軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

347 アステリア杯決勝

三百四十七

巫女の部屋で迎えた三日目。

昨日と同じくアルマに起こされたミラは、そのまま共に朝食を済ませる。そして朝のコーヒータイムとしゃれこむアルマが、エスメラルダに引きずられていくのを見送った。

そのように朝のドタバタ劇が終わったところで、次のドタバタの幕が上がる。

それは、カードゲーム大会決勝の観戦準備である。今日の決勝を思う存分に楽しむ予定の三人は、お菓子や飲み物などをふんだんに用意して、完璧な態勢で観戦に挑むつもりだ。

「うむ、こんなものじゃろうな」

「はい、ばっちりですー」

「完璧ですにゃ」

冷たい飲み物を詰め込んだクーラーボックスに、和洋と揃ったお菓子の数々。更には、試合を参考にデッキ編成が出来るようにと、カードの山も置いてある。

それはもはや、これ以上はないというほどに完成された観戦席であった。

『これより、準々決勝第一試合を始めます──』

準備が整ったところで、ちょうど大会も始まった。

ミラ達は、いよいよかとソファーに座り、ドリンク片手に選手達の熱い攻防を見守る。

たかがカードゲーム。されどカードゲーム。真剣に挑む者達の熱意はモニターからでも伝わり、三人は一進一退のバトルから目が離せなくなっていた。

五戦中三本先取というルールで進む決勝リーグ。

試合は順調に進み、二試合目も終わった。そしてアルマが気にしていたニルヴァーナの代表であるフリーデが、三試合目において三対一で勝利するという形で勝ち上がる。

それからインターバルを経て始まった準々決勝最終試合。

「む……この少年、どこか見覚えがあるような……」

ステージへと上がる二人の選手。そのうちの一人である少年の姿を見て、ミラは以前に会ったような気がすると、モニターを見つめる。

「そうなんですか? もしかしてお知り合いなんですか?」

まさかの知り合いかというミラの反応に喰いついたイリスは、続けて少年についての情報を口にした。

「この子はアリスファリウスの代表さんで、マリアンさんですよ」

イリスから聞かされた少年についての情報。それを耳にしたミラは、その瞬間に、かつての出会いを思い出した。

「おお、そうじゃマリアンか! なんと、こんな大きな大会に出るほど強かったのじゃな!」

アリスファリウスの首都リデルのカードショップで出会った少年マリアン。『影絵のヴァレンティン』のカードを持っていた彼は、他の子供達からも一目置かれるくらいの実力者といった様子だった。

そんな彼が、なんと大陸一を決めるような大会の準々決勝にまで上がってきているではないか。

ミラは当時の事を思い出しながら、よもやここまでの実力者だったとはと驚き、また、心のどこかで喜んでいた。

「決勝リーグランカーさんとお知り合いなんて凄いですー! ミラさんは、どうやって知り会えたんですか!?」

イリスにとって強いカードゲーマーは、有名なAランク冒険者にも似た存在のようだ。その出会いに興味津々な様子である。

「あー、それはじゃな──」

大盛り上がりの中で準々決勝最終試合が始まったところで、ミラは当然とばかりにマリアンを応援しながら彼との出会いについて語った。

ミラの応援もあってか、マリアンは見事に準々決勝で勝利を収めた。

そしてまた試合は進んでいき、準決勝の最終戦。ここで、アルマの応援するニルヴァーナ代表のフリーデと、ミラが応援するアリスファリウス代表のマリアンがぶつかった。

「これは、どっちも応援したくなりますー」

ミラの出会い話を聞いた事で、マリアンに対する思い入れが生まれたようだ。最終的にイリスは、どっちも頑張れと声援を送り始めた。

「よーし、よいぞ。その調子じゃ」

ミラはというと、引き続きマリアンの応援だ。グラスとカップケーキを手に、試合の進展を見守った。

そうこうして試合は進み、いよいよ終盤。どちらも油断なく、張り詰めた試合運びとなる中、遂に勝負を決める一手が炸裂した。

「これは、お見事ですー!」

見事にそれを決めたのは、マリアンだ。ミスの許されない攻防の末に大きく盤面を動かして、その隙を縫うように小さな穴を穿ったのである。

それが決定打となりフリーデは負けを認め、マリアンの決勝進出が確定する。

「うむ、素晴らしい策じゃったな!」

などと言うミラだが、実際のところ何がどうしてそうなったのかを理解出来てはいなかった。それほどまでに緻密な戦況だったのだ。

だが、内容はわからずとも、勝者はマリアンだというのはわかる。

その勝利を我が事のように喜ぶミラは、このまま優勝するのではないかと、更に期待を高まらせていった。

準決勝が終わり、十五分ほどのインターバルを挟んでから、三位決定戦が行われた。

その勝者は、フリーデ。マリアンには負けてしまったが、ニルヴァーナ代表はそれでも表彰台に上れる事となった。優勝ではないが、きっとアルマも喜ぶだろうとイリスも嬉しそうだ。

そこから更に五分後。いよいよ決勝が始まった。

そしてこの決勝は、これまでと違い、一本勝負となっていた。最後の戦いにして、この一戦で勝敗が決する。正に決勝である。

マリアンの相手は、アトランティス代表のトキツネ。属性重視の戦士デッキを操る強者だ。

対するマリアンが得意とするのは、どのようなデッキ相手にもオールラウンドで戦える聖騎士と闇騎士の複合デッキ。

だが試合開始と共に、会場でどよめきが起こった。

初めは双方とも盤面にユニットを一枚伏せて配置してから、開始の合図で表にするのだが、なんとマリアンの場に出ていたのは、聖騎士でも闇騎士でもなく、召喚術士、しかも『軍勢のダンブルフ』のカードであったのだ。

『なんとマリアン選手、この決勝にきて新デッキでの勝負をかけてきました!』

『ここまで、聖騎士と闇騎士で堅実な強さを見せつけていたマリアン選手ですが、ここで初登場のデッキとは驚きましたね。ただ、一番驚いているのは、やはりトキツネ選手でしょう』

『それはもう、間違いないですね。対策としてスタートから『騎士狩りのサミュ』を場に出していますが、初手が召喚術士となると、これは能力の半分を封じられたも同然です』

『開始早々に、このような手を見せてくれるとは。これが決勝、これが大陸王者決定戦! この先の展開から目が離せません!』

そんな熱の入った実況が流れる中、ミラ達もまた、まさかと大騒ぎをしていた。

「なんと! あの時は持っていなかったが、今日までに手に入れたという事か!? しかもそれを、ここで出すとは……よいぞマリアン!」

レジェンドレアを入手するのは、そう容易い事ではない。それでいてダンブルフのカードを手にし、しかも決勝という一番目立つステージで出してきたマリアンを、ミラは心底称賛した。

そして、現実だけでなくカードゲーム界においても不遇とされる召喚術士デッキが秘める真の力を見せつけてやれと応援する。

「ここでデッキを大きく変えてくるなんて、ビックリですー!」

イリスは、一気に試合展開の予想がつかなくなったと、それはもう興奮した様子だ。食い入るように魔導テレビに集中し始めた。

「にゃんと、これは強いですにゃ!」

団員一号は、ダンブルフのカードに驚くと同時、そのカード性能にも驚いた。そして気付く。召喚術士デッキでは、強力な術士ユニットこそが大切なのだと。

召喚ユニットで場を埋める事になるため、他の術士デッキのように術士ユニットを多く並べてしまうと、戦力が低下してしまうのである。

と、そのように三者三様の思いで、試合の展開を見守っていく。

決勝戦は準決勝の時よりも、更に白熱したものとなった。

見事に虚を突かれたトキツネだが、流石はここまで勝ち上がってきただけあってすぐさまに立て直し、初手の失敗を取り戻していた。

マリアンはというと、着実に召喚ユニットを揃え戦力を強化しながら、ダンブルフが仙術も使えるという利点を生かし、ダメージを最小限に抑えていく。

一進一退の戦い。だが双方ともに攻めの手を緩める事はなく、決まれば決着という大技を繰り出しては見事にこれを凌ぎきる。

「おお……凄いのぅ。召喚術士は、このように戦うのじゃな」

やはり、実戦とカードゲームでは勝手が違う。マリアンのカード捌きに感心するミラ。

「びっくりですー。こんな戦い方もあったんですねぇ」

かなりやり込んでいるはずのイリスですら、マリアンの戦術は思い付かなかったという。それはもう参考にするためだろうか、メモまで取り始めていた。

と、二人がマリアンに注目する中、団員一号は対戦相手のトキツネを、じっと観察していた。今度作る予定の戦士デッキの参考にするつもりのようだ。

そうして試合も進み最終局面。きっと大会の歴史に残るであろう激戦だったが、遂に終止符が打たれる事となる。

『決まったー! この勢いは誰も止められない!』

『これは見事な一撃だ!』

互いに譲らず、猛烈に削り合い、最後に致命の一撃を繰り出したのは──。

『勝者、トキツネ選手!』

そう、勝利者の名が挙げられた。

ニルヴァーナにて行われた『レジェンド・オブ・アステリア』の第一回大陸王者決定戦、その優勝者はトキツネで決まったのだ。

「ぬぉあぁー!」

お互いにあと一撃という、ギリギリの戦いだった。けれど残念ながら、マリアンがその一撃を受けてしまった。

手に汗握っていたミラは、その瞬間に叫び大きく天を仰ぐ。

「ああー、残念ですー」

ミラが応援するものだから、イリスもまたマリアンびいきになっていたようだ。勝負が決まると同時に、ミラと同じくその敗北を残念がった。

「これは、決勝に相応しい一戦でしたにゃ」

団員一号はというと、どこか評論家気取りだ。それでいて彼は、カードの山より、今回トキツネが使っていたキーカードをせっせとピックアップしていた。

と、そうしている間にも大会は進行していき、表彰の準備が整っていった。

『いやぁ、やはり戦士デッキは場に出揃った時が恐ろしいですねぇ』

『ええ、本当に。しかし、それを何度も凌いでみせたマリアン選手の戦術には脱帽です』

『私が、こう言うのもなんですが……。まさか召喚術士が、あそこまで戦えるなんて思いませんでしたよ』

『実は、私も驚きました。もしかしたらこれを機に、召喚術士周りのカードが見直されるかもしれませんね。実際、私は今、マリアン選手のデッキ構成を確認したくて、うずうずしております』

準備の間、解説者の二人が、そう決勝の様子を振り返りながらトークを交わす。

トキツネとマリアン。その両者の健闘を大いに称える解説者達のトークに、会場もまた素晴らしかったと盛り上がる。

それはカードゲームの世界ではあるが、召喚術士が認められた瞬間でもあった。

「マリアンよ。よくぞやってくれた!」

ミラは感無量とばかりな様子で、マリアンの功績を称えた。そして、今度会った時には大いに褒めてやろうと心の底から笑った。

アステリア杯の表彰式では、優勝賞金の三千万リフと、希望するカードセットの贈呈が行われた。

更に、もう一つ。新作カードのモデル指定権というものがある。

これが実現するかどうかは相手次第であるものの、レジェンド・オブ・アステリアを手掛ける『グリモワールカンパニー』が総力を挙げて交渉に取り組むという事だ。

なお、トキツネが希望したのは、Aランク冒険者である『月光十字のエレオノーラ』であった。

冒険者どころか一般人にも知らぬ者はいないとされるほどに有名なギルド、白月騎士団の団長だ。また同時に、その美しさも大陸中に知れ渡っている絶世の美女だった。

それでいて、カード化の交渉は難航。未だカードには未登場という状況だ。

だが、それだけに、エレオノーラのカードを求める者は大勢いた。トキツネがその名を挙げた瞬間、会場全体が『よく言ってくれた』とばかりに盛り上がったものだ。

続き、二位のマリアンにも賞金と副賞が贈呈された。

一千万リフという大金に茫然とした様子のマリアンだったが、続く副賞で、その顔に緊張の色を浮かべる。

二位の副賞は、好きなカードセットか、モデル指定権のどちらかというもの。

『あの、えっと……』

マリアンが選んだのは、モデル指定権だった。けれど、誰を指定するのかで緊張──というより恥ずかしそうに言い淀む。

だが、数秒の後、意を決したように顔を上げ、マリアンはその名を口にした。

『精霊女王のミラお姉ちゃんがいいです!』

「わしか!?」

頑張れ頑張れと、どこか親心を持って見守っていたミラは、その瞬間に動転した声を上げた。まさか自分の名前が、この場面で飛び出してくるなんてと。

「わわ! 凄いですミラさん! カードになっちゃいますよ!」

イリスにとって、カードになる冒険者達は全て憧れの対象であった。そこにミラが加わるかもしれないとあって、それはもう興奮した様子だ。

その隣、団員一号はというと、何やらオシャレな衣装に着替えてポーズを取っていた。どうやら、ミラのマスコット的な立場で共に絵柄として載るつもりのようだ。

と、そのようにミラ達側でも盛り上がっていたところ、何かの資料を受け取った解説者の一人から、まさかの真実が伝えられる。

『おっと、ここで極秘情報が入ってきました! なんと、マリアン選手よりリクエストのあった『精霊女王のミラ』さんは、既に次弾の拡張パックでの登場が予定されているとの事です!』

そう、モデルを指定するまでもなく、カード化の話は進んでいたのだ。ミラ自身が直接交渉は受けていないが、その件についてはマリアナに頼んであった。

そちらの方でしっかりと進展していたようだ。

「そうだったんですか!?」

その事実にマリアンが驚く中、イリスもまた更に興奮気味に迫ってきたため、ミラは、信頼出来る者に交渉を任せてあったと簡単に説明する。

「凄いですー!」

どこか敬意すら浮かぶイリスの顔。

と、二人がそのような会話をしている間に、マリアンの方でも話が進んでいた。

副賞に選んだモデル指名権は、既に対象のカード化が決まっていたために無効。かといってマリアンには、他に指名したい者はいないという状況。

そこで大会側からの粋な計らいがあった。

特別に、本人の写真版も含めた絵柄違いの『精霊女王カードセット』を用意出来るように、交渉を進めていくというのだ。

しかもそれは、マリアンのためだけのカードセットになるらしい。

『──という事で如何でしょうか、マリアン選手』

『は、はい、お願いします!』

マリアンは、これまでより更に恥ずかしそうな様子であったが、それ以上に嬉しそうでもあった。

「ふむ……ポーズの練習でもしておくべきかのぅ」

そう言うのだから、きっと近いうちに写真版用の写真を撮りに来るだろう。

その時のために備えて、ミラはカード映えしそうなカッコイイポーズをとってみる。そして団員一号もまた、しれっとフレームインしてニヒルに決めた。

「お二人共可愛いですー」

どんなにポーズを決めても、その見た目の可愛らしさからは、なかなか逃れられないようだ。称賛するイリスの言葉に、打ちひしがれるミラ。

だが、マリアンのためだ。本番までにカッコイイを会得するため、ポーズの研究を続けるミラ。

そうして会場のみならず巫女の部屋でも大いに盛り上がった『レジェンド・オブ・アステリア 大陸一決定戦 アステリア杯』は、恙なく閉幕となるのだった。