軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

435 聖秘牢

四百三十五

「お?」

冷蔵庫に入っていた、とっておきとばかりなスイーツを堪能しながら待つ事数十分。いよいよ光の玉に変化が現れた。

幾らか眩く輝いたかと思えば、そのままゆっくりと光が収まり、収縮していったのだ。

どうやらレヴィアードのキャラメイクが終了したようだ。数十分というなかなかの時間を待っていたミラだが、それでいて思ったより早いなとばかりな顔だ。

とはいえそれも、ミラ自身がキャラメイクに数時間をかけたからこその感想である。

と、そうした中で遂に光が消え去り、その中から新生したレヴィアードが降り立った。

「なん……じゃと……!?」

その瞬間だ。ミラは、新たな身体となった彼──否、彼女の姿を目にして愕然とした。

そう、よもやまさか男だったレヴィアードが、女の──しかも少女の姿へと変わっていたのだ。

「お主、なにゆえそのような──! ……いや、これまた随分と思い切ったものじゃのぅ」

ダンブルフに戻りたいミラからすれば、もはや理解不能とでもいった選択だ。とはいえ、彼の……彼女の事情を考えれば、それも有力な選択肢の一つであるのは間違いなかった。

「ああ、ミラさんを見て思いついたんだ。このくらい根本的に変わってしまえば、絶対誰にも気づかれないって」

そう自信満々に笑顔で答えるのは、金髪ロングの美少女だった。

背丈はミラよりも上で、見ため的には十七歳前後といったバランスだ。そして強気気味なミラとは対照的に、とても清楚で落ち着いた印象のある顔をしていた。

レヴィアードの選択。それは今までの姿とは正反対になる事で、よもや同一人物であるなどと微塵も感じさせないというものだった。

実際のところ威厳あるダンブルフから美少女になってしまった事もあって、ミラもまた体感で知っている。親交のあった元プレイヤーや、よほど身近にいた人物でなければ、まず疑われすらしないという事を。

「うむ、まあ確かにそうじゃな。今のお主を見て、あのレヴィアードとわかる者など、まずおらぬじゃろう」

それがミラの率直な感想だった。

先程までは術具で変装した姿だったが、本来のレヴィアードは、伝説的プレイヤーキラーになるという彼自身のプレイスタイルを反映したものだった。

つまりは、すれ違いざまにナイフで刺してきそうなほどの凶悪な面構えだったのだ。

それが今はどうだ。すれ違いざまに微笑みかけられでもしたら、万人が恋に落ちてしまうと思えるほどの美少女ではないか。

この二つの姿をイコールで結ぶなど、それこそ今この現場に立ち会っていなければ信じられなかっただろう。それほどまでの変身ぶりである。

そして同時に、これほどの根本的な変化を選ぶほどに苦労してきたのだという事が、その極端な選択から伝わってきた。

「よし、ミラさんにそう言ってもらえたなら大成功だ」

またレヴィアードは、まるでミラを先駆者とでも思っているようだ。これで大丈夫と確信したかのように喜ぶ。

ただ、その直後だ。自分の姿を確認してからミラの事を見つめるなり「あ、そうか……」と、何か失敗したとばかりな表情を浮かべた。

それというのも、今の彼女は裸であるからだ。これまで着ていた服は足元に転がっている。

そして当然とでもいうべきか、レヴィアードが所有していた全ての服は、今の彼女にとって全てサイズが合わない状態になっていた。

「……どうしよう?」

とりあえず足元に散らばった服を着たレヴィアードだが、もちろんそれで外になど出られるはずもない姿であった。

「まったく、勢いのままに使うからじゃ」

ローブなどがあれば多少は誤魔化せるが、戦士クラスの彼がそれを持っている様子はない。

呆れたように苦笑したミラは、「ちと、待っておれ」と告げてから部屋を出て、彼女に合う服を買うために商店街へと走った。

「うむ……よく似合っておるぞ!」

化粧箱を使って美少女となったレヴィアードに替えの服を買ってきたミラは、早速それに着替えた彼女を見て快活に笑う。

「いや、出来れば普通の服がよかったなぁ、って……」

「何を馬鹿な事を言うか。それが今の最新なのじゃから、それに倣った方がむしろ目立たぬというものじゃよ!」

我ながら素晴らしいチョイスだとふんぞり返るミラが買ってきた服。それは最近マジカルナイツのラインアップに加わった新シリーズである、魔女っ娘風の一着だった。

黒を基調として爽やかな青が映える衣装を纏った彼女は、湖の魔女とでもいった形容がしっくりきそうなほどの完成度合いだ。

「うーん……言われてみれば、このくらいした方が、もっとわかりにくいか」

美少女になるだけでなく衣装もがらりと変化した事で、連続殺人鬼というイメージからは更に遠のいたと言ってもいい。

実際のところは、仲間が──というより共犯者がほしかったミラの思惑によるチョイスであったが、かつての殺人鬼の印象が更に薄まったのは確かだ。

レヴィアードは、こういう策も悪くないと気に入った様子であった。

「とりあえず服は用意したが、下着は自分でどうにかするのじゃぞ。サイズとか色々と面倒じゃからな」

今回ミラが買ってきたのは、サイズ幅が広めな服だけだった。細かい数値が必要になる下着については、まったく触れていない。

彼自身の趣味か、それとも印象操作の一環か。彼女は特に大きめであるため、選びようがなかったからだ。

「ああ、問題ない問題ない。外に出られる服さえあれば、そのくらいはどうにでもなりそうだから。本当にありがとう。こうして出会えて良かったよ」

現在は上も下もノーノー状態だが、それよりも未来が大きく開けた喜びが勝っているようだ。レヴィアードは、細かい事など一切気にならないといった顔で朗らかに笑う。そして続けざまに、「あ、これから俺の事──いや、私の事はレヴィって呼んでね」と、それはもう素早く順応し始めていた。

レヴィアード、いや、レヴィと別れたミラは、高級店が軒を連ねる商店街を進んでいた。

なお、レヴィは早速下着を買いに行ったようだ。新たな人生の第一歩だからこそ慎重に選ぶのだと、足取りも軽やかであった。

だが、軽やか過ぎてスカートもまたふわりふわりと落ち着かなかったものだから、ミラも大慌てだ。穿いていない状態でそれはまずいと。

(まったく、もう少し自覚というものを持ってほしいものじゃな!)

美少女であるという自覚。そして、その事が周りに及ぼす影響。それらをしっかり認識しなければ、驚かせたり目のやり場に困らせたりと、様々な事態を引き起こしかねない。

ミラは、自分の事を棚に上げてレヴィに注意していた。まさに、どの口が言う状態である。

と、そんな無自覚美少女のミラが真っすぐにやってきたのは、このラトナトラヤにて最も信頼性が高いとアルマに紹介された骨董店だ。

「ほぅ、思ったよりも小さめじゃな」

その店『アンティーク・ギラン』は、周りに立ち並ぶ高級店に比べると、一回りほど小さな敷地に建っていた。

一見すると、何となく見過ごしてしまいそうな立地である。ただひとたび立ち止まり、その店構えを仰ぎ見れば、不思議と店主の誠実さが伝わってきた。

(この気配、確かに当たりじゃな!)

ミラは、その一端と言える気配を感じていた。

それはまだ完全なものではない。だが、間違いなくそこに宿り始めている。

よほど愛情を持って接しているのだろう。この店自体に、人工精霊が宿る兆候が見えたのだ。

そんな店の店主だ。流石はこの国の女王であるアルマの紹介といえるだろう。きっと今回もまた、素晴らしい出会いがある。

そう確信をもって、ミラは店内に踏み入った。

「何とも、個性的な店主殿じゃったのぅ。骨董店の店主とは、どこもああなのじゃろうか……」

約二時間ほどしたところで、ミラは『アンティーク・ギラン』を後にした。そして、たった二時間ほどでありながら、とても濃い時間であったと苦笑する。

始まりは、入店から暫くしたところだ。店主がミラを精霊女王だと気づいた事で、店内の様子が一気に変わったのだ。

どうやら以前に立ち寄った際に色々な事があった『喫茶クラフトベル骨董店』での一件が、ここにも伝わっていたようだ。

更には、そんな精霊女王がラトナトラヤに滞在していると耳にして、今か今かと来店を待っていたというではないか。しかもご丁寧に、人工精霊が宿っているのではと思しきアンティークを幾つも準備してだ。

「よもやあんなに歓迎されるとは。じゃがまあ、よい買い物が出来たものよ!」

店主によると、今ミラはアンティーク界に変革をもたらした女神などと呼ばれているそうだ。それはもう好待遇で接待されるばかりか、目的の品を割安で売ってくれたものだから、ミラもまた悪い気分ではなかった。

ただその際、購入記念としての写真を撮ったり、それとなく店内にあるアンティークの人工精霊鑑定といった事をやらされたりもしたものだ。

とはいえミラにしてみれば大した労もなく、百万リフ近くの割引を受けられたのだからお得というものである。

ちなみに人工精霊が宿っているのではと店主が用意していたものは、一つを除いて、気のせいか、ただの術具か、本当に曰く付きのやばい代物という結果だった。

「はてさて、どのような寝心地なのじゃろうな」

今回ミラが購入した人工精霊の宿ったアンティークは、ベッドだ。これでどこでもふわふわベッドで眠れるようになった。

どれほどの寝心地なのだろうか。夜になるのを楽しみにしながら、ミラは次の目的地に向かう。

次にミラがやってきたのは、教会だった。

それというのも『アンティーク・ギラン』での一幕。人工精霊鑑定の際に聞いた話に端を発する。

その可能性を示唆した事もあり、店主が言うに曰く付きとして教会に預けられた骨董品の見直しも始まっているそうだ。

とはいえ、やはりミラほどにこれを見抜ける者はなく、なかなかに難航しているらしい。

今回はミラが来る事を見越して、店主は幾つかを教会から返却してもらっていたという。

その内の一つが、ミラのお眼鏡にかなったベッドだ。

やはり懸念していた通り、精霊の宿った骨董品などが間違って預けられてしまっていたわけである。

だがもう一つは、本当にやばい代物だった方というのだから大変だ。

つまりは、これまで原因不明とされていたもの全ての原因が人工精霊だったという単純なものではなく、中には本物も混じっていたという事。

何でもかんでも、精霊が宿っているとするわけにはいかないのだ。

「さて、どのような状況じゃろうか……」

それらの事情を聞かされたミラは、早速とばかりに曰く付きの品々が眠る『聖秘牢の間』へとやってきた。

本来ならば関係者の中でも一部の者のみしか入れない場所だが、ミラにはそれを可能とする手段があった。

以前、怪盗ファジーダイスより取り返した『銀天のエウロス』を教会に寄付した際、大司教より賜った銀のメダルだ。三神教のシンボルが刻まれたそれの効果は抜群だった。

加えて骨董界での動きも教会の者達は把握しているようで、それはもう丁寧に案内された次第である。

「いかがでしょうか、ミラ様」

共に付いてきたのは、このラトナトラヤ教会の司祭長だ。彼は『アンティーク・ギラン』の店主からその事を聞いた時より、ずっと気に病んでいたという。それが真実であるなら、このままにはしておけないと。

彼は、その日より何度もこの場所を見回っているそうだ。けれど、どうにも見分けられないと気落ちした様子だった。

実際のところ、ミラが見抜いたベッドもここに置かれていたもの。彼は、それに気付けなかったわけだ。加えて人一倍信心深いものだから、その落ち込み具合といったら相当である。

「ふむ……まだ幾つかおるな」

そこに眠る呪物の数々。それらに交じるようにして感じられる精霊の気配。ミラは間違いなく、まだここには人工精霊の宿った品が残っていると告げた。

「なんという事……。早くお救いして差し上げなくては!」

このままにはしていられないと飛び出した司祭長は、そこに並ぶものを見回すなり、これだとばかりに一つを手にして「こちらでしょうか!?」と振り返る。

「……いや、それは別物じゃのぅ」

気配は感じるが、間違いなく精霊のものではなかった。それを聞くと司祭長は、やはり見分けられないのかと悔しそうに肩を落とす。

とはいえ、呪いや悪霊といった類の曰く付きならば、彼も十分に感知出来ているようだ。それらには一切触れようとしない。

ただ、時折交ざる正体不明の曰く付き。それが人工精霊によるものか、はたまた別の何かによるものかという点が難しいところである。

「そこでじゃ。司祭長殿よ、少しばかり手を出してもらってもよいか?」

そう言いながら手を差し出すミラ。

今回、教会にまで来た目的。それは、この『聖秘牢の間』に封じられた精霊家具らを見定めて救い出すという他に、もう一つあった。

それが、これからミラがしようとしている事だ。

「えっと……わかりました」

なぜそのようなといった疑問を浮かべた司祭長だが、真剣なミラの様子が伝わったようだ。頷き答えた彼は、そっとミラに手を差し出した。

ミラと司祭長の手が触れた瞬間、二人を中心にして優しい風が広がる。

「これは……!」

その直後、言葉に出来ない何かが流れ込んでくるのを感じた司祭長は、驚きながらもそれを素直に受け取る。

何かわからないが、不思議とそれは必要なものであると彼は直感したのだ。

その現象は、ほんの一瞬。だが流石は司祭長という立場にまで上り詰めた者というべきか、彼はそれだけで自分が何と、否、誰と繋がっていたのかを理解していた。

「もしや今のは、精霊王様のお力ですか……?」

見た事も感じた事もない精霊王の力。それでいて司祭長は、感覚からその答えにたどり着いたようだ。

「うむ、その通りじゃよ」

お見事とばかりに答えたミラは、「さて、今度はどのように見えるじゃろうか?」と口にしながら、周囲に目を向けてみせた。

司祭長は、もしやと慌て気味に見回しながら目を凝らしていく。

するとどうだ──。

「こちらは……こちらには精霊様の力が宿っております!」

どこか確信したような顔で、一脚の椅子を手に取ったではないか。

「うむ、正解じゃ」

そしてその椅子は、確かに人工精霊が宿る品であった。

そう、司祭長は今、それを見分ける事が出来る力に目覚めたのだ。

正解して喜ぶ司祭長。そんな彼を見るなり、これで一安心だとミラは満足げだった。