軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

374 女神伝説

三百七十四

ユーグストが貯め込んでいたお宝の活用法は、最善ともいえる形に収まった。これで後の事は、もう皆に任せておけばいいだろう。

そう思いふとノーラ達に目を向けたミラは、彼女達の逞しさに苦笑した。

もう選ぶ必要などない、全部持っていけ。そう言ったのだが、ノーラ達は選別を再開していたからだ。

最初に約束した一人一つを選んだ後に残りを支援に回すとして、まずは一番イイものをと探しているわけだ。実に正直な者達である。

「さて、と」

お宝探しをするノーラ達はそっとしておき、ミラはメインルームへと戻った。

そうして今更ながらにボロボロだった服を着替えつつ、ベッド脇に目を向ける。

そこには、ユーグストが無残といった状態のまま横たわっていた。幾らか時間は経過したものの、まだまだ起きる気配はなさそうだ。

なお、捕縛布でぐるぐる巻きにされた挙句、武具精霊の拘束具形態によって身体の自由を奪っているため、目が覚めたところで騒ぐ程度の事しか出来ないだろう。

「ふーむ……やはり手っ取り早く空から、かのぅ」

ユーグストの身柄を、どのように運び出したものかと考えるミラ。

ダークナイトなどに担がせて連行しようとした場合、多くの人の目に触れる事となる。当然ながら、警備の者達に呼び止められもするだろう。

その都度、裏風紀委員会による秘密の仕事で、などと言い訳するのも面倒である。

だが、それだけではない。この街の裏事情に詳しいお偉いさんなどに出くわしたら、更に面倒だ。そのような委員会など無いと言い切られた瞬間に、ただの誘拐犯となってしまうからだ。

よってミラは、ユーグストを空から運び出す事に決めた。目撃されたところで、謎の飛行物体として押し通せるように。

【召喚術:ヒッポグリフ】

召喚術を発動すると共に警報が響く。とはいえ、もう問題はない。警戒させたくなかったユーグストは既に手中であり、警備の者にもラノアが言い訳済みだ。

そんな中、浮かび上がった魔法陣から頼れる仲間のヒッポグリフが姿を現す。

前半身が鷲、後半身が馬という特徴的な姿のヒッポグリフは、やってくるなり、そっとミラの前に頭を差し出した。ヒッポグリフが見せる忠誠の行動だ。

「何かあった!?」

「どうしたの!?」

ミラがヒッポグリフの額を撫でていたところ、ノーラ達がバタバタとやってきた。警報の音を聞いて、何事かと駆け付けたようだ。

ただ来ると同時に、その状況を前にぎょっとして立ち止まる。

「ああ、すまんかったのぅ。ちょいと手伝ってもらおうと思うてな。ヒッポグリフを召喚しただけじゃよ」

「そ、そうなんだ……」

屈強に育っているヒッポグリフの見た目と言えば、それはもう威圧感満点だ。ゆえにノーラ達は、少しばかり腰が引けていた。

だが遊女の一人が、その額を撫でつけるミラと、それがとても嬉しそうなヒッポグリフの姿に少しばかり興味を持ったようだ。おずおずと前に出ながらも、「私も、撫でさせてもらえたりしないかな?」と口にする。

「ふむ。どうじゃ、ヒッポグリフや」

ミラが訊けば、ヒッポグリフはそっと翼を広げた後、そんな彼女の前にゆっくりと歩み寄って行く。そして、さあ触れるがよいとばかりに、その場で座り込んだ。

「ふわっふわー!」

ヒッポグリフを撫でた遊女は、その撫で心地に頬を綻ばせた。すると、それを見ていた者達もまた私も私もと殺到する。

ヒッポグリフはというと、さあ存分に堪能するがよいとばかりに、そんな彼女達を全て受け入れていた。それこそ、王様かと見紛うばかりの堂々たる姿だ。

そしてミラは、美女に囲まれて撫で回されるヒッポグリフを少しばかり羨ましそうに見つめていた。

「さて、後は任せてもよいか? わしは早く、あの男を連行したいのでな」

ノーラ達が存分にヒッポグリフの撫で心地を堪能したところで、ミラはそう声を掛けた。

するとノーラ達は、もう行ってしまうのかとばかりな顔で振り向く。それはミラに対してか、それともヒッポグリフに対してかは不明だが、名残惜しいという表情がありありと見て取れる。

とはいえ、それが一番大切な事だとわかっているためか、彼女達はそれ以上言わなかった。

「うん、大丈夫。任せて!」

「きっと、また来てね。その時には、皆でお礼するから」

「ありがとう、ミミちゃん。元気でね!」

彼女達は、笑顔で別れの言葉を口にした。出会ってまだ三、四時間程度だというのに、もやは数年来の友人との別れのようだ。

ノーラ達が少し下がると共にヒッポグリフは立ち上がる。そしてミラのもとに戻ってくると、その鉤爪のある前足でもって、むんずとユーグストを掴んだ。

「頑張ってね、裏風紀委員さん」

振り返ると、そこにはラノアの姿があった。彼女は既に持ち帰るお宝を決めたようだ。綺麗な細工が施されたブローチを手にしていた。

そのブローチは芸術性の高い代物である反面、目に見えて高価だとわかる宝石の類はついていないようだ。

もしかしたらラノアは、美術品の価値を見抜ける鑑定眼があるのかもしれない。

「うむ、こっちは任せるがよい」

流石は花街特区一番と言われているだけあって、トップクラスが揃うこの場においてもラノアは別格のようだ。

彼女がいれば、うまい事やってくれるだろう。そう感じたミラは、もう問題はなさそうだと歩き出し、部屋の奥にある窓を大きく開いた。

「では、達者でのぅ!」

そのままヒッポグリフの背に乗ったミラは、今一度振り返り別れの挨拶を告げる。そして皆の声を背に受けながら、空へと飛び出していったのだった。

「あ……そうじゃった」

ラノア、そしてノーラ達と綺麗にお別れをしたミラであったが、花街特区の上空から出た直後に、忘れていた事を思い出した。

サリーである。彼女に借りた出張証だなんだといったものを返さなければいけないのだ。

「ヒッポグリフや。すまぬが先にいって、待っていてくれるじゃろうか。ちょいと用事が残っておった」

ミラが言うと、ヒッポグリフは問題ないとばかりに鳴いて答えた。

「よし、では頼んだぞ」

実に頼りになる仲間だ。そう感謝しつつ、ミラはそのままひらりと飛び降りる。そして《空闊歩》でもって、空の上から花街特区の入口近くへと舞い降りた。

「……今、空から来なかったか?」

そんな驚きの声がちらほらと上がる中、ミラはとっとと花街特区に入り、そのままサリーとワントソを待たせている宿へと向かった。

「──というわけでのぅ、王様はこちらで確保したのでな。もう、お主達のような新人が無理を言われるような事はないはずじゃ」

サリーの待つ部屋に到着するなり、ミラは事の顛末を話して聞かせた。新人ばかりを狙い、心に深い傷を負わせていた王様は成敗した。よって、もう二度と、そのような悲劇は起きないだろうと。

加えて出張証を返すついでに被害者達への支援金についても伝え、被害に遭った同期の子も、きっといずれは元気になるはずだと励ます。

「そんな事が……! ありがとう、裏風紀委員さん! しかも、そんな支援までしてくれるなんて……本当にありがとう!」

サリーは、ミラの報告に心の底から安堵したようだ。

遊女達の間で悪名高い王様。その虎穴に飛び込んでいったミラ。事が事だけに、サリーはずっと心配していたようだ。

けれどミラは無事に帰ってきた事に加え、完全攻略してきたと笑顔で報告した。サリーが感じた安堵感といったら、相当であっただろう。

「よいよい、それもこれも、お主が協力してくれたお陰じゃからな。で……これなのじゃが……」

そう続けたミラは少しばかり視線を逸らしながら、ボロボロになった衣装も返却した。ユーグストとの戦闘中に破れてしまったミニスカ浴衣だ。

「これって……」

サリーは見るも無残なその状態に、初めは何かと首を傾げた。だが、まじまじと見つめたところで気付いたようだ。

「うん、大丈夫大丈夫。王様に破かれたって言えば済むはずだから」

状況を把握したサリーは、そう言って笑った。何かと変態プレイに興じる王様相手の場合、こういう事もよくあると聞いたそうだ。

「そうか。それならよかった。っと、では協力の礼じゃが──」

ミラは少し考えてから、アイテムボックスよりお礼の品として上級の回復薬数本を取り出した。大きな怪我でも治せるだけでなく、どんなに疲れていても、たちまちのうちに元気になれる薬である。きっと遊女ならば、持っていて損はない品であろう。

ゆえにミラは、それを元気になる薬だと言って手渡した。

「そうなんだ、ありがとう!」

滋養強壮に活力増強。そこそこ高価ながらも、こういった場所では定番の薬であり、サリーもまたそれを喜んで受け取った。

なお、サリーがこの薬の価値を知り仰天する事になるのは、もう暫く先の話だ。

サリーから借りていたものを返し、ワントソも労い送還したミラは、そのままヒッポグリフが待つ場所へと向かう。

その途中での事だ。とある治療院の前を通りかかったところで、ミラはその男の姿を目にした。

治療院の手前にあるベンチに腰掛けていた男は、放心したように空を見上げていた。その顔は、この世の終わりとばかりに曇っており、放っておけば明日にでも……などと予感してしまうほどの悲壮感だ。

「のぅ、お主、何やら浮かぬ顔をしておるが、どうしたのじゃ?」

落ち込んでいる人など幾らでもいるため、普段は通り過ぎるだけだ。けれど今回は、あまりにも悲壮感が強過ぎる事もあってか、ミラは男が心配になり声を掛けた。

「ん……? ああ、いや。何でも……」

僅かに反応した男だが、心ここに非ずとでもいった状態だ。振り向く事もなく、ただただ虚空を見つめたまま答えるだけだった。

重度の怪我か、それとも大病か。治療院の前という事もあってか、そう思ったものの、見た限りは健康そうである。

むしろ、表情から読み取れる精神状態以外は、すこぶる元気そうだ。

では、彼はどうしたというのか。

「ほれ、何でもないはずなかろう。言うてみよ。誰かに話せば楽になる事もあるものじゃよ」

気付けばミラは心配半分、興味半分でそう続けていた。肌艶もよく、身体からは気力が漲っているにもかかわらず、こうしているのは何故なのか余計に気になったのだ。

「何でもないって──」

男はというと、放っておいてくれとばかりに言って眉根を寄せる。だが、そうしてミラを睨んだ瞬間、彼はその両目を見開いた。

「……マイエンジェル」

誰にも聞こえない程微かな声で呟いた男は、そこから急に態度を変えた。この世の全てに対して不貞腐れていた様子だったが、ミラにだけは心を許した、といった顔で向き直ったのだ。

「えっと、それで、何かな?」

緊張しているのか、男は少し戸惑ったように言う。そんな彼に対してミラは今一度、「浮かぬ顔をしておったが、どうかしたのか?」と問うた。

途端に男は、バツの悪そうな顔をして視線を逸らした。

だが、そうされると余計に聞きたくなるものだ。ミラは、「ほれ、何かあったのじゃろう?」と追及していく。

そうして更に何度か言葉を交わしたところで観念した男は、こんな場所で黄昏ていた理由を白状した。

治療院の前のベンチにて、男がこの世の終わりだとばかりに放心していた真相。

それは、数ヶ月も貯金して花街特区で一目惚れした宵女を指名し、更に最高級の精力剤まで使って挑んだ生涯最大の大一番が、始まる前に終わってしまったから。というものであった。

原因は最高級の精力剤だと、男は涙ながらに語る。治療院の先生には、薬を使い慣れていない身体で、いきなり強力な薬を使うと効き過ぎてしまい意識が飛ぶ事になると言われたそうだ。

「今日のために頑張って働いて沢山金も掛けて……けど結果も出さずに全てが消えてったんだ……」

万全を期したつもりが裏目に出てしまったと、男は頭を抱える。そして、その時の事を思い出したからか、再び悲壮感を漂わせ始めた。

(精力剤で倒れた……何やら、どこかで聞き覚えが──)

親身になって男の話を聞いたミラは、そこでとあるエピソードを思い出した。

それはファミレスのような店でラノアと最初に出会った際に、彼女の相手の金髪美女が話していた事だ。

客が強い薬を飲んで倒れたため、仕事が早く終わり時間が空いた。そう金髪美女は言っていた。

つまりは、この目の前の男こそが、その張本人というわけだ。

(なるほどのぅ……この男は、あの別嬪さんを前にして触れる事すら出来なかったわけか。なんという悲劇なのじゃろう……)

男が嘆く理由を把握したミラは、同時に同情した。そして彼のために何か出来る事はないかと考える。

とはいえ、金銭面での支援は難しい。そこまで持っていない事はもちろんだが、そもそも通りすがりの者に大金を渡されても困るというものだ。

では、他に何があるのか。

とある日に、イリスの部屋のバーからこっそりと持ち出したアルマ秘蔵の果実酒でも渡そうか。

それとも、マーテル製の果物で更なる極上を体験してもらおうか。

または……──と、色々考えていたところで、ミラはポケットに入れてあったそれを思い出した。

「それは辛かったじゃろう。ゆえにお主には、これを進呈しよう」

そう言ってミラが差し出したのは、たまたま出会った花街マスターに貰った二枚の割引券だった。

「これはなんと値段が五割引きになるというとんでもない割引券でのぅ。二回使えば、実質一回分無料というわけじゃ。これならば、今日の分をしっかりと取り戻せるじゃろう?」

五割引きで二回遊べば、つまりは一回分が無料同然。既に終わってしまった分は勘定に入れず、そんな笊計算で男を励ますミラ。

すると男はというと、そこで思っていた以上の反応を示していた。両目を見開いたまま割引券を見つめ、「な……な……」と言葉にならないような声でわなわなと震えていたのだ。

(うむうむ、まあ無理もないかもしれん。これを使えば一晩で百万リフかかる最上級の遊女が五十万になってしまうからのぅ)

花街マスターの言葉によると、この割引券はどの店でも使えるとの事だ。つまり高級店ほど、そのお得感は増すわけである。

男が驚くのも当然だろう。そしてだからこそ、この選択は正解だったとミラは確信した。

「ほ、本当にこれを貰ってもいいのか? しかも、二枚も……!」

「構わぬ構わぬ。じゃから、ほれ。元気を出すがよい」

信じられないといった顔で確認する男に即答したミラは、男の手を取って割引券を握らせた。

「ではな。今度は薬で倒れぬようにするのじゃぞー」

割引券一つで、男の表情は随分と変わった。あの様子ならば、きっとこれからも頑張っていける事だろう。

見知らぬ男ながら彼を救えたと満足したミラは、そのまま意気揚々と花街特区を後にするのだった。

なお余談だが、ミラが手渡した割引券は、ただの割引券ではなかったりする。

それは、花街特区への貢献度が高い極少数の客にのみ与えられるゴールドチケットであった。

そしてゴールドチケットが持つ特典は、割引だけではない。極楽へと誘ってくれる様々な限定サービスが受けられるという、正に特権階級クラスのチケットなのだ。

その取引相場は、百万リフを軽く超える代物である。

つまり男は、生涯最大の大一番に大敗した事で、それ以上に価値あるものを手に入れたわけだ。

「マイ、ゴッデス……」

花街特区で女神と出逢った。その奇跡に感謝した男は、この日を境により精力的に働き始めた。そしていずれ、彼は大きなホテルグループの代表にまで上り詰めるのだが、それはミラの与り知らぬ話である。

「ふむ、明日の朝頃には到着出来そうかのぅ」

上空二千メートル。ミラはガルーダが運ぶワゴンの中で、のんびりと夕食を堪能していた。窓の外はすっかりと夜の帳に覆われている。

無事に目的の地図を手に入れ、ユーグストの捕縛にも成功した。更には、ユーグストの変態性に苦しめられていた女性達のために、貯えられていたお宝も解放した。完璧な戦果といえるだろう。

「こやつは……まあ、このままでもいいじゃろう」

ワゴンの隅に目をやったミラは、そこに転がしているユーグストを確認して、問題はなさそうかと判断する。

現在のユーグストは、捕縛布でぐるぐる巻きの状態だ。加えてその上から《プリズンフレーム》で完全に身体の自由を封じている。しかも《アイアンメイデン》の時とは違い、装甲をこれでもかと分厚くしたタイプだ。もはや拘束具というよりは、鉄の像に近い外観である。

ユーグストが闘気を全力で高めても、これを破るのは不可能であろう。

とはいえ、超弩級の変態だ。外に吊るすなりしておいた方が、とも考えたものの、どこかでうっかり落としては色々と面倒である。

ゆえに確実なワゴンの中に転がしてあるのだが、朝まで一眠りしようと考えるミラは、少しばかりの躊躇いを浮かべた。これだけしっかりと拘束しているが、この変態の前で無防備に眠るのは、色んな意味で危なそうだと。

そうして幾らか考えた末に、ミラは押し入れの中で眠る事にした。当然、押し入れ前には灰騎士の不寝番を立てての就寝だ。

一方その頃、花街特区では、思った以上の忙しさにノーラ達が右往左往していた。

「えっと、絵画は……ウィリアムさん?」

「いいえ、彼は描く専門。鑑定は画商のロバートさん。でもこれは年代的にカテノフ時代のものだから、ルービル美術館が一番ね」

遊女の問いに対して的確に答えているのは、ラノアだ。

ユーグストがしこたま貯め込んでいたお宝の数々。ミラとの約束通りにその中から一つ貰った後、彼女達は残りをどうやって換金するかという問題に直面していた。

そこに集められていたのは、煌びやかな宝石だけではない。ブランド品にアンティーク、コレクターグッズのほか、美術品なども多く蒐集されていた。

どれもこれもが希少性の高い品であり、当然それ相応の値段がつくものばかりだ。

けれど当然ながら、これらを売るとしたら、その価値がわかる相手でなければいけない。アンティークの家具をそこらのリサイクル店に持ち込んでも、ただの古道具扱いになるだけだからだ。

加えて、ここにあるものに規則性というものはなく、ジャンルや年代といったものもバラバラだった。

取引相手は、慎重に選ぶ必要がある。大変なのは、むしろここからだった。

「ラノアがいてくれてよかったよー。私達だけだったら、どうなっていた事か」

「たいした事じゃないわ。それに貴女達なら、お得意様の中にわかる人くらいいたでしょう」

「これだけの種類があると、もうどれが誰だか……」

ラノアは美術品だけでなく、他のジャンルにも詳しかった。ノーラ達は、その知識を大いに借りて全てのお宝を仕分けていく。

どれをどこに、どれを誰のところに持ち込むかを決めるのだ。

(ほんと、お人好しなんだから……)

あーだこーだと騒がしく駆け回りながら、作業を続ける遊女一同。ラノアは、そんな彼女達を見つめながら、ふっと微笑んだ。

ノーラ達がこうして頑張っているのも、ひとえに王様の犠牲になった仲間達のため。

だがミラと約束したとはいえ、その場での口約束だ。人によっては、これだけのお宝を前に気が変わってもおかしくはない。

けれど彼女達は作業をしながらも、どういう形で仲間達を支援していこうかなどと前向きに話し合っているではないか。

「ラノアー、これなんだけど──」

「はいはい、次はどれかしら──」

(目的のものは手に入ったから、もうここに用は無いんだけどなぁ……。まあ、放っておいたら騙されそうだし仕方がないか)

もう用は無い。わざわざ王様の傍にまで潜り込んだ目的は達した。ゆえにラノアにとっては、ここに留まっている理由はなくなったわけだ。

だが彼女は、ノーラ達の作業に付き合っていた。呼ばれれば直ぐに駆けつけ、的確な交渉先を提示する。

彼女もまた、人の事は言えぬお人好しのようだ。