軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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四百六十一

建国祭が終わった次の日の朝。マリアナと共に優しい朝を迎えたミラは、甘えてくるルナを可愛がりながら支度を済ませていく。

食事も含め一通りが済めば、後は塔に帰るだけ。賑やかな祭りが終わり、穏やかな日常が戻ってきたのだ。

ただミラにとってそれは、次の旅立ちの時でもあった。

「しかしまあ、盛り上がっておったのぅ。建国をあれほど祝ってもらえるなぞ、王様冥利に尽きるのではないか?」

塔に帰る前の挨拶などをするため、ミラはソロモンの執務室を訪れていた。

昨日の建国祭に加え、打ち上げでの賑わいぶり。また賓客のもてなしなど。相当に大変だったのだろう、執務室にて書類を前にしているソロモンだが、とんと仕事は進んでいなそうだ。

「まあ、そうだね。君達と一緒に作ったこの国は宝物だから、ああして喜んでもらえると、ほんと頑張ってきた甲斐があるなって思えるよ」

疲れた顔をしながらも、そんな事を口にしては何かを噛みしめるようにして微笑むソロモン。

ミラはというと、少しばかり茶化してやろうという思いもあったためか、真面目な様子で答えたソロモンの反応に戸惑い、「う、うむ。そうか。そうじゃな。いい事じゃな」と返す事で精いっぱいになっていた。

一緒に作った宝物だなどと言われたため、照れも入った結果だ。

なおソロモンは、そんなミラの反応を見るなり微笑みの下でほくそ笑んでいたのだが、それに気付けるほどの機知がミラにはなかった。

「しかもあれじゃ。聞いたぞ! あの最後にお主が『未来へと歩いて行こう』などと言うた後に、皆が『アルカイト、万歳』と声を上げたではないか。何やら建国祭の締めとして、定番になっておるらしいのぅ。もしやまた、お主が何か仕掛けたか?」

どこか誤魔化すようにして次の話題をあげるミラ。

起源不明の定番。さりげなく学園に散りばめられていたりする七不思議など、そういうものを仕込むのが大好きなソロモンの事だ。建国祭という事もあって、一体感を得られる何かを作ろうと画策したのではないか。ミラはそのように疑っていたのだ。

するとそこでソロモンが、嬉しそうに笑った。

「実はね、それについて僕は何もしていないんだよ。それこそ、いつの間にか出来ていたお約束でさ。何がどうして今の形になったのか僕も知りたいくらいなんだよね」

どうやらそれは、嘘などの類ではないようだ。その事実がソロモンの耳に入ったのは、締めの言葉が始まってから五年程が経った頃だという。

ちょっとしたイベントで舞台に立ったまま締めの言葉を告げたところで観衆がそのように揃って答えたため、当時はたいそう驚いたそうだ。

「でもさ、なんかそういうローカルルールみたいなのって面白いよね」

気になって少し調べてみたが、それが始まったきっかけは不明。それでいて不思議と国民の間に広まっていたらしい。

世の中で知らないうちに広まっていくローカルルール。この国には他にもまだあるのだろうかと、ソロモンはどこか楽し気だった。

「──という事でな。もう少し落ち着いたら日之本委員会の研究所に行くつもりじゃ。向こうにも、そのように伝えておいてくれるか」

更にいくらかの雑談を交えたところで、ミラはこれからの予定を伝えた。

いよいよ前々から計画していた、日之本委員会の研究所を訪問するのだ。

正確には、日之本委員会が運営する研究所の一つ、『現代技術研究所』という場所だ。

その名の通り、現代技術の再現を目的として研究している部門であるそこには、トップクラスの生産特化プレイヤーが集まっているとの事だ。

そこへ、マキナガーディアン撃破の折に入手した超希少素材を持ち込む事になっている。

なお、多少ソロモンのお使い分もある。発注書を届け、ソロモンが欲しているものを受け取ってくるというものが。

けれど、それはオマケ程度のもの。今回はいつもの任務とは違い、そこの職人に最高の装備品を仕立ててもらう事が最大の目的だ。そのためもあってか、少しばかり楽しみにもしているミラ。

「うん、わかったよ。それじゃあ、君が行くって向こうに──」

研究所にはミラが来訪するという事を伝えておく。そうソロモンが答えようとした時であった。ふと執務室にあった通信装置の呼び鈴が鳴ったのだ。

執務室の呼び鈴という事は、ソロモン王直通という事である。つまりは余程の緊急事態か、ミラのように極めて近しい存在など、相当に秘密の多い場合がほとんどというわけだ。

ただ、それが鳴った直後。ソロモンは相手に見当がついているのか「あー、むしろ向こうからきたかなぁ」と、どことなくうんざりした顔で呟いていた。

「さて……」

一つため息をついてから、通信装置の受話器を手に取るソロモン。

『昨日で建国祭は終わったよな? そうだよな? じゃあもう、そろそろいいよな!?』

するとどうだ。ソロモンが応答するより先に、そんな声が受話器から漏れ聞こえてきたではないか。相当な声量であると同時に、その興奮具合まで伝わってくる声だ。

「ああ、丁度今、本人とその話をしていたところだよ。少し落ち着いてから向かうってさ。だから大人しく待っててね」

ソロモンの返答から、どうやら通信相手は日之本委員会の者だとわかる。

よほどミラが持つマキナガーディアンの素材に飢えているのだろう。以前からこんな勢いで、ミラはいつ来るのかと連絡を続けてきているようだ。

話には聞いていたが、腰が引けてしまいそうになるほどの熱望ぶりだ。

『おお、そうか! ようやくか! 待たせやがって! でも落ち着いてから、だって? それって今日だろ? 建国祭が終わったってんなら、もう十分に落ち着いたはずだろ? おーい、聞こえているかー? 直ぐに来るっていうなら、どんなものでも総力を挙げて作ってやる。足りない素材も全てこっちで用意する! だからあるもの全部持ち込んで来い! いいな? 頼むから直ぐにだぞ!』

それはもはや、有無を言わさぬほどの勢いだった。直ぐ来るようにと言うだけ言ったところで、『じゃあな!』と一方的に通信は切れた。

「いやぁ、以前からこうやって毎朝毎朝毎朝毎朝いつ来るんだってうるさくて。建国祭の後に行くと思うって伝えてから最近までは静かだったんだけどねぇ。それが済んだら早速とかもう、ようやく君が行くって言ってくれて、僕も肩の荷が下りたよ」

ソロモンが言うに、相当なしつこさだったようだ。うんざりした顔で受話器を置くなり、「という事でよろしくね」と微笑みながらミラを見やった。

「いや、待て待て。わしは少し落ち着いてからと言うたが、何やら直ぐにという事になっておらんか?」

先ほどのような怒涛の通信が続いていたとなれば、それも仕方がない。流石のミラもソロモンに同情気味ではあった。けれど、それとこれとは話が別だ。

ミラは、もう暫くマリアナとルナのいる優しく心豊かな日々を送ってからと考えていた。

だが通信装置から聞こえた言葉からして、もう今日明日にでも来いというくらいの勢いだ。しかもソロモンまでもが、もう仕方がないから直ぐに行ってくれと、その目で催促してきているのがわかる。

「そこを、どうか。ね?」

相当なのだろうソロモンの目には、これまでのように何か裏に隠した色は微塵もなく、ただただ切実な願いのみが込められていた。

「まったく、仕方がないのぅ──」

マリアナ達との尊い日々も極めて至福だが、やはり超高性能の新装備といったものもまた、大変心を擽られるものだ。それを限度無しで作ってくれるという約束ならば、やはり惹かれるものはあった。

よってミラはソロモンに恩を売る形にして、明日にでも出発する──と応えようとしたところで、一つの用事を思い出した。

「──と思ったが、ちょいと明日も難しいかもしれぬな。約束があったわい」

一度は構わないと思ったミラであったが、それ以外にも、ある意味大事な約束があった。それはアセリアと交わしたものだ。

建国祭最終日から二日後の正午に術士組合にて待ち合わせ。かつてのソロモンの鍛錬法だなんだを教えるという約束である。

「明日もきっと連絡してくるだろうから、もう向かったよって言って終わりにしたいんだけど……その約束って先に延ばせたりは出来ないのかな?」

それはもう真っすぐ真剣なソロモン。だがアセリアの熱意からして、きっと明日を相当に楽しみにしている事だろう。もしも先延ばしにだなんて言ったら、どんな反応をするのか。

「ふーむ、そうじゃのぅ……」

あれこれ悩みながら、ふとソロモンを見つめたミラ。と、そこで一筋の光明がミラの脳裏に差し込んだ。いっその事、本人でよくないだろうか、と。

そもそもアセリアに教えるのは、ソロモンの事だ。だったらもう、ソロモン自身が一番よくわかっているわけで、その方がより詳しいというものである。

「──ところでソロモンよ。明日少し時間を作れぬか? 実は約束している人物というのは、お主に関係しておるのじゃがな──」

ならばいっそと提案したミラ。するとソロモンは、十分に興味を抱いたようだ。明日には研究所に向かってくれるならと言質を求めつつ、何かを企むかのような笑みを浮かべて身を乗り出した。

「──なるほど、そういう約束ね。なら確かに僕が代わっても問題はなさそうだね」

「そうじゃろう? これが解決するのならば、まあ明日に出発しようではないか」

ミラの約束をソロモンが代わりに引き受ける。そしてミラは明日、日之本委員会の研究所に向けて出発する。

そうすればソロモンは、毎朝の通信に悩まされる事はなくなる。ミラもまた最上級素材のみならず、至高の職人達の腕を思う存分に借りられる。これで関係はwinーwinというものだ。

そのようにアセリアの知らぬところで、アセリアが想像もしていないだろう約束が結ばれた。

彼女は当日、どのような反応をするだろうか。二人は悪戯気味に笑い合うのだった。

ソロモンとの話を終えたミラは、マリアナ達と一緒にシルバーホーンまで帰ってきた。

「では、明日の支度をしないとですね!」

到着後、部屋に戻るなりすぐさま準備を始めるマリアナ。少しだけ寂しそうな表情を浮かべるも素早く切り替えて、てきぱきと必需品を用意する。いつもミラが旅立つ前には、こうしてマリアナが必要なものを揃えてくれるのだ。

「うむ、よろしく頼む」

ミラもまたそう答えながら、一度アイテムボックスに入っている日用品や着替え用の服に下着などを全て出していった。

ミラを想うマリアナには、色々と細かいこだわりがあるのだ。それは、下着の色といった部分にまで及ぶ。そしてそれらは、マリアナが独自に進化させた風水に基づき決まる。

現在の月、そして向かう方角などからラッキーカラーを導き出すのである。

なお今回の出張におけるミラのラッキーカラーはというと──。

(まさか、こんなセクシーなものまで用意してあったとは……)

マリアナが並べていく下着は、全部が黒であった。しかも形状もまた色々で、スポーティーなタイプからセクシーなタイプまで幅広く取りそろえられているではないか。

と、そのように一緒に準備を進めていくミラとマリアナ。ちなみにルナは、お気に入りの砂場で遊んでいる。

途中、出し忘れていた洗濯物が出てきた事でマリアナに小言を言われたり、ずっと調理する予定のまま死蔵していた食材の量に呆れられたりしながらも準備は進んでいった。

「これだけあれば何でも作れそうですね。ミラ様、なにかリクエストはありますか?」

一通り荷物をまとめ終えたところで、昼食の時間だ。加えて、明日に持っていくための弁当についても触れるマリアナ。

ミラが大量に買って保存したままだった食材があれば、どんなご馳走でも自由自在だという。折角なので、それらを大いに活用するとの事だ。

「ふむ、そうじゃな……やはりから揚げがよいのぅ。弁当に良し、おやつに良しじゃからな!」

マリアナの腕があれば、どれだけ難度の高い料理であろうとも存分に作る事が出来る。しかも、あれやこれやとミラが買い込んでいた食材は、本人の料理の腕とは関係なく上等なものがそろっていた。

ゆえに滅多な事では口に出来ない豪華な料理も今なら可能だったが、ミラがリクエストしたのは至ってありきたりなから揚げだった。

とはいえ、そこはマリアナの腕の見せ所だ。

「では、せっかく沢山の種類のお肉があるので、色々なから揚げをお作りしますね」

「おお、それは楽しみじゃのぅ!」

から揚げと言っても、味付けや調理工程などによって完成品は千差万別。何かに挑戦でもするかのようなやる気を見せるマリアナは、意気揚々と調理場に向かっていった。

鳥、豚、牛のみならず、ミラがお試しで買っていた多種多様な肉がマリアナの手で、から揚げとなった。

千切り野菜のサラダとご飯、そして山盛りのから揚げ。今日の昼食は、わんぱくな子供達のいる食卓のような見栄えである。

ただそれでいて、から揚げにはマリアナの熟達した技の数々が随所にちりばめられていた。

「おお、どれからいこうか迷うのぅ」

どれも美味しそうだ。迷いながらも、やはりここは基本通りにと、ミラはとりのから揚げをほおばった。

「おほぅ!」

瞬間に広がる旨味と弾ける食感。そこには誰もが思い描く理想のから揚げが見事な完成度で再現されていた。

幾らでもいけそうだ。そして、ご飯との相性もまた抜群である。

こうしてミラは、存分に昼食のから揚げを堪能し尽くした。

食後は、再び旅立ちの準備だ。下着のみならず部屋着や寝間着なども用意してあったようで、たちまちのうちに荷物が整っていく。

ミラも実験用などを含めて、様々な魔封石や魔封爆石を準備する。

当然、大量のから揚げもアイテムボックスに保存済みだ。これでいつでもどこでも、存分に絶品から揚げを楽しめるようになったわけだ。

「ほーれ、ルナやー。こっちじゃ、こっちじゃ」

そのようにして、そこまで時間もかからず明日の支度が整った後は、マリアナと一緒にルナと遊んで過ごした。

明日出発したら、また暫くはこうして遊べなくなってしまう。だからこそ、今日は存分に遊ぶのだ。

そしてルナもまた、その事がわかっているのだろう。いつもよりもはしゃいでおり、いつも以上に甘えん坊であった。