軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

412 証拠は足元に

四百十二

城にいた精霊達だけでなく、精霊王もまた多くの眷属達と再会出来て嬉しそうだった。

皆が見守る中で急遽開催された精霊達と精霊王との語らいは、ミラへの圧倒的な信頼を勝ち取る形で終了した。

今ではもはや賓客扱いだ。

と、そうして落ち着いたところで、見守っていた観衆の一人である竜人の男が「あっ」と思い出したようにフローネのもとへ駆けてくる。

「フローネ様。先程、雲の発生装置の点検が完了しました。そこで二点ほど確認していただきたい箇所が見つかったのですが、よろしいでしょうか」

精霊王だなんだといった騒ぎに気を取られてしまっていたのだろう。いくつもの書類を抱えた竜人は、改めるようにしてフローネにそんな報告を上げる。

「ちょ……!?」

その瞬間、フローネの顔に焦りの色が浮かんだ。曰く、こんな場所でそんな話をするなといったような表情だ。

そして彼女の懸念通り、ミラの耳は、そんな竜人の言葉にあった単語を聞き逃さなかった。

バレてやしないかと窺うような目をしたフローネとミラの視線がばっちりと交差する。

「雲の発生とは……何やら意味ありげじゃのぅ」

はてさて、いったい何の話だろうかといった態度でフローネに歩み寄っていくミラ。

雲の発生装置。そのようなものを使って何をしているのか、どのような意味があるのか。雨でも降らせるのだろうか。

そう迫っていくほどに、フローネの視線が泳ぎ始める。

そればかりか明らかに言い訳とわかるくらいに慌てて、「えっと、うんと……そう、実は天気を操作する研究中なのよ!」などと口にしていた。

(間違いなく、別の目的じゃな──)

フローネとの付き合いもそれなりにあるミラは、間違いなく嘘だと察して、別の可能性を考える。

そして、ふと空を見上げたミラは、そこでまさかといった可能性に気が付いた。

わざわざ雲を発生させるような理由の中に一つ、極めてロマンに溢れたものがあったと。

そして彼女は、そういったロマンを追い求めるのが大好きだったとも。

「ふむ、これはもしや……」

ミラはフローネに不敵な笑みを向けるなり、颯爽とヒッポグリフに跨った。

フローネも、ミラが何をしようとしているのかに気づいたようだ。「じっじ、ちょっと待って!」と慌てるが、もう遅い。

ミラは、そのまま上空へと一気に上がっていった。

百メートル、二百メートル……そして五百メートルまで上昇したミラは、そこから周囲を一望した。

見渡す限りの森には端がある。この場所は、一つの島であった。

けれども、ただの島ではない。森の先には青い海──ではなく、白い雲が広がっていた。

一見すると、ここは島ではなく山の上にあるだけかもしれない。雲を抜けた先にあるだけで、雲の海に浮かぶ島のように見えているだけではないかと。

だが、その可能性を否定する要素もまた、そこにはあった。

先程の竜人が報告したように、確認が必要な箇所が原因だろう。その雲に僅かながらの隙間が出来ていたのだ。

その隙間より見えたのは雲の下に広がる海、そして大陸だった。

見える大陸は、ニルヴァーナ国のある辺り。更に見え方からして、ここはフローネの言葉通りにニルヴァーナの北側で間違いなさそうである。

「流石はフローネじゃな。よもやここまでするとはのぅ!」

ニルヴァーナの北側。現在の視点から予測出来る場所には海しかない。そんな場所から望むその光景を前にして、ミラは大いに笑った。

そう、この島は空に浮かぶ島だったのだ。

空に浮かぶ島の中央。そこに立つロマンの塊である天空城。

ミラはそんな城の一室にて、フローネより根掘り葉掘りと事情を訊き出していた。

「そうです、天空の城です。私が造りました」

まるで事情聴取をされる容疑者の如く質問に答えるフローネ。一つ目の問いである、この空に浮かぶ島についての答えがそれだった。

彼女が言うに、なんとこの島は元よりあった場所を占拠したり、かつての課金アイテムであった飛び島を見つけたりしたのではなく、自身で開発した術式と技術によって既存の島を空に飛ばしたものであるそうだ。

「相変わらず、突飛な事で驚かせてくれるものじゃな」

九賢者の中でも特に研究熱心だったフローネ。しかも可能性は無限大ともされる無形術のスペシャリストな彼女に驚かされたのは、これで何百回目か。

その中でも、今回は五本の指に入るほどの出来事だ。

「して、この島は──」

ミラは、まだ止まぬ驚きを胸に秘めたまま、更にあれやこれやと質問を飛ばしていく。

ここにいる精霊達は全てミラの支持者となったため、フローネは逃走と誤魔化しを諦めて、それらにも素直に答えていった。

一つ。この島の土台は、本当の島として存在していたものである事。

そして島に広がる実り豊かな森はというと、大陸のところどころから大地ごとちょろまかしてきたなどという、とんでもない問題発言が飛び出した。

「大地ごと……とはまた。して、どのようにやったのじゃ?」

フローネの事である。なんとなく予想はついたがあえて訊くと、彼女は得意げに言った。「そんなの地面ごと浮かべて、そのままどーんに決まってるじゃん」と。

話によると、それこそアイスをスプーンで掬うかのようにして、木々をこの島に移植していき理想の森を作ったとの事だ。

「これまた随分な力業じゃのぅ……」

あまりにも豪快なやり方に呆れるミラだったが、それと同時にふとした記憶が脳裏を過ぎり、まさかとばかりにフローネを見やった。

ミラが思い出した事。それは数か月も前にまで遡る。

(あれは確か……天上廃都に向かう途中じゃったな──)

当時、ソウルハウルの手がかりを求めて、大陸鉄道に乗ってアリスファリウス聖国方面へと出向いた時だ。

目的地である天上廃都の近くで、二人組の冒険者と出会った事があった。

(狩人と侍のコンビで、名前は……ギルベルトとハインリヒとか言うたかのぅ)

と、そのようにミラがぽつりぽつりと前の記憶を思い出していたところ、急に黙り込んだ事が気になったのかフローネが「何じっじ、なんかあるの?」と不安げに見つめてくる。

「いや、何。お主がしでかした悪行について、ちょいとばかし心当たりがあってのぅ──」

よもやまさかと思いながらも、ほぼ確信めいた表情で、ミラはその心当たりについて口にした。「──して、もしや天上廃都の傍にある森の一部もここにあるのではないか?」と。

瞬間フローネの顔に『じっじ、凄い。大正解!』とでも答えようといった表情が浮かぶ。だがその直前でミラの言葉にあった『しでかした悪行』という部分に気づき言葉を呑み込んだようだ。

彼女は、その代わりにふいっと視線を右斜め下へと逸らしながら「えっと、無いかな」と答えた。

「嘘じゃろう?」

ミラが一も二もなく見破ったところ、フローネはハッとしたように自身の癖に気づきそのまま唇を尖らせた。

「はい、あります」

どこか不貞腐れ気味に答えたフローネは、もう見破られるものかとばかりにずっと右下辺りを見続けるという策に出た。

だが、それはつまり、場合によってはまだ嘘を吐くつもりであるという証明に他ならない。

(やはり、か。となれば他のもフローネの仕業とみて間違いなさそうじゃな……)

フローネが策を弄している中、ミラはギルベルトから聞いた話について振り返る。

ギルベルトが天上廃都に向かおうとしていた理由。

それは、 大地喰い(アースイーター) なる怪現象の謎を解き明かすためだという話だった。

大地喰い(アースイーター) 。彼が言うにその現象は、一夜にして森の一角などが消滅するというものだ。

そして、その跡地には大きなクレーターのような穴が残されていたらしい。

精霊の暴走や神の悪戯、異世界からの侵略など。原因について様々な憶測が飛び交っていたそうだ。

だがしかしである。ここでフローネの言葉を今一度、思い返してみたならどうか。

彼女は言った。実り豊かな森は、大陸のところどころから大地ごとちょろまかしてきたと。アイスをスプーンで掬うようにして、この天空島へと移植したのだと。

さて、そうした場合、ちょろまかされた方はどうなるのか。想像してみると、それはもうスプーンで掬われたかのような跡が残るように思えるというものだ。

つまり、その規模によっては大きなクレーターのようにも見える事だろう。

(こ奴じゃ! こ奴があの現象の犯人じゃ!)

ミラは、そう確信した。 大地喰い(アースイーター) を引き起こしていた元凶は、このフローネで間違いないと。

そして同時に思った。きっと面倒な事になるので、この件は決して表に出さない方がいいと。

「よいか、フローネや。天上廃都と、それ以外の分も含め、今後この件については絶対に秘密じゃからな。他言するでないぞ?」

アルカイト王国の九賢者が、よそ様の国の土地を勝手に持っていったなんて事が知られれば大炎上は確実というものだ。

よってミラがそう固く口止めしたところ、フローネは右下を見続けたまま「わかりました」と素直に頷き答えたのだった。

「森はね、結構いい感じに出来たと思うの。でもこの島はまだ完璧じゃないのよ」

森の輸入先については共に口を閉ざすと約束した。その次になぜ逃げたのかと問えば、フローネは理想の天空城を完成させる事が今の目標だからだと豪語する。

だが、その前に見られてしまいがっかりだと落ち込んだ様子だ。

彼女がミラを追い返そうとした理由、逃げようとした意味は、そこにあったわけだ。

「皆をびっくりさせようと思ったのに……じっじの意地悪……」

長い年月をかけて用意していたびっくりネタが、仕込みの途中で見つかった。

その事で、特に不貞腐れた様子のフローネ。

「仕方がないじゃろう。何も言わぬお主が悪い──」

ミラはそんな彼女にアルカイト王国の現状についてと、ソロモンより九賢者──フローネを捜し出すように頼まれているのだという事を話した。

そして見つけたら追いかけるのは当たり前、逃げようものなら捕まえるのは当たり前、何かを隠しているのなら暴くのが当たり前だと、それはもう胸を張って告げた。

「いつも通り、酷い暴論なの……」

相変わらずだと眉根を寄せるフローネは、そんな事でこれまでの苦労がとミラを睨みつつも、そこで一つ提案を口にした。

「じっじ、取引しましょ。私は、期限内に戻る。だからそれまでの間、私の事と、この島については秘密。どお?」

フローネは言う。予定通りにこの天空城が完成した暁には、この島を引っ提げてアルカイト王国へと帰還。皆の度肝を抜き九賢者フローネここに在りと、アルカイト王国の名共々に広めてやるのだと。

ゆえにそれまでの間、この事については二人だけの秘密にしてほしいというのが彼女の望みだった。

ただそんな事を言ってはいるが、ミラは理解していた。フローネは単純に皆を驚かせたいだけであると。

そのためには努力を惜しまない。彼女は、そういう性格なのだ。

「──ふむ、わかった。期限までに戻ると言うのならば、その取引を受けるとしよう。それに、わしもあ奴らがこれを見て驚く様を見てやりたいのでな!」

この天空城の件については、報告せずにおく。ミラは確かにそれも面白そうだと考えるなり、フローネの提案に応じた。この天空城を見せつけたとしたら、ソロモンですら仰天するだろうと。

「流石じっじ、話がわかる!」

きっと理解してくれると信じていた。そう言わんばかりな笑顔を見せたフローネ。

そして取引成立として二人は、固く握手を交わす。

ソロモンと残りの九賢者達を、これでもかと仰天させてやろうと企む二人の共犯同盟がここに成立する。

ただその際に、『ところで我も一枚かませてくれないか』『楽しそうね。私もいいかしら』といった精霊王とマーテルの声が握手を通じて届いた事で、フローネをドッキリさせる事に成功した。

ミラは、誰の声かと混乱するフローネを見つめながら大成功とばかりにほくそ笑むのだった。