軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

311 捜索と光明

三百十一

髪を黒く染めて眼鏡もかけ、服も着替えた。これならばきっと、精霊女王だと気付かれないだろう。

テレサに見送られてマジカルナイツのブースを後にしたミラは、自信満々にメイリンを捜し始めた。

主に確認するのは、戦いだ挑戦だと騒がしいステージ。だが一時間二時間と確認していくも、メイリンらしき姿は一度も見られなかった。

ならばと、時折見かける喧嘩騒動も加えて顔を覗かせたミラ。血気盛んな者達が集まれば、こういった小競り合いもちらほらあり、警備員も忙しそうだ。

「うーむ……流石に喧嘩はしておらぬか」

十近い数の喧嘩場を窺ったものの、やはり喧嘩は喧嘩である。幾ら戦い好きとはいえ、武道家を自負するメイリンが、ただの喧嘩をしているはずがないというものだ。

そう思い直したミラは、再び格闘試合などを行っている特設ステージを中心に巡った。

ボクシングスタイルや、足技のみといった試合形式の他、竹刀を用いた剣術試合や、雪合戦のように玉を投げ合うといったものまで、勝負関係のステージもまた様々な種類があった。

そういったものも含めて確認する事、一時間、二時間、三時間。時折、二つ名持ちの冒険者が出てきたりして、ステージがわっと盛り上がるも、目的のメイリンは出てこない。

そうして、ただただ時間は過ぎていき、気付けば日も暮れて、月が空で輝き始める時刻となっていた。

もう閉場が近いようで、あれだけ賑やかだった多くの特設ステージも全てが片づけを始めていた。来場者達も、ゾロゾロと帰り出している。どうやら、今日はもう捜しようはなさそうだ。

(きっと、来ているはずなのじゃが……よもやここまで広いとはのぅ)

途中色々あり、ところどころで気が逸れたとはいえ、全てを回り切る事が出来なかったと苦笑するミラ。

闘技大会の開催場として設けられたこの敷地は、それこそ一大テーマパークにも匹敵するのではというほどの広さがあったのだ。しかもそんな敷地内に、様々な特設ステージが、まるでアトラクションのように点在している。

動きが読みやすいメイリンだからといっても、これだけ広いとなると、簡単には見つけられそうにない。ミラは、そう考えを改める。

ただ、歩き回った事で、変装の効果は抜群だという証明はされた。今の格好になってから、精霊女王だとバレる事がなかったのだ。しかし、その代わりとでもいうのか、軽そうな見た目の男に声を掛けられるようになっていた。

これまでの精霊女王という肩書と、どことなく超然とした雰囲気の美少女から普通の美少女に変わった事で、声をかけやすくなったようだ。

「ねえねえ君、これから食事に行くんだけど、一緒にどうかな?」

「いや、予定があるのでな。遠慮しよう」

そのようにナンパ男を軽くあしらい、引き留めようとしてくる前に、とっとと退散するミラ。もう慣れたものである。

そうして今日はメイリン捜しを諦めたミラは、のんびりと闘技大会場の出入り口にまで戻ってきた。そこでは、まだ大会の出場受付が行われているようだ。未だに明るく賑やかだった。

(明日は、どう捜したものかのぅ)

この広さが相手では、今日のやり方だと効率が悪いとわかった。ならば次はどうするか。そう、明日の予定を考えていた時である。

「え? 滞在場所も書くのか。困ったな……どこも満室だったから、まだ決まってないんだよ」

「ああ、それでしたら、大会協賛の宿をご紹介させていただきます。この札を宿の店主に渡していただければ、こちらの方で対応いたしますよ」

と、そんな声が聞こえてきたのだ。見るとそれは、大会受付でのやり取りのようだった。

(滞在場所を書く……じゃと?)

その言葉に可能性を見出したミラは、近くにいた係員に、それとなく訊いてみた。大会出場の受付に必要な事項は、何があるのかと。すると係員は、ミラの姿を見て少し戸惑いながらも、その詳細を教えてくれた。

何でも、大会の受付には色々と規約があり、まず初めに出場希望者は、専用の用紙に名前と年齢、クラス、そして滞在場所までを記入する必要があるそうだ。

なぜ、滞在場所まで書くのか。その点を詳しく問うたところ、宿泊施設の状況を把握するためにだという事だった。

今回は、出場者と観客が数万人単位で集まる最大規模の闘技大会だ。宿泊施設の管理や、客の振り分け、また案内などを円滑に進める必要があった。だからこそ、そんな記入欄があるわけだ。

(なるほどのぅ……つまるところ、その名簿を見れば、メイリンの滞在場所がわかりそうじゃな)

彼女の事である。きっと大会出場の受付は、既に完了しているだろう。こういった場合、絶対に出場するため、優先的に手続きを済ませるのがメイリンの性分なのだ。

これで次の手は決まった。大会の出場者名簿を確認して、メイリンのもとに辿り着くという作戦だ。

武術バカ……武術だけしか頭にないメイリンとはいえ、多少なりとも自分の名前の影響力は把握しているはずだ。きっと名前については、偽名を使っているだろう。

だが彼女の事である。メイメイだとかリンリンだとかリンメイだとかいった、わかりやすい単純な偽名である事は間違いない。そのあたりで探せば、そこそこ絞れるはずだ。

年齢については、メイリンがしっかり数えているかどうかは不安であるため、当てには出来ない。

そしてクラスだが、これが一番の判断材料になると、ミラは確信していた。たとえ何かしらの原因によって、まったく予想も出来ない偽名を名乗っていたとしても、このクラスの記入欄だけで大きく絞り込めるはずだと。

かつて、メイリンから武術の指南を受けていた時の雑談で、こんな話をしていた事があった。現実で武道家なのだから、こちらでは武道仙術士といったところか、などという軽い雑談だ。するとメイリンは、それを随分と気に入ったらしく、その日から自分は仙術士ではなく武道仙術士であると言い始めた。

メイリン曰く、武道と仙術、どちらも究めてみせるという意味合いだそうだ。

そんな経緯からして、きっと名簿にも、そう記入している事だろう。よって仙術士の出場者がどれだけいようとも、それを目安にすれば、見つけるのはそう難しくないはずだ。

ただ問題は、その名簿である。見せてくれと言ったところで、見せてくれるはずがない。ただ、ここはニルヴァーナ皇国という事からして可能性は十分に残っていた。

「時に、かなりの情報量になると思うが、管理の方は大丈夫なのかのぅ?」

試しにそう係員に問うたところ、しっかりと知りたい情報が返ってきた。闘技大会の運営委員会が責任を持って保管しているため、まったく心配はないと。つまり、出場者名簿は、その運営委員会にあるわけだ。

「それならば安心じゃな。引き留めてすまんかったのぅ」

必要な情報は得られた。係員に礼を言ってその場を離れたミラは、次の目的地を決めて歩き出す。

この闘技大会は、国の一大興行として開催されている。となれば、その運営委員会とやらも国の管轄下にある事だろう。

となれば、後は権力の出番というものだ。

(わしがわしであると話さねばいかぬが、まあ既にバレておるようじゃからのぅ。一時の恥くらいは甘んじて受けようではないか)

名簿を確認するには、運営委員会の許可が必要となる。そのためには国の上層部に接触して、口を利いてもらうのが早いというもの。そして、そんな上層部とミラは、だいたい知り合いであった。しかも今回の闘技大会に、出場者としてではなく解説役として招待された事から、その知り合い達は、ミラがダンブルフである事に感づいているのは確かだ。

それならばそれで、話は早いというものである。

(ついでに、泊めてもらうのもアリじゃな)

先程受付で話していた内容からして、交渉後に宿を探すのは骨が折れそうだ。だが一応は解説役として招待されているのだから、客間くらいは用意してくれるだろう。そう思いながら、ミラは早速王城に向けて歩き出した。

王城近くの住宅街。石造りの立派な邸宅と、模様が見事な石畳。そして気品のある街路樹の並木道。等間隔で点る街灯によって照らされるそこは、貴族邸や公営の施設が集まる区画であり、三十年が経った今でも当時とほとんど変わらない様子だった。

既に夜という事もあり、そんな住宅街の主要路でも人通りはほとんどない。時折、使用人らしき者や巡回兵が通るくらいだ。

「よし……行ったようじゃな」

と、そんな住宅街をこそこそ進むミラは、巡回兵の背中を見送ってから植え込みの陰より姿を現す。すっかり夜なこの時間に、このような場所を一人で歩いていると補導されてしまう恐れがあるからだ。

なるべく人と会わないように、特に巡回兵に見つからないように進むミラは、まるでコソ泥か何かのようである。

(そういえば、一応ソロモンに報告しておかねばな)

城に近づく中、ふとそう思い立ったミラ。きっと出場者名簿を見せてくれるように頼む際、その理由を訊かれる事だろう。その時、メイリンを見つけるためだと答えるわけだが、ミラがメイリンを、つまりは九賢者を捜索しているのは国家機密扱いとなっている。気心知れた相手とはいえ、一応は他国だ。となれば、ソロモンに一報くらいはしておいた方がいいだろう。

そんな時は、ワゴンにある通信装置の出番だ。ただ、早速とばかりに連絡しようとするミラだったが、そこで考える。貴族達もいるこのような住宅街で、路上駐車の如くワゴンを置いていたら、きっと巡回兵に不審がられるのではないかと。

そうなったら面倒だと思い直したミラは、目立たない場所に移動してからワゴンの通信装置を使おうと考えた。

(確か、近くに公園があったはずじゃな)

当時と変わっていないならば、記憶にある大きな公園もそのままだろう。そう考えたミラは、早速とばかりにその公園へと向かった。

国立常緑の森公園。そこはまるで、森をそのまま植えたような場所であった。

街のど真ん中にある、一キロメートル四方の公園。そこは、重厚な街並みの中に堂々と広がっていた。

昼には、定番の散歩コースとなり、また憩いのデートスポットとしても有名な、なんとも心地の良い場所だ。

しかしながら夜に訪れると、その雰囲気は一変する。

入り口から入ると、さわさわと緑に覆われた桜の並木道に迎えられる。朝ならば木々の隙間から差し込む日の光が、なんとも心地良く映った事だろう。そして春ならば、それはもう見事な桜に囲まれて心まで浄化されていたはずだ。

しかしながら現在は、もうじき秋となる時期の夜である。鬱蒼と茂る木々は深い暗闇を生み出しており、ところどころに灯る外灯の光すら呑み込もうとしているかのように見えた。

(肝試しにはもってこいの雰囲気じゃな)

並木道を進みつつ、そんな事を考えていたミラ。するとその前方だ。外灯とは違う光がゆらりと現れた事で肩を震わせた。ただ、それも一瞬だ。よくよく見れば、その正体は直ぐにわかった。

巡回兵である。公園内もまた、しっかりと見回っているようだ。

「まったく、仕事熱心じゃのぅ」

そう愚痴りながら、ミラは巡回兵がこちらに気付くより前に、並木道を外れて身を潜めた。そして《生体感知》によって完全に通り過ぎ、離れた事を確認してから移動を再開する。

(もう少し奥に行った方が良さそうじゃな)

しっかり見回っている巡回兵だが、流石にコースを外れてまで奥の方へと確認には行かなそうだ。だが、散歩コースから見える範囲は避けた方がいい。そう悟ったミラは、そのまま木々が生い茂る方へと深く入り込んでいった。

公園の木々は人工的に管理されており、自然でありながらも整然と立ち並び、ところどころに動線が敷かれていた。そのため隠れるのに丁度良いと思える場所を探すには、なかなかに難しい造りだ。

(ふむ……この辺りじゃな)

そんな人工の森の奥深く。管理小屋の裏側という、絶妙な死角を見つける事に成功したミラ。散歩コースから外れ、獣道のような通路を進んだ先にある管理施設。小屋の他にも廃材やら何やらと置かれており、身を隠す場所には事欠かなかった。

ミラは早速とばかりにワゴンを取り出すべく、アイテムボックスを開く。ただ、更に箱から取り出す際に術式が働き光が出るため、念のためとばかりに《生体感知》で巡回兵が近くにいないかを確かめた。

(む……! 誰かおるぞ!?)

それは小屋を挟んで右側前方の奥。三十メートルは離れた場所だった。大きな反応が二つ。それも動物のものではなく、明らかに人らしき反応がそこにあったのだ。

巡回兵だろうか。瞬間、そう思ったミラであったが、どうにも違うようだと気付く。生体反応を観測している最中、範囲外から現れたもう一つの反応が、その二つと合流したからだ。

新たに現れた反応。それは、明らかに巡回兵の動きとは違っていた。まるで先程のミラと同じように、何かから隠れ潜むような動きでやってきたのだ。そして合流してからも、どこかへ移動する様子はない。

仲間同士のようだ。この三人は、いったい何者なのか。こんな夜遅くに、このような目立たぬ場所で何をやっているというのか。

(もしや、コソ泥じゃろうか)

昼は賑わうが、夜は驚くほど静まり返る公園。その周囲には、国の施設や貴族などの富裕層が暮らす屋敷が並んでいる。そんな只中にある目立たぬ場所で、こそこそと集まる何者か。ミラは自分の事を棚に上げ、こんなところで怪しい奴らだと三人に目を付けた。

そっと小屋の陰からそちらを覗いてみるが、やはり暗くて何も見えない。また距離もあるため、どのような会話をしているのかもわからなかった。

(ここは、あれの出番じゃな)

他にも色々と可能性はありそうだが、状況と雰囲気で三人を悪党だと決めつけたミラは、本格的に行動を開始する。知人友人が治める国で、その闇に潜み悪事を企てる輩を、どうして放っておけようかと。

そう意気込みを新たにしたミラは、目立たぬように小屋の陰に引っ込んで、こっそりと召喚術を発動する。

浮かび上がった猫の目模様の魔法陣から登場したのは、黒い忍び装束を着込んだケット・シーの、団員一号だ。

「服部にゃん蔵、ここに参上ですにゃ。にんにん」

いつもどこで仕入れてくるのか、忍者スタイルの団員一号、もとい服部にゃん蔵は、印を組むかのように両手を合わせたポーズで決めてきた。ただ、正確に印を組めるような指はないため、一見した限り、それはただのお願いポーズにしか見えなかったが。

「さて、服部にゃん蔵よ。実は向こうの方にじゃな──」

いつもながら、緊張感が緩む召喚だ。そう感じつつも気を引き締め直して、ミラは状況を簡潔に伝える。怪しい三人組の発見と、きっとコソ泥か何かであるという予想をだ。