軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

390 合流と遭遇

三百九十

レイド級魔獣殲滅後。各自が次の準備や点検などを行っている中で、ソウルハウルは魔獣の死骸を調べていた。

「やっぱりあったな。こいつが制御術式ってわけだ──」

九賢者とて楽に勝てる相手ではない、レイド級の魔獣。それは決して番犬のような存在に成り下がるものではない。ではなぜ、このような場所で大人しくしていたのか。

その原因であろう一つを突き止めたソウルハウル。いったい誰が、それを行ったのか。どのようにして、このような業を構築したのか。

ソウルハウルは、魔獣の心臓に刻まれた術式を読み解き始める。

「なるほど、生命を媒介にして焼き付けたのか──」

魔獣を支配するなど容易な事ではない。ゆえにその術式は、多大な犠牲を伴うものだった。だが、それゆえにソウルハウルは心を躍らせる。

「そうか、これは面白い。つまり、犠牲があれば強大な魔獣だろうと意のままってわけだ」

犠牲。それさえ用意出来るのならば、レイド級の魔獣であろうと駒になる。それを体現してみせた術式を前にして薄らと笑うソウルハウル。

現時点においては、彼の実力をもってしてもレイド級の魔獣を死霊術で操る事は不可能だった。

けれど今、ここに可能性が示された。それは犠牲を必要とするものだが、ソウルハウルにとってそれは些細な事でしかなく、ここぞとばかりに術式を写し始める。

神命光輝の聖杯という代物を完成させた反動か、これまで退屈そうな目の色をしていたソウルハウル。

だが今は、違う。その目は、新しいおもちゃを与えられた子供のように輝いていた。

そんなソウルハウルとは、また違った視点で魔獣を見つめる目があった。

「しかし、あれだけの大物揃いじゃ。全てから素材を回収出来ていたのなら……」

改めるようにして瓦解しかけた広間を見回しながら、もったいないと悔やむ貧乏性なミラ。

この部屋にいた魔物と魔獣は、七体分を残して全て消し炭となった。戦略的には、そうする事が最も確実で安全な方法だったのだが如何せん膨大な数が焼失した。

言葉通りに全てを回収出来たとしたら、それこそアルカイト王国の国家予算の半年分には届くのではないかというほどの金額になったであろう。

そのためかミラばかりでなく、ルミナリアも「そうだなぁ」と少し惜しそうな顔だ。

「外でも幾らか倒していたのが僅かな救いね」

またカグラも同意するように答えた。五十鈴連盟という組織の長だけあって、やはり資金繰りには悩んでいるようだ。その大切さをかみしめるようにして、広間に転がる魔獣の死骸を見据える。この場に残ったのは僅かだが、幾らかは素材を回収出来ないかとばかりな目だ。

それはレイド級魔獣を倒しきり、次はどう動こうかと話し合っていたところだった。

「にしても、きりがねぇな」

まるでシューティングゲームのように魔物を撃ち落しながら、愚痴をこぼすルミナリア。

大半の戦力が集まっていた広間は壊滅させた。けれどこの拠点には、まだまだ巡回の魔物が残っている。

レイド級魔獣との激戦の音に誘われたのか、その魔物達が集まり始めていた。どれもが知力よりも戦闘力に秀でるAランク相当であり、しかも休みなく襲って来るときたものだ。

魔物側の戦力は、高名な冒険者グループを複数集めた同盟チームでも耐え切れないほどに高く、戦意も激しいものだった。現状は油断などしている暇もなく休む事も出来ない、インターバル皆無なウェーブ戦となっていた。

だが、この場にいる六人は一国を背負う国家戦力ばかりである。頭数は一グループだが、総戦力は複数のグループの集まりである同盟チームをも軽く凌駕していた。

「ところで、あちら側の状況はどうじゃろうな。そろそろボスの居場所の特定が出来た頃合じゃろうか」

適当に灰騎士をばら撒いた後はアルフィナらに任せ、箱状の術具をちらちらと確認し続けていたミラ。

その術具は、双方のチームで連絡が取れるようにと用意されたものだ。ボスの居場所を特定出来たら連絡が入る予定である。だが未だに発見の報告はない。

ミラ達の役目は、敵側の注意を集める事。これだけ盛大に大暴れし、魔物や魔獣を大量に討ち取ったのだ。きっとノイン側は相応に動き易かったはずだろう。

だが未だに、連絡は入っていなかった。

「うーん、随分と謎の多い造りだから流石にもう暫くはかかるんじゃない?」

カグラもまた式神に自動迎撃をさせながら、片手間でピー助を飛ばして周辺の調査を行っていた。

迷宮のように入り組んだ内部構造だ。あちら側には専門家のサイゾーがいるとはいえ、そう簡単には進まないだろうというのがカグラの予想だ。

「何にしても、どんな奴なんだろうな」

ボスに会うのが楽しみだと不敵に笑うのは、ソウルハウルだ。複数のゴーレムで魔物を倒しては、倒した魔物を死霊術で操り次を仕留めて、また操るを繰り返す。まるでゾンビ映画のシーンにも似た光景が繰り広げられる中で、彼は研究ノートに何かをひたすらに書き込んでいた。

「あれでやる事やっているってんだからなぁ」

のんびりとした様子のミラ達を、ちらりと目端に映しながらぼやくのはゴットフリートだ。戦場を駆け巡り魔物を斬り捨てていく彼は、一見するとサボっているようにしか見えない使役系の三人に不満顔だ。己の肉体をもってしてぶつかり合う事こそが戦いだというのが彼の信条である。

そして、そんなゴットフリートが絶賛するのが暴れ回るもう一人だ。

「さあ、次ネ! 温まってきたヨ!」

魔物の波など何のそのと、向かってくる端から蹴散らしていくのはメイリンだ。

仲間すら踏み台にして襲い掛かってくる魔物は、あらゆる方向、あらゆる死角から迫ってくる。それを紙一重で躱し、また打ち据え受け流すメイリンのそれは、正しく武闘の粋ともいうべきほどに洗練されていた。

好戦的という点で共通する、メイリンとゴットフリート。だが、その戦闘スタイルはというと正反対だ。

「負けちゃあいられないな!」

剣技に加え、圧倒的な破壊力で魔物を薙ぎ払っていくのがゴットフリートの戦い方である。

そして──

「むむ、勝負ネ? 私も負けないヨ!」

突出した拳技と、巧みな術捌きによって魔物をねじ伏せていくのがメイリンだ。

二人は数を競うようにして、集まってくる魔物達を片っ端から打ち倒していった。そして次の敵、次の敵と取り合うあまり、そのまま競うように外へと飛び出していく。

「まったく、元気じゃのぅ」

それを見送ったミラは、そっと前方に視線を移し「こっちもまた元気じゃのぅ」と嘆息する。

ミラの前方。そこには、人化の術で人の姿となったアイゼンファルドがいた。見惚れてしまいそうになるほどの技を見せつけていったメイリンとゴットフリートに感化されたのか、人の技というのに憧れを抱いたようだ。

竜の姿では出来ない……というよりはその圧倒的なパワーゆえにさほど必要のない技を、見様見真似で練習し始めていた。

「見てください、母上! どうですか!?」

敵はAランク相当の魔物だ。けれどアイゼンファルドの蹴りが炸裂するなり、ひしゃげて吹き飛び、そのまま死霊術で操られている魔物を巻き込んでいった。

流石にまだまだ見様見真似である。それはまだ技という域ではなく、純粋なアイゼンファルドの膂力による一撃だった。

「うむ、よいぞよいぞ! 見事な蹴りっぷりじゃった!」

それでいてミラは、手放しで褒めた。皇竜という優れた生まれに慢心せず、技を身に着けようと頑張る息子の成長ぶりを、ただただ喜んだのだ。

そしてアイゼンファルドはというと、そんなミラの言葉を聞いて、ますますやる気を漲らせていった。

「おいおい……」

こつこつと増やしていった支配下の魔物を次から次に巻き込まれ破壊されていくソウルハウルは、その光景を前に苦笑する。けれど、あの親バカに言ったところで無駄だとわかっているため、アイゼンファルドの周辺から支配下の魔物を遠ざけるだけに留めた。

それぞれが好き勝手に魔物達を倒し続けていった結果、遂に魔物の波が止んだ。

周辺には数百という魔物の死骸が転がっている。また、ソウルハウルが操っていた分は片隅で綺麗に並べられてある。素材採取がし易い状態だ。

「やり尽くしたか?」

これで、この島に集められた魔物を殲滅し終わったのだろうか。もう後続はないのかと、通路の先に目を凝らすルミナリア。

「お、何だよ、こっちにもいないのか」

「むぅ、これでは勝負がつかないネ」

周辺も殲滅し尽くしたようで、魔物を辿って飛び出していったゴットフリートとメイリンもまた戻ってきた。ここに魔物が残っている事を期待していたようだが、いないとわかり揃って落胆気味だ。

「うん、この周辺一帯は、もう何も残ってなさそうね」

カグラが改めるようにして、そう断言した。ピー助を飛ばして周辺を索敵した結果、魔物の姿は影一つ残っていないとの事だ。

「ふーむ、どうしたものかのぅ。まだ連絡は入らぬからのぅ」

陽動は、やり尽くした。だが、肝心のノイン達からは未だに連絡がこない。

もしや、何か不測の事態でも起きたのか。そのような考えが過るものの、その可能性は低いとミラは思い直す。

あちら側には絶対防御を誇るノインがいるのだ。何かあったところで、緊急の連絡を入れる時間くらいならば幾らでも稼げるはずだ。

「どうしたもんだろうな。いっその事、俺達も捜索を始めるって手もあるが、その手のプロがいるあっちのチームに比べて──」

陽動作戦も一段落した今、集合し直したところで一つの案を提示したルミナリア。だが次の瞬間には、このメンバーでは相当に無理がありそうだと苦笑する。

ノインチームには、調査捜索において右に出る者なしともされる実力を持つサイゾーがいる。そんな彼がいながら、未だ発見の連絡がこないのだ。ここで捜索力に劣るミラチームが動いたところで、何の足しにもならないだろうというのがルミナリアの考えだ。

「何を言うか。わしにも、その道のプロである団員一号とワントソ君がおるぞ。相手がサイゾーだろうと負けはせん!」

両者が合わされば後れはとらない。サイゾーに張り合うようにして主張したミラ。すると、「そうね、団員一号君なら十分に可能性はあると思う!」とカグラが大いに同意を示した。そして、さあ早く召喚をとばかりにミラを見て、その表情を期待で染める。

「いや、ちと難しいかもしれぬな……」

そういえばカグラがいた。団員一号を召喚したところで直ぐにカグラに捕獲されてしまうため、その能力が半減する。これではサイゾーに対抗出来ないというものだ。

加えて団員一号は、イリスの護衛として置いてきている。

警備は万全な巫女の部屋に加え、イリスを狙う一番の理由となるユーグストが確保済み。更にはシャルウィナも一緒だ。

ゆえに、イリスの遊び相手という面が強いが、それもまた大切な事である。

「じゃあ次は、破壊工作とかでどうだ!? もしかしたら飛び出してくるかもしれないぞ!」

魔物はもういない。ならば、この島を巡って手当たり次第に破壊していけば、業を煮やしたボスが出てくるのではないか。

まだ暴れ足りないのか、そんな事を言い出したゴットフリートは、周辺を見回しながら特大剣で素振りをし始める。事実、彼の力ならば、かなりの被害を与えられる事だろう。

と、そんな事を話し合っていた時である。

静かな広間が僅かに揺れると共に何かが崩れるような、何かが壊れるような音が遠くから響いてきた。

思わずといった様子で、ゴットフリートを見やるミラ達。すると彼は、何か用かとばかりに振り返ってから、集まっていく視線を前にして「いや、まだ何もやってねぇから!」と弁明を口にした。

どうやらゴットフリートが何かしらの技で破壊を始めたわけではなさそうだ。

では何の音か。気を張っていると、その音は立て続けに聞こえてくる。しかも徐々に近づいてきているようにも感じられた。

『そちらに合流する!』

唐突に通信用の術具から、そんな声が届く。しかも、どことなく早口であり、目標は見つかったのかと問うても返事はなかった。よほど慌てている状態とでもいうのだろうか。

「つまりこの音は……」

近づいてくるのは、ノイン達ではないだろうか。そう直感したミラは、その音が進む先へと先回りするように動き出した。

「随分と盛大にやらかしているようだな」

ルミナリアもまたミラに続く。一方的な連絡と、響いてきた戦闘音。状況からして、ノイン達側に何かがあって合流を余儀なくされたのだと受け取れる。

爆発に次ぐ爆発。破壊に次ぐ破壊。音が近くなるほどに、その激しさもまた明瞭になっていく。音の様子からして、相当な戦闘が繰り広げられているように窺えた。

「強敵の予感がするネ!」

「さて、何とやり合っているんだろうな!」

ノインチームもまた、ミラチームと並ぶだけの戦力を有している。場合によっては、ボスを見つけ次第確保してしまうという作戦もあった。それでいて合流するために撤退しているともなれば、相手は何者なのか。

そこに可能性を見出したのだろう、メイリンとゴットフリートもまた飛び出していった。

「落ち着く暇もないな」

「敵地なんだから当たり前でしょ」

研究ノートを手にうんざりした顔をするソウルハウル。そんな彼の背を押すようにして、カグラはミラ達を追った。

ノインから入った合流という連絡の内容からして、彼らが来るのは島の中央にある荒野部で間違いない。事実、響く音はそちらに向かって進んでいる。

いったい、ノイン側はどのような状況になっているのか。ミラ達が荒野部の中程にまで戻ってきたところで、それは現れた。

少し離れた岸壁で爆発。大きな穴が開いたところからノイン達が走ってくる姿が目に入る。

サイゾーを筆頭にゴーレムを駆るエリュミーゼ、アルテシアを抱えたラストラーダと続き、殿にノインだ。炎弾だ何だと降り注ぐそれをノインが防ぎつつの撤退戦である。

「これまた、どういった状況じゃ?」

見るとノイン達は、大量の魔物に追われていた。ミラチームに魔物が流れてくるのが止まったのは、代わりにノインチームへと流れていたからだったようだ。

とはいえ見えるのは、先程までと変わらぬ魔物達ばかりだ。ノインチームならば、難なく撃破出来るだろう相手である。

ゆえにミラは首を傾げた。ただ傾げつつも、灰騎士とアイゼンファルドに加え、氷霧賢虎ジングラーラとウンディーネを新たに召喚して援護に向かわせた。

体長にして四メートルを超えるほどに大きな体躯のジングラーラ。雪のように白い毛並みと、氷刃のような爪が特徴の大虎だ。

また、その力はウンディーネとの相性が抜群である。ウンディーネが放つ水弾は堅固な氷刃となり、魔物を悉く斬り裂いていった。

そしてそれを皮切りにして、メイリンとゴットフリートが我先にと群れの中に突撃していく。更にルミナリアとカグラ、ソウルハウルも援護を始めたところでノイン達も踵を返し、そのまま前線を形成した。

「ノインや、いったい何事じゃ? ボスは見つけたのか? それとも魔物に見つかってこうなったか?」

現状はいったいどのようになっているのか。ミラはすぐさまノインのもとに駆け寄り、詳細な報告が無かった理由について問うた。

「あーっと、それは──」

そう口にした直後にノインは素早く盾を構える。そして鋭い速度で飛んできた炎弾を防ぎ、強烈な爆炎が巻き起こる中で緊張気味に「──半々、ってところか、な」と続けた。

ノインが警戒気味に向ける視線は、迫りくる魔物の群れの更に奥側へと注がれていた。炎弾が飛んできた方向へ。

「なん、じゃと……」

何事かとそちらに視線を移したミラは、それを目の当たりにしてまさかと息を呑む。

そこには、更に大きな魔物の群れが迫っていた。だが問題は、そこではない。それを統率するものの姿が、そこにはあったのだ。

「おいおい、マジかよ」

「そう、そういう事ね……」

ルミナリア、そしてカグラも、かの者の姿に気付いたのかその顔を緊張に染める。またソウルハウルは「なるほど、面白い」と、研究ノートに書き込んだ術式を見つめ不敵に微笑んでいた。その魔獣を操る術式は、かの存在の仕業である。それを知り、ますます興味を抱いたようだ。

ノイン達だけではない。ミラ達にもまた緊張が走るその相手。

それは、悪魔であった。禍々しい角に黒い羽、漆黒の身体。その顔は、この世の悪を凝縮したかのように歪んでいる。

見間違えるはずもない、悪魔の姿そのものだった。