軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

520 もふもふ族長

五百二十

団員一号の屋敷の片付けについては、ここでの用事が完了してから。そう決まった後、ミラ達は街の更に奥まで入り込んでいた。

メインストリートの先、民家が並ぶ住宅地の片隅に、それはあった。このケット・シーの街を治める族長のお屋敷だ。

流石は族長か、団員一号の屋敷にも負けず劣らずに立派なお屋敷である。しかも隅々まで掃除の手が行き届いていた。

更に驚くべきは、人族の来客にも対応出来る広い応接室があるという点だろう。全てがケット・シーサイズで揃えられているこの街で、唯一といってもいい場所だ。

ミラは今、その応接室にいた。そして団員一号と共に、これまでの経緯などを族長に伝えているところだ。

「──そういうわけでのぅ。この聖域の状態を測定し、場合によっては安全装置を設置したいと思うておるが、如何じゃろうか」

そうミラが言葉を締めくくると、対面に座る族長は「にゃるほど。そういう事でしたか」と深く息を吐き出した。それから緊張した面持ちを緩める。

突然に聖域の復興者──つまり地主が訪問してきたために、何か問題でもあったのかと色々と緊張していたようだ。

それもこれも団員一号が細かい説明をせず来訪だけ告げていたのが原因だが、族長は彼の説明不足を責めたりはせず、ただただ地上げなどではなかった事に安堵する。

「事が事じゃからな、無理にとは言えぬ。じゃが、考えてみてはくれぬか」

「いえ、考えるまでもなく、私の心は決まっておりますにゃ。あにゃた様より受けた恩義は計り知れないほどに大きにゃもの。ご助力出来るのにゃらば、この聖域に住まう者として幾らでもお手伝いいたしましょう」

ミラの申し出に対する族長の答えは、迷いのないものだった。

聖域復興大作戦。色々と努力はしたが、ミラにとってはまだ実験の一つであり、ここはその数少ない成功例というだけだ。

しかし当時を知る族長からしてみると、ミラ──もといダンブルフは、一族を滅亡から救った大英雄であった。だからこそ族長は、力強く頷いてくれたのだ。

ケット・シーの族長。その姿は、大きなラガマフィンという表し方が一番だろうか。気品の溢れる長毛はきめ細やかなシルクのようで、キリリとした目鼻立ちは彼の優雅さを表している。

そして何よりも、その身体だ。なんとミラを超えるほどに大きいのだ。

よって、その全てが族長としての威厳に満ちていた。

(相変わらずのモフモフさじゃのぅ……)

と、威厳に満ちているのだが、同時に相応の魅力にも満ちていた。だからこそというべきか、それはカグラレベルの猫好きでなくとも思わず抱き着いてしまいたくなる毛並みであった。

しかし、時と場合というのがある。

「そう言ってくれるとありがたい。感謝する、族長殿」

疼く衝動をぐっと堪えながら、ミラは話し合いに専念した。

「うむ、ばっちりじゃな」

族長との話し合いの後、聖域の測定を完了したミラは、その結果に満足する。

これまでに測定してきた二ヶ所の聖域と同様に、ここも問題なく安全装置を設置出来る場所であろうと判明したのだ。

問題の西側以外は、全てが自前で用意出来た。きっとミラでなければ、ここまでスムーズには解決出来なかったであろう。

「早期ボーナスでもつかんかのぅ」

その事を自覚するミラは、その早い仕事ぶりを理由にアンドロメダから褒美でも貰えないかと勝手に期待しながら、測定結果を送信した。

「さて、次は……」

ここでの測定を最後に、一通りの作業が完了した。

安全装置の設置については、送信した測定値をもとに設定してからになるとの事だ。

そして設置自体は、しっかりとアンドロメダから技術を継承した技術者達が行う事になっている。

よって後は彼らが聖域を訪れる前日辺りになったら、その来訪をウムガルナ、ペガサス、団員一号に伝えるだけだ。そうする事で日之本委員会の技術者達が、安全に聖域に入れるわけである。

ただ、その技術者達が安全装置諸々についての知識を習得するまでには相応の時間が必要。早くても年明けになるだろうというのがアンドロメダの見解だ。

(とりあえずは、塔に帰ってから考えるとしようかのぅ)

そんな今後の予定を考えながらミラがやってきたのは、団員一号の屋敷前だった。

そう、約束通りに散らかり放題な屋敷の片づけを執行するためだ。

「にゃにゃ……? にゃんだか家の前が騒がしいですにゃ」

ミラの腕の中、逃げられないようにしっかりと捕まっていた団員一号は、最後の悪あがきをする途中でそれに気づいた。

「ふむ、何かあったのかのぅ?」

ミラもまた、その様子を前にするなり、はてと首を傾げる。いったい何事か。団員一号に苦情でもあるのだろうか。屋敷の前に十以上のケット・シーが集まっていたのだ。

しかも、よくよく見てみると、袋だスコップだ手押し車だといったものまで持ち寄っている。

「お主、もしや恨みでも買っておるのか?」

「それはきっとありませんにゃ! 小生は、これでもヒーローなんですにゃ!」

袋に詰めてどこかに埋めようとでもいうのか。ミラが一番に連想した結末を全力で否定する団員一号。だが、何かしらで恨みを買う心当たりもあるようで、ミラの腕から服の中へと場所を移して警戒モードに移行する。

「おお、救世主様がお戻りになられたにゃ!」

と、そうこうしていたところ、屋敷前に集まっていたケット・シーがこちらに気づいた。

するとどうだ。我先にと駆け寄ってくるなり、それはもうキラキラと輝く目で「お会い出来て、光栄ですにゃ」と次から次に告げていく。

「おや? 救世主様、ところで英雄様はご一緒ではございませんでしたにゃ?」

それぞれが思い思いの言葉を口にする中、ふとそう言って誰かを捜すように周囲を見回す者が一名。

救世主様。これはきっと、聖域の復興を果たした自分の事だろう。状況からそのように理解したミラは、続く英雄様が誰を表しているのかも察した。そして同時に、この者達に敵意はなさそうだとも把握する。

「ああ、それはじゃな──」

ミラが、そう答えながら服を捲りあげたところだ。団員一号にも聞こえていたのだろう、恨みだなんだではないと感じ取ったようだ。ミラの服の中より飛び出すなり、くるりと一回転して華麗な着地を決めてみせた。

そこに集まったケット・シー達は、団員一号のファンか何かのようだ。「お見事ですにゃー!」と、そのパフォーマンスを大絶賛だ。

「ところで君達は、小生の家の前に集まってどうしたのかにゃ?」

安全とわかれば、態度の切り替わりも早い。実に堂々とした足取りで歩み寄っていくなり、団員一号はそう問うた。

「それは、是非我々もお手伝いをと思ったからでありますにゃ──!」

団員一号の屋敷の前に彼らが集まっていた理由。それはなんと、これからやろうとしていた屋敷掃除を手伝うためというものであった。

いわく、ミラ達が屋敷の前でしていた掃除が云々という会話を聞いていたそうだ。

そして彼らは、ずっと気になっていたゴミ屋敷ぶり──否、英雄様が住むに相応しい屋敷の再生に貢献するために、こうして集まったとの事だ。

どうやら他の者達もまた、屋敷の惨状については把握していたらしい。そして今こそ、お役に立てる時だと意気込んで立ち上がったという。

ただ、口では英雄様に相応しいなどと言ってはいるが、きっとそれは理由の半分だろう。残りの半分は、周辺環境への影響を考えてのものだと言葉の節々から読み取れた。

「なんと、それはありがたい。うむうむ、是非ともよろしく頼む」

「にゃにゃ!?」

そういう事ならば、尚更早急に片付けなければいけないと、ミラは彼らの申し出を快く受け入れた。屋敷の状態が状態である。かなりの手間がかかるだろう。ゆえに、猫の手を借りられるというのなら、これに越した事はない。

なお、プライベート空間に他人が入るのはという団員一号の抵抗は、ならば一人でしっかり片付けられるか、という言葉一つで潰えた。

「いやはや、思った以上に早く片付いたのぅ。お主達が手伝ってくれたお陰じゃな。皆、ありがとう」

団員一号のお屋敷清掃大作戦。散らかりに散らかった屋敷であったが、数の優位というのは、ここでもまた輝いた。

各自で掃除用具を持参するあたり、助っ人・シー達は、その道においてかなりの熟練者だったようだ。その手際の良さは確かであり、予定していた終了時間を大幅に短縮した。

「いえいえ、救世主様のお力添えがあってこそですにゃ。あの武装召喚という、とてつもない力には驚きましたにゃ」

とても良い仕事が出来たと満足げに答えるのは、優秀な彼らの中でも特に動きのよかった一名だ。そして、そんなプロの掃除屋といっても過言ではない彼が絶賛したのがミラの武装召喚であった。

今回ケット・シー達を対象として実験的に試したところ、見事に作業効率が向上したのだ。そのパワーアシスト効果によって、手際の良い彼らの作業が更に加速したわけである。

そのお陰もあって、屋敷の清掃は迅速に完了した。

けれど問題は、ここから先だ。生活を改善しなければ、結局は元の散らかった状態に戻る事となる。

はたして団員一号は、綺麗になった今を維持し続けられるのか。

「また次があったら、頼んでもよいか?」

「その時は、謹んで引き受けさせていただきますにゃ」

維持出来る可能性は低いとして次回の約束を申し込むミラと、その時は是非ともと快く引き受ける助っ人・シー。

団員一号はそのやり取りを前にして不満顔であったが、彼もあまり自信はないようだ。もうその必要はないという言葉を呑み込むと、無力を噛みしめ空を見上げるのだった。

一仕事終えたミラは、団員一号に加えて大勢のケット・シー達に見送られながら聖域を後にした。

(しかしまあ、こうして見ると以前に比べて随分増えたのぅ)

少し振り返るなり立ち並ぶケット・シー達を見やったミラは、今更ながらにそんな感想を抱いた。

三十年の間に村から街へと発展していた事もあってか、十数名だったケット・シーも今は百を超えるくらいの数だ。

これから更に十年経ったら、どれほどになるだろうか。またケット・シーの街のみならず、世界はどのように変化していくだろうか。

(必ず、やり遂げねばな)

そんな未来を迎えるためにも、世界の危機は回避しなければいけない。

そのために、もっと強くならなくてはと改めて実感するミラ。

そして思う。そのために必要なのは日々のたゆまぬ鍛錬に加え、何と言っても実験であると。

どこか独りよがりな大義名分を得たミラは、今度ソロモンに実験費用をせびってみようかなどと考えながらガルーダワゴンに乗り込んだ。

「さて、次は──」

空へと舞い上がるガルーダワゴン。ここまでに行った聖域調査の結果は上々。西側以外は、どこも問題なく設置出来る状態であったため他を探す必要はなくなった。

これは、かなりの時間を短縮出来たといえるだろう。

また結果については送信済みであるため、既にアンドロメダの方でも状況は確認出来ているはずだ。

よって安全装置の調整や設置など、これ以上の事については、もうあちら側に任せて問題はない。

後は西側、『彩霊の黄金樹海』跡地についてをどうするのかだ。

これの測定データから、アンドロメダがどのような策を組み立てるのか。何よりも、これを解決する方法はあるのか。ここから先はもう彼女の判断を待つのみである。

「──新たな候補地を探すのもよいな!」

これにて、一通りの任務は完了した。次に研究所へ行くのは、中継基地に行く時か西側の解決策が出た時、そして注文したマナ貯蔵器が完成した時くらいだろう。

よってこの後は、預かった測定器を存分に活用し、これまで成功した事のなかった聖域の新規開拓作業を進めてみようかなどと目論むミラ。

とはいえ──

「まあ、まずはのんびり休んでからにしておくとしようかのぅ」

現在地は、既にアルカイト王国内。自国に帰ってきたともあってか、気分はもう帰宅モードなミラは、そのままシルバーホーンに直行した。