軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 パーティ結成

二十四

古代神殿へ行く約束をした、次の日の朝。ミラは、宿の食堂で昼食用に頼んでおいたランチボックスを受け取る。

ゴスロリチックな少女が宿を出て行くと、宿のスタッフは、その少女の正体について大いに盛り上がり始める。どこぞの令嬢だとか、お忍びの王族だとか、上級冒険者の隠し子といった予想が飛び交い、時折近くに居た冒険者が話に混ざったりしていた。

大層注目されている事に、ミラ自身はまだ気付いていない。

空は晴れ渡り、絶好のピクニック日和。ミラは約束した組合前まで、朝の緩やかな日差しの中を進む。

時間は少し遅めの朝なため仕事で出勤する者は疎らで、大通りには買出しの主婦や武装した冒険者が目立つ。

ミラが今日は召喚術の真髄を見せてやろうと息巻きながら進んでいると、目的地である組合前の広間に人だかりが出来ていた。

「あれは何事じゃ?」

呟きつつミラは、術士組合の前にある休息用の椅子に腰掛ける。それから二人はまだ来ていないかと辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

少し早く来過ぎたかと思いながら、アップルオレを取り出し口をつける。

ミラが組合前に到着してから十五分、メニューを開き現在時刻を確認すると十時を示している。約束の時間だ。しかし、まだ二人の姿は無かった。

「遅いのぅ。遅刻じゃのぅ」

ミラは周囲に視線を送りながら愚痴を零す。その目には、未だに広場で賑わう謎の集団が映る。

(朝市か大道芸でもやっているのかのぅ)

丁度いいので暇潰しに見てみるかとミラが立ち上がった時、その集団から見覚えのある少年が人を掻き分けて飛び出して来る。しかし、その際に人の足に蹴躓いた少年は手にした二枚の銅貨を落としてしまい、転がる銅貨を追いかけ始めた。

「なんじゃタクト、来ておったのか」

ミラは集団に向けて歩いて行きながら、転がってくる銅貨を拾い上げて見覚えのある少年、タクトに声を掛ける。

「あ、おはようミラおねぇちゃん! ありがとう」

タクトは銅貨を受け取りながら人懐っこい笑顔をミラに向ける。

「お主だけではあるまい。エメラはどこじゃ?」

「あそこだよ」

訊くとタクトは、広場の集団を指差した。タクトが集団から出て来た事といい、どうやら自分よりも早く来て暇潰しでもしてたのだろうとミラは思った。

「エメラおねぇちゃーん、ミラおねぇちゃん居たよー!」

タクトは集団に向けて、てててっと駆け寄ると声を張り上げて呼びかける。

暫くすると、人ごみを掻き分けて黒髪エルフのエメラが姿を現した。

「もう、遅いよミラちゃん。ずっと待ってたんだよ」

エメラは待っていたと言いながら、わざとらしく頬を膨らませる。だが、ミラにしてみれば集団に混ざり騒いでいたのだから待たされたのはこっちだと肩を竦める。

「バカを言うでない。待っていたのはわしの方じゃ。ずっとそこの椅子に座って待っておったんじゃぞ」

二人の間で沈黙が流れる。そしてエメラは、徐々に視線を彷徨わせ始めると苦笑を浮かべて両手を合わせた。

「ごめんなさい! あんなに人が集まるとは思わなくて」

そう言い訳をするエメラ。しかしその言い訳には少し引っかかるところがあるなと、ミラが口を開こうとした時、

「その子が副団長の言ってたミラって嬢ちゃんですかい?」

エメラの背後から大柄な男が顔を覗かせた。鈍い銀色に光る金属の重厚な鎧を身に纏い、篭手には緋色の鈴が意匠されている。背負った金属製の大槌は背丈ほどで人並み外れた膂力の強さを物語る。それでいて人の良さそうな面構えをしており、短く刈り揃えた赤い短髪と口周りには赤い不精髭で野性的な雰囲気も持つ。

そしてそれを皮切りにして、更に二人が顔を出す。

「やーん、めちゃめちゃ可愛いー!」

言いながらエメラの右に並び、ぴょこぴょこ跳ねる紫のローブ姿の女性。青縁の眼鏡の奥の碧眼が情欲すら浮かべて輝く。ローブの袖の辺りには、緋色の鈴が刺繍されていた。一見すると知性的な印象の顔立ちだが、今はその動作が全てを台無しにしていた。肩の少し下まで伸びた髪は緑で、腰には一メートル程の長さの杖を佩びている。

「まじで、どこどこ!? おお、美少女発見! でもオレとしてはあと五年ってところだな」

今度はエメラの左に並び、興味深げにミラの頭からつま先までを観察する軽装の男。茶髪にピアス、緑のバンダナには二人と同じ様な緋色の鈴が刺繍されている。色男系で背が高く、腰には短剣が二本、黒いジャケットと迷彩色のズボンを穿いていた。パッと見は軽そうな男だ。

「何者じゃ?」

ミラは急に複数人の視線に晒されて、居辛さを感じつつも、言動からエメラの知り合いらしい三人を一瞥する。

「私の所属ギルド、エカルラートカリヨンの中でも選りすぐりのメンバーよ!」

自信満々に答えるエメラ。

「といっても、今日空いていたのがオレ達だけだったんだけどなー」

「何で言うのー!」

軽くばらした軽そうな男に、エメラはぷりぷりと怒り襟首を掴み揺さぶる。対して男は悪びれた様子もなく「ごめんごめん」と繰り返す。

「俺はアスバルってんだ。よろしくな嬢ちゃん」

快活に笑む大柄の男。厳つい風貌からは想像できない人の良さが滲み出ている。

「フリッカ、よろしく」

紫ローブの女性はメガネをくいっと上げながら、知性的に微笑むと握手を求めるように右手を差し出す。

「う……うむ。わしはミラじゃ。よろしくのぅ」

女性の印象がさっきと違うなと思いながらも、ミラは差し出された手に右手を伸ばす。

「やっぱり可愛いー!」

手を握った瞬間、フリッカは破顔して人が変わった様に甘ったるい声で悶えだす。

「ミラちゃんミラちゃん、ぷにぷにー」

言いながらミラの頬をつんつんと突付くフリッカ。ミラは離れようにも、しかと手を握られたままなので射程範囲から逃れる事が出来ない。頭を振り抵抗するが、上手くフェイントをかけられて良い様に頬を突付かれ続ける。

「エメラ、なんとかせい!」

声を掛けると、エメラは何事かと軽男から手を離し振り返る。そしてその状態に苦笑を浮かべ溜息を漏らしつつ、フリッカの脳天に「ていっ」と手刀を落とすと「ふぎゃん」とフリッカの眼から星が飛ぶ。

「ごめんねミラちゃん。フリッカには極力手を出さない様に言っておいたんだけど」

「極力ではなく絶対にしておいて欲しいものじゃな」

両手で頭を押さえながらアスバルに剥がされるフリッカ。ミラはアルカイト王国へ向かう時、立ち寄った村シルバーワンドの店の看板娘シェリーを思い出していた。

「オレは、ゼファード。ゼフって呼んでくれよな」

ゼファードと名乗った軽男は、音も無く近づくと視線をミラの高さに合わせてニカっと笑う。ミラはその屈託の無い表情に思いの他、好印象を抱く。

「わしはミラじゃ。して、何ゆえこ奴等がここにおる?」

「助っ人よ!」

昨日の話では微かにも出てこなかったエメラの仲間の登場に、ミラは三人を一瞥しながら訊くと、エメラはさも当然と言わんばかりに答える。この三人こそがエメラが昨日の夜、タクトを送り届けた後で向かった場所で話をつけた、残る不安を払拭するための策だ。

危険なCランクダンジョンに三人で行くのは不安でしかない。そして何もわざわざ三人で行く必要も無い。古代神殿に行く事を決めた時に、エメラは暇しているギルドメンバーに助力を頼もうと考えていたのだ。

「ふむ、まあ良いか。では行くとしようか。案内は任せるぞ」

ミラにしてみても、人数が増えたところで問題は無い。それと、美人なエメラだけよりも、アスバルやゼフといった男勢が居た方が落ち着くというのも確かだ。

ミラはタクトの手を取り歩き出そうと大通りへ視線を向けた瞬間に、目を見開き呆然とする。なんと周囲を群集に囲まれていたからだ。

ミラが見ていた広場の集団が今この場を中心に広がっている。

実は原因はエメラ達だった。上級冒険者として名の知れているギルド、エカルラートカリヨンの主要メンバーが四人も揃っているのだ、注目を集めない訳が無い。実際、ミラよりも早く組合前に到着していたエメラ達。組合でいくつかの用を済ませ、その後ミラを広場で待っていると、あれよあれよと人が集まり謎の集団と化したのだ。

その集団から原因が出てきてミラと共に居れば、同じ現象が起こるのも自明の理だろう。

「エメラ姉さん、素敵だ」「フリッカたんに罵られたい」「ゼフ、調子に乗るなよー」「アスバルの兄貴、今度飲みに連れてって下さい」「あの可愛い子、新メンバーかな」「ゼフ、夜道に気をつけろよー」

喧々騒騒とする広場で、注目されている様な声を端々から聞き取ると、ミラは早く行こうとエメラをせっつく。

「それじゃあ行きますか。皆のもの、私につづけー」

「はいよー」

エメラは揚々と右手を掲げ大通りを北側へ進む。返事をしたのはゼフだけだった。アスバルは苦笑し、フリッカはミラから視線を外さず見つめ続けている。居心地の悪さを感じながら、ミラはさりげなくアスバルの影に潜む。タクトは、そんなミラに手を引かれたまま付いて歩いていった。

エメラが進めば集団は邪魔する事無く道を開き、抜け切ると後方からは激励が投げかけられた。

ミラは上級冒険者になると、こうも有名人扱いされるのかと感心もしていた。

鎮魂都市カラナックを出て、北側を両断する様に伸びる山脈へ向けて進む事、二十分弱。林を抜けると、目の前には切り出された神像の並ぶ目的地、古代神殿ネブラポリスが堂々とした佇まいで出迎える。

「さて、いよいよ本番ね」

「改めて見ると、また壮観じゃのぅ」

エメラは気を引き締めつつ、ミラは観光気分で言う。二人の温度差は明らかだ。

そのまま一行は古代神殿の前で立ち止まる。確率は少ないが古代神殿の中に入り最初に辿り着く祭儀場には魔物が潜んでいる事もある。それを警戒しての行動だ。

「んじゃま、行ってくるわ」

そう言いゼフが足音を消し、するりと神殿の中に入っていく。

それから暫くして、「だーいじょーぶー」と中から声が響いた。

ミラ達は祭儀場まで進むと、それぞれが手近なところに腰を下ろす。そして一息ついたところを見計らい、エメラが話し出す。

「さて、それじゃあ今回の目的の確認。目的地は第五層、暗丞の間ね」

「確か暗丞の鏡っていったか。しかし五層目ともなると魔物も厄介なのが増えるが大丈夫なのか? こんな嬢ちゃんや坊ちゃんを連れてなんてよ」

エカルラートカリヨンでも何度かここには潜った事があった。準備を整え主要メンバーで構成したパーティで突入して、それで五層目を踏破できた。

当時と比べて実力を上げたとはいえ、メンバーは主要が四人しか居ないのと、少年少女のお守りまで付く。アスバルが苦言を呈すのも仕方の無い事だ。

「ふん、それは見てから言うがよい。お主らの偏見を改めさせてやろう」

ミラは軽く胸を反らしながら自信満々に言う。エメラ達はあれだけ注目を集める冒険者だった。ならば世の中に召喚術士の実力を認識させるいい機会だとも考えたのだ。

「そうかそうか、ならば楽しみにしておくか」

そう言いながらもアスバルは、少女の言葉を背伸びしたい年頃なのだろうと納得し、いざという時は抱えてでも逃げ切ろうと決めていた。他の三人も似た考えだ。

「前衛は私とアスバルさん。真ん中にミラちゃんとタクト君を挟んで、後衛にフリッカとゼフ君ね。いいかな?」

「分かった」

「はい」

「了解了解ー」

「まあいいじゃろう」

「はい! よろしくお願いします!」

それぞれが返事を返す中、エルカラートカリヨンの四人は己の武器を確かめ始める。

アスバルは大槌の握りと繋ぎの部分を点検し、フリッカは杖の他、何枚かのカードを並べていた。ゼフは抜いた短剣にオイルの様な何かを塗りつける。

そしてエメラは、一本の西洋剣をアイテムボックスから取り出し腰に佩びると、今まで佩びていた剣をアイテムボックスに入れた。

「お、その剣は団長のか?」

エメラが佩びた剣を見たアスバルが訊く。同時に、皆がアスバルの視線を追いエメラに注がれる。

「うん、そう。場所が場所だからね、訳を話したら貸してくれたの。これなら大分攻略も捗るはずだよ」

言いながら刀身を抜き放つエメラ。その両刃の剣は淡く白い光を放ち、只の剣ではない事を表している。

「ほう、光の精霊剣か。面白い物を持っておるのぅ」

ミラがエメラの剣を見て言う。淡い光を放つのは、光属性が付与された特徴だ。そして、光属性の剣というのはレア物を含めて数はあれど、目の前の剣はちょっと特殊な経緯を得た代物となる。

最も一般的な光属性の剣にホーリーソードというまんまな剣があるが、これは作成時に水を聖水、火を聖火にして剣を打つ事で作成できる。他にも方法はいくつかあり、レア物である聖剣や神剣の類はデザインが独特で、一目でレアだと分かる物ばかりだ。

しかし、エメラの持つ剣は何の変哲も無い西洋剣である。淡く光ってはいるが一見すると、只の剣にしか見えないだろう。

だが、術士。特に上位の術士には剣の周りにあるものが見える。

「良く分かりましたね。その通りです。本来は団長の物なんですが、頼んで借りてきちゃいました」

エメラはそう言いながら剣を鞘に納めると、剣に纏わり付いていた輝く粒子がすっと掻き消える。

この輝く粒子こそ、ミラが光の精霊剣だと言った理由だ。

精霊剣とは剣に精霊が祝福を与えたもので、各種精霊毎に宿る性質も様々だ。剣以外にも宿り、それらは精霊武具と称される。

特徴は、どの様な武具にも宿る可能性がある事と、術士にはそこに宿る力の一片が見えるという事だ。

戦士クラスには闘気が、術士クラスには精霊が見える。そのため剣に宿った精霊の力も見えるのだ。

この事は術士ならば誰でも知っている。そして上位の術士になるほど明確に、そして多くの精霊が見える様になる。

エメラやアスバル、ゼフは物知りな少女だなとしか思わなかったが、同じ術士であるフリッカは違った。彼女には精霊剣である証拠の光の粒子が見えなかったのだ。そしてそれが見えなければ一目で精霊剣だと言い当てる事は困難だろう。

上級冒険者であるフリッカでも見えない精霊の残滓を、少女は見る事が出来る。それはフリッカが、この少女は只者では無いのかもしれないと思い始める切っ掛けでもあった。

「頼りにさせてもらうぜ」

アスバルは口端を上げてニッと笑うと、大槌を背負い直し立ち上がる。

「ええ、任せて。さあ、行きましょう!」

勢い良く立ち上がったエメラに続いて他の皆も腰を上げると、古代神殿ネブラポリスの地下、第一層目の入り口である祭壇へと向かう。

ミラはアイテムボックスからカードケースを取り出し、受け取った時に教えてもらった方法を思い出しながら、古代神殿の許可証を祭壇を囲む結界水晶に押し当てる。

「さー、いよいよかー。お宝あるかねー」

「目的を間違えるなよ。暗丞の間までの護衛だからな」

「分かってるってー」

揺らいで薄くなった結界を抜け、ひょいひょいと階段を降りるゼフに真面目に忠告するアスバル。エメラとフリッカ、タクトが結界を抜けたのを見届けると、ミラも許可証をカードケースに戻しながら後を追う。

一行が階段を下りていった数秒後、結界は再び力を取り戻し、無人に戻った祭儀場には小鳥が様子を伺うように顔を出し始めていた。