軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

261 子供達の現状

二百六十一

ただ寄付するだけが、思わぬ土産を貰ったミラは、教会関係者達に見送られ教会を出た後、次の目的地に向けて歩を進めていた。

「確か、この辺りだったはずじゃが……」

召喚メンバーを配置するため街中を見回っていた際に、その場所を確認していたミラは、きょろきょろと見回しながら大通りを進む。

ミラが探している場所。それは、警備署だ。昨日の地下水路でのあれやこれやについて、その後どうなったのかが気になっていたため、そのあたりを聞きにきたわけだ。

現在知っている範囲は、クリスティナの報告にあった部分まで。地下水路にあった人身売買組織の拠点。屋敷の主人は捕まったが、では、そこにいた子供達はどうなったのだろうか。ミラがなによりも気にするのは、その一点である。

「お、あったあった」

石鉄造りの重厚な建造物。グリムダートともう一つ、リンクスロットの国旗が掲げられたそこは、彩り豊かな大通りの中にあっても非常に武骨な佇まいをしていた。ザ・軍とでもいった分かり易さだ。

警備署。警備兵達の拠点であるそこは、兵舎であり、事務所であり、また相談窓口でもあった。

中に入ると大きなロビーが広がり、端には受付カウンターが並んでいる。また、そこには幾らかの相談者の姿もあった。少しだけ聞き耳を立ててみたところ、どうやら店先で眠りこけている酔っ払い達をどうにかしてほしいと頼んでいるところだ。

昨日の怪盗騒ぎで、相当に飲めや歌えやと盛り上がったのだろう。実際、ここに来るまでにそういった酔っ払いの姿を目にしていたミラは、朝から大変だなと苦笑しながら、受付が空くのを待った。

そうして五分ほどしたところでミラの番となった。

「デズモンド兵士長は、おるじゃろうか?」

受付の前に立つなり、ミラは単刀直入にそう口にする。あの後の事を聞くならば、その時にいたデズモンドに直接尋ねるのが一番話が早いだろうと。

「えっと、どういったご用件でしょうか?」

ただ、流石に色々と端折り過ぎたためか、受付の顔に困惑の色が浮かんだ。その様子にミラは、先走り過ぎたと思い返し、なんと説明すればいいだろうと考える。

と、そんな時だ。

「あ、誰かと思えば精霊女王さんじゃないですか。昨日はご協力、ありがとうございましたー」

受付の後ろにいた兵士の一人が、ひょこりと顔を出すと、そんな言葉を口にしたのだ。

「ぬ? ……おお、確かお主は、昨日一緒にいた者じゃったな」

その男は、デズモンドと共にいた愉快な仲間達の一人、チャラそうな兵士だった。雰囲気から思い出したミラは、これは丁度いいと、彼にデズモンドの居場所を尋ねる。

「隊長なら、確か第三会議室だったと思いますよ。そこから左にいったところにある階段を三階まで上がれば直ぐです」

チャラ男は、そう丁寧に教えてくれた。すると受付の女性が、「あの、よろしいのですか?」と振り返る。思えばそれは、警察署に部外者が上がり込むような事だ。むしろ受付の反応がこの場合は適切だろう。

ただ、昨日の出来事で、ミラは随分と彼らの信頼を得る事に成功したようだ。

「大丈夫大丈夫。それに、そこの精霊女王さんは、あの時一緒にいた関係者だからね」

そう言って、ミラが奥に入っていく事を許可してくれたのである。

「確か、三階の第三……お、ここじゃな」

チャラ男に教えてもらった通り、警備署の三階にまで上がったミラは、少し先に『第三会議室』と書かれている部屋を見つけた。話によると、デズモンドはそこで、昨日の事に関する報告書を書いているそうだ。

また、場合によっては、ミラの証言なども必要になるかもしれないので、少し話を聞いて上げてくださいとの事である。

扉の前に立ち三回ノックすると、少しして、「はいはーい、どうぞー」という声が返ってきた。

「では、失礼するぞ」

扉を開けると、そこには照明の下で、多数の書類に囲まれたデズモンドの姿があった。

「それで何か──……え? ミラさん!?」

ちょっと休憩とばかりに伸びをしながら入口に目を向けたデズモンドは、そこに立つミラの姿に驚きの声を上げた。ミラの訪問は、完全に予想外だったようだ。

「えっと……え? ああ、まずはどうぞここにお座りください」

困惑しながらも、来客の応対を始めるデズモンド。「お茶はどこだったか……いや、ココアの方が──」などと呟きながら会議室の給湯スペースに向かっていく。

「いや、わしの事は気にせんでくれて良い。ただ、昨日の件について少し訊きにきただけじゃからな」

ミラは、慌てるデズモンドにそう言うと、ここに来た理由について簡潔に話した。昨日の、あの後の事を詳しく教えて欲しいと。

「なるほど、そういう事でしたか。わかりました。クリスティナさんから、幾らか報告は受けていると思いますが、折角ですので順を追ってお話しましょう!」

給湯スペースであれこれ用意してきたデズモンドは、ミラが座るソファーの前のテーブルにそれらを並べると、先程まで書いていた報告書を手にして向かい側に腰を下ろした。そして、「後でで構いませんので、ミラさんの話も聞かせてください」と言ってから、別れた後の出来事を語り始めた。

デズモンドは語る。ファジーダイスの残した痕跡を辿り十分ほど地下水路を進んだところに、一つの扉があったと。

しかし、そこにあったのは扉だけではなかった。なんと扉の前に、何者かが倒れていたそうだ。しかも、よく見るとその者は、ファジーダイスによって眠らされている状態だとわかる。

きっと、詳しい事を知っているはずだと、そっと確保し尋問したところで、扉の先が人身売買組織の拠点になっている事が判明した。

また、中にいる仲間の数を訊き出したところ、なんと取引前の子供が監禁されている事まで判明する。

拠点内には、相当な手練れがいるらしいが、それはこちらも同じ事。デズモンド達は傭兵達の協力も得て、そこから先は子供の救出を最優先で動いた。

扉を突き破り、一気に拠点に突入すると、そこにはガラの悪い六人の男と、一番奥に十人の子供の姿があったそうだ。しかも、踏み込んだ丁度その瞬間は、小さな女の子がガラの悪い男の一人に人形を取り上げられて泣いていた場面だったという。

「するとその時でした。正にああいうのを、一陣の風、なんて表現するんでしょうね。私達の直ぐ隣にいたはずのクリスティナさんが、いつの間にか一番奥にいたんですよ」

デズモンドは、見たままを話した。クリスティナがガラの悪い男と女の子の間に入った直後、男の方が唐突に倒れたのだと。

「何が起きたのか、その時は正直さっぱりわかりませんでした。ただ、それは相手側に大きな動揺と隙を生んだのです」

突然倒れた男の姿に慌てた、ガラの悪い者達。その隙を見逃さず、デズモンド達は一気になだれ込んだ。相手は訊き出していた通り、手練れ揃い。しかし、多勢に無勢、デズモンド達はどうにかこうにかして全員の確保に成功する。

そうして落ち着いたところで、初めに倒された男を見てみると、その姿はとても安らかだったそうだ。しかし、よくよく確認すると、その男は、両手両足の骨が綺麗に折られていたとわかる。

「きっとクリスティナさんなら、あの場で全員を簡単に斬り捨てる事が出来たのでしょう。しかしそうしなかったのは、その男の状態からわかる通り、子供にそういった場面を見せないよう配慮したからなのでしょう」

優しい心を持った素晴らしい方だと浸り気味に話したデズモンドは、「それに比べて私達は、そういった配慮が足りていませんでした」と苦笑した。敵の抵抗もなかなかのもので、結構な流血を伴う大捕り物になったそうだ。

「本当に子供達には、血生臭い場面を見せてしまいました。……ただ、子供達はそんな私達の事を、ヒーローだと言ってくれたんですよ」

デズモンドは少しだけ落ち込みながらも、嬉しそうな笑みを浮かべた。

その戦いによる死者はいなかった。けれど、相手側のほとんどは重傷だという事だ。しかし、血生臭かろうが泥臭かろうが、悪者を懲らしめたデズモンド達は、子供達にとってみればヒーローなのだ。

「子供達は素直じゃからな。そう言っていたのなら、紛れもなくお主達こそがヒーローなのじゃろう」

男は誰だって一度はヒーローになりたいと思うものだ。ミラは、デズモンドの笑顔につられるようにして微笑んだ。

(しかしまた、そのような事になっておったのじゃのぅ。やはり、詳しく聞いてみねばわからぬものじゃ)

子供達に惨状を見せないよう配慮していたというが、そういった部分については、クリスティナの報告になかった。あったのは、ただ制圧したという結果だけだ。

(意外にも謙虚なところもあるのじゃな)

何をどう頑張ったのか、いちいち得意げに語りそうな印象のあるクリスティナだが、それはただの思い違いらしい。ミラは今度、その素晴らしいクリスティナの働きをアルフィナに伝えておこうと考える。

そしてミラもまた、そういった配慮が出来るように心がけようと、心の中で改めるのだった。

「して、その子供達は今、どうしておるのじゃろうか?」

ミラはミルクティーを口にしてから、今一度問う。

地下水路での出来事については大方把握出来た。となれば次は、一番気になっていた子供達についてだ。

「そちらは、ご安心ください。しっかりと国の施設で保護しております。それとこちらで責任を持って親を捜しだして送り届ける予定です」

きっとそれは、ファジーダイスの狙い通りだったのだろう。見つけた以上は、国の方で面倒をみるとの事だ。そして、親が見つかり次第、デズモンドらが送り届ける事になっているそうである。

「あと怪我や病気といったものも、一先ず見つかりませんでした」

デズモンドは、心底安心したような表情で、更に現状についても話し始めた。

一眠りしたからか、少し落ち着いた様子の子供達。保護したばかりの時は怖がっていたものの、今日は朝からはお世話係の言う事をよく聞いて、元気にしているという。とはいえ、目立った怪我はなかったものの、やはり子供心に傷はついたのだろう、時折不安げな表情をみせるようだ。

「こればかりは、時間をかけてゆっくり治していくしかないでしょうね。早く親が見つかるように頑張らないとですよ」

心的ストレスによる影響は、やはり仕方がないだろう。それでも、あの子達ならばきっと大丈夫だとデズモンドは言う。なんでも助け出してから送還されるまでの間、ずっとクリスティナが傍にいて、子供達を元気づけていたというのだ。

そんな子供達は朝から口を揃えて、かっこいい剣士になりたい、などと言っているらしい。

「なんと、そのような事もあったとは」

そういう事ならば直ぐには送還しなかったのに、などと思いながらも、ミラはクリスティナの優しさに感動する。現在、ミラの中でクリスティナの株がグングン上昇中だ。

「それで今は手すきの者が、簡単な剣の扱い方を指導しているところです」

そんな子供達のためにと、デズモンドの部下が名乗りを上げたそうだ。親が見つかるまでの間、基礎だけでも教えられたらいいなと、デズモンドは笑っていた。

その後ミラは、三十分ほど、デズモンドが報告書を書くのを手伝った。主に、ファジーダイスの動きについてだ。そしてその際、子供達を監禁していた者達と、水路の入口があった屋敷の者達についての状態を知る事になる。

まず監禁していた者だが、彼らは裏仕事ばかりを請け負う傭兵崩れだったそうだ。詳しい聞き取りはまだだが、人身売買組織について知っている事は少ないだろうとの事である。

そして次に屋敷の主であるデンバロール子爵だが、人身売買組織との関与について口にしているらしく、明日には調書がとれるそうだ。

「組織立っての犯行じゃったか」

「ええ、あの男が喚いていた言葉を聞いた者の話によると、結構な規模だとか」

組織。つまり、今回の件はかの屋敷の主人だけの犯行ではないわけだ。

なお、直ぐに聞き取りが出来ないのは、貴族ゆえに面倒な手続きが多いからだという。目に見えて黒なら手続きなんて必要ないだろう、というのはデズモンドの愚痴である。

「忙しいところ、すまんかったな」

知りたかった事は、全て聞けた。ミラは、紅茶の最後の一口を飲み干して立ち上がる。

「いえいえ、こちらこそ報告書が埋まって助かりましたよ」

ミラの補足によって、不明だった部分を上手く埋められたようだ。デズモンドは、完成した報告書をまとめながら笑顔で答えた。

子供達の事は、彼らに任せておけば心配ないだろう。そう安心したミラは、デズモンド達に見送られながら警備署を後にした。

ただ、今回の件については出来るだけ内密にとの事だ。その理由はやはり、人身売買組織に貴族が関わっていた点が大きいだろう。その貴族を抱えていたとして、国にとって非常に外聞の悪い事実となるからだ。

「組織か……。子供達を食い物にするなど許せぬ事じゃな」

聞いた限り、今回の地下水路の件には、大きな人身売買組織が関わっている様子だ。そのようなものがあると知った以上、放ってはおけない。そう思うと同時に、もう一つの予感が脳裏を過る。ラストラーダは、貴族の悪事だけでなく、この組織の事まで把握していたのではないだろうかと。

(ふむ、直接訊いてみるとしようかのぅ)

彼は近いうちに連絡すると言っていた。ならば、再会した時に訊いてみよう。そう考えながら、ミラは次の目的地に向かって歩いていくのだった。