軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

409 魔女っ娘

四百九

ブルースの決勝トーナメント出場決定を確認したミラは、ライバルになるだろうその後の予選決勝まで観戦してから闘技場を後にした。

時刻は夕暮れ時。ブルースの噂をしている観客の声をちらほらと聞いたミラは、ご機嫌な様子で会場内の催し物を見て回っていた。

(ふむ、この甘みと苦みの絶妙なバランス。悪くないのぅ)

途中で見つけたキャラメリゼオレを堪能しつつ、他にも美味しいものはないかと会場内を散策するミラ。

レストランブースや屋台などを色々と見て回りつつ、次はどれにしようかとのんびり考える。

そうして丁度、マジカルナイツのブース前を通りかかったところで、ミラは一際盛り上がった歓声に何事かと振り返った。

(これは確か……昨日三人娘が言っておったやつじゃな)

見るとブースの舞台上にて、新ブランドのお披露目が始まっていた。

ミレイとマリエッタ、ネーネらが言うに、その新ブランドは魔女っ娘をテーマとしているそうだ。

(魔女っ娘……のぅ)

昨日、マジカルナイツのブース内にて、ちらりとそれらを見た時の事を思い出したミラ。

ミレイ達は言っていた。その新ブランドは、魔法少女風よりも幾分大人向けのデザインであり、可愛いよりもカッコイイ寄りなのだと。

そこでふと、ミラの脳裏に一つの想いが過る。どうせ着せられるのなら、カッコイイ方がいいのではないかと。

そのようにリリィ達を説得するのも一つの手ではないか。そう考えたミラは、少しばかりの興味を胸にファッションショーを観覧してみた。

(ふむ……なるほど。悪くない)

次々と紹介されていく、魔女っ娘シリーズの衣装の数々。

大人しめな色使いと、シックなデザイン。それでいて所々に中二心を擽る要素も施されており、ミラは、これならまだ着せられても問題ないなどと考えた。

もはや女性ものの服を着る事など慣れっことでもいった様子だが、服にはこういった系統以外にも沢山あるという事が頭から抜け落ちているようでもあった。

それもこれも、リリィ達の影響によるものか。もはや洗脳に近い状態だ。

(ふむふむ、あれも悪くないのぅ──。それも──。ああ、これはフローネが気に入りそうじゃな)

何となくで見始めたが、これが存外悪くない。ミラは、なかなかどうしてと前のめりに品定めを始める。

と、そのように熱を入れ始めたミラだが場所が場所だ。周りはマジカルナイツのファンばかりであり、新衣装が登場するたび大盛り上がり。

落ち着いてじっくり見られないという事で、どうにかこうにか隙間を抜けて移動するミラ。

またそうしている内に、一つ把握出来た事がある。

それは、魔女っ娘シリーズに格別な期待を寄せている観客達の層についてだ。

魔法少女風は好きだけど、もう少し年齢に見合った落ち着いたものが──といった大人な女性達が、特に盛り上がっている様子だった。

(確かに、そう思う者もおったじゃろうな)

魔法少女風というのが流行っている事から、どこの街にもそういった服装の女性はいた。

ただ魔法少女とあるように、基本的なデザインのコンセプトは少女向けだ。大人な女性──特に落ち着いてくる頃合いには、少々行き過ぎた部分も多々ある印象だった。

そこに登場したのが、今回の新ブランドだ。

これにはお姉さん方も、大満足といった盛況ぶりとなる。

(ほぅ、あの娘、先取り具合からして、なかなかのセンスじゃな)

大人な女性がメインターゲットだろう事は感じ取れたが、かといって少女が対象外などというわけでは決してない。

ミラは特殊な部類だが、それでもちらりと目に入った少女も、今回のシリーズを随分と気に入った様子だ。それはもう素晴らしいとばかりに拍手しているのが見えた。

しかもその少女、かなりのマジカルナイツフリークと見受けられる。

基本は魔法少女風ながら、その組み合わせや色合いなどを工夫する事でシックでクールに、それこそ魔女っ娘寄りにカスタマイズした服装であったのだ。

(そういえば、フローネもあんな感じじゃったな。あれに魔女っぽい帽子……を、被……って──って!?)

ふと目にした少女は、その服装のセンスに加え背格好もフローネに似ていた。

更にそこへ彼女のトレードマークであるとんがり帽子を被せれば、もっと近づくのではないか、などと思いつつ自然とその少女を見つめたところで、ミラは不意に下りてきた直感に目を見開く。

僅かに窺える、その少女の横顔。それを目にした瞬間に思った。むしろ、フローネにそっくり過ぎではないかと。

(いやいや、流石にそこまでの偶然は有り得んじゃろう──)

よもや本人か。そんな予感が脳裏を過ったが、そんなまさかと身構えるミラ。

この広い世界。未だ行方も知れず所在の情報すら皆無で、きっと一番捜索難度が高いだろうと予想していたフローネが、まさかこんなところで偶然見つかるなんて。そんな都合のいい展開など、あるはずがない、と。

ミラは希望的観測過ぎる状況に待ったをかけて、冷静になれと自分に促す。

ソウルハウルにカグラ、ラストラーダとアルテシア、そしてメイリン。捜し出すのに色々と苦労したものだ。

それがフローネともなれば、ダンジョンの一つや二つは攻略し、未開の地までも切り拓くくらいに大変だろうと、ミラは心の隅で覚悟していた。

しかしどうだ。こんな何でもないイベントブースで邂逅など、これまでを思えば、むしろ何かの罠ではないかと疑ってしまう状況ですらある。

と、それほどまでに慌てたミラは、だからこそ一度落ち着くように自らを戒め、ゆっくりと深呼吸する。

まだ、ちらりと横顔が見えただけだ。もしかしたら横顔が似てるだけの別人かもしれない。

(よし、まずは確認じゃ)

ミラはどうにか落ち着きを取り戻すと、まずはフローネと思しき少女の顔をしっかり確認しようと動き始める。

目指す場所は、正面から顔が見える位置だ。

(こちらに気付いた様子はなさそうじゃな)

フローネと思しき少女を見失わぬよう注意しながら、徐々に徐々に進んでいく。

そうして時間をかけて正面側にまで移り終えたミラは、そこから気付かれぬように振り返り、フローネと思しき少女を見やる。

その少女は、ファッションショーに夢中だった。

そしてミラは、そんな少女の顔をしかと捉えて確信する。余程の事でもない限り、彼女こそがフローネ本人で間違いないと。

(やはり本人じゃー! あの顔……記憶となんら変わっておらぬ。服の趣味もじゃが、あのイヤリングはイリーシャ作の一点もので、フローネのお気に入りじゃったからな……)

背格好に顔、服の趣味とお気に入りのイヤリングなど、見れば見るほど複数の要素が一致していき、それら全てが彼女こそフローネ本人だと示していた。

何かの罠でない限り、奇跡的な偶然によって九賢者の一人を発見してしまったというわけだ。

(どちらにせよ、このチャンスを逃す手はないじゃろう!)

ここで見失えば、もうこれほどの好機は巡ってこない。そう確信するミラは、早速とばかりにフローネ確保のため動──こうとした。

だがそこで止まるなり、周りを窺う。

ミラは思ったのだ。この状況下にて、どのようにフローネと接触すればよいのかと。

(ふーむ……こんなに人がいる中で、「お主、九賢者のフローネじゃな?」などと訊くわけにもいかぬからのぅ……)

九賢者捜しは、極秘任務だ。よって人に声を聞かれる環境下で、大っぴらに実行出来るはずもない。

また、別の方法で接触するにせよ、相手は予測不能なフローネである。彼女なりに戻ってこない理由があるはずだ。

その結果、どのような反応をするかがわからないというのも問題だった。周りに迷惑がかかるかもしれない。

ゆえに万全を期すのなら、彼女が一人きりになってから声をかけるのが、もっとも無難といえるだろう。

(そうとなれば、まずは見失わぬよう見張れる位置に移動じゃな)

ファッションショーに夢中な様子からして、これが終わるまでの間は待つ必要がありそうだ。

そう判断したミラは、もっと自然に見張れるように移動を開始した。

目指すは、フローネの死角となる背後。そして振り返るなどという不自然な行動をせずとも監視出来る位置だ。

観客の間をすり抜けて理想的な位置についたミラは、そこでファッションショーが終わるまで待った。

マジカルナイツの新ブランドである魔女っ娘シリーズの発表は、終始大盛況で幕を閉じた。

しかも来週から店舗に並ぶとの事で、観客達のテンションは最高潮だ。

と、そうして熱も冷めやらぬ中で観客席よりはけていくマジカルナイツフリーク達。

それと共にフローネもまた、いよいよ動き出した。他の客と同じ流れにのってマジカルナイツのブースを後にする。

(さて、いっその事、ねぐらまで突き止めてしまうというのも有りじゃが──)

ミラは付かず離れずの距離を保ちながら、フローネの尾行を開始した。

加えて頼もしい仲間も一緒だ。

『ポポット、ちゃんと見えてるのー』

『小生の目からは、何者も逃れられないですにゃ!』

空からはポポットワイズが。そして地上の別地点からは団員一号が、しっかりとフローネを見張っていた。

彼女がどのような動きをしようとも、人ごみに紛れてしまおうとも、これだけの観測点があれば決して見失う事はないだろう。

(しかし国にも顔を見せずに、今までどうしていたのじゃろうな)

メイリンに次ぐ自由人として仲間内で周知されているフローネ。彼女は、これまでの間この世界で何をしていたのだろうか。

そして、今はどこでどのように暮らしているのか。

色々と訊きたい事は山のようにあるが、彼女は何かと秘密主義な気質だ。

よって何かしら企んでいる場合、今回のような遭遇において、逃走という手段をとる場合も十分にあり得た。

だからこそ尾行から接触に切り替える際は、より慎重な動きが求められる。

勘付かれないようにするためにはワーズランベールの力を借りるのが最適だが、隠れて尾行をしようものなら当然警戒させてしまうため今回はお休みだ。

むしろ、好奇心の強い彼女が相手ならば、多少気付かれるくらいが丁度いい。

なぜ尾行していたのかと興味を持ち、あちら側から声を掛けてくる可能性だってあるからだ。

とはいえ、そこは負けず嫌いなミラである。簡単に気付かれてたまるものかと、細心の注意を払ってフローネを追跡する。

(ふむ、会場を出たか。さて、どこまで行くのやら)

都市部へと進んでいくフローネ。今夜の夕食と明日の朝食分だろうか。幾つかの店を巡り、出来合いの料理を購入して回っている。

(これまた相変わらず、料理は苦手なようじゃのぅ)

ミラは生鮮食品を扱う店には目もくれないその潔さに懐かしみを感じつつ、小腹が減ったと串焼きを一本購入した。

更に幾つかの店を巡り色々と買い物をしていたフローネが、いよいよ商店街を離れていく。

続いてやって来たのは、宿場街だ。

このまま宿に帰るのだろうか。それならばフローネが滞在している部屋を特定し、そこで接触した方がゆっくり静かに話し合えるかもしれない。

(しかし……高級そうな宿ばっかりじゃな)

都心部に近い宿場街だけあって、どこもかしこも一目で高級だとわかる面構えの宿ばかりが並んでいる。

若干気後れするミラだったが、そこそこの宿に泊まった事もあると自負して胸を張り大通りを進んでいく。

人の流れの多い宿場街。時間も頃合いとあってか、時折見失いそうになるほどの波に呑まれるミラ。けれどもその都度、ポポットワイズと団員一号の活躍により素早く捕捉し直す事が出来ていた。

(む……奥に入り込んでいったのぅ)

そうこうして宿場街にやってきてから、十分と少々。そもそもまだ宿を決めていないのか、あちらへこちらへと見て回っていたフローネが、ふと大通りより脇道へと入ったではないか。

(これはきっとあれじゃろぅ。大通りの宿はどこも高過ぎたから、ランクを落とそうと考えたのじゃろうな。お主の考えは、手に取るようにわかるわい!)

同じような経験があったミラは、同情的に同意しながらも、どんな動きもお見通しだとばかりにほくそ笑んだ。

ともあれ、何も良い宿というのは高いばかりではない。安くて良い宿というのも沢山あるものだ。

(どれどれ、フローネの目は如何ほどじゃろうな!)

数ある宿の中から、彼女は素晴らしい宿を見つけ出す事は出来るだろうか。

幾度となくそれを成功させてきたミラは、挑戦者を迎え撃つ絶対王者の如き意気込みを以て脇道へと足を踏み入れていった。

「なっ──!?」

それは、ほんの刹那の出来事。突如光に包まれたミラは、その脇道より姿を消したのだった。