軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

477 三対三

四百七十七

女性ばかりの部屋にて。よほど興味を持たれたのか、自己紹介の後にあれやこれやと問われたミラ。それらに答えていった結果、気づけば同室の全員に囲まれていた。

「へぇ、まだ一年も経っていないんだぁ」

この世界に来てから既に十年は経過しているため「じゃあ私が先輩ね!」などというのは、五人の中で一番活発そうで健康的な身体つきの女性、アノーテだ。先ほど着替えていた一人でもある。

その見た目に違わず相当な腕前の剣士であるそうだが、日之本委員会の研究所にいた事もあり、どちらかと言わずとも今は生産系、特に料理が得意との事だ。

「来た時ってびっくりしたでしょー?」

優しそうで少しばかりふんわりした雰囲気をしているのは、マノン。こちらは寛いでいたうちの一人だ。

クラスは聖術士で、ゲーム時代にはアルカイト王国で学んでいた事があったという。だがその際に錬金術と出会い、見事に嵌まった結果が今だそうだ。

「それにしても可愛いねぇ。ここまで作り込めるものなのねぇ」

感心したようにミラの身体を見つめているのが、先ほどからもずっと見てきていたアントワネットだ。

ミラの事を可愛い可愛いと何度も褒める彼女は、すこぶる美女でもあった。それでいて知的な魅力を持つアントワネットは、正にクールビューティと呼ぶに相応しいであろう。

そんな彼女は裁縫師だった。しかし少しばかり他とは違っている。何でも専門は下着だというのだ。

普段使いから勝負時まで、必要ならばいつでもどうぞと、それはもう力強く語っていた。

「とっても強いんだよね? いいなぁ、凄いなぁ」

羨望の眼差しを向けてくるのは、見た目が五人の中で一番年下となる少女、ユズハである。どうやら彼女は、あまり戦闘が得意ではないらしい。けれど作る事が好きであったため、気づけばトップクラスの細工師になっていたという。

また、それでいて不思議大好き少女らしく、今回の幽霊船調査以外にも色々な不思議調査に同行する常連でもあるそうだ。

「ねえねえ、折角だから記念に一枚撮ろうよ。ほらほら、皆寄って寄って!」

五人の中で一番活発そう……というよりギャル感が強いのがマイカだ。

先ほど着替えていたうちの一人だが、どうやら記念写真のために着替えたのだろう。キャミソールにホットパンツという、シンプルながらも煽情的で実に映えそうな格好をしていた。

カメラをセットしたマイカは、少し強引に皆を集めるなり、「ほら、にっこりえがおー!」と、屈託なく笑う。

その顔には、純粋に今が楽しいという感情だけが浮かんでいた。

「まったく、いつもこう強引なんだから……」

ため息交じりのアノーテだが、記念撮影には賛成のようだ。口ではそう言いつつも積極的に動いては位置取りを決める。

そうして、あれよあれよと準備は整い、そのままぱしゃり。更には念のためと、もう一度ぱしゃり。

結果、位置取りやポーズを変えながら十枚ほど撮影する事となった。

記念撮影後は、ここにいる全員が元プレイヤーという共通点もあるためか初対面ながらも自然と話は弾んだ。

特に話題となるのは、やはりゲーム時代についてだ。

中でも五人が興味を示したのは、古代地下都市の現状だった。

「へぇ、今ってそんな風になってるんだー」

ミラが色々話すと、アノーテが驚いたように声を上げる。何でも彼女にとっては、そこが一番通っていたダンジョンだったらしい。

だがゲーム時代と現在では、その攻略法が大きく違っている。

途方もなく広大な古代地下都市。その攻略は当時から数日かかるという場所であった。

とはいえゲーム時代では、そこまで大きな問題ではない。疲れたらログアウトして現実で休んでいればいいだけだからだ。

けれど今は、攻略を開始したら何日、または何週間も古代地下都市で過ごす事になる。食事も睡眠も、何もかもをその場所で行うのだ。

実際にそこの状況を見てきたミラの話を聞いたアノーテは、もう今の自分では攻略出来そうにないなと苦笑していた。

ただアノーテ以上に古代地下都市の話に喰いついていたのは、マイカだったりする。

どうやら彼女は、この世界の歴史について興味を持っているらしい。他にも何か気づいた事、気になった事はないかと根掘り葉掘り聞いてきた次第である。

と、そうしていよいよマイカの好奇心に歯止めが利かなくなり始めたところだ──。

「ところでミラちゃんはさぁ、お化粧していないんだねぇ? 冒険者って皆そんな感じなのかなぁ? 古代地下都市にいたっていう子達は、してたぁ?」

マイカの暴走を止めるためか、それとも単純に気になっただけだろうか。アントワネットがミラの顔をまじまじと見つめながらそんな事を聞いてきた。

「あー、うむ。まあ、した事はないのぅ。それとあの時に出会った娘達も化粧っ気はなかったはずじゃな」

考えるまでもなく、化粧など自分からした事はないと言い切るミラ。また古代地下都市のみならず、ところどころで出会ってきた女性冒険者達についても、そういえば化粧していると感じた事は無かったと思い返す。

もしかしたら、素人目ではわからないような化粧をしていたかもしれない。けれどミラは、それを確信出来る誰かを見た事はないと答えた。

なお、そこでふと気になってアントワネット達を観察したところ、どうやら五人も今は化粧をしてはいなさそうだ。

「まあ冒険者なんてやってたら、あまりお化粧する余裕もなさそうだし」

「ねー。というより、直ぐに崩れちゃいそう」

ミラの言葉を受けて、まあ当然かといった様子のアノーテ。そしてマイカもまたオシャレに関心が強いのだろう。燃え盛っていた歴史熱が落ち着いた代わりに化粧話に喰いついてきた。

「確かに。こうやって趣味で調査とかしている私達も、なんか気づいたらしなくなってたくらいだもん」

「うん。毎日戦っているような冒険者だと、難しそう」

更にマノンとユズハも、心当たりというよりは取捨選択によって意外と簡単に化粧は捨てると同意する。

そうしてアノーテ達は、最近だともう余程のイベントでもない限り、化粧をしなくなったと笑った。

と、それからはてさてどうしたものか。化粧の話題が出てきた事で話は自然と現代の頃へと流れ始め、そのまま当時はどのような化粧品を使っていたかという内容になっていってしまった。

(これは、まずい事態じゃぞ……)

口を挟む間もなく、あれよあれよと移り変わっていった中で、ミラは飛び交う言葉を右へ左へと見送りながら冷や汗を滲ませていた。

化粧の事など、基礎の基礎すらも知らないからだ。それでいてアノーテ達が口にするのは、知ってて当然という前提の言葉ばかり。もはや話の前後で状況を把握するといった技すら使えない状況だ。

このような流れの中で矢面に立たされたらどうにもならないと息を呑むミラは、そのまま化粧の話題が終わってくれる事を沈黙したまま願っていた。

しかし、そう都合よくはいかないもの。また、新入りを蔑ろにしないという思いやりか。無情にも、その瞬間が訪れてしまった。

「──で、ミラちゃんは?」

どのメーカーを使っていたのか。そして、愛用していた道具はあるか。直前の話からして概ねそのような内容で問われたが、その程度ですら知るはずもないミラ。

「え? あー、そうじゃのぅ……」

かといって正直に答え、女性五人組の中に自分のような存在が紛れ込んでいたと知られるわけにもいかない。そう考えたミラは、僅かに視線を泳がせながら過去の記憶を総動員した。

昔、恋人だった女性は、どんな化粧品を使っていたか。妹は、どうしていたか。

おぼろげなイメージを思い浮かべながら、どうにかこの場を切り抜けるための情報を探す。

だが、そうしてミラが必死にあがいていたところ──。

「あー、やっぱり。ミラちゃんって、元は男の人だったでしょー?」

そのようにマノンが、核心を突く言葉を口にしたのだ。

(バレたー!)

ド直球に正体を暴かれたミラは、反射的にびくりと肩を震わせる。それからミラの正体を知った五人の様子を窺うようにして、ちらりと目を向けた。こうして、しれっと女性陣の中に紛れ込んでいた事を見破られた今、この後どのような制裁が待っているのかと。

「いや、まぁ、そのじゃな……」

ミラは焦り怯えながらも今度はその事実を踏まえた上で、どうにか言い訳を考える。何を言うよりも先にこの部屋をあてがわれてしまったので、言い出す機会を逃してしまったというような言い訳を。

しかし、そんなミラの懸念など無関係に、この場の流れはミラの危惧した未来とは別の方向へと進み始めた。

「その反応からすると、当たりかー」

「ほら、やっぱりそうだったぁ。これぞ女の勘ってやーつ」

「いやいや、あんたがそれを言うって……」

見事正解とポーズを決めるマノン。また最初からわかっていたとアントワネットが胸を張れば、マイカが苦笑交じりに見やる。

女性陣は、笑っていた。ミラが女の園に紛れ込んでいた件について、まったくといっていいほどに気にした様子がないではないか。

「あ、驚かせちゃったのならごめんねー。本当に、ただ気になっただけだから」

そんな事を口にしたマイカは、ただ観察眼を養うために始めた訓練のようなものだと続けた。

「男が女だったり、女が男だったりってさ、うちらには結構多いよね。で、これがまた人によっては結構難しいんだよ」

ちょくちょく観察している中でも、ミラは相当にわかりやすい部類だったと笑うのはアノーテだ。

「ちなみに、この三人は元々がどうだったってのを気にするタイプじゃないから安心していいよぉ」

多いからこそ、中にはもう気にしていないような者もいる。よってミラがどうであれ、それを理由にどうこうするというような事はないそうだ。

ただミラは、アントワネットのその言葉に僅かな違和感を覚えた。

「……ん? 三人とな?」

彼女が視線で示したのはアノーテとマノン、マイカの三人だった。では残る二人、アントワネットとユズハは──つまりそれを気にするタイプだという事なのか。

そんな状況を示唆するアントワネットの言葉に警戒するミラ。

けれど、真実はもっと別で身近なところにあった。

「あ、私もミラさんと同じなんです」

そう告げたのは、ユズハだ。彼女も元プレイヤーであるため実際の年齢は不明だが外見的には十四、五歳くらい。そんなユズハが同じだという意味。

何を以て同じなのか。それは、これまでの話の流れからして明らかだ。

「ちなみにぃ、私も元々は男なんだぁ」

続けてそのように、どことなく演技じみたわざとらしい口調で明かすのはアントワネットである。

そう、よもや五人のうちの二人が現代では男だったというのだ。

「なんと、そうじゃったのか!?」

化粧などの女子トークをナチュラルに繰り広げていた事もあってか、その事実に驚くミラ。

しかしそれこそが真実だそうで、話によると二人の場合は、初めの内から女性アバターでゲームを楽しんでいたというではないか。

そして気づいたら、そのままこの世界にきてしまったというわけだ。ルミナリアと同じような状況といえるだろう。

なおアントワネットは、俗にいう姫プレイで男を騙し貢がせていたという過去があるらしい。その過程で完璧な女性を演じるべく色々な知識を集めた結果、女子トークにもついていけるようになったとの事だ。

そしてユズハはというと、こちらはいわゆる、心と身体の性が合っていない状態だったらしい。そのためか当時より女子の輪にいる事が多く、もはや女子トークは当たり前だったそうだ。

と、そのような話が一通り過ぎたところで、いよいよ皆の興味がミラに向けられた。

「ところでミラちゃんはぁ、なんというか動きからして女の子歴があまり長くなさそうだけど最近来た感じ? それとも化粧箱使ったばかりとかぁ?」

ミラの女子ぶりは、プロからすると相当にド素人なようだ。アントワネットより、そのような直球の質問が飛んできた。

しかもそれに続き、「マキナガーディアンを倒せちゃうくらいってなると最上位勢だと思うんだけど、見覚えはないんだよねぇ」とアノーテが口にした。

それら二人の言葉が意味するところは、すなわちミラはいったい何者なのかというものだ。

今は、精霊女王として活躍中のミラ。もともとはダンブルフだったという情報は一部が知るのみで全体には共有されていない。だがマキナガーディアンを倒して、その素材を持ち込んだ人物であるとは、もう周知されている。

そしてそこが、ちょっとした注目点になる。

当時ならばともかく、今の環境でマキナガーディアンを倒せるような者など、元プレイヤーであってもそうはいないというのが日之本委員会での共通認識だからだ。

最近この世界にきたとなれば、ゲーム当時からそれだけの実力はあったといってもいい。つまりは各国のトッププレイヤーのように、プレイヤー界隈においてそれなりに名が知られていてもおかしくはないわけだ。

けれど当時はダンブルフであったため、そこにミラの名はない。

ならば、もう来てから三十年は経っていて、その間に力をつけたと言えばいいが、その言い訳ではアントワネットの目を誤魔化せそうにない。

それでいて当時の威厳に縋りつき、もう取り戻せないそれを未だに捨てる事の出来ないミラは、その事を正直に答える気はなかった。

「あー、うむ。まあそうじゃな。ちょいとゲーム時代に色々やらかしていてのぅ。動き辛くなってしもうたので、心機一転という感じでな」

結果ミラは、以前に出会ったレヴィアード──最強のプレイヤーキラーの現状を参考に、そんな言い訳を口にした。

過去に色々やったと。

とはいえ、嘘は言っていない。九賢者として相当に暴れまわっていたため、色々しでかしているのは事実だ。また動き辛いというのも、九賢者という肩書が原因だが、これも事実である。

「ははーん、もしかしてヒールプレイ的な事してた?」

ミラの言い訳から都合よく推察してくれたのはアノーテだった。名探偵気取りでポーズを決めながら、意図した通りの言葉を言ってくれる。

「ああー、あるある。っていうか、知り合いにいたー。そいつさ、ゲーム時代に盗賊プレイしてたんだけど、その時の罪状だなんだってのが全部残ってて、めちゃくちゃ大変だったって。でも化粧箱で別人になったら大丈夫だとも言ってたなぁ」

「今ならシステムで捕捉とかされないから、化粧箱で変わっちゃえば大丈夫みたいだね」

マイカがその事情を知っていると口にすれば、マノンもまた、そういうパターンも確かにあると同意する。

日之本委員会には、元プレイヤー達の色々な情報が集まってくるらしく、かのレヴィアードのような事態になる事も把握していたようだ。だからこそというべきか、それとなく匂わせた言葉から、そのように推察してくれた次第である。ミラの思惑通りに。

更にアントワネットとユズハも、その事情で納得してくれたようだった。わからない事や困っている事があったら何でも相談してくれと先輩風を吹かせる二人。女性には聞き辛い女性事情は特に詳しいとの事だった。