軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宿泊研修 4

「テレーゼ、本当にありがとう」

「大丈夫よ。熱かったら言ってね」

「う、はっくしゅん」

あの後、物凄い勢いで押し寄せてくる水から逃げ切ることは出来たものの、全身びしょ濡れになってしまって。

今は再び安全そうな場所にて休憩し、テレーゼが火魔法と風魔法を組み合わせて髪や服を乾かしてくれている。

2つの属性魔法を組み合わせて使うのは、二年の後半から学ぶ内容だと聞いている。改めて彼女の凄さに感動しつつ自分の無力さを実感した私は、もっと頑張ろうと心の中で勉強への意欲を燃やしていた。

「レーネちゃん、僕の上着もよかったら着て」

「ううん、大丈夫だよ。ラインハルトが風邪引いちゃう」

「僕は大丈夫だから。ね?」

そう言って、彼は自身の一回り大きな体育着を私に羽織らせた。驚くほど良い香りがする。そして何より、直前まで彼が着ていたことで温もりが残っていて、とても温かい。

お礼を言うと、彼は「かわいい」と満足げに微笑んだ。

「それにしても、困ったな」

「ええ、どうしましょう」

そう、私たちの目の前には見事な別れ道があったのだ。別れて行動するのは危険だろうということで、多数決にて左に進むことを決める。

さっきとは違う造りかもしれないし、私がまたうっかり罠に引っかかるまでは自分で歩いていくことした。道が広くなったことで、王子と吉田の間に挟まる形で進んでいく。

「マジでここ、なんなんだろうな。お宝とかあんのか?」

「こんな遺跡があるなんて、聞いたこともないわ」

このベッタベタな罠なんかを見る限り、ゲームイベントであることは間違いないだろう。一体誰との、何のためのものなのか、さっぱり分からないけれど。

「危な、」

そうして歩いていると突然、吉田の足元が青白く光り、ガコンと何かが外れるような音がして。それと同時に床がズレていくのが見え、私はその瞬間、彼を突き飛ばしていた。

「っレーネ!」

前のめりになった私が、床にできた隙間に落ちていく。吉田がすぐに手を伸ばしてくれたけれど、ギリギリ届かない。

そしてそのまま、私は思いきり一階下の地面に落ちた。

「いった……」

天井くらいの高さから落ちたものの、地面が土だったことで怪我はない。あちこち、かなり痛いけれど。

土埃を払いながら立ち上がり天井を見上げれば、まるで私が落ちてきたことが嘘のように隙間ひとつ無くなっている。

完全に、皆とはぐれてしまった。

もちろん心細いし不安だけれど、吉田が一人になるよりはずっといい。私はこの世界のヒロインなのだ。簡単には死なないはずだと自分に言い聞かせ、必死に平常心を保つ。

すると、足元できらりと何かが光ったような気がして視線を向ければ、下を向いたせいで落ちたらしい吉田の割れたメガネが、すぐ側に落ちていた。

「吉田、大丈夫かな」

そこまで目は悪くなかったはずだけれど、流石にメガネがないのは不便だろう。そっと拾い上げ、握りしめる。

この部屋の中はかなり広いようだけれど、明かりが少ないせいで数メートル先も真っ暗で見えない。

とにかく、出口を探して皆と合流したい。突然一人になってしまい不安だったけれど、しっかりしなければ。メガネを持っていない方の手で、思い切り頬を叩く。

「よし、がんば「グオオオオオォ!」」

そうして気合を入れた瞬間、大きな唸り声のようなものが聞こえてきたのだ。どすん、どすんという地鳴りにも似た足音と共に「何か」がこちらへと近づいてくる。

そして、小さな明かりに照らされたそれの姿がぼんやりと見えた瞬間、私は意識が飛びかけた。

「……うそでしょ」

そこには私の身体の10倍以上大きな、竜のような姿をした魔物がいたのだ。真っ赤な二つの目がギロリとこちらを睨んだ瞬間「あ、これ死ぬやつだ」と生まれて初めて思った。

「グオオオオオオ!」

「ほ、本当にバカじゃないの!?」

竜はぷうと頰を膨らませたかと思うと、次の瞬間には炎を吹き、私はすんでのところで避けると全速力で逃げ出した。

「あっつ……!」

焦げたような匂いが鼻をつき、自身の髪の毛先が燃えていることに気づいた私は、不慣れな水魔法を慌てて使う。身体も濡れてしまい、もう散々すぎて泣きたくなる。

それからも必死に走り続け、時々転びながらも命懸けの鬼ごっこは続く。乙女ゲームのヒロインってこんなにボロボロになるものだった? と独り言ち、出口を探す。

走り回るうちになんとか出口らしきドアを見つけた私は、縋るような気持ちでドアを押したのだけれど。

「あ、開かない……!?」

ドアはびくともしない。そうしているうちに竜との距離はかなり縮まっていて、その首元に鍵らしきものがぶら下がっているのに気付いた私は、苦笑いを浮かべるほかなかった。いい加減にして欲しい。無理ゲーにも程がある。

やがて竜は再び頰を膨らませた。こんな距離で炎を吐かれては、絶対に避けれない。丸焦げバッドエンドは絶対に嫌だと思った私は、少しでも足掻こうと両手を前に突き出す。

そして竜が思い切り、炎を吐いた瞬間だった。突然、痛いくらいに眩しい光が視界いっぱいに広がったのだ。驚いた私は、きつく目を閉じたまま水魔法を発動したのだけれど。

ドオン、という大きな何かが倒れるような音と、魔物の叫び声のような物が響いた後「は、なにこれ冷た」という、この場に似つかわしくない呑気な声が耳に届いた。

──死にかけた私は、いよいよ幻聴まで聞こえるようになったのだろうか。だってここに、彼がいるはずがない。

「……ねえ、これどういう状況?」

やがてゆっくりと目を開ければ、びしょ濡れで呆れたように笑うユリウスと、彼に制服の首元を掴まれ「ユリウスは滅茶苦茶だなあ」と笑うアーノルドさんの姿がそこにあった。