軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お付き合い

「支度をしてくるから、少し待っていて」

「わかりました」

そう言って吉田姉は部屋を出て行き、やがてドアが閉まった瞬間、私はくるりと振り返り吉田に向き直った。

「と、いうことなんですが……?」

「何故疑問形なんだ」

吉田は深い溜め息を吐くと、少し下がっていたメガネを中指でくいと押し上げた。

「そもそも話を聞かない姉が悪い。すまなかった」

「ううん。素敵なお姉さんだね」

吉田のことが大切で心配だという気持ちや、二人が仲が良いことも伝わってきたからこそ、吉田姉には安心してもらった上で、彼と付き合っていきたい。

「でも、これで私が吉田のお姉さんを倒せなかったら、吉田と仲良く出来なくなるのかな……」

改めて口に出してみると「吉田のお姉さんを倒せなかったら」というパワーワード、冷静に突っ込みどころしかない。

そもそも、どう戦うのだろうか。ハイスペックなマックスの姉なのだ。実際、今の私に勝機は少ないだろう。それでも、全力で頑張りたいと思っていたのだけれど。

「とにかく、あまり心配する必要はないから大丈夫だ」

「…………?」

よく分からずに首を傾げていた私はそれから10分後、その言葉の意味を知ることとなる。

◇◇◇

「……っ、う!」

「くっ……!」

それから30分後、私は広く美しい吉田邸の庭の隅で、吉田姉とギリギリの戦いを繰り広げていた。

彼女との勝負は、魔法での戦闘形式だった。大きな怪我をしては困るということで、使えるのは水魔法のみ。ちなみに吉田姉は、今年の春にハートフル学園を卒業したらしい。

「……初等部の入学試験でも、もう少しマシだろうな」

少し離れたところで、吉田は呆れた表情を浮かべている。

そう、私達のお互いの繰り出した魔法は、ギリギリのところで永遠に当たらない。悲しいギリギリの戦いだった。

私も試験対策として的当てのみ必死に訓練しただけで、目標が別の物、別の角度になると命中率はからっきしなのだ。そしてなんと吉田姉もまた、私と同じレベルだった。

「おや、水遊びですか? 今日は暑いですから良いですね」

通りがかった庭師らしきおじいさんは、ニコニコと笑顔を浮かべ通り過ぎて行く。完全に私達の真剣勝負は、お遊びだと思われてしまっている。

「きゃっ!」

「や、やった……!」

そんな中ようやく、私の放った水の塊がぱしゃんと吉田姉の顔に当たり、このままでは日が暮れるというレフェリー吉田の判断により勝敗は決した。

水に濡れたことでより色気が溢れ美しさが増した彼女に、勝ったはずの私はとてつもない敗北感を覚えてしまう。

「この私と互角に渡り合えたのは、貴女が初めてです」

「だろうな」

確かにこんなレベルの低い戦いなど、滅多にないだろう。

吉田姉は学生時代、ずっとDランクだったらしい。筆記試験はいつも満点近い上に魔力量も少なくはなかったけれど、技術が壊滅的だったせいなんだとか。

「それでは、次の試験に備えて私は着替えてくるので、会場であるマックスの部屋で待っていてください」

「勝手に俺の部屋を試験会場にするな」

そうして何とか一次試験は突破し、私はほっと安堵しながら吉田の部屋へと戻ったのだった。

◇◇◇

「先程はお見事でした。実力的には問題ありませんね」

「お粗末の間違いじゃないのか」

あれから15分後、私は吉田の部屋にてテーブルを挟み、面接スタイルで吉田姉と向かい合っていた。

水を浴びたせいか、時折くちゅん、という可愛らしいくしゃみをしていて心配になる。大丈夫だろうか。

「それでは、今から最終試験を始めます」

二次かと思いきや、まさかの最終試験らしい。私はよろしくお願いします、と小さく頭を下げた。

「マックスの好きな所を、2000字以内で述べなさい」

「わかりました」

吉田の好きな所など、無限に語れる自信がある。ただ、口頭で2000文字というのはかなり難しい。けれどこれもまた、試されているのだろう。気をつけなければ。

「マクシミリアンくんの好きな所は──…」

そうして私は、吉田への愛を語り始めたのだけれど。

「……頼むからもう、やめてくれないか」

それからしばらくして、両手で顔を覆った吉田の声で我に返る。つい熱くなり、語りすぎてしまっていたらしい。

間違いなく既定の2000字は超えてしまっているに違いない、と慌てて吉田姉を見れば、彼女はなぜかハンカチで目頭を押さえ、うんうんと頷いていた。

「やはり、マックスの見る目は正しかったようね……全文同意すぎて首が痛いわ」

「あの、今何文字ですか?」

「ぴったり2000字のような気がする」

「ええっ」

急にガバガバ判定になったけれど、どうやら吉田姉の満足のいく回答だったようで、再び安堵する。

「貴女のマックスへの想い、しかと受け取りました」

「お前が受け取るのか」

「二人のお付き合いを、認めましょう」

「あ、ありがとうございます!」

吉田姉はハンカチで涙を拭きながら「どうか、マックスをよろしくね」と微笑んでいる。

──前世では「鈴音ちゃんとは仲良くするな」と、親から言われている同級生が居たことも知っていた。だからこそ、大切な友人の家族に認めてもらえて、本当に嬉しい。

「吉田、やった! 認めてもらえたよ!」

「ああ」

「これからもよろしくね! 大好き!」

「喜びすぎだ、恥ずかしい奴め」

つい浮かれすぎてしまい、怒られるかと思ったけれど。

吉田は私の頭をくしゃりと撫でて「ありがとうな」と小さく笑って。そんな私達を見て、吉田姉は吐いてしまうのではないかというくらい泣いていて、心配になる。

「これからは私のことを、姉だと思っていいからね。アレクシアって呼んでちょうだい」

「本当ですか? ありがとうございます、嬉しいです」

「お前のような妹は要らないんだが」

「まあ、マックスったら冗談が上手になったわね」

ずっと姉という存在に憧れていた私は、アレクシアさんの言葉に頷き、胸を弾ませた。

……私と吉田姉の間に、とんでもない勘違いが生じているなんて、気がつかないまま。