軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

521 土産話

五百二十一

召喚術の塔の最上階。幾らか振りに帰ってきたミラは、もう存分に寛いでいた。

膝にピュアラビットのルナを乗せて可愛がりながら、マリアナお手製のお菓子とお茶で一服する。正に至福の一時だ。

「──と、長い年月を越えて親子は再会を果たしたわけじゃ。そして二人が天に昇って行くのを見送った後、オルターバも未練が晴れたのじゃろうな。続くように成仏していきおった。彼女はハルが一人ぼっちにならぬよう、共に残っていた。それが、わしらの見解じゃな」

「あの噂には、そのような物語があったのですね。ヴェイグさんとハルさんが最後に再会出来てよかったです。それにオルターバさんまで……。死してなお続く友情って、なんだか素敵です。ですが、ミラ様達がいなかったらと思うと──」

のんびり落ち着いたミラは、マリアナとルナに日之本委員会での土産話を語っていた。

まず一番に話したのは、中でも一番刺激的であった一件。今はちょうど、幽霊船調査から始まり辿り着いた結末までを話し終えたところだ。

幽霊船の噂については巷でもそこそこ有名であり、マリアナも世間話などである程度は聞き及んでいたらしい。

ただその印象は、どことなく不気味なもの。けれどミラ達が解き明かした真実には、多くの物語があった。

マリアナは、その幽霊船の噂から始まった物語が行き着いた結末にホロリと涙し、その想いを繋いだミラ達を絶賛する。幽霊船調査隊がいなければ、ずっと再会は果たされなかったかもしれないと。

「ふむ……そうじゃな。そうかもしれん」

好奇心の赴くままに辿り着いた結末。その行動によって、幾つもの魂が三百年の時を越えて救われた。動機は短絡的だが、やり遂げた事は人(魂)助けと言ってもいいだろう。

それは素晴らしい行いだったとマリアナに改めて言われた事で、より強くそれを実感したミラ。

(無念に縛られた魂というのも、きっと多く残っているのじゃろうな……)

幽霊船の例からして、他にも似たような状態にある魂も存在しているのだろう。

そう思ったミラは、これらをどうにか出来ないかと考える。そして考えるほどに、それは困難であると気づいた。

今回はたまたまその一件に関わり、運よくそういう結末に至っただけ。これを一から解決しようなど、一個人で負えるものではないと。

「そういえば研究所で、こんなものを貰ったのじゃがな──」

気持ちを切り替えたミラは、そんな言葉と共にアイテムボックスから松茸を取り出した。農業植物総合研究開発部にて手に入れた極上品である。

「もしかしてこれはマツタケでしょうか!? こんなに立派なものは見た事がありません!」

流石は料理のプロでもあるマリアナか。松茸はこの世界において、ほんの僅かしか流通していないという事だったが、彼女の知識は、そういった希少な食材にまで及んでいるようだ。

それどころか、ミラがそれをテーブルに並べたところ目を輝かせながら、あの料理を試してみたい、この料理も作ってみたいと、その目に熱を宿し始める。

いつもそういう環境にいたからか。やる気に満ちたマリアナからは、実験に挑む九賢者達に近い気配が感じられた。

「ふむ、その様子ならば任せてしまった方が早そうじゃな。ではマリアナや。今日の夕食は、これで頼めるか」

「お任せください。こんな日のために温めていたレシピを大解放いたします!」

レシピを試せるのが嬉しいのか。それともミラに料理を食べてもらうのが嬉しいのか。意気込みを口にするマリアナの表情は活き活きとしている。

(松茸だけで、ここまで喜んでくれるとはのぅ)

日之本委員会の研究所では、食に関する研究も豊富だった。ゆえに、ありとあらゆる食材が集められていたものだ。

貰った松茸のみならず、多種多様な食材を持ち帰っていたら、マリアナはもっと喜んでくれたであろうか。

そんな事を思ったミラは、ふと「なんなら他にも色々と貰ってくるべきじゃったな」と呟いていた。

「他にも色々とあったのですか!?」

瞬間、これに喰いついたのはマリアナだ。日之本委員会にあったのは松茸だけではない。そんなミラの些細な言葉を聞き逃さなかった。

「う、うむ。向こうには──」

思った以上の喰いつきぶりに驚きつつも、ミラは土産話の続きとして日之本委員会の研究所についてを語った。

様々な研究が行われているが、その中には牧畜や農業、養殖なども含まれていると。

「──何度か耳にした事はありましたが、それほどまでに素晴らしい場所だったのですね!」

ソロモンやルミナリアが時折口にするだけで、詳しい事は何も知らなかったマリアナ。だが今回のミラの土産話で幾らか詳細を把握した彼女は、そこから更に興味を持ったようだ。

中でも食に関係する開発部に対して、並々ならぬ関心を寄せていた。

「きゅい!」

しかもマリアナだけではない。美味しそうな果物がいっぱいとあって、ルナの目もまた輝いていた。

「また、年明けあたりに行く事になるのでな。その時には、沢山土産として貰ってくるとしよう」

目いっぱいに浮かぶ両名の期待。それを一身に受けたミラは、反射的にそう答えていた。

対してマリアナとルナは、絶対に約束だと大いに喜んだ。

それからは、今日の日をのんびりと過ごした。出来上がったマリアナ渾身の松茸料理に舌鼓を打ち、皆で風呂に入り土産話の続きを語り、世界の危機など問題ないと断言する。

そうして一家団欒を満喫しながら、ミラは改めてその大切さを噛み締めた。

次の日の朝。遅めに起きたミラは、じっくりと朝食を味わった後に暫くルナと戯れたり、マリアナが買い込んでいた服で着せ替えさせられたりと、平和で穏やかながらちょっぴり刺激的な時間を楽しんだ。

「さ、さて、そろそろ行くとしようかのぅ!」

いったい、どこで買ってきたというのか。そして、いつからそれを目論んでいたのか。いよいよ着替えがコスプレめいたものに突入し始めたところで出発を告げるミラ。

可愛いくらいまでならば、もう慣れ始めたミラである。マリアナが喜ぶというのなら、ゴスロリやら制服やらといったものまで受け入れてきた。

しかし、着ぐるみパジャマや明らかな子供服など。マリアナのお世話欲──むしろ母性がこれでもかと爆発している服がもろもろ出てきたところでミラは悟る。これ以上は、いけないと。

もはや回帰は絶望的でありながら未だにダンブルフの幻影を追い求めるミラは、ここまでが限界だとして、いそいそと出発の準備を始める。

マリアナは、少し残念そうであった。

「では、夕食頃までには多分戻れるはずじゃ」

素早くいつもの魔法少女風に戻されたミラは、扉前でそう振り返る。その様子は、それこそ出勤前の旦那のようだが一切そのように見えないのは、やはり容姿のせいであろうか。

「では、そのように準備してお待ちしております。あ、夕食のメニューは如何なさいますか?」

「今日は、唐揚げの気分じゃな!」

マリアナが作る唐揚げは絶品である。ミラがそれはもう期待を満面に浮かべながら告げると、マリアナもまた「はい、かしこまりました」と嬉しそうに答えるのだった。

そうして召喚術の塔を出て、次はソロモンへの報告に向かおうとしたところだ。

「……なんじゃあれは?」

見ると死霊術の塔の前に、多くの馬車が停まっているではないか。しかも中には、かなり立派な馬車もある。

はて、お客さんか何かだろうか。お偉いさんが、沢山の護衛を連れてやってきたとかであろうか。と、ミラはその様子から何となく推測する。

ではいったい、誰が何のためにやってきたというのか。もしやどこかで神命光輝の聖杯の事を聞き、ソウルハウルに助けてくれと頼みにきたのかもしれない。

そんな展開まで思い付いたミラは、はてさて実際はどうなのかを確かめるべく、こっそり死霊術の塔に近づいていく。

「……あー、そういう事じゃったか」

そして下車する者達の姿を目の当たりにしたミラは残念そうに、だが納得したように苦笑した。

その者達は多種多様なメイド衣装を着た、いや、着せられた女性であった。また何よりも特徴的なのが、その顔にまったく生気がないという点だ。

「塔の地下にコレクションルームを造っているとは聞いておったが……あの白亜の城から、いよいよこちらに連れてきたわけじゃな」

そう、馬車に乗っていたのは死体であった。しかもただの死体ではない。以前にソウルハウルが根城としていた場所、古代神殿ネブラポリスの地下に集められていた、あの大量のメイドだ。それが今こうして馬車で運ばれてきたわけだ。

「ふむ、という事は今あ奴は在宅中か。ならば丁度よい」

彼が愛する嫁達の移送作業。これほど大事な作業を誰かに任せて留守にするはずがない。

そう考えたミラは、彼にも伝えておくべき話があると、先に死霊術の塔を訪ねた。

「──そういうわけでな。時間が出来たらアンドロメダに会ってきてくれるか」

死霊術の塔の地下。メイドの死体の搬入が行われる傍の一室にて、アンドロメダから聞かされた決戦についてを簡単に説明していた。そしてソウルハウルにも特別な神器の所有権があると続け、とりあえずはそういう事だからと話を締め括った。

「あのマキナガーディアンが、そんなところに繋がるか。まあ、わかった。暇が出来たらそうしよう」

当時は、ただのレイドボスという認識しかなかったマキナガーディアン。しかしそれは、神器の所有者を選ぶ試練であった。

その事実を知ったソウルハウルは、それでいて特に驚いた様子はない。むしろ少しだけ面倒そうですらあった。けれど、特別な神器には興味を抱いたようだ。「にしても、神の力を享受出来る器か。面白い」と、不敵に呟いていた。

そうして伝言を終えた後、搬入作業に戻ったソウルハウルと別れ塔の一階に上がったところだ。

「あらミラさん。今日も、とっても素敵ね」

そんな言葉と共に死霊術の塔の元賢者代行であるアマラッテが駆け寄ってくる。そして挨拶を返すより先に、ミラの衣装を食い入るように見始めた。

「あー、うむ。まあ、のぅ」

どちらかと言わずとも、魔法少女風の衣装に目がない様子なアマラッテ。「こういう感じも素敵ね」と、ミラを隈なく観察していく。

「そ、そういえばお主も以前とは違うようじゃな。うむうむ、よく似合っておるのぅ」

こうなると、なかなか解放してくれない。経験からそれを知るミラは、話題を逸らすためアマラッテの衣装について触れた。今のアマラッテは、一目見てわかるくらいに魔法少女感が高まっていたのだ。

すると、何だかんだで褒められると嬉しいのか、アマラッテは「これもミラさんのお陰」と微笑みながら答えた。

以前にミラが衣装の制作者がリリィ達であると伝えた事もあって、アマラッテは彼女達に衣装の注文をしたそうだ。

その結果、満足のいく魔法少女風衣装を作ってもらえたという。

「きっとミラさんが、発想の原動力になっているのね。これからもよろしくね、ミラさん」

リリィ達が素晴らしい衣装を生み出せるのは、ミラというモデルがいるからだ。そう確信したように告げるアマラッテは、その目に多大な期待を浮かべていた。

とても純粋で真っすぐなアマラッテの目。ミラは、「あー、うむ」と苦笑しながらそっと視線を逸らした。

「──という感じじゃ。いやはやまさか新装備を発注しにいっただけで、こんな色々な事が起きるとはのぅ。実に濃い日々じゃったな」

日之本委員会での出来事。特に今回は任務と関係のない事であるため、わざわざこうしてソロモンに報告するようなものではなかった。

だが、それはそれ。ミラは自慢ついでにあれこれ語っていく。どういう装備を発注したのかや、幽霊船騒動から行きついた真相など。それはもう楽しい事ばかりであったと話す。

「海の向こうか。興味深いね」

それらは全てがただの土産話であり、国には何も関係しない内容だ。けれどソロモンはミラの言葉を、それはもう楽しそうに聞いていた。まるで、ミラを通して自分も冒険しているかのように。

中でもソロモンが関心を向けたのは、幽霊船と海賊にまつわるあれこれだった。特に、海を越えた向こうから来たと思われるヴェイグ達がいた大陸は、どんな場所だったのだろうかと興味津々である。

そして今は、どうなっているのか。また、その行き来を阻む白い霧の意図とは何か。いつか開かれる時が来るのか。そうなった時、世界はどう変わっていくのか。

「ほんと、未来が楽しみだね」

そこにあるのは当然、希望だけではない。不安だって沢山あるはずだ。けれどソロモンは、これから進んでいく未来を楽しみだと言い切った。そこには虚栄や強がりなど何もない。

心の底から、今を楽しんでいる。彼の言葉は、そんな思いで満ちていた。

「あー、未来といえばじゃな。日之本委員会から、もう連絡は来ておるか?」

「連絡? 未来といえば? んー、そういう感じのは聞いていないけど。最近のだと、安定した松茸の栽培に目処が立った、くらいかな」

ミラの言葉を受けて少し思案したソロモンは、ニュース的なものはそのくらいしかなかったと口にする。

どうやらまだ、アンドロメダに関係するあれこれは伝えられていないようだ。

「その様子だと、ただ事じゃない何かがあったって感じだね。でも口止めされているってわけじゃないなら、準備が整い次第、皆に伝えられるはずだよ」

あの日から数日経ったが、これほどの情報が共有されていないのには何か意味があるのか。ミラがそう勘ぐっているのを見抜いたようだ。余程の機密だったなら口外しないように言われているだろうと指摘したソロモンは、「だから、そこまで言ったんだ。何があったのか教えてくれるかい?」と続けた。

「ふむ。わかった。実は、ちょいと大変な事があってのぅ──」

事が事である。王様であるソロモンも知るべき内容だ。そう判断したミラは、未来について不穏な要素があると前置きしてから、日之本委員会で何が起きたのかを語った。

偶然か必然か。かつて送った黒い金属片に描かれていたのは、転移ゲートの設計図であった事。まさか、それを完成させてしまった者がいた事。そして転移先には、天魔族を名乗るアンドロメダという者がいた事。

そしてアンドロメダが語った世界の危機について。ミラは聞いた事全てを詳細に説明した。