軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

348 刺客

三百四十八

カードゲーム大会を大いに楽しんだ三人はその後、カードゲームで遊んだり、他の催し物をテレビで観覧したりして過ごした。

そしてまた一夜が明け、ミラが護衛を始めてから四日目。いよいよ、このお祭り騒ぎのメインとなる闘技大会の予選が始まった。

当然とでも言うべきか、その様子は魔導テレビでも観戦出来るように整えられており、イリスと団員一号は、もう朝から張り付きっぱなしである。

ミラはというと、予選を見つつも、それでいて自身の仕事をしっかりとこなしていた。

大陸全土から腕自慢が集まる大陸一の闘技大会だけあって、その予選が始まっただけでも大盛り上がりだ。

これまでも十分に活気づいていたのが、更に目に見えて騒がしくなっている。警備員も大変そうである。

(なんともまあ、人で溢れかえっておるのぅ……)

ミラは今、大会会場の様子はどれほどのものかと、ポポットワイズを空に放ち《意識同調》を用いて視察している最中だ。

イリスが観戦するための動線や、護衛時の動き方などを確認するためだ。

また、その際。始めにアダムス家へと向かわせて、メイリンの様子も確認した。しっかりと言った通りにしているかを確かめるためだ。

その結果は、良好。どうやらアダムス家のメイドのヴァネッサが、約束通りにしっかりと面倒を見てくれているようだ。大雑把なメイリンだが、綺麗に髪は染められており、変装用の衣装もきっちり整っていた。

なお、ついでにブルースの様子もと捜したが、溢れるほどの参加者達に呑まれて見つかりそうにはなかった。見た目がそれほどパッとしないため、完全に紛れてしまっているのだ。

(これは……空から行くのも一つの手じゃな)

特に無差別級の予選が行われるメイン闘技場周辺は、観戦客でごった返していた。

予選ですら、誘導員が大騒ぎの状況である。これが本戦であれば、どれほどの人の波になるのか想像もつかないとミラは苦笑する。

いつも通りにワーズランベールの力を借りて、そっとイリスを連れて行こうと考えていたミラ。だが、これだけ人が多い中で姿を隠していたら、直ぐに誰かとぶつかってしまうだろう。

(となれば、ヒッポグリフの出番じゃろうな。そちらにイリスとワーズランベールを乗せてもらい、わしがペガサスで並走すれば、きっと安全に会場入り出来るはずじゃ)

と、それ以外にもミラは、多くの手段を模索していく。

一番の難点は、イリスの巫女の能力ともいえた。大会中とはいえ、監視に大きな間を空ける事は出来ないからだ。

そして能力を使った後は、イリスの会場入りの手段もまた伝わる事になる。

つまり、能力を行使した次の日からは、別の方法で闘技場まで連れて行かなければいけないのだ。

ただ、重要なのはその部分だけとなるため、その能力の対象であるユーグストさえ先にどうにか出来てしまえば、状況はもっと変わってくるだろう。

(確か、予選だけで一ヶ月くらいかかると言うておったな)

朝食の時、アルマから闘技大会について聞いていたミラは、その時の話を思い返しながら、今後の予定を考える。

大会の主役となる無差別級の予選。その初戦は、十人によるバトルロイヤルとなっていた。

このバトルロイヤルは闘技場のステージを四分割して行われ、制限時間は十五分。

その後、バトルロイヤルを勝ち抜いた者達で予選トーナメントを戦い、そこで四連勝した者が本戦に出場するという流れだ。

本戦出場者が決まるまで、一ヶ月ほど。だが、イリスは予選トーナメントから観覧席で観戦したいという事だ。

アルマの予想では、バトルロイヤル形式は二週間ほどで終わるらしい。

つまり二週間後から本戦終了まで、イリスを送迎する必要があった。

(これは、腕の見せ所じゃな)

大変な事であるが、それをイリスに悟られてはいけないというのもまた、アルマのお願いである。

闘技大会を観覧席で観戦出来るのを、それはもう楽しみにしているイリス。だが、それがどれだけ大変な事なのかを彼女が知ったら、きっとそれを諦める事だろう。

だからこそイリスには、容易に送迎出来ると思わせておく必要があるわけだ。

そしてミラには、実際にそれを可能にするだけの仲間達が大勢いた。

今度、皆を喚んで送迎と護衛の打ち合わせでもしておこうか。そう考えながら、ミラもまたイリス達と一緒にテレビで予選のバトルロイヤルを大いに楽しんだ。

ニルヴァーナが闘技大会の予選で盛り上がる中、とある屋敷の黒い部屋にて、今日もまた密談が交わされていた。

「──という事でして、むしろ精霊女王は、その呼び名が知れ渡ったセントポリーよりも、別の場所での活躍が多いようですね」

更に数日かけて入手した精霊女王についての情報。それを伝えきったのは、『イラ・ムエルテ』において武具の売買を担当する最高幹部の一人、イグナーツだ。

『賢者の弟子……か。それが真実だとしたら厄介だが、実際はどうなんだ? それを名乗る奴らは、もう何千と目にしてきたぞ』

どことなく苛立ち気味な声で問うのは、組織において汚れ仕事を担当するチームの長。最高幹部の一人であるガローバだ。

精霊女王について、更に深く調べた事で出てきた噂。それは、かの九賢者であるダンブルフの弟子だというものだ。

しかしガローバは、その件については訝しげな様子だった。

ただ、それもそのはず。未だにダンブルフは行方不明である事に加えて、これみよがしに賢者の弟子を名乗る者がそこら中にいるからだ。

今度こそ本物ではないのか、などと盛り上がる事もあったが、それも二十年ほど前を境に終了した。

今では、九賢者の物語や口伝、様々な逸話などを参考にして、術の勉強に励んだ者が、弟子だなどと名乗っているような時代である。

『それよりも、その怪盗とやらはどうなんだ? 強いのか?』

精霊女王の活躍。新しいものだと、怪盗ファジーダイスから、希少なお宝を取り返したというものがあった。

これまでに誰も成し得なかった偉業として、その界隈では話題となっている。

「かなり強い、らしいとしか言えませんね。というのも、相対した者は瞬く間に眠らされてしまい、戦闘にすらならなかったそうですので。加えて、精霊女王と怪盗が戦っているところを目撃した者はなく、警備兵が到着した時には既に決着がついており、怪盗はお宝を取り返すのを諦めて去っていったと」

『何とも、参考にしづらい状況だな……』

追加の情報によって、精霊女王の実力具合が垣間見えてきた。けれど、どうにも確定的なものではない。

『しかも、そのお宝っていうのを、孤児院のために教会へ寄付したんだろ。そして、その怪盗ってのも、盗んだ金を孤児院にばらまいているとかいう話じゃねぇか。結果として、精霊女王の評価は上がり、怪盗も損はしてない。俺としては、二人が口裏合わせているように思えるんだがな』

「確かに、怪しいですよね。とはいえ、接点も見つかりませんし。どうにも計り辛い事になりました」

最終的な結末からして、その可能性も十分にある。そんな答えに至った二人は、精霊女王とは、結局どの程度のものなのかと決めかねる。

ただ一つだけ彼らが信じている事。

それは──

「とはいえ十二使徒のノインよりは、ずっとましでしょう」

『まあ、そうだな。あの鉄壁を破る以上になるはずもないだろう』

その一点についてだった。

『それはともかくだ。例の状況はどうだった。ヨーグの奴が捕縛されたと聞いて随分経つが』

「ええ、報告によると、どのような尋問を受けても未だ口を割ってはいないそうですよ。流石はヨーグさんですね」

続いて二人が話す内容は、突如としてふりかかってきた問題の一つについてだ。

いったい、何がどうしてそうなったのか。忍び込ませていた暗殺者達が、突如として隠れ家ごと壊滅していたという事態である。

イグナーツは、その詳細について調査すると共に、その隠れ家にいた組織の一人、ヨーグの行方を探っていた。

彼が掴んだ情報は、ヨーグがニルヴァーナ城の深くにある特別な牢獄に囚われている事と、そこが異常なほどに厳重であるため、脱獄するのもさせるのも、まず不可能であるという事実。

そしてもう一つは、どのような尋問を受けても決して口を割らず、一片の情報もニルヴァーナ側には知られていないというものだった。

『そうか。奴は、しっかりと盟約を果たしているんだな』

イグナーツの説明を聞き終えたガローバは、どこか沈痛な声で、そう答えた。

「確か彼は、貴方の弟子になりましたっけ。となれば心苦しいですが、もう一つお伝えする事がございます」

口ではそのように言いながらも「実は先程、ステンダールより連絡が入りまして──」と、イグナーツは業務連絡でもするかのような口調で更なる情報を告げた。

それは、イグナーツと繋がりのある商人から伝えられた話だった。

その商人、ステンダールは、表向きは何の変哲もない一般的な商人を装っているが、その実、裏では非合法な薬品や呪物などを専門に取り扱う闇商人でもあった。

そんな彼は今、闘技大会で大いに賑わうニルヴァーナの首都、ラトナトラヤにて商売を行っていた。

ただ、その時は真っ当な商売人として、人が集まるところで必要になるだろう品を売り捌いていただけだ。

「その世界において、彼は有名ですからね。それをどこで知ったのか、昨日、ある人物が接触してきたそうです」

そう前置きしたイグナーツは、「ここからはステンダールの主観ですが」と前置きして、その人物について話した。

その者はつば広の帽子を深々と被り、厚手の外套を羽織っていた。加えて、冬でもないのにマフラーを巻いて口元を隠し、声も術具の類で変えていたという。

「その際にステンダールは、違和感を覚えたと言います。裏の顔の彼に仕事を頼む者といったら、それはもう後ろ暗い奴らばかりですので、初対面ともなれば多少の変装はするものです。けれど彼に言わせると、少々やり過ぎだったという事でしたね」

ステンダールに裏取引を依頼する場合、警戒のため正体を隠すのは、その世界において一般的な事だった。

けれどステンダールが言うに、今回の客は、余りにもやり過ぎであったそうだ。ゆえに、絶対に素姓を知られてはいけないという思いが、ありありと見て取れたという。

「気になった彼は、交渉しながらも相手を隈なく観察し、ある特徴から、その人物の素姓を見抜いたと言います」

と、そこまでイグナーツが話したところで、『回りくどい。それと、あいつがどう関係するんだ』と、ガローバが口を挟んだ。

ステンダールなる裏の商人と、牢の中にいるヨーグ。ここまでの話を聞く限り、その接点がさっぱり見えてこない事に、ガローバは苛立ち気味だ。

「まったく、せっかちですねぇ。折角なので、彼の活躍ぶりを語ろうかと思ったんですが。まあ、いいでしょう」

肩を竦めながら苦笑するイグナーツは、そこから簡潔にまとめて話した。

「周囲を警戒する際の目線の動かし方や、振り向き方、そして何より、静かに素早い特徴的な歩き方から、その客は、どうも軍属であるという事でして」

ここが大事な部分だとばかりに、じっくり語ったイグナーツ。

後ろ暗い商品を扱うステンダールの裏の顔に接触してきたのは、なんと軍人だったというのだ。

『軍人だと? 何のためだ』

ふと浮かび上がってきた共通点に、ガローバが反応する。

その声を聞いたイグナーツは、満足げな笑みを浮かべながら、話の核心に触れていった。

軍人はステンダールに、とある非合法な薬の調達を依頼してきたのだと。

「その薬は『亡霊の囁き』などという名で呼ばれています。どうですガローバさん。貴方なら、どういった薬かご存知でしょう? そして、この一連の動きが何を意味しているのかも」

試すように、それでいてわかっているだろうと確かめるような口調で、イグナーツは告げた。

『……ああ、なるほどな。そういう事か。まさか、ニルヴァーナがそこまで……いや、だからこそか』

これまでの話の流れから、ガローバは確かに察したようだ。イグナーツが言わんとしている事、そして彼が求めている事を。

『ならば俺が行こう。このような失態をしでかしたが、あれでも俺の弟子だからな。その尻ぬぐいは俺がつける』

全てを悟ったガローバは、そう覚悟の言葉を口にした。

ガローバは、知っていた。『亡霊の囁き』というのが、どういった薬なのかを。

それは、脳に多大な障害が出る非合法の自白剤だった。

死をも厭わぬ覚悟をもってしても抗えず、どれだけ非情な拷問を受けても口を割らないような者であろうと、洗いざらい自白してしまう、極めて強力なものだ。

だがそれゆえに、これを使われた者は、死人同然になってしまうという禁断の自白剤でもあった。

ガローバは、わかっていた。たとえヨーグであろうと、この薬を投与されれば、組織についての情報を全てニルヴァーナ側に話してしまう事を。

「なるべく早めにお願いしますね。ステンダールも怪しまれたくはないそうで、仕入れに時間がかかるなどと言って幾らか待ってもらっているようですが、それも一週間が限界との事です」

その道では、凄腕として通っているステンダール。それでいて、禁制品の薬一つを調達するのに多くの時間がかかってしまうと、どこで時間を引き延ばしているのかと疑われ兼ねない。

かといって彼を始末したところで、意味はない。そうなれば、別の闇商人に話がいくだけであり、その相手が組織と繋がりのない者ならば、そこで情報は途切れてしまう事になる。

それならば、期限を把握出来る今の方がましというものだろう。

『ああ、わかった。直ぐに発つ』

そういった事情までも理解するがゆえに、ガローバの行動は早かった。

ガローバの弟子のヨーグは、ニルヴァーナ城の地下にある特別な牢獄に囚われている。その守りは極めて堅牢であり、そこから脱獄させるなど、まず不可能というほどの場所だ。

けれど侵入するだけならば、僅かながらにつけ入る隙はあった。

だからこそガローバは、一つの覚悟を胸にニルヴァーナへと向かった。

優れた暗殺技術を携えて、弟子であるヨーグの口を封じるために。