軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

382 決着と再会

三百八十二

「皆、派手にやっているようだな。……もっと静かに出来ないのか、まったく」

ヒルヴェランズ盗賊団の本拠地のあちらこちらから、悲鳴だ爆発音だといった様々な音が響いてくる。

レイヴンは響き続けるその音を聞き流すようにしながら、小さな建物の裏で待機していた。

表側からは完全な死角となったその場所は、隠れるのにうってつけともいえる条件が整っていた。

とはいえレイヴンは、そこに隠れているわけではない。彼は、待っているのだ。

目の前の小さな建物は、何の変哲もない小屋である。けれど先行して潜入していたサイゾーが暴いた秘密が、そこにはあった。

「……ん、来たか」

周りの音がうざったいほどに響く中、それでもどうにか僅かな物音を捉えたレイヴンは、あらかじめ空けておいた窓の隙間から丸い何かを放り込んだ。

その直後だ。強烈な光と音が弾けると共に、小屋の中から何者かが扉を突き破って飛び出してきたではないか。

「まったく……ふざけた真似をしてくれたものですね……!」

その何者かは、目立たぬ装束に身を包んだ男だった。けれど、簡素や安価とは違う。強力な陰の精霊の力を秘めているとわかる精霊武具だ。

男は素早く体勢を整えると、即座にその場から飛び退いた。そして鋭い目でもって、そこに立つレイヴンを睨む。

「あー、少しタイミングがずれたか。やかましいったらありゃしない」

レイヴンはというと、未だに響き続ける爆音だなんだに文句を言いつつ、現れた男に向き直った。

本来はベストなタイミングで用意していたスタングレネードを決め、スマートに制圧するつもりであったのだ。けれど、ほんの僅かな遅れで、ギリギリに脱出されてしまった。全ては、騒音でしかない他の将軍達のせいである。

そう悪態をつきながら男の顔をじろりと 睨んだ(・・・) レイヴンは、「対象確認」と呟きつつ細い鎖を繋いだ短刀をじゃらりと取り出した。

対象──つまりこの男こそが、ヒルヴェランズ盗賊団のボスであり、『イラ・ムエルテ』の最高幹部が一人、イグナーツであった。

「そのおかしな武器……聞き覚えがありますねぇ。アトランティスのレイヴンという将軍が、蛇のように獲物を狙う鎖を使うと。さっきも将軍に遭遇したと聞きましたが、いったい何人来ているのか……」

イグナーツもまた、相対するのはアトランティス最高戦力の一人、『式者のレイヴン』だと気付いたようだ。それでいて冷静沈着に動きを窺う姿には、一切動じた様子はなかった。

「まあ何人だろうと、ここには一人で来てくれたようですね。なら問題はありません」

よほど自信があるのだろう。そう言ってイグナーツは、二本の短剣を手に構えた。

彼は、多くの情報を集めていた。その中には、盗賊団の天敵にもなり得る『十二使徒』や、『名も無き四十八将軍』についての情報もあった。

彼は過去から現在に至るまで、手に入る限りの情報を全て収集し精査して、幾つもの対抗策を用意していたのだ。

ゆえに彼の自信は本物であり、レイヴンが一人だけで現れた事を、この上ない好機だと考えたようである。

「貴方の伝説も、ここで終わりです」

そう言うや否や、イグナーツは跳んだ。そして《縮地》もかくやというほどの目にも留まらぬ速さで、レイヴンの目の前にまで迫る。

一閃。間髪を容れずに短剣を奔らせるイグナーツ。その刃は、確実にレイヴンの首を狙ったものだった。

だがその直後に、甲高い金属音が響いた。それは、蛇のようにうねる鎖と短剣が弾き合った音だ。

しかも、それだけに留まらない。鎖はそのままイグナーツを搦め捕ろうと襲いかかったのだ。

「これは……っと! なるほど、思った以上の反応速度ですねぇ」

ほんの紙一重のところで躱し素早く距離をとったイグナーツは、レイヴンを守るようにして広がる鎖の動きに警戒する。

先端の短刀だけでなく、完全に制御された鎖もまた脅威だ。その事を改めて実感したイグナーツは、けれども想定の範囲内だとほくそ笑み、腰の袋から術具を一つ取り出した。

「次は、こいつの出番です」

イグナーツが不敵に笑いながら、その術具を起動──しようとした時だった。彼は直後に苦悶の表情を浮かべると、まさか有り得ないといった様子で己の右腕に目を向けた。

「バカな……」

そう声を発したイグナーツは、両目を見開きながら手にしていた術具を取り落とした。それは驚きのあまり……ではない。その腕が既に動かなくなっていたからだ。

原因は、一本の短刀だった。なんとイグナーツの右腕を、短刀が貫通していたのである。

その短刀は、レイヴンのものであった。イグナーツは慌ててレイヴンを囲む鎖を見る。そして、その先端部分に注目した。

蛇が鎌首をもたげるようにして、その頭部分には確かに短刀があった。

それを目にした瞬間に、イグナーツは悟る。胴の無い蛇がいる可能性も十分に考えられたと。

「まさかこんな単純な手に引っ掛けられるとは……」

短刀には、麻痺毒が塗られていた。徐々に身体の感覚を失いつつ、イグナーツはレイヴンを睨む。

よもや伝説的な将軍が、こんなだまし討ちのような手を使うなんてと。そして、鎖の脅威をこれ見よがしに見せつけられた事で、その些細な可能性に気付くのが遅れてしまったと悔やむ。

「俺は他の奴らと違って、小技が好きなんだ」

短刀は待ち伏せていた時にはもう、少し離れた場所に伏せてあった。それは特別な文様の刻まれた短刀であり、陰陽術士の技能『御霊乗せ』によって自在に操れるようにした代物だ。

つまりレイヴンは、鎖に繋がれた短刀を操りながら、もう一本の短刀も操作していたわけだ。

「これほど簡単に御されるとは、思ってもみませんでしたね……。けれど──」

イグナーツは苦悶の表情のままレイヴンを睨む。だが、その目は負けを認めていなかった。それどころか勝機を窺うような色に満ちている。

いったい今の状況から、どうすれば逆転が狙えるのだろうか。レイヴンが注意深く目を細めたその時。

「──まだ、終わってはいませんよ!」

不敵な笑みを浮かべたイグナーツは、直後に右手を素早く動かして腰のベルトに手を当てる。なんと、既に麻痺が抜け始めていたのだ。

それはひとえに、イグナーツが普段から毒の類に対して用心していたからこそだった。

レイヴンが使った麻痺毒は強力なものであったため、完全に防ぐ事は出来なかった。けれど、あらかじめ多くの毒物に対処していた結果、驚くほどの早さで体内から解毒されたわけだ。

よもや、これほど早く麻痺毒が抜けきるとは思わなかっただろう。そう心の中でほくそ笑むイグナーツは、躊躇いなく切り札に手を伸ばした。

直後──天を切り裂かんばかりの雷鳴が轟き、眩い閃光が刹那に閃いた。

「……──」

それは、一筋の落雷であった。突如として強烈な雷が──イグナーツを直撃したのである。そして何かをしようとしていたイグナーツは、その一撃を受けたところで、その姿勢のまま地面に突っ伏した。

もはや、指一本すら動かないイグナーツ。そんな彼に歩み寄るレイヴンは、まじまじとその様子を見つめてから「よし、生きているな。流石の精霊武具だ」と呟いた。

先程の落雷は、レイヴンが放った一撃だ。見るとイグナーツの足元あたりには、レイヴンの鎖があった。しかも五芒星を描いており、その先端はイグナーツの足に絡みついているではないか。

そう、レイヴンは既に麻痺の次の手を打っていたのだ。そして、相手が動いたのを合図に、それを発動したわけである。

「ふむ……これか。確か精霊爆弾とかいう話だったな」

イグナーツが何をしようとしていたのかは、彼の持ち物を漁れば直ぐに判明した。

同位体の精霊武具を身に着けていれば影響を受けないという精霊爆弾。イグナーツは、それを使って周囲の全てを消し飛ばしてしまうつもりだったようだ。

しかし、それを起動するよりも早くに雷が落ちてきたという事だ。

「ああ、そうだ。確か、術具を回収しろって話だったな……」

ヒルヴェランズ盗賊団の本拠地を襲撃した理由は二つ。一つは、『イラ・ムエルテ』の最高幹部であるイグナーツの捕縛。そしてもう一つは、『イラ・ムエルテ』のボスの居場所を特定するための術具を確保するというものだ。

術具の場所はどこか。それを問おうにも、イグナーツが目を覚ます気配は微塵もない。そして彼の持ち物に、それらしいものはなかった。

「……やり過ぎたか」

先に訊き出しておくべきだった。そう嘆息しつつイグナーツを捕縛布で拘束したレイヴンは、それを引きずりながら、ある場所を目指して歩き出した。

潜入して色々と調べ回っていたサイゾーの話によると、隠し倉庫なるものがあったそうだ。そして、その鍵らしきものがイグナーツの持ち物の中にあった。

漁ってみる価値はあるだろう。

レイヴンは道中に出会う盗賊達を適当に狩りながら、隠し倉庫の場所に向かうのだった。

それは、レイヴン達がヒルヴェランズ盗賊団の攻略をしていた頃の事だ。

首都ラトナトラヤの北端。そこには、大きな陸の港があった。

ただ、港と言っても船着き場のようなものはない。あるのは舗装された地面と巨大な船蔵、そして管制塔の役割も担う建造物だけだ。

そう、そこは飛空船専用の空港だった。

建造物の中には待合室も用意されており、そこにはミラとエスメラルダの姿がある。

この日は、ニルヴァーナ王国が誇る飛空船が戻ってくる予定なのだ。

アルマが呼んだアルテシアと孤児院の子供達に加え、ラストラーダにソウルハウル、そしてルミナリアが、いよいよニルヴァーナにやってくるわけだ。

二人は、その出迎えとしてここにいた。

「ああ、皆と会うのは何十年ぶりになるのかしらね。やっぱり色々と変わっているのかしら。楽しみだわ」

待合室の大きな窓から見えるのは、どこまでも続く青空。エスメラルダは、そんな窓に目いっぱい近づいて、まだかまだかといった様子で空を眺めていた。

「わしが言うのも何じゃが、昔と大して変わらぬぞ」

ミラはゆったりと椅子に座ったまま、あずきオレを飲んでいた。イリスの部屋のバーから幾つか頂戴したものだ。当然、承諾を得たものである。

まるで、おしるこのような味わいでありながら甘過ぎず、あずきの風味とミルクの風味が調和していく、何とも不思議な飲み心地だ。

口にした感覚は、喉が潤うおしるこ、といったところか。あずき好きにはたまらない、至高の一品といえるだろう。流石はニルヴァーナ城のシェフ作だ。

と、そのようにして何気ない会話を挟みながら待つ事、更に十数分。

「あ、ほらほらミラ子さん、見えてきたわ!」

空の向こう側に、ぽつりと現れた小さな点。それを見つけるなりエスメラルダは、嬉しそうに声を上げて待合室から飛び出して行ってしまった。

随分なはしゃぎようであるが、それもまた仕方がないのかもしれない。なんといっても、かつてエスメラルダは、アルカイト王国に所属していたからだ。

アルマが建国するにあたり、義理の姉であるアルテシアが心配していた。そこで、それならばとエスメラルダがアルマのサポートとして移籍したという次第だ。

そのためエスメラルダと九賢者は、特に深い関係にあった。

きっとアルテシア達もまた、エスメラルダとの再会を喜ぶ事だろう。

今日から暫くは騒がしい事になりそうだ。そんな確信を胸に、ミラもまた待合室を出てエスメラルダに続いた。

着陸する飛空船。安全確認をしてから誘導する船員。そしてスロープから一気に駆け出してくる子供達。

静かだった空港に、楽しげな子供達の声が一気に溢れた。

子供が元気なのは、平和の証拠である。ミラは駆け回る子供達を見守りながら、そっと目を細める。

「ミラお姉ちゃんだー!」

子供達の笑顔を感慨深げに眺めていたところ、ふとそんな声が響いた。

見ると、ミラに向けて真っ直ぐ突撃してくる子供達の集団があった。

「おお、きおったな、小僧共!」

アルテシア達が面倒を見ている子供達だ。一緒に遊んだり風呂に入ったりした事もあってか、ミラは相当に懐かれていた。あっという間に身動きがとれなくなるほどに囲まれてしまう。

だがミラは、どれだけもみくちゃにされようと意に介する事はなく、「相変わらずわんぱくじゃのぅ!」と、とても嬉しそうに笑った。

と、ミラがそうしている間に、もう一つの再会も達成されていた。

「アルテシアさん! ラストラーダ君! まあ、ソウルハウル君も!」

飛空船のスロープより最後に降りてきたのは、アルカイト王国が誇る最高戦力の『九賢者』だ。加えて、これまで行方知れずであった事もあり、エスメラルダは感極まってとばかりな様子で、その三人に飛びついていた。

「お久しぶりですね、エスメラルダさん」

「おっと、熱烈な歓迎だな! 嫌いじゃないぜ!」

「あー、まあ、久しぶり」

エスメラルダと同じくらい嬉しそうに抱き返すアルテシアと、まるで凱旋してヒロインを受け止めるヒーローの如きラストラーダ。そして、されるがままなソウルハウル。

いったい、どれだけぶりの再会となるのだろうか。反応はそれぞれながら、一様に喜びで満ちていた。

だが一人だけ、その傍で不貞腐れている者がいた。

そう、ルミナリアだ。二十年前には、この世界にいたという事もあって既に何度も顔を合わせた事があるのだろう。彼女にかけられた声は「いらっしゃい」であり、再会の熱い抱擁は無しであった。

女性と触れ合う事が何よりも好きなルミナリアにとって、その仕打ちは効果てきめんだ。実に両手が寂しそうである。

だがしかし、その程度ではへこたれないのがルミナリアでもある。彼女は、さっさとスロープを降りて女性船員を口説き始めたではないか。

(暫くは、騒がしくなりそうじゃな……)

満更でもなさそうな女性船員。いったいルミナリアのどこに、そうさせるだけの魅力があるのだろう。ルミナリアの本性を知るだけにそんな疑問を抱きつつ、ミラは『見ちゃいけません』とばかりに子供達を連れて、一足先に待合室へと戻っていくのだった。

子供達は早速、催し物で賑わう大会会場へと繰り出していった。幾つかの班に分かれ、孤児院の先生達が引率する形だ。加えてアルマが派遣した案内人もそれぞれに付いているため、きっと存分に大会を楽しむ事が出来るだろう。

ミラ達はというと、ニルヴァーナ城の執務室奥にある女王の私室に集まっていた。女王らしく豪華な方の私室だ。

ミラを始め、ルミナリアにソウルハウル、カグラとアルテシア、ラストラーダの九賢者達。

そしてアルマ女王に続く、エスメラルダとノインの十二使徒組。

顔を合わせるなり、数年、十数年、数十年振りという再会に皆で大いに喜び合った。特にアルマはアルテシアに抱き付いて、十数分と離れないほどの喜びようだ。

なお、その様子を「とても良いものだ」と眺めていたのは、ミラとルミナリアである。

そのようにして存分に再会を喜んだ後、積もる話を始める前に会議が始まった。『イラ・ムエルテ』根絶作戦についての会議だ。

「──というわけで、ゴットフリートさん達が最後の術具を届けてくれれば、いよいよ親玉のいる場所が判明するから、そこで一気に決着をつける。で、いいよね!?」

大犯罪組織『イラ・ムエルテ』について、その最高幹部のうち、イグナーツ以外の身柄を押さえる事に成功した。そしてイグナーツもまた、『名も無き四十八将軍』の手によって、じきに捕らえられるだろう。

そうなれば、真のボスが潜む敵の本拠地の場所を特定出来る術具も揃う。

その場所には未知数の戦力が揃っていると思われるが、きっと問題はないと、アルマはここに揃った顔ぶれを見回しながら笑う。

「うむ、それで完全決着じゃな」

きっと多くの強力な魔獣がいるだろう。中にはレイド級ボスに匹敵するような難敵が存在する事だって十分に考えられる状況だ。

それでもミラは勝てると確信しており、他の者達もまた、そんなミラの声に同意を示した。

現時点においては後衛に大きく傾いているが、参戦する者はここにいるだけではない。更に予選リーグ突破中のメイリンに加え、アトランティス王国から術具を届けにくるゴットフリート他数名も、この戦線に参加する予定だ。

その顔ぶれといったら、国を越えた究極のドリームチームといっても過言ではない。国の二つ三つは、簡単に落とせてしまうだけの戦力だ。

どのような敵が待ち受けていようとも、このチームを止められはしないだろう。

もしかすると、余裕すらあるかもしれない。そう考えたミラは、どんな実験をしてみようかなどと目論み始める。頼れる仲間がいればいるほど、試せる事もまた増えるというものだ。

と、そのようにして幾らか『イラ・ムエルテ』攻略について話した後は、完全な雑談タイムとなった。

詳細な作戦については、ゴットフリート達が来てからの方が効率が良い。そういう事で、まずは今日という再会の日を大いに喜ぼうという運びとなったのだ。