軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

485 遺物

四百八十五

「お、そろそろのようじゃぞ!」

幽霊船調査船の甲板にてアノーテ達が戻るのを待っていたミラ。精霊王の報告により浮上開始した事を知ったミラは、今か今かと海面を覗き込む。

光る目は、既にそこにはない。フィーがその始点を見つけたという報告を受けたところで、いそいそと甲板に戻ったからだ。

と、そんな一見すると何もない穏やかな海面だったが、そろそろと聞いてから数秒後の事──。

「勢いが! 勢いがあり過ぎるー!」

「到着よー!」

「きゅきゅー!」

急激に海面が盛り上がったかと思えば、水柱を残しながらアノーテ達が飛び出してきたではないか。

相当な速さで浮上してきたのだろう。ミラ達の頭上を悠々と越えていき、そのまま甲板にじゃぼんと荒々しく着地した。

「ごぼごぼごぼ──」

アンルティーネによるものだろう、そこには着地に合わせて水のクッションが作られていた。

アンルティーネとウンディーネは、もう慣れたように浮かんでいる。フィーもまた、アトラクションみたいで楽しかったといった様子だ。

けれどアノーテはというと、やはりただの人間では水関係の三名のようにはいかないようだ。着地の衝撃は回避出来たものの、そのまま水のクッションに沈んでいた。

「ふう……ただいま!」

水のクッションが解除されて、ようやく解放されたアノーテ。何かを取り繕うようにして起き上がると、何食わぬ顔でどうでもいい挨拶を口にする。

彼女は宝箱の発見について、ここぞというタイミングで話そうとしていた。だからこそのとぼけぶりだ。

「して、宝箱には何が入っておった!?」

ゆえに待ちきれないといったミラがそう迫り船員達の視線も「お宝だったか!?」と集まったところで、アノーテはこれでもかというほどに面食らった表情で停止する。

そう、ミラ達はとっくに事情を把握していたのだ。全て、精霊王からの報告に含まれていたのである。

「あ、そういえばそうだったわねぇ……」

少し面目なさそうに苦笑するのは、アンルティーネだ。

宝箱を発見した際の事。これを秘密にしたまま持ち帰り、皆を驚かせようか。または連絡して対応を一緒に考えようか。その選択で悩んだ末に後者を選んだ直後、フィーが宝箱を開けてしまったという状況だ。

ゆえにアノーテは、そのごたごたがあったからこそ連絡せず今に至ると思っていた。

けれど精霊ネットワークは、迅速快適に繋がっている。そのため連絡すると決めた時には、もうミラ側に宝箱発見の報は伝わってしまっていたのだ。

結果、宝箱の存在を隠せていると思っていたアノーテとミラ達の間に、何とも言えない齟齬が生まれてしまったわけである。

「ああー、あの時かぁ……」

作戦失敗。状況を思い返したアノーテは、非常に残念がりながらも仕方がないと肩を落とし、アイテムボックスを開いた。

「えっと、まずこれがあちこちに散らばっていた分ね。海賊の剣とコインと、あと何かの欠片──」

とはいえ、ただでは終わらないアノーテ。全員の注目が集まる中、一つずつ紹介するようにして取り出していった。

まず最初は、目ぼしいものを適当に入れた箱だ。周辺で回収した史料になりそうなものの数々である。

興味深そうに観察する調査員達。ただ歴史的に貴重そうなものばかりだが、今回においては、それも前座に過ぎない。

「さーて、そしてこれが宝箱の中身ね! これは謎の像で、こっちが謎のケース。それで注目! これこそが、謎の石板!」

これはなんだろうか。どういうものか。何に使うのか。何が入っているのか。どういった事が書かれているのか。アノーテが並べていくたびに、興奮して声をあげる調査員達。

そんな中でも特に盛り上がっている者がいた。

「にゃっほう! 海賊のお宝ですにゃー!」

団員一号だ。ホラーチックな現場を前にして暫く大人しくしていた彼だが、お宝を前にしたら黙ってなどいられないようだ。アノーテが取り出すそれらを食い入るように見つめている。

宝箱の存在はバレてしまっていたものの、それだけで皆の興味が薄れる事などない。むしろ今か今かと待っていたからこそ、皆の喰いつき度は高まっていた。

そして、その一挙手一投足で盛り上がるものだからアノーテもまた満足顔であった。

深海で宝箱が見つかった。その報告を聞いていたからこそもあって、待っていたミラ達の準備は万端に整っていた。

アノーテが持ち帰った中身の保全補修作業は迅速に始まる。浸水でボロボロだった本は、断片的ながらも幾らか読み取れる状態にまでは復元出来そうだ。

石像などの小物は、直ぐに綺麗な状態に戻った。中でもさりげなく活躍したのは、団員一号だ。遺跡などで見つかる掘り出し物の修復で慣れていたという。そして手際よく作業した後、「いい仕事してますにゃぁ」と、どこぞの鑑定家気取りで幾つもの小物の鑑定を始めていた。

そして一番興味深かった石板──であったが、アノーテが持ち帰った中には、それよりも先に注目を集めたものがあった。

謎のケースだ。錆び付いた鍵を取り除き、はてさて何が入っているのかと開けてみれば、まさかの形状をしたものがそこに入っていたのだ。

「形からして……これは多分じゃが、銃、じゃよな?」

「ああ、そうにしか見えないな……」

そう、銃だ。ミラ達が良く知るものとは幾らか違う形をしているものの、その機能については同じであろう。正しく海賊のイメージが強いフリントロック式に近い形状の銃が、そこに収められていたのである。

しかもこの銃が海賊『ヴェイパーホロウ』のものであった事を示すように、グリップの部分には特徴的なジョリーロジャーが刻まれていた。

「確か『ヴェイパーホロウ』というのは随分と昔の海賊だったのじゃろう? つまりそんな頃から既に銃が存在しておったという事か?」

話によると『ヴェイパーホロウ』が暴れ回っていたのは、今よりも三百年ほど前。つまり、この銃が本当に『ヴェイパーホロウ』の持ち物であったとしたら、その当時から銃が存在していたという事になる。

「本物かどうかは年代調査をしてみなければわからないが、本物だとしたらとんでもない歴史的発見になるかもしれないな。けれど、だとしたら不思議でもある──」

これまで知られていなかった新歴史の発見だと驚くアストロは、それでいて慎重な意見も口にする。

言ってみれば、偽物である可能性もまだゼロではないからだ。

もしかしたら後世で『ヴェイパーホロウ』に憧れてジョリーロジャーを真似ただけという輩がいたとしてもおかしくはないのである。だからこそ、そのあたりを解消するために年代の特定が必要というわけだ。

加えてアストロは、疑問も浮かべていた。銃などという強力で便利な武器が過去に存在していながら、どうして現在に、これを発展させた武器が存在していないのだろうかという疑問だ。

銃の開発は止まってしまったのか。大陸のどこにも、銃が存在していたという歴史は存在していないという。

実際のところ、この大陸に銃という兵器が存在しないからこそ、日之本委員会でもその研究を禁止しているそうだ。

アストロが言うに、似たようなところで大砲があるくらいらしい。

「これまた、とんでもない発見かもしれぬわけか……」

この大陸には存在していなかったと思われる銃が、まさかの海底で見つかるのみならず、三百年は前の代物かもしれないという現状。

幽霊船を調査していたら思わぬ発見をしてしまったものだと息を呑むミラ。また調査員達も、唐突に突き付けられた歴史の謎に目を見張る。

「これが昔からあって今は存在しないって事は、もしかして過去の為政者に、これの危険性を理解していた人がいたんじゃないかな。それで研究したりする事を禁止したから、銃の歴史はそこで潰えたとか」

興味深そうに銃をのぞき込んでいたアノーテが、そのような推察を口にする。

現代の歴史からわかる通り、銃の存在は戦争のみならず様々な場面に大きな変化をもたらした。それほどまでに強力な武器だ。

だからこそアノーテは、その危険性にいち早く気づいた者がいるのではないかという。将来、進化を遂げた銃が数多くの命を奪う事に。

「んー、そういった歴史は見た事も聞いた事もないかなぁ」

アノーテの推察に対して、そう答えたのはマノンだった。

曰く、マノンはこの大陸の歴史などについての研究も専門にしているそうだ。中でも特に人類の歴史については、表のみならず裏までも相当に深く把握しているという。

そんな彼女が、きっぱりと断言した。これまで目にしてきた歴史において、銃の存在を思わせる情報はどこにも登場していないと。

加えて禁止されていた場合でも、だからこそ銃の可能性に気付き、これを秘密裏に研究する者がいてもおかしくはないというのが彼女の考えだ。

だがこれまでの歴史の中に、そういった類の研究が行われていたという歴史は存在していない。ゆえにマノンは、断言する。研究の禁止がどうとか以前に、銃そのものがなかったと。

「つまり、これはオーパーツという事じゃな」

ここまでの話を総評した結果、ミラはその銃がここではどういった存在になるのかを示唆した。

オーパーツ。それは、時代にそぐわない古代の遺物というような意味合いを持つ言葉だ。

現代の技術レベルがなければ加工の難しいものが、到底あるはずのない時代の地層でみつかる事がある。または、現代の技術レベルでも難しいものが、遥か過去に造られていたといった場合もそうだ。

まだ年代測定をする必要はあるものの、まさしく目の前にあるこの銃も、そう呼ぶに相応しいといえるだろう。

そしてオーパーツというのは、やはり何だかんだでロマンの塊みたいなものでもあった。

「ああ、その通りだ。正しくこれは、オーパーツ!」

これは大発見だとアストロが叫べば、調査員達もまた、まさかの発見に盛り上がる。

「まったく、とんでもないものが見つかったものじゃな!」

金銀財宝の類ではなかったが、むしろロマン溢れるこちらの方がお宝だったとミラもまた大興奮だ。

そう、世紀の大発見だとミラ達が騒いでいたところ──。

「でさ、幽霊船とどんな関係?」

皆が皆浮かれる中、そんな冷静なマイカの言葉が静かに響いた。

瞬間に、オーパーツだと騒いでいた者達が口をつぐむ。その言葉で皆が我に返ったのだ。そもそも幽霊船調査隊の目的は歴史的な発見などではなく、都市伝説の追及──幽霊船の調査こそが本分であったと。

「えー、これは持ち帰り年代測定にかけるとして……さあ、次だ! こっちは十分に期待出来そうだな。うん」

こほんと改めたアストロは、銃をケースに戻し端に置くと、いよいよといった顔で石板に手を伸ばした。幽霊船についての情報が得られるかもしれない、貴重な物証だ。

「これまた、思った以上にとんでもない情報じゃったな……」

「ああ、まさか一気にここまでとは……」

石板から得られた情報を並べ終えたところ、その情報に隠された秘密の多さにミラは苦笑する。アストロもまた、序章から一気に終盤にまで飛んだような気分だと半笑い気味だ。

「やるじゃんアノーテ! お手柄じゃん!」

と、調査員達の大半はそこに秘められた歴史に騒然としていたが、マイカはそうでもなかった。これは幽霊船の謎に迫る貴重な情報ではないかと大喜びだ。

「お宝が小生達を呼んでいますにゃ!」

なお団員一号は、それよりも何よりも海賊といえばお宝であるというロマンを燃やす。

実際のところ、海賊の秘密となればそれを期待してしまうのも無理はないだろう。そんな団員一号に同意する者達も幾らか見受けられた。お宝が見つかったらバーベキューパーティーだと騒いでいる。

(内容は重いが……調査自体が大きく前進したのは事実じゃな)

様々な反応がある中、改めるようにして情報をまとめたノートを見やったミラは、マイカの言う通り、そこにこそ何かしらの要因があるのではないかと直感していた。

石板に残されていた文字。解読したところ、それは遺言だと判明する。

この石板によると海賊『ヴェイパーホロウ』は、国の密命を受け、敵国にて海賊行為を行っていたそうだ。そしてそのための援助なども受けていたという。

だが敵国を打倒し、所属していた国が覇権を握ったところで状況が一変。裏側を詳細に把握している海賊達が邪魔になり、その口を封じるために討伐隊が派遣される事となった。

そして国軍に追われ追われて、この近海にまで逃亡してきた末、撃沈されたという事である。

つまり『ヴェイパーホロウ』は、国の命令で海賊行為を行った後、その海賊としての罪で裁かれたわけだ。

何とも理不尽としか言いようのない結末だ。その未練によって、その恨みによって現世に囚われ、こうして幽霊船となり今でも彷徨っているのだろうか。調査員達が、そんな推察を立てている。

海賊とはいえ、実際のところ、いいように使われて捨てられた形だ。恨むなというのが無理であろう。

だがミラは、石板にあったもう一つの記述にこそ真の原因があるのではないかと考えていた。

それは、『ヴェイパーホロウ』のアジトだ。そう、なんとまさか石板には『ヴェイパーホロウ』が利用していた秘密のアジトについても書かれていたのだ。

(海賊達が最も大切にしていた、至高の宝か……。いったいどれほどのものなのじゃろうな)

石板に書かれていた非常に気になる一文。それが、至高の宝だ。

秘密のアジトに残してきた至高の宝を気にしているような言葉が、石板には幾つか散見された。『奴らの手にだけは渡らないように』や『簡単には見つからないはずだ』などと、心底心配している様子であった。

場合によっては国への恨みよりも、その至高の宝への未練の方が強いかもしれないと思えるくらいである。

そしてそれと共に、石板の一枚一枚に暗号めいたものが刻まれていた。アストロ曰く、仲間というよりは同胞達へ残したものだったのだろうとの事だ。

そんな暗号を解読した結果、至高の宝を頼むというような意味合いの言葉と、アジトの座標が判明したというわけだ。

「しかしまあ、よくぞこんなわけのわからぬ暗号を解読出来たものじゃな」

古い石板に刻まれた暗号。考古学的なテーマの物語などで色々な鍵として登場する重要な要素といえるだろうそれを、アストロ達はスラスラと解読してしまった。

きっと映画であったのなら、ここで暗号の解読方法を求めてもう一騒動は起きていたところだろう。しかし現状は一足飛びにして場面が進むという、場合によっては手抜きにも思えてしまう展開だ。

その点をミラが茶化すように言ったところ、アストロが自慢げに答えた。それもこれも予習の成果であると。

どうやら幽霊船調査にあたり、出没する幽霊船が海賊『ヴェイパーホロウ』らしいと絞り込めたところで、大陸中から関係していそうな情報を収集していたそうだ。

それらの中に今回の暗号を解くヒントが幾つもあったというのが、アストロの自慢ポイントだった。

(……いやいや、もしやこやつ熱血系に見えて知能派だったりするのじゃろうか?)

どの暗号がどのように解読出来たのかと簡単に説明するアストロ。前情報があればこのくらいは簡単だと笑う彼だが、どのあたりをどう変換して結び付けるのかといった部分において、彼の発想は常人のそれを上回っているように思えた。

また他の調査員達が、その目で語っていた。流石に彼と同じ事は出来ないから期待しないでくれよ、と。

このような調査隊のリーダーを張っているだけはあるようだ。だからこそミラは改めて感心すると共に「何やらジョーンズ博士みたいじゃな」と称賛した。

「そ、そうか!?」

やはり憧れがあったのだろう、アストロはその言葉を受けて相当に嬉しそうであった。