軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

421 決勝トーナメント二日目

四百二十一

決勝トーナメント二日目。今日の予定は、二回戦目と三回戦目、そして準決勝となっている。

「いったい何が起きたのか!? ハレーナ選手、やはり強い!」

「今のは《秘印雪華》という魔術じゃな。先程から舞台上が曇ったように見えていたのは、小さな氷の粒子が広がっていたからじゃ。そして相手の身体に付着した粒子は、氷の蕾となる。あとは時間が経てばこのように、氷の花に包まれて身動きがとれなくなるという寸法じゃよ」

開始から数試合目。この日もまた、ミラはピナシュと共に試合の解説役としてそこにいた。

昨日に続き、一見しただけではわかり辛いであろう展開について補足する。しかも今日は、無理矢理気味な召喚術の宣伝は控え気味だ。

だからというべきか、実況解説は昨日よりもスムーズに交わされている。開始前は緊張していたピナシュも、今日はとてもやり易そうだった。

けれどミラの目はギラギラと輝いたままである。そう、無理矢理ではなく、自然な形で召喚術の宣伝を挟み込めるタイミングを探っているのだ。

と、ミラが企んでいる間にも、メイリンは順調に勝ち進んでいた。

二回戦目、三回戦目の彼女は、ミラとの約束がない事もあってか容赦のない試合展開で勝利した。

その結果、昨日プリピュアと激戦を繰り広げていたブルースの株が相対的に上がり、ミラはほくほく顔だ。

また試合は、他にも数多くの激闘とドラマを生みながら進んでいく。

「なんという事でしょう……これは運命の悪戯か、それとも神の奇跡か。生き別れた親子の再会に、涙が止まりません!」

「こんな事も……あるんじゃのぅ」

戦争によって引き離されて二十年。

強い戦士だった父の背中を追いかけて、この舞台に上がれるまで腕を上げた息子。

そして、大陸中に父は健在だと響かせるため、この闘技大会に出場した父。

そんな二人が、その舞台で出会うとは、いったいどんな偶然か。それとも必然か。

二十年の時を取り戻すかのように、まるで語り合うかのように剣を交える親子の試合は制限時間ギリギリまで続き、息子の勝利で幕を閉じた。

二人に惜しみない歓声が降り注ぐ中、ミラとピナシュもまた野暮な言葉などいらぬとばかりに拍手を送った。

「さあ、どちらが勝利するのか。そしてどちらが、新たなギルドの長となるのか! 今後の運命を左右しかねない、重大な一戦です!」

「もっとも強い者がギルドマスターになるとは、なんともわかりやすいものじゃな」

また別の試合。ギルド、アイアンウォールとヘヴィシェル。その合併と、新たなギルドの長の座を賭けた一大決戦が始まった。

何でも紆余曲折を経た結果、得意分野を同じとする両ギルドは合併する事となったらしい。そして闘技大会にて、最も多く勝ち上がった者がギルドの長になるなどという約束が交わされていたそうだ。

そして今日のこの決勝トーナメントにて、最後まで勝ち上がってきたアイアンウォールの団長ジグラッドと、ヘヴィシェルの団長ルドルフの頂上決戦と相成ったわけである。

ただ合併理由に得意分野が同じとある通り、互いの手札は似たり寄ったりで、共に防御重視。その戦いは長期戦となった。

「共ににらみ合ったまま動かない。いや、動けない! 張り詰めた緊張が続きます!」

「これは膠着状態じゃな。切り札は両者ともカウンター。共にわかっているからこそ何も出来ないのじゃろう。これを打開するのは難儀じゃ。そしてこれは、魔獣との戦いなどでも起きる事のある状態でもあるのぅ。奴らの知恵は侮れぬ。こちらの手の内を読んで、あのようにカウンターを狙ってきおる──」

睨み合いが続く中、試合が動かなくなってから少ししたところで、ミラは無数に経験した魔獣との戦いを引き合いに出して語った。

このように膠着状態となった時は、相手にとって予想もつかない行動を先に起こす事が突破口になり得るものだと。

そして多彩な効果を誇る召喚術こそが、そのような場面にて最も適した術である。そう慎重に、だがここがチャンスだとばかりに宣伝を挟み込んでいった。

場面が場面である事に加え、試合が停滞している事もあってか、ピナシュにそれを止めるような指示は出なかった。

あれこれとミラが語り続けた試合は、三十分以上にも及んだ。

僅かに剣を交差させつつ、探り合う二人。その動きは極めて地味であり、盾役という重要なポジションにありながら、いらぬ風評被害が出てしまいそうなほどだった。

しかも決着は、観客達のブーイングに耐えかねて先に動いたルドルフが、見事にカウンターを決められて敗退するというもの。

試合内容としては地味で、いまいち盛り上がりに欠ける一戦だ。

(実に素晴らしい試合じゃったな!)

けれど、それを埋めるように語り続けたミラは、むしろ召喚術を宣伝するきっかけをくれた二人に感謝していた。

「両者、互角。どちらも譲らない! けれどわたしは、ルト選手を応援したい! 頑張れルト選手! 届けその想い!」

「これこれ、わしらは公平な立場で話さなければいかんじゃろうに……じゃがまあ、こういう場合じゃとその気持ちもわかる!」

とても真っすぐで、どこかやんちゃそうな青年のルト。相対するは、彼の幼馴染であり国一番とも言われている女剣士のフィオ。

今回の試合は、そんな二人の関係の進展を決めるための一戦でもあった。

自分よりも強い男でなければ結婚相手に相応しくなく、また家族も認めてはくれないという生粋の剣士の家系に生まれたフィオ。

対してルトはというと、一般的な家庭の生まれだ。

そんな二人は、街近くの森で出会う。お小遣い稼ぎのために素材採取をしていたルトが野生の獣に襲われた際、腕試しに来ていたフィオが助けたのだ。

その日から知り合いとなった二人は、学校での生活で友人となった。

そして共に剣士としての道を歩みだして十年。ルトは、今ここで次のステージに進もうとフィオに挑んでいく。

この大舞台でフィオに勝ち、結婚相手に相応しいと皆に認めてもらおうというのだ。

「ここにある資料では現時点で二百五十三戦、二百五十三敗。ルト選手にとっては圧倒的不利な状況と言えます」

「うむ、勝ち目は薄いじゃろうな。しかし、ルト選手もまたここまで勝ち上がってきた強者よ。可能性がないとは言い切れぬ!」

共に一歩も引かず、打ち合うルトとフィオ。その剣戟は嵐の如く舞台を揺らし、絶え間なく鳴り響く。

一般家庭生まれのルトは、いったいどれだけの研鑽を積んだのだろうか。どれだけの努力を重ねて、こうしてフィオと互角に切り結んでいるというのか。

剣が振るわれるたびに彼の剣に宿る一途な想いもまた閃く。

更には、どれだけの傷を負っても立ち上がり、ただ真っすぐとフィオに向かっていくルト。

その想いに感化されたのか、その姿に心を奮わされたのか、観客達にもまたルトの勝利を願う空気が広がり始めていった。

そして遂に決着の時。観客達の想いまでも受け取ったルトが、ほんの些細な隙を見逃さずに打ち込んだ一撃が決定打になった。

ルトは、この大一番で本当にそれを成し遂げたのである。

拍手喝采に溢れる闘技場。その中心にて、フィオに手を差し伸べたルト。フィオは、どこかむすりとしながらもその手を取って立ち上がる。

するとどうだ。ルトは、その手を離さぬまま指輪を取り出したではないか。

暫しの問答の後、拍手喝采はここに誕生した一組の夫婦を祝福する歓声へと変わっていったのだった。

試合はなおも続いていく。ミラも知るレヴォルド・ガイザーやエルヒース・ゲインらも順調に勝ち上がっていた。

また、元プレイヤーと思しき数人も三回戦目を突破する。

(はて……あの動き、やはりどこかで……)

と、そんなプレイヤーと思われるうちの一人。トムドッグなる選手の試合を見ている最中、ミラは彼をどこかで見覚えがあるような気がしてならないと記憶を探っていた。

一見するだけならば、平凡な冒険者といった印象しか受けない男、トムドッグ。

だが元プレイヤーであろう事もあってか、そんな印象とは裏腹に実力は折り紙付きだ。

一、二回戦目の時は、あまりにもあっけなく勝負がついてしまったため、彼の力量は推し量れなかった。

しかし三回戦目の最終試合、トムドッグ対グランディール戦において、彼はその実力の片鱗を現した。

忍者のサイゾーのように静かで素早い身のこなしで相手に迫ったのもつかの間、そこから繰り出された技の数々は多彩にして苛烈、そして圧倒的だった。

(あのグランディールという男、余程強い思いでもあったのか並外れた強さを見せていたが、それでもあの結果じゃからのぅ。トムドッグ……何者じゃろうか)

見た限り、対戦相手のグランディールの実力は本物だ。たとえ元プレイヤーといえど生半可な強さでは、その技に圧倒されていた事だろう。

だが、そうはならず、それどころか圧倒さえしていた。

もしかしたら、トムドッグなる人物はトップクラスのプレイヤーであったのかもしれない。

ともなれば、まだゲームだった頃にどこかしらで出会っていてもおかしくはなく、見覚えがあるようなという印象にも説明がつくというものだ。

はてさて、彼はどこの誰だったか。当時の事を思い返してみるものの、情報はほんの僅かだけ確認出来た彼の動きのみだ。またマスクのようなもので顔を隠しているため、人相による判断も難しい。

手がかりは、その強さと戦闘スタイルだけだ。

(もしかしたら、決勝にてメイリンといい勝負をするのではないじゃろうか……)

特に強さはトップクラスの中でも、更に一握りの実力者──九賢者にも匹敵するほどである可能性が高いと、ミラは睨んでいた。

なお、そのように分析したミラは、彼がメイリンの対抗馬になるのではないかとして警戒を浮かべた。

優勝はメイリンで決まりだろうと高を括っていたところに、思わぬ伏兵の登場だ。

もしも決勝でメイリンが負けてしまったら、または決勝にふさわしい最大級の激戦が繰り広げられる事になってしまったらどうだ。

初戦で善戦したブルースの影が薄くなってしまうというものである。

(これは、由々しき事態じゃな……)

召喚術の未来に僅かな影が差す。ミラは解説役としての特権である選手資料を手に取るなり、さてどうしたものかと考えた。