軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

515 チームアンドロメダ

五百十五

「──というわけで、皇竜の力を借りる事が出来るようになった。上空十万メートルにも到達出来そうだよ」

研究室に戻るなり、そのように伝えるミケ。

その報告を聞き、やはり大丈夫だったかといった反応を示すのは、ミラがダンブルフだと知っている者達だ。かの皇竜アイゼンファルドであるならば、十万メートルくらいどうにかなるだろうとわかっていた様子である。

そして知らなかった者達はというと、まさかここで皇竜などという存在が飛び出してくるとはと驚愕していた。また同時に、皇竜を召喚出来るなんて、いるところにはいるものだなと感心している。

全プレイヤーの中でもその域にあるのは、それこそほんの一握りだからだろう。

「なるほど、つまり天の皇竜が助けになるわけか。まさかそれほどの当てがあるなんて驚きだ。でもまあ、それなら確かに十分か」

室長達が思い思いの反応を示す中、アンドロメダもまた納得したようである。今の人類ではまだ遠い高度十万メートルだが、皇竜が協力するとなれば達成したも同然だと。

「ともあれ行く手段は確保出来たわけだが、ここで次の問題だ。さて、そこに到達してからどうするかという点についてになるけど──」

そのように切り出したミケは、同時にアンドロメダを見やった。当然ながら現時点において中継基地の事を一番把握しているのはアンドロメダである。

だからこそミケは、「──アンドロメダさんを送り届ける事が出来れば、どうにかなる。と考えてもいいのかな?」と言葉を続けた。

他の室長達も、待っている間に色々と話を聞いた結果、彼女の知識と技術がどれほどのものかを把握したようだ。アンドロメダがいれば問題ないだろうという信頼感をその顔に浮かべていた。

「うんうん。そう、私が行けたら……よかったんだけど、ちょっとそこで問題があってね──」

そしてアンドロメダもまた、それを期待されていると承知しているのだろう。その期待も当然で、行けばどうにか出来ると頷くも、だからこそ心苦しいといった表情を浮かべた。

中継基地については、今回の技術水準の確認云々とはまったくの別問題であるため、アンドロメダが自身で対応したかったという。だが残念な事に、それがどうしても出来ないと告げた。

「──実は、ちょっと……高いところが苦手なのだよ」

少し照れたように、だが申し訳なさそうに答えたアンドロメダ。高所恐怖症のように極端なものではないが、百メートルほどで足が竦み始めるという。更に千メートルを超えでもしたら、もはや下を見られず完全に立ち竦んでしまうそうだ。

そしてアンドロメダは、自分が高度十万メートルもの場所に行ったとしたらどうなるのかを想像したらしい。

その結果、こうして地に足が着いている今の状態でありながら、卒倒しそうになったとの事だった。

「──あの馬鹿が得意だっていうから任せたのが失敗だったよね。……あのお気楽な顔、思い出したら全力で殴りたくなってきた」

こうなってしまったのも、以前に墜落死しかけた事があるからだと告げたアンドロメダは、最後に遠い目をしながら忌々しげに呟いた。

どうやら高いところが苦手になったのは、誰かのせいのようだ。

それはいったい誰なのか。天魔族であるアンドロメダの交友関係は気になるところだが、今の彼女を見てみるに、そこにはあまり触れてはいけないような気配で満ちていた。

ゆえにミラも含め、全員がそれ以上踏み込まないようにと口を噤んだ。

ともあれ、最も確実な方法──アンドロメダを中継基地までアイゼンファルドに送ってもらう事は困難となった。

では、どうすればいいのかという空気が再び周囲に広まっていく。

そこでアンドロメダが提案した。中継基地は神器と安全装置にも関係しているのだから、いっその事ここの皆でこれの扱いを覚えてしまってはどうかと。

「半永久的に稼働し続ける設計だけど、まあ今回のように何がどうなるかわからない。いざ本番となった時、何かが干渉して誤作動を起こす事だってあるかもしれない。そんな万が一のために、いつでもメンテナンスが出来た方がいいと思うんだ」

これは名案だといった顔で、そんな言葉をつらつらと並べていったアンドロメダ。そこには、いざという時に自分が中継基地行きになってしまう事をどうにかして避けたいという思惑が見え隠れしていたが、彼女が言う事も一理あるのは事実だ。

特に、それこそ決戦時ともなれば、何が起きるかわからない。アンドロメダ一人では対処しきれない事態に陥る事も十分にあり得た。

だからこそ、この日之本委員会で対応出来れば、それに越した事は無いわけだ。

「あ、何なら……さ。ほら、そういう機器とか、多少程度なら向こうに置いちゃっても構わないからね」

余程、空には行きたくないようだ。アンドロメダは研究室のあちこちに転がる装置──人工衛星の試作品などを視線で示しつつ、そんな提案を口にした。つまりは皆を釣る条件として、中継基地を幾らか好きに利用してもいいと許可を出したわけだ。

するとどうだ──。

「引き受けましょう!」

「俺も覚えよう!」

「任せてちょうだい!」

アンドロメダが追加した条件の効果は覿面だった。

高度十万メートルという場所に、特別な力場を使って固定された中継基地。これの活用法となったら、それこそ幾らでもあるというもの。ゆえにアラトを筆頭に多くの者達がメンテナンス係に名乗りを上げた。

「君達ときたら……。けどまあ出来れば一度、隅から隅まで点検しておいた方がいいのは確かだ。そして確認出来る目は多い方がいい」

中継基地は、安全装置と神器をリンクさせるだけではない。霊脈から汲み上げられた莫大なエネルギーを受容し、それを正確に神器へと送る役割も担うもの。一時的にだが、とんでもないエネルギー負荷がかかるわけだ。だからこそ稼働前に、しっかり点検はしておくべきだとミケも頷いた。

中継基地の問題に対処するべく、アンドロメダによる特別技術講習会が開催される事となった。

参加は任意であるものの、好奇心の強い技術者が多く集まっている事もあってか半数以上の室長が参加を表明した。

未来のため──というよりは、大半がその特典か高度な技術を知る目的のようだが、きっと今はそれで十分であろう。

使命感よりも欲望で動く方が、時に大きな事を成し遂げられる。それが人というものだからだ。

「俺にも工学技術があれば……」

なお参加を表明しなかった者達は、農業だったり漁業だったりといった、工学技術については専門外の室長達だ。

大半は、まあ関係ないかくらいの反応だったが、料理総合研究開発部の室長モンドールは違った。どうやら高度十万メートルでの干物作りを試してみたかったようだ。いっその事、誰かに頼んで……などと目論み始める。

ともあれ今回の室長会議は、アンドロメダの講習会が始まると共に終了。そのまま解散という流れになった。

各開発室の室長達が、それぞれに退出していく中、講習会に参加する面々も一度開発室に戻っていく。技術屋として優秀な者を連れてくるためだ。中継基地のみならず、安全装置のメンテナンスも含めて、それを担当出来る者は多いに越した事はないからである。

「──というわけで、中継基地に行くのは早くても二週間以上──まあ年明けくらいになると思う。時間はかかるけど大事なことだからね。私も安心して任せられるように、しっかり教えたいんだ」

解散後、アンドロメダからそのような説明があった。

アラト達には確かな技術があり、基礎もしっかりしている。だが高度な技術によって造られた中継基地のメンテナンスが出来るようになるまでは、それなりに時間がかかるとの事だ。

「ふむ。ならば、わしは先に聖域の調査を進めておくとしようかのぅ」

工学技術についてはさっぱりだが、それ以外にもやれる事はある。状況を把握するなり、ミラは予定していたそれに着手しようかと口にした。

色々とやる事が出来た中でも、まず優先しておくべきなのは、安全装置を設置するための候補地選びと、大陸最大の霊脈『彩霊の黄金樹海』跡地の現地調査だ。

「うん、それも極めて重要だ。よろしくお願いするよ」

と、そのように答えたアンドロメダは、それからふと思い出すようにして数枚の書類を差し出してきた。

「あ、一応これも渡しておこうかな。見ればわかるように設定してあるから問題ないと思うけど、まあ、変に操作しちゃった時のため用だね」

受け取るとそれは、測定用タブレットの簡単な使用説明書だった。

なお既に聖域調査についてはプログラムされているため、表示に従えば問題なく機能するそうだ。だが、何かしら別の操作をして設定を変更してしまうと戻し方がわからなくなってしまうかもしれない。だからこそ念のためにとの事だった。

「ふむ。ま……まあ、いざという時用じゃな」

安全装置の設置場所調査のみならず、新規の聖地候補地も探しちゃおうなどと考えていたミラ。

もしやそんな心を見透かされていたというのか。ミラは、内心で大いに焦りつつも平静を装いながら、念のためと強調しつつその説明書を有難く受け取った。

「ここからならば……ふむ。まずはあそこじゃな」

過去の活動もあってか、聖域の場所については詳しいミラ。現在地点、カディアスマイト島の北から見て、一番可能性のありそうな聖域を頭の中で直ぐにピックアップする。今から出発すれば、夜頃にも到着出来るだろう距離にある場所だ。

「では、さっそく行ってくるが、ミケや。一応言うておくが、わしが注文したものについても忘れるでないぞ」

聖域の調査に出発だ、という前に一度立ち止まったミラは、そうミケに確認する。

アンドロメダが来た事で日之本委員会の技術者連中は、かなりの刺激を受ける事となった。それこそ開発途中のものを放っても構わないくらいの様子で、アンドロメダが話す知識と技術に夢中となった者が何人もいたほどだ。

だからこそミラは、残る注文の品──マナ貯蔵用術具の開発が遅れる事を懸念したわけだ。

「ああ、その点は心配無用だよ。開発については専門のチームを組んで進めているからね。全員、中途半端に投げ出すようなタイプじゃないし、のめり込んだら一辺倒な者達ばかりだ。だから君はもう、完成を待っていればいい」

開発には、よほどの堅物や変人が集結しているようだ。今の彼ら彼女らの興味を逸らせる方法があるのなら、今後のために知っておきたいなどと苦笑しながら続けたミケは、「まあ、私はどっちも気になっているんだけどね」と不敵に笑いつつ何か両手で抱えるくらいの箱を差し出してきた。

「それと、これ。一応、試作品が出来たから渡しておくよ。容量的には希望に遠く及ばないけど、それでも現存する最大のマナ貯蔵器の数倍はあるから、かなりのものだよ。ついでに測定器とか色々組み込んであるから暇な時にでも使ってみて。そうすれば、完成品の最終調整もやりやすくなるからさ」

「ふむ、なるほどのぅ。わかった、使ってみるとしよう!」

それは試作品とはいえ、スペックからして世に出すとしたらとんでもない値段が付くだろうマナ貯蔵器だった。

希望していた量には届かないとはいえ、それでも十分に遊べそうだと喜んで受け取ったミラは、あれやこれやと出来そうな実験を思い浮かべる。

と、そうしている間にミケは「君のお陰で随分と忙しくなったよ」と言い残し、笑いながら開発室に戻っていった。

「どれほどのものが完成するか、今から楽しみじゃのぅ。後は信じて、待つばかりじゃな」

やれる事はやった。出せるものは出した。後はもう、待つだけだ。そうミケ達を信じたミラは、今後の予定を思い返しながら、これからもまだまだ忙しいぞと気合を入れる。

まずは、聖域調査だ。アンドロメダが言うに、範囲はアース大陸内。そこを東西南北に分けて、それぞれの場所で設置個所を決めるとの事だ。

大陸全土にまで及ぶ大仕事である。移動だけでも、かなりの時間がかかりそうだ。

とはいえ、大陸中を闇雲に探し回る必要はない。条件を満たしていそうな聖域は、既に思い浮かんでいるからだ。

(はてさて、どのくらいかかるかのぅ)

聖域の調査。加えて『彩霊の黄金樹海』についても、しっかり確認しておく必要がある。

これらを完了するまでに、何日ほどかかるだろうか。そして次にここに戻ってくるのは、いつ頃でよさそうだろうかなどと考える。

日之本委員会の研究所にまで来た目的であったうちの半分、スタミナ強化の装備品は受け取り済みだ。

残る分は完成までにまだ時間が必要で、尚且つアンドロメダの講習が完了して、中継基地のメンテナンスを行えるようになるまでは二週間以上掛かるという。

(……つまり、二週間ほどは余裕がありそうじゃな)

そのくらいになれば、マナ貯蔵用の術具も形になっているだろうか。そうしたら次には、アイゼンファルドと共に中継基地へひとっ飛びだ。

(よしよし、急げば他の用事も、そこそこにこなせそうじゃな)

優先すべき事以外にも、今後の予定に新規聖域候補探しや、心霊写真にあったリーズレイン所縁の地訪問などもある。全てをこなせるほどの時間ではないが、情報くらいならば集められるだろう。

そう、幾つもの目的も加えつつ、ミラは今後の予定を立てていった。