軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話

王都中央、貴族専用の社交館の一室は、

午後の光を受けて静かに華やいでいた。

窓辺には淡い色の花が活けられ、上質な菓子と紅茶が整然と並ぶ。

集うのは、王妃派に連なる旧貴族の令嬢たちだった。

「……お聞きになりまして?」

ひとりが扇を口元に寄せる。

「夜会の席次。旧来の家々が二列目であったとか」

「ええ、最前列は新興の方々と伺いましたわ」

「少々、意外ではございましたわね」

誰も声を荒げないが、笑みは揃って浅い。

「配置の意図が読み取りかね……少々戸惑いました」

「長年の功を思えば、興味深い位置取りでございましたわ」

扇の動きが、いつもより半拍だけ速い。

「王妃陛下の深いお考えが、私にはまだ及びませんね」

その輪の中心で、イザベルは静かにカップを置いた。

「夜会の席次は、表だけで測るものではございませんわ」

穏やかな笑みを浮かべる。

「王妃陛下のご判断に、早急な解釈は不要かと」

「けれど事実として……」

「事実と意図は別ですわ」

イザベルは軽く扇子を揺らす。

「夜会は見せる場ですもの。

誰を前に立たせ、誰を控えさせたのか――

その順番にこそ意味がございますわ」

(王妃陛下が、あのように単純な線引きをなさるはずがない)

そのとき――

廊下を、静かな足音が横切った。

クラーラだった。

ちょうど給仕が扉を開けたところで、

白手袋の手が盆を支える。

その隙間から、声がこぼれ落ちる。

「少々、扱いが軽く映りましたわね」

「王妃陛下のご裁可があったのは確かでしょう」

すぐに扉は閉じられる。

クラーラは足を止めない。

視線を手元へ落とす。

そこには、一通の招待状。

深い青の封蝋。

王妃の紋章。

――王妃主催、少人数の茶会への招待。

(……私に……)

再び、扉の向こうで声が重なる。

「……次に動くのは」

はっきりとは聞き取れない。

クラーラはゆっくりと封蝋をなぞった。

(……なぜ、今なの)

クラーラは一度だけ振り返る。

扉はすでに閉ざされていた。

何も言わず、歩き去る。

「お待たせいたしました」

クラーラが席に着くと、

婚約者は穏やかに視線を上げた。

「待っていないよ。ちょうど一段落したところだ」

給仕が茶を置き、静かに下がる。

「――この間の夜会は、どうだった?」

「滞りなく終わりました」

「それは“成功”という意味かい?」

クラーラは微笑み、茶を口にする。

「王太子殿下は多くの方とお話しでしたが、

その場で深く踏み込むご様子はございませんでした」

「……ならば、様子見だ」

婚約者は小さく頷く。

「穏やかに見せるのも、ひとつの策だろう。

――我々のことも、同じだ」

クラーラは視線を落とし、カップを置いた。

「……本日、王妃陛下より茶会へお招きをいただきました」

婚約者の手が、わずかに止まる。

「……そうか」

一瞬だけ視線が落ちる。

「光栄なことだ。行っておいで」

クラーラはかすかに表情を緩めた。

婚約者は微笑む。

「ただ――」

その声色が、ほんのわずかに低くなる。

「王妃陛下は、無駄なお招きはなさらない」

微笑みは崩れない。

「君なら、分かるだろう」

クラーラは小さく頷いた。

「心得ております」

数日後。

「こちらのドレスでよろしいでしょうか」

淡い青の絹が、光を含んで揺れる。

「ええ。それで」

侍女が、わずかに首を傾げた。

「少々……華やかではございませんか」

「構わないわ。今日は――見られる場ですもの」

指先で袖を整える。

卓上に置かれた招待状。

深い青の封蝋が、静かに光を返している。

(呼ばれた理由……今日でわかるかしら)

侍女が背後から留め具を締める。

絹が肌に沿い、重みが落ち着く。

鏡の中の自分と、視線が合った。

(立つ場所を、誤らないこと)

婚約者の言葉が、かすかに胸に残る。

「ご用意が整いました」

「ええ」

クラーラは小さく息を整え、

視線をまっすぐに戻した。

扉が開かれ、廊下の光が、差し込む。

クラーラは、静かに部屋を後にした。