軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒロインとヒロイン

「さて、捕まえに行くか。逃げられたら困るんだろ?」

「う、うん! お願いします!」

「今日は王子も休みだし、ラッキーだったな」

私の姿を見て驚いたような様子のアンナさんの元へ、ディランはまっすぐに向かっていく。

アンナさんが狙っているらしい他国の王子は今日は休みのようで、周りには友人らしき女子生徒しかいない。

「はい、捕獲」

「えっ? ディラン、急にどうしたの?」

ディランは後ろからがっしりと、アンナさんを両腕で抱きしめるように捕まえた。二人とも色気が溢れ出ているせいで、なんだかとてもアダルトな絵面だ。

アンナさんも「もう!」なんて言って笑うだけで、戸惑う様子はない。経験値が違う。

「あの、私レー」

「えっやばーい! レーネちゃんだ! すごーい!」

そんな中、声を掛けるとアンナさんは大きな瞳をキラキラと輝かせ、私の手を取った。

手紙では「巻き込まれたくないから関わらないで」という感じだったため、想像していたのと違う反応に戸惑ってしまう。そして可愛い。

「あの、わた」

「えー! 声もボイスと同じなんだ! 可愛い!」

「実は色々とおはな」

「あ、お昼はこれから? 一緒に食べよ! みんなごめんね、今日はレーネちゃんと食べてくるね!」

私が喋る間もないままアンナさんは話し続け、ディランの腕の中から抜け出す。そして友人らしき女子生徒達に声を掛けると、私の腕に自身の腕をするりと絡めた。

驚くほど自然で甘い良い香りがして、どきりとしてしまう。異性だったなら、一瞬で落ちるに違いない。

そんな中、慌てて振り返り吉田やセシルに向き直れば、二人も色々と察してくれた様子だった。

「俺は吉田と飯食ってるから、二人で話してこいよ」

「……本当に俺は何故ここにいるんだ?」

「俺も混ーぜて」

「うるせえ、失せろ」

「みんなごめんね、ありがとう!」

皆の協力のお陰でアンナさんとこうして会えたのだ、感謝してもしきれない。後で必ずお礼をしなければ。

ひとまず昼食を食べながら話をしようということになり、私はアンナさんに腕を引かれたまま、他の学生達に混ざって注文の列へと並ぶ。

「うちの学校の学食、すごい種類があって悩んじゃうんだ。ハートフル学園もこんな感じ?」

「うん! でも、こっちの方が現代的な感じかな」

初めて会うはずなのに、まるで昔からの友人だと錯覚してしまう話しやすさがある。アンナさんからはヴィリーのような、圧倒的な陽のオーラを感じた。

「あのね、このハンバーガー美味しいんだよ! 元の世界で一番人気だったファーストフード店の味に似てて」

「ほんと? 私、一時期は週2で食べてたんだ」

「私も料理できないから、仕事終わりいつもテイクアウトしてたなあ。こういう話できるの、新鮮で嬉しいね」

「わかる」

そうしてお揃いのランチセットを頼んだ後、私達は一番端のテーブルに向かい合って腰を下ろした。

会話が会話のため、人に聞かれないようにしたい。とは言え、アンナさんは気にしていないらしいけれど。

「いただきまーす!」

「いただきます」

こうして両手を合わせてから食べるのも、すごく久しぶりな気がする。私もいつの間にか、かなりこの世界に染まっていると実感した。

「ごめんね、無理やり会いに来ちゃって」

「本当にびっくりしちゃった! ……でもね、手紙を送った後に後悔したんだ。また死ぬのはやっぱり怖いけど、レーネちゃんも怖いだろうなって」

また死ぬ、という言葉から、やはり彼女も死んでこの世界に転生してきたことを悟る。

「レーネちゃん、ごめんね」

私は死んだのかな? 程度だったけれど、死の瞬間の記憶があるのなら、何よりも恐ろしい経験に違いない。

それなのに、こうして私のことを考えてくれ、謝る彼女は本当に優しい子なのだろう。

「あ、レアアイテム! すごいね、全員の好感度が高くないと現れない隠しダンジョンを攻略したんだ」

ふと私の手元へ視線を向けたアンナさんは、再びぱあっと瞳を輝かせた。

宿泊研修以降いつまでも外れない、この呪いの指輪のことを言っているのだろうか。そもそも全員の好感度が高くないと、という言葉にも引っかかる。

聞きたいことは数え切れないくらいあるけれど、まずは攻略対象が誰なのかを把握しておきたい。そう思った私は、妙に緊張してしまいながら口を開く。

「私、本当にすぐに積んじゃって、この世界のことを何も知らないんだ。だから色々と教えてほしくて」

「杏奈はフルコンして何周もしてて超詳しいから、何でも聞いて! 歩く攻略サイトって感じだもん」

よくこんなクソゲーをそんなにやり込めたなと尊敬しながら、私はアンナさんの空色の瞳を見つめた。

「ありがとう! まずは攻略対象を教えて欲しいな」

「ええと、まずは王子のセオドア様でしょ、後はヴィリーとラインハルト、私の推しのアーノルドと……」

「吉田──じゃなかった、さっきあそこにいたマクシミリアン・スタイナーは攻略対象じゃない?」

「あ、なんか見たことあると思ったけど、王子のお友達だよね? 攻略対象じゃないよ」

「よ、よかった……」

予想していたことではあったものの、ヴィリーやラインハルトも攻略対象だと思うと不思議な気分になる。

そして吉田が攻略対象ではないことにも、安堵した。これで吉田ルート突入という展開はなさそうだ。

「あれ、四人しかいないの?」

「ううん、全部で六人だよ。あとはユリウスと、隠しキャラが一人いるから」

「…………えっ?」

信じられない言葉に、私は自身の耳を疑った。だってユリウスは私の兄なのだ、そんなはずはない。

「ユリウス・ウェインライトも攻略対象、なの?」

「そうだよ? 王子と一番人気を争うくらいで、杏奈の友達もすっごく推してたなあ」

「だ、だって兄妹なのに、おかしくない?」

きっと何かの間違いだと思いながらも、心臓は嫌な音を立て早鐘を打っていく。

そんな私を見て、アンナさんは「変なレーネちゃん」なんて言って、困ったように微笑む。

「血は繋がってないんだし、普通じゃない? 義兄ルートなんて乙女ゲームの鉄板でしょ」

頭の中が、真っ白になった。