの人が行き交う大通り。教皇が示したところに目を向けたところ、そこには屈強な男と目つきの鋭い女がいた。

(あれはもしや、護衛か何かじゃろうか……)

街の雰囲気に合わせたのであろう、二人の服装は、そこらを行き交う一般人と大差はない。だが、その佇まいと雰囲気からして明らかにただ者ではないとわかる。

通りかかった一般通行人も、何となく気配を察しているのだろう。避けるように距離をとっていた。

「──……」

そのように注目していたところで、その二人と目が合った。

二人はミラの視線から何かを感じ取ったのか、実に申し訳なさそうに頭を下げた。

言葉が届かずとも、その態度と表情が全てを物語っていた。教皇の我がままに付き合わせて申し訳ない、そして教皇の事を頼むと。

「……確かにそのようでございますのぅ」

状況から察するに教皇は、許可も取り護衛もいるから大丈夫だと、そう言いたいのだろう。

ミラは、そんなまさかと苦笑した。大陸最大級といっても過言ではない要人を、これっぽっちの護衛で野に放つなど、いったい何を考えているのかと。

「ね、大丈夫。だから私も一度でいいから自由に観光というのを楽しんでみたいの。今の身分になってからは、もう籠の鳥も同然。こうして大聖堂を離れたのも何年ぶりになるのか。それに出られたところで、室内から馬車を経由して室内への移動ばかり。この街は私の故郷でもあるんだけど、馬車から見える範囲以外は、当時からどう変わっちゃっているのかわからないの。お気に入りの場所が今はどうなっているのか、よく行ったお店はまだあるのか確かめてみたいと思わない? だからお願いよ、ミラさん。貴女と一緒ならって事で、ようやく許可が出たのよー」

どうやら今の状況を作り出すために、ミラの名前まで使ったようだ。ミラが一緒という事は、つまり精霊王も身近にいるようなもの。精霊王との繋がりが、より深まるかもしれない。そのような理由までも並べ立てて関係者達を説得したそうだ。

「 こんな時(・・・) に、こうしてここに来られたのも何かの縁。思い出巡りに、ほんのちょっとだけ手を貸してくれるだけでいいからー」

そうして得られた千載一遇の機会。ここで断られたら、次に出かけられるのは何十年、何百年先になるかわからないと、いよいよ泣き落としにかかる教皇。

「むぅ……」

境遇などには色々と同情する余地もあるが、それはそれ。そもそも、大陸でもトップクラスの権力者と行動を共にするなど、いつどこでひょんな拍子から不敬を働いてしまうとも限らない。

礼儀作法に微塵の自信もないミラは、特にその点に悩んでいた。

「一緒に来ていただきましょう!」

そう力強く答えたのは、マリアナだった。どうやら教皇の泣き落とし作戦は、マリアナの方に直撃したようだ。是非ともご一緒にとミラに懇願する。

「うむ、まあ……そうじゃな。ここで帰ってもらうのも何じゃからな……」

流石のミラもマリアナには弱かった。マリアナがそう言うのならばと、これを承諾する。

「ありがとう!」

ミラ達に同行するという形ならば、観光を許可されたという教皇。それが叶ってか、それはもう嬉しそうだ。

ただ、そのように笑う彼女の目の奥で、何かが不敵にきらりと輝いていた。教皇は見抜いたのだ。真の決定権は、マリアナの方にこそあるという事を。