軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

433 祭りの後

四百三十三

皆で朝食を過ごした後、暫くの間のんびりと談笑する。

些細で長閑な、ほんのひと時。そして同時に、別れの時間でもあった。

「それじゃあ、またね。文香姉さん……」

「あらあら、またすぐに建国祭で会えるでしょ」

義理とはいえ、唯一本当の家族であるアルマとアルテシア。

よほど大好きなのだろう。ぎゅっと抱き着いて離れないアルマと、それを優しく受け止めるアルテシア。

女王らしからぬ行動、加えて今日の業務が山積みであるものの、今回エスメラルダは途中で口を出す事をしなかった。

今回はアルマが満足するまで好きにさせるつもりのようだ。

それでいて重要な業務のやり取りも怠らない。

「──と、そんな感じでいいかしら? アルマったら、カグラちゃんの凄さを知ったら、もう戻れないって言うから」

「まあ、大丈夫だと思いますよ。これからはアルカイトの方で落ち着く予定ですから、連絡いただければピー助飛ばしますので」

「ほんと、凄いわねぇ。ありがとう、カグラちゃん! 今度、ピー助ちゃん専用の入口を作っておくわ!」

それは、カグラの専売特許である自白の術のレンタルについての約束だった。

対象から 正確(・・) な情報を引き出すというのは、本来ならば一筋縄ではいかない案件だ。

場合によっては、それこそ苦痛を伴うような方法まで用いられる事もあり、それらを執行する立場にあるアルマは、これに長い間苦しんでいた。

そこに燦然と現れたのがカグラである。

容赦なく情報を洗いざらい引き出せるばかりか、非人道的な手段は一切必要ないときたものだ。

それゆえの九賢者出張契約である。

なお、当然ながらこの件は機密事項だ。

「じゃあ、また今度。次までに、必殺技をどれだけ増やせるかで勝負だな」

「ああ、いいぜ。勝負だ!」

ラストラーダとゴットフリートは、そんな暑苦しそうな約束を交わしていた。

だが、到底この二人でしか通じ合えなさそうなやり取りに興味を持つ者が一人。

「それ、なんだか面白そうヨ、私も勝負したいネ!」

メイリンだ。勝負事というのもあるが、彼女もまた必殺技というものには人一倍の関心があるようだ。

特に公爵級悪魔アスタロト戦で二人が見せた必殺技の数々に、それはもう興奮したという。

「メイリンちゃんか、いいぜ、相手に不足無しだ!」

ゴットフリートは面白そうだと笑う。ラストラーダもまた「これは強敵だな!」と、こちらもまた楽しそうであった。

「──へぇ、これは研究し甲斐がありそうだな。礼を言う」

「私も、ありがとう。いっぱい勉強出来そう」

ソウルハウルとエリュミーゼは、互いの研究成果を交換し合ったようだ。

多岐に亘るソウルハウルの研究内容は、極めて複雑ながら無数の可能性に満ちたもの。習得出来れば、限界の先に続く新たな道を見出せるかもしれない。

一点のみに特化したエリュミーゼの研究内容は、その点において更に深い造詣を得られるはずだ。

実に有意義な情報だったと告げるソウルハウル。エリュミーゼはというと、少し照れながらも嬉しそうだった。

「さて、今日で最後という事で、これをやろう」

「な……!? おい!?」

皆と違い、どこかひっそりとしたやり取りをするのは、ルミナリアとノインだ。

しかもこの時この瞬間、ルミナリアがとっておきだとばかりに取り出したのは、よもやまさかなミラの下着写真だった。

リリィ達が衣装制作のためにと撮影し保管してあった稀少な一枚である。

それを目にした瞬間、ノインの感情ゲージは一気に臨界を突破した。

欲しい。それが彼の脳裏に浮かんだ心からの声だ。

「馬鹿を言うな。そんなもの貰ったところで処分に困るだけだ」

けれどノインは、強靭な理性によって本能をねじ伏せた。そこは踏み越えてはいけないラインであると自身に言い聞かせて。

「なんだそうか。欲しいかと思って用意したのに残念だな」

ここでルミナリアが仕掛けた。

今までならば、でも好きなんだろうと強引に渡していたところだが、ここで引くという手段に出たのだ。

するとどうだ。その術中に見事に嵌ったではないか。口では断固拒否しながらも、ノインの目はルミナリアが引っ込めた写真を未練がましく追っていた。

「──っ!」

それは、完全な無意識だった。ノインの中には、理性にすら従わない根源的本能が潜んでいたのである。

その無意識な行動に気付いて咄嗟に顔を背けたノインであったが、時すでに遅し。

それはもう満面の笑みで「まったく、意地っ張りだな」と、にまにましながらノインの懐に写真を忍ばせるルミナリア。

ノインは一切の抵抗も出来ず、それでいて心の中では『ありがとう』とすら応えてしまうのだった。

「ありがとうございました、ミラさん、シャルウィナさん、団員一号さん! とっても楽しかったです! いっぱいお友達が出来たみたいで、とっても嬉しかったです!」

顔をくしゃくしゃにしながら、どこか子供っぽく、それでいて心からのありがとうを口にするのは、イリスだ。

今日をもって、ミラもまたニルヴァーナを発つ。そしてイリスの希望もあって、この日を境に厳重で一人ぼっちなあの部屋を出て段階的に周囲と馴染み、男性恐怖症を克服していく予定だ。

それに伴い人との交流が増えるのは確かだが、流石に部屋の大きさは小さくなる。これまで通りには暮らせない。

だからこそ、今日は皆ともお別れの日なのだ。

「出来たみたいではないですにゃ。小生達は、もうずっ友ですにゃ!」

もらい泣きどころではなく、こちらもまた大号泣している団員一号。余程友情を深める事が出来たのだろう、ひしりと抱き合う姿は青春ドラマの一ページのようである……が、やはり猫だけあってどことなくメルヘンチックだ。

「私も楽しかったです。こんなに趣味が合って話も合うなんて、初めてでした。だから私達はもうお友達──……いえ、親友だと思います!」

こちらもまた別れを惜しむように、それでいて初めての親友が出来たと嬉しそうに宣言するシャルウィナ。

「ジャルヴィナざーん!」

それを聞いたイリスは、更に感極まったように涙を浮かべてシャルウィナに飛びついた。

そしてがっしりと抱き合うイリスとシャルウィナ。その様子は、それこそ正真正銘の青春ど真ん中であった……が、そんな二人に挟まれて苦悶の表情を浮かべる団員一号のせいで、絵面は台無しだ。

「大変かもしれぬが、元気に頑張るのじゃよ」

ミラは最後まで色々と騒がしいイリスの頭をそっと撫でつけながら、彼女の今後を祈る。幸多からんようにと。

と、そのように各々が別れの挨拶を交わす中、どの輪にも入れずにいる者が一人いた。

サイゾーだ。

「特に今は隠遁しておらぬが……これも人望でござろうか……」

思えば、武具の手入れだとか忍具の試しなどばかりしていたサイゾー。特に誰かと最後に話すような話題もなく、今もまた趣味で集めた個人製作の術具を確認しながら、それぞれの別れが終わるのを待っていた。

と、そんな彼に歩み寄る者が一人。

「相変わらず、よくわからない術具が好きなのじゃな」

どこか呆れながら、それでいて興味深げに声をかけたのはミラだった。次に大会が開催された時は、また皆でコスプレしたいなどとイリス達が白熱し始めたため、少しばかり逃げてきたのだ。

竈に火をつけるものから、魔獣すらも消し炭にするものまで。術具というのは、実に多種多様である。

中でも個人製作の術具は、特徴的なものが多い。そしてこれらを制作している者は、やはり奇人変人が多い。

それは既存の概念に囚われず自由な発想によって独創的な効果を発揮する、他に類を見ない術具ばかりだ。

ワインを水に変える、聞こえる音が全てカエルの声になる、エロティックな夢を見られる、目が回らなくなるが効果が切れたら尋常じゃなく目が回る、など。

どういう意味があるのか、どんな役に立つのかわからないものがほとんどだった。

ただ、そういった面白おかしさに惹かれる好事家というのも存在した。

その一人が、サイゾーである。

「このよくわからない感が、また面白いのでござるよ」

言うなり一つの術具を発動させるサイゾー。

そして水筒を取り出すなり、その中身を術具の上に注いでいった。

するとどうだ。注がれた水は術具の上から零れ落ちる事無く、それどころか水玉となって浮かんだではないか。

「ほぅ、これまた凄いが……どう使えるものかのぅ」

実践的、実用的な術具を好むミラだが、こういったお遊びもまた嫌いではなかった。とはいえ、いったい、何の役に立つのだろうか。

なおサイゾーの説明によると、これはただ液体を浮かせて留めておくだけの術具との事だ。

少し考えてみると、アクアリウム的な使い方が出来るかもしれないと思いつくが、既にサイゾーが実験済みらしい。見事に小魚が飛び出して行ってしまったそうだ。

「──ちなみに、今拙者が一番に考えているのは、薬物の精製でござるよ」

謎の効果の術具の効果的な活用法。それを考える事もまた好きなようだ。ものによっては、意外と便利に化ける術具などもあるのだと、それはもう楽しげに語る。

「ほぅ、なるほどのぅ。それは確かに可能性じゃな!」

サイゾーが提案した使い方に、ミラもまた可能性を見出す。そして、ああだこうだと話が弾んでいった。

と、そのようにして楽しげに会話するミラとサイゾーを見つめる者が一人。

(あんなに楽しそうに……。いや、違う! 誰と話していたって──……あああっ!)

ノインだ。仲良さげな二人の様子に嫉妬するなり、なぜこんな気持ちが湧いてくるのかと心の中で悶絶する。

その傍らではルミナリアが、少し焚き付け過ぎてしまっただろうかと苦笑していた。

アトランティスの将軍三人は、飛空場に到着していた迎えの飛空船に乗って帰っていった。

何でも将軍専用の飛空船だそうで、小型ながらも通常の型の倍は速いそうだ。

アトランティスとニルヴァーナはアーク大陸の最北端と最南端に位置するが、今日中には国に帰れてしまうとの事だ。

流石は将軍専用機、そしてプレイヤー最大国家の科学力である。

なお、『アイゼンファルドを喚べれば、わしの方がもっと早く着けるがのぅ』というのは、対抗心を燃やしたミラの心の声だ。

アルテシアとラストラーダは当然ながら来た時と同様、孤児院の子供達と一緒に帰国する予定だ。

となれば、その送迎にはニルヴァーナの飛空船が使われる。

ソウルハウルとルミナリアもまた、これに同乗していくとの事だ。

そして肝心のメイリンだが、彼女もこの飛空船にて帰国する事となった。全て任せてくれていいとは、アルテシアの言葉である。

言葉通り、彼女に任せれば万が一にもメイリンが逃げるなんて事態は起こらないだろう。

カグラはというと、そのフットワークの軽さが羨ましいほどだ。別れが済むなり、そのまま式神と入れ替わりあっという間に遠くへと帰っていった。

彼女が天使のティリエルと共に行っていた各地の鬼の棺の調査とやらは、もう終わったそうだ。更には今後、何かが起きないように監視用の術式も仕込んだという。

後は五十鈴連盟の引継ぎや、細々とした処理を残すのみらしい。それらが片付いたところで、遂に帰国出来るとの事。建国祭には十分に間に合うそうだ。

「さて、わしも行くとするかのぅ!」

別れの挨拶を済ませたミラは、いよいよニルヴァーナ城を後にする。

そこそこの期間を過ごした巨大な城。最後にそれを仰ぎ見てから、いざと踏み出した。

ミラはルミナリア達と共に帰国せず、残りの用事を片付けてから帰る予定だ。

最初の予定は、ヘムドールへの報告である。

闘技大会が開かれていた闘技場と、その周辺の広場。様々な催し物が開かれていたその場所も、今は撤去作業で大忙しだった。

その様子を眺めながらミラが向かうのは、近くにあるお高いホテルだ。

そこでヘムドールを訪ねるなり、昨日の夜の話し合いの結果を伝えた。

かの九賢者達に集まってもらい、ヘムドールの事を伝えてみたところ、それはもう満場一致で大歓迎であったと。

「なんと、九賢者様方が私を……! ああ、ようやく努力が報われた気分だ。神よ、ありがとうございます」

ミラが伝えた結果に、それはもう喜んだヘムドールは、それこそ大いなる感謝を胸に三神へと祈りを捧げた。

「──というわけで、近いうちにソロモン王より招待状が送られるはずじゃから、よろしく頼む」

「わかった、国に戻ったら直ぐに準備をしておこう!」

三十年ぶりに九賢者と会えるなどと盛り上がるヘムドールは、今から随分と楽しみなようだ。それこそ当時の感情が蘇ったのか、子供のようにはしゃいでいた。