軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

408 予選決勝

四百八

爽快な朝の空気。窓から望める空は半分ほどが雲に覆われているが、そこから差し込む陽ざしはより輝いて見えた。

気付けば秋も中程まで差し掛かった今は何とも心地良く、過ごし易い日々だ。

ミラは、そんな空の下を歩いていく。徐々に賑わい始める大会会場の入り口前をそのまま通過しながら、昨日のコンサートは大盛り上がりだったと思い返す。

(よもや、あの二人にまた逢えるとはのぅ。しかもリアーナも楽器を手に歌っておるとは驚きじゃった)

ミラは初めて出逢った時の二人を思い出しながら、当時との変わりように微笑む。

あれから余程頑張って練習したのだろう。そして何より、二人の相性が抜群だったのだろう。リアーナの歌声と演奏は、エミーリオのそれと見事に調和していた。

レティシャにお墨付きを与えられるほどにだ。

(きっと、またどこかでばったりと出逢いそうじゃな)

コンサートの後、二人とは、またいつかと別れた。そして不思議と言葉通りに、またどこかで逢えそうな予感がミラにはあった。

(更にあの様子からして、召喚術の素晴らしさも相当に伝わった事じゃろうな!)

エミーリオとリアーナはもちろんの事、観客だけではなく、多くの音楽家達もレティシャとのアンサンブルを楽しんでくれた。

音の精霊といえば、音楽を生業とする者にとって崇敬にも値する存在だ。

そんな存在との出逢いを成したのが召喚術ともなれば、それはもう特別と感じてくれた事だろう。

音楽家達は、国を巡る者が多い。ともなれば、そんな召喚術の偉大さを各地で語ってくれてもおかしくはないというもの。

(これでまた一つ、召喚術復興への道が拓けたかもしれぬな!)

ミラは召喚術の未来が楽しみだとほくそ笑みながら、城下町の大通りを進んでいく。

朝から甘い匂いを漂わせる菓子店や、店頭で弁当を販売しているレストラン。興味深い品が並ぶ術具店に、掘り出し物がありそうな万屋。

歩いているだけ、見ているだけで楽しいそれらの誘惑に抗わず堪能しつつ、あちらこちらを巡るミラ。

今日のミラは、久しぶりに一人だった。

先日の作戦によってイラ・ムエルテを壊滅させた事により、ニルヴァーナ皇国内に潜んでいた関係者らも芋づる式に検挙されていった。

それらの中にはイリスの命を狙っていた者などもいたが、数日前にそれら全ての拘束を確認。

そうして安全面が確保出来た事で、イリスの通学が可能となったのだ。

とはいえ学業の遅れやら何やらとあるため、直ぐにとはいかないようである。

時間のある時にアルマやエスメラルダが教えていた事に加え、自習などもしていたそうだが限界もあった。

今イリスは、凄腕の家庭教師に一般教養を学んでいるところだ。

(何かあればシャルウィナから連絡が入るじゃろうから、今日は存分に一人を楽しむとしようかのぅ)

こうして完全に一人になったのは何日ぶりだろうか。

ミラは風の吹くまま気の向くままに観光を楽しむ。当然、昨日のゴスロリとは違う平凡な服で完璧に変装済みだ。

と、そうしてあっちにふらふら、こっちにふらふらとしていたところで、冒険者総合組合の前を通りかかった。

大国の首都だけあって、ラトナトラヤの組合は見上げるほどの大きさだ。

どこぞの領事館かと思えるほどに立派なそれは、一つの建物ながら左右で戦士組合と術士組合に分かれている。

と、そんな組合前を通り過ぎようとしたところで、「精霊女王──」という声がミラの耳に飛び込んできた。

「むむ!?」

様々な音が交じる中にありながらも、特定の声、自分に関係する単語というのは不思議と際立って聞こえるものだ。

ミラもまた耳ざとくそれを捉えて立ち止まる。

「──で──昨日、精霊女王が……──」

何やら冒険者総合組合にて、精霊女王の話題で盛り上がっている者達がいる様子である。

(ふむ……早速昨日の宣伝効果が出てきたようじゃな!)

これは良い兆候ではないかと察したミラは、ふと思い立ち、そのまま組合内へと歩を進めた。

これまでにも幾らか噂の種などは蒔いてきたが、それらがどのように伝わっていくのかといった過程について興味が湧いたのだ。

「──で、まさかの本人登場ってんだからびっくりだ」

「なんだそれ。すっげぇ偶然もあるもんだな」

「いやいや、流石にそこまできたら仕込みじゃね?」

「どうかなぁ、そんな感じはしなかったが」

「でも思いっきり変装して紛れてたんだろ?」

「それはあれだよ。有名人だからそうしてただけじゃないか?」

「だったら、あんな目立つような登場する必要もなくないか? 裏でこっそり再会でいいじゃん」

彼らは召喚術については触れず、精霊女王の話が出てからの本人登場について熱く語っていた。偶然か演出かと。

あれは正真正銘の偶然だったと言ってやりたい。そう心の内で思うミラだったが、それでは変装している意味がなくなってしまうというもの。

と、そうしてもどかしくしながらも依頼掲示板の前で聞き耳を立てていたところ、彼らの話が伝播したのか、「精霊女王といえば──」などという声が別の場所でも上がった。

「何か聞いたところによるとさ、召喚術士がいると水の心配がなくなるとかいう話だぞ──」

そういう話題を待っていましたとばかりに喜ぶミラ。

更にそこから発展して、家や家具なんかもあるという噂も徐々に広がりをみせていく。

だが、そこにいる冒険者達の反応を見るに半信半疑といったところだ。詳しい者がほとんどいない召喚術だからこそ、余計に尾びれ背びれがついてしまっているのではないか、などという声も飛び出し始める次第である。

(おのれ……余計な事を……)

召喚術って実は凄いのでは……という状況から一転、そうであると願いたい召喚術士の妄想が作り上げたデマではないかといった空気になりつつある組合内。

かといって、今のミラは変装中だ。大きく反論などしようものなら身バレしてしまう恐れもあった。

「いいや、嘘ではない! ならばこのわし自ら、その証拠を見せてやろうではないか!」

あったのだがミラは堂々と名乗りを上げ、ここにいる全ての者達に噂は全てが真実であるという事を存分に見せつけたのだった。

「また別の変装を考えねばな……」

召喚術の素晴らしさを冒険者達の骨身にまで教え込んだミラは、「水精霊と友達になるぞ!」と盛り上がる者達を見送りつつ溜め息を漏らす。

と、そんなミラにそっと話しかける男が一人。

「ミラ様、丁度良いところに。数日前にミラ様宛ての荷物を預かっております──」

それは組合の係員だった。彼が言うにファンからの贈り物が届いているそうだ。

「なんと!」

ファンからの贈り物。その素晴らしい響きに変装がどうとかいう悩みは掻き消え、舞い上がるミラ。

受け取りについては、どうするか。そのように訊かれたミラは、少し考えてからこの支店で受け取ると答えた。

前回はルナティックレイクの組合に送ってもらったが、今回はまだ暫くここに滞在する事となる。だからこその選択だ。

「畏まりました。明日は定期の空輸便がありますので、夕暮れ時には届くでしょう」

「うむ、わかった。では、また明日受け取りに来るとしよう」

そのように頷いたミラは『ファンからの贈り物とか、流石は精霊女王だ』などといった声を背に受けながら、意気揚々と胸を張り術士組合を後にした。

術士組合にて変装をバラしてしまったが、まだその情報は出回り切っていないようだ。

ミラはこれといって目立つ事なく、のんびりと続きの観光を楽しめていた。

と、そうして幾らかの時間が過ぎ、もうじき昼を回ろうかというところだ。

「さて、そろそろじゃな」

時間を確認したミラは、さてとばかりに方向を変えて歩き出す。

向かう先は闘技場だ。今日は、第二十八グループの予選決勝があった。そしてその第二十八グループには、ブルースがいた。

(あともう一息じゃぞ、ブルース!)

ブルースが決勝トーナメントに駒を進められるように、また彼が召喚術士として立派に戦っているかを見届けるために観戦するつもりだ。

ちなみにメイリンは既に決勝トーナメント出場決定済みである。

闘技場には、アルマより賓客入場章を貰っているため、いつでも出入りは自由だ。

更に、賓客用の特別観戦席まで使えるときた。ほどよい距離と高さがあり、舞台全体を見渡せる素晴らしい眺望の席である。

またここは室内席となっていて、周りを気にせず観戦が出来た。身バレを気にする必要もなさそうだ。

「さてさて、ブルースは後どれくらいで登場かのぅ」

途中で購入した焼鳥、フライドポテトにレモンサワーという鉄板セットを手に観戦を開始するミラ。

完全に、スタジアムで野球観戦をするそれである。

現在、闘技場で行われているのはそれぞれのグループごとの予選準決勝。

一人、また一人と予選決勝への進出を決めていく。

「流石は過酷なバトルロイヤルを勝ち抜いた者達よ。もうこの時点でも、上級冒険者くらいの実力者揃いじゃな」

一万をも超える出場者。しかも準決勝前までの予選はバトルロイヤル形式ともあって、それを突破するのは並大抵の難易度ではない。

バトルロイヤルともなれば、強い者を数人がかりで潰そうなどという戦い方も出来るからだ。

つまり準決勝まで駒を進めた出場者というのは、そういった妨害をも撥ね除けた猛者がほとんどだというわけだ。

「……ふむ、しかしこの試合は、ちと差があり過ぎるようじゃな」

とはいえ、中にはうまい事漁夫の利を収めた者や、仲間を作り結託して上がってきた者もいた。

けれど、この闘技大会において、身の丈に合っていない順位というのは危険である。

準決勝にて一対一となったところで、選別されるからだ。

今日も一人、狡賢く勝ち上がった男が救護室へと運ばれていった。

そうして試合も進み、いよいよ第二十グループからの予選決勝が始まる。

「決勝トーナメント……きっと素晴らしい舞台になったじゃろうな……」

予選の時点で、これだけの実力者が揃っているのだ。決勝トーナメントになれば、それこそAランクの中でも上位な冒険者や、もしかしたら九賢者クラスの強者まで出てくるかもしれない。

それはきっと、色々と試せる最高の実験場になっただろう。そして召喚術の可能性を広める最高の宣伝にもなっただろう。

改めてそう思ったミラは、なぜ出場禁止なのかと、むくれながらブルースの出番を待った。

予選決勝第二十、二十一、二十二グループと進んでいく。

予選も決勝までとなると皆が凄腕揃いであり、見応えのある試合が続いた。

戦士クラスに術士クラスが入り交じる無差別級。そこには人それぞれの戦術があり、「ほぅ、そうくるか」と、ミラにもまた得られた部分が幾つもあった。

それから更に試合は進み、いよいよ第二十八グループ目。ブルースの出番がやってきた。

司会のコールに合わせて登場するブルースは、予選決勝という舞台ながらも落ち着いた様子だ。

鍛えた召喚術の腕と、頼もしい仲間への信頼、そして何よりもミラに──九賢者ダンブルフに直接指導してもらったという自信がその顔には表れていた。

「よくぞここまで勝ち上がってきた。さあ、もう一勝じゃ!」

そうブルースに念を送るミラ。

と、次に司会の口からブルースの対戦相手が告げられて、その姿を見せたところで、ミラは「おお!?」と驚きの声を上げた。

対戦相手の名は、アルフェイル。

あれはいつぞやにソウルハウルの手掛かりを求めて、祈り子の森へと赴いた時だ。

森の手前の村にて、強い者と戦うのが好きだという男に試合を申し込まれた事があったが、その時の男の名がアルフェイルだった。

「ふむ……やはりあの男で間違いなさそうじゃ。確かに見覚えがある」

ブルースとアルフェイルの試合が始まるなり、ミラはその動きをつぶさに観察した。そして大胆で奇抜な動きや、極めて攻撃的な戦い方を見て同一人物であると確信する。

それでいて、あの頃よりも更にずっと技に磨きがかかっていた。ブルースのダークナイト二体を相手に引かぬどころか果敢に突撃して、これらを斬り伏せていくのだ。

「これまた厄介な相手と当たってしまったものじゃな。しかし勝機はあるぞ、ブルース。お主なら出来る!」

召喚術が廃れてしまい幾星霜。ブルースほどの召喚術士を相手にした事のある者は、そう多くはなかっただろう。

ここまでの予選において、そういった要素もブルースに大きくプラスに働いていたはずだ。

だがアルフェイル相手となると、少々違ってくる。彼は一度、ミラのダークロードとも戦った事があるからだ。

そして真の召喚術士に敗北し、その強さを思い知ったからこそ、アルフェイルは召喚術士との戦い方というのも学んできたようだ。その立ち回りは、まさしく召喚術士相手に適したものだった。

「さあ、ここが踏ん張りどころじゃぞ!」

ブルースには、対召喚術士戦法に対する戦い方というのも既に伝授してある。それを上手く使いこなせさえすれば、アルフェイルが相手だろうと勝てるはずだ。

期待を胸にミラが観戦する中、二人の激しい攻防は続いた。

懐に飛び込もうとするアルフェイルと、そうはさせぬと立ち回るブルース。

どちらが勝ってもおかしくはない。そんな一進一退の戦いに観客達も沸き上がったところで試合が動く。

「うむ、よいタイミングじゃな」

僅かな隙を見逃さずにアルフェイルが飛び込んだ瞬間、そこに塔盾が出現したのだ。

しかもそれだけに終わらない。続けざまにダークナイトの腕も現れると、手にした黒剣を振り下ろした。

そう、部分召喚である。

まだまだ挙動諸々に不備はあるものの、ブルースは実戦に投入出来るまでに仕上げ切ったようだ。

そしてこの新たな召喚術を前にして、アルフェイルが初めて距離をとった。

的確なタイミングでそれを行使した事で、ブルースはアルフェイルに警戒という行動をとらせたのだ。

神出鬼没な塔盾と黒剣。どこに現れるかわからない以上、相手は全方位に気を配る事となる。

しかも部分召喚は、通常の武具精霊召喚に比べ、ずっとマナ消費が少なくて済む。

それでいて相手にプレッシャーを与え、精神力の消耗を強要出来る。

これこそが部分召喚の隠された強みだ。

「よし。アルフェイルには気の毒じゃが、召喚術復興のためじゃ。いけ、ブルース!」

部分召喚という新たな召喚術。これの登場により、形勢は一気にブルースへと傾いた。

攻めるダークナイトと、護るホーリーナイト。更にサラマンダーが多角的に炎を浴びせていく。

僅かに立ち止まれば黒剣が現れ、塔盾にて動きを制限する。

流石は銀の連塔の術士というべきか。召喚術の習熟度と活用力は、それこそ天才の部類であった。

だがアルフェイルも、そのまま押されっぱなしでは終わらない。

部分召喚のタイミングを掴めないよう、その動きに緩急をつけ始めたのだ。

今のブルースでは、ミラのように直感的な発動は出来ない。ゆえに、その対策は正解だった。

「戦いの中で進化するとは、どこの主人公じゃろうな。とはいえ──」

戦況を見極めて対応し、すぐさまその動きを完全に身に付ける。

そんなアルフェイルの天才ぶりにも脱帽しつつ、だがミラはブルースの勝利を確信した。

そして、それから数分後。ミラの予想通りにブルースの勝利によって二人の試合は決着する。

勝敗の要因は、スタミナだ。

片や、動かず周囲を固め、部分召喚によりマナ消費を抑えたブルース。

片や、周囲に気を配りつつ、止まることなく動き続けたアルフェイル。

どちらが先に限界を迎えるか明白といえるだろう。

「ようやった、ようやったぞ!」

両者の奮闘を称えるように観客達からの喝采が響く中、ミラもまた立ち上がり称賛を送ったのだった。