軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二度目の学園祭 5

向かいに座るテレーゼも食事をする手を止め、長い睫毛に縁取られた目を瞬いている。

「今日、ルカーシュくんがみんなにそう話しているのを聞いてしまって……」

「はっ」

マフィア騒動や学園祭で慌ただしく過ごしていて頭から抜け落ちていたものの、ルカと血が繋がった姉弟だというのをもう隠さずにいこうと約束したのだ。

『ていうかもう、俺も姉さんの弟だってみんなに言いふらしたいな。もう俺の身分も貴族になったからそんなに迷惑はかけないだろうし、だめ?』

『気を遣わせてごめんね。これからは仲良し姉弟として堂々としていこう』

ルカのタイミングに任せると伝えていたけれど、どうやら今日だったらしい。周りから、特に下級生からの視線を感じることにも納得がいく。

私も自慢の世界一かわいい弟を堂々と周りに紹介したいと思っていたから、嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、笑顔で頷いた。

「うん、そうだよ! 両親の離婚でしばらく離れてたんだけど、実の姉弟なんだ」

すると女の子達はなぜか「良かった」と、嬉しそうな、安堵したような様子を見せた。

「ウェインライト先輩がユリウス様とお付き合いされているのは知っているんですが、ルカーシュくんは先輩のことを好きなのかなって、ずっと思ってて……」

なんと彼女達はルカが私に片想いをしていると考えていたようで、姉と弟という関係が事実なのかを確かめに来たらしい。

「やっぱり周りからはそういうふうに見えちゃうんだ……」

「よく似ているんだけれどね。言われてみれば、って感じなのかしら」

きっとこの中ルカのことを好きな子がいるんだろうと思うと、温かな気持ちになる。テレーゼも微笑ましいという感じで、優しい表情を浮かべていた。

「もしかして、この中にルカのことが好きな子がいるの?」

美少女ばかりでついつい気になってしまい、結局尋ねてみてしまう。すると彼女達は満面の笑みで、答えてくれる。

「いえ、私達全員です」

「…………?」

「みんなルカーシュくんのことが好きで、ライバルです」

またもや予想外の回答がされ、今度はもう反応すらできなかった。

詳しく聞いたところ、私とルカが本当に姉弟だった場合は正々堂々と戦う所存らしい。

「そ、そうなんだ……が、がんばってね!」

弟のモテっぷりと友人内でのバトルロイヤルに戸惑いを隠せないものの、ルカにも素敵な恋愛をしてもらいたいという気持ちはある。

それから彼女達はルカのどこが好きなのかを口々に語ってくれた。

「見た目が素敵なのはもちろんですが、俺様な態度の中にもふとした優しさがあって……」

「同級生とは思えないくらい大人びているのも魅力的よね」

「魔法も勉強も完璧で、努力家なんでしょうね」

「分かる! ルカってああ見えて、家でも真面目に勉強してて──」

大好きな弟をたくさん褒められて、嬉しくなった私も食事をするのを忘れ、ついつい一緒になって盛り上がってしまう。

「……姉さんまで何やってんの」

するとルカその人がやってきて、溜め息混じりに私の頭に顎を載せた。

「優しい姉さんはお前らの相手をしてやってるせいで、飯が食えないだろ。散れ」

「ちょ、ちょっとルカ、もっと優しく……」

「きゃああっ、ルカーシュくんに声をかけられちゃった!」

「…………」

冷たい言葉を浴びせられたにもかかわらず、女子生徒達は嬉しそうに去っていく。

ルカのことが好きな子達は、M寄りなのかもしれない。

「ごめんね、姉さん。いつ言おうかなって悩んでたんだけど、今日は特に姉さんのことが好きなのかって聞いてくる奴らが多いから、つい言っちゃった」

「私は全然いつでも大丈夫だよ! ありがとう」

ただ伯爵夫妻がさらに怒り心頭になるだろうから、より伯爵邸に戻りづらくもなった。このまま三人で暮らし続けられないかなと、最近は本気で考えていた。

「テレーゼ先輩、俺も一緒に食べていい?」

「ええ、もちろん」

実は下の妹弟が欲しかったというテレーゼもルカを可愛がってくれていて、ルカも懐いている。ご機嫌な様子のルカは私の隣に座り、ぎゅっと抱きついた。

「でも、勘違いがなくなってこれからまた女子がうるさいと思うと面倒だな」

「意外と素敵な出会いがあるかもしれないわよ」

「俺は姉さんと一生一緒にいるから、他の女なんて絶対に好きにならないって」

「いやいや、そう言ってくれるのも今だけだよ」

もちろん嬉しいけれど、恋というのは意外な相手といきなり落ちることがあるというのは、私自身の経験から証明済みだ。ルカだって、もう少し大人になったらまた気持ちも変わるはず。

でも、こうして姉さん姉さんって甘えてくれなくなるのは寂しいなあ、なんて考えてはセンチメンタルになっていると、ルカが冷ややかな目で私を見ていることに気が付いた。

「……姉さんは俺の気持ちを疑うんだ? へえ?」

「えっ……いえ、そういうわけでは……」

「いつも姉さんのことが大好きって精一杯伝えてるのに、酷いね。もしかして迷惑だった? だからわざと気付かないフリをしてるの? 傷付くな」

本当に待ってほしい。なぜか弟が拗らせメンヘラ彼氏のようになってしまっている。

「ご、ごめんね! 私が悪いんだ、ほら、いつかルカに彼女ができたらショックだから、先に自分に言い聞かせて、心の予防線を張っていたと言いますか……」

慌ててフォローをしたところ、ルカの目に光が戻った。

「なんだ、姉さんって本当に心配性だね。俺は絶対に姉さんを裏切らないのに。死ぬまで姉さんを養えるように貯金もしてるから、安心して」

「あ、ありがとうね……」

私達を見て、テレーゼは「姉離れが大変そうね」と苦笑いをしている。いつか私が結婚するなんて言ったら、ルカはどうなってしまうのか心配ではある。

とはいえ、とにかくこれでルカと堂々と仲良し姉弟として過ごせると思うと、一安心だった。

◇◇◇

演劇練習を始めてから、一週間が経った。

「ロミオ、どうして私じゃだめなの? あんなにも熱い眼差しを向けてくれていたじゃない!」

「……真実の愛を見つけたんだ」

「それなら最後に、どうか抱きしめて」

「彼女を裏切ることはできない、すまないロザライン」

「待って! お願いだから……っ」

そうして吉田に必死に縋り付くアーノルドさんという構図が完成し、ミレーヌ様とルカが噴き出したところで、一旦休憩になった。

アーノルドさんを引き剥がし、げっそりとした顔で吉田が戻ってくる。

「このシーンは一体なんなんだ……」

「まさかアーノルドさんと吉田っていう組み合わせになるとは思ってなかったから、ついつい筆が乗っちゃって……」

ロミオとその初恋相手のロザラインについては、本編で多くは語られない。

けれど、今回は出演する人数が多いこともあって膨らませようとした結果、私の妄想99パーセントでお送りしている。

「振られる側ってこんな気持ちなんだね。すごく辛そうだし、やっぱり断るのは良くないよ」

「アーノルドだけは刺されて死ぬ役にすれば良かったのに」

ユリウスは呆れた表情を浮かべており、ルカも「本当にね」と同意している。けれど悔しいことに、アーノルドさんの演技は素晴らしい。

きっと実際に衣装を着て女装をしたら、相当な美女になる気がしてならない。ちなみに外注している衣装やウィッグは来週には届くそうで、より本格的に練習できる日が楽しみだった。

「少し出てくる」

「? 行ってらっしゃい」

吉田はそれだけ言って、突然体育館の外へ出て行く。気分転換でもしたいのだろうか。

「レーネ、最初よりずっと良くなっていたわ」

「僕もそう思ってた。練習、頑張ってくれてるんだなって」

「…………」

「み、みんな……! ありがとう!」

テレーゼやラインハルト、王子も褒めてくれてほっとする。毎日、屋敷でも学校でも隙間時間を使って必死に練習をしていた。屋敷ではユリウスやルカも練習を手伝ってくれていて、本当にありがたい。

「でも、今の練習方法で本当に大丈夫なのかな……」

やはり素人すぎて、不安はある。

街中には劇団も色々と存在すると聞いているし、頼み込んで数日だけでも指導を依頼するのも一つの手かもしれない。

そんなことを悩んでいると、体育館のドアが開いた。

「あ、吉田。おかえり」

「指導ができそうな者を連れてきた」

「えっ?」

やけに深刻な表情を浮かべる吉田の後ろには、一人の女性の姿があった。

「あ、あなたは……!」

「久しぶりね、レーネ。元気そうで何よりだわ」

そう言ってウェーブがかった青髪を後ろへ流したのは、吉田姉──アレクシアさんだった。

「ど、どうしてここに……?」

戸惑う私の側へやってきたアレクシアさんは、ポンと私の側に手を置く。

「こう見えて私、国一番の劇場でオペラに出ていたの」

「えっ、そうなんですか……!?」

なんとアレクシアさんは学生時代、歌の上手さを買われてオペラに出演していたのだという。

初めて聞く情報に、驚きを隠せない。オペラはセリフを「歌って」演技するものだし、演技のプロに違いない。

「俺も一度だけ劇場でアレクシア先輩を見たことがあるけど、素晴らしかったよ」

「ア、アーノルド・エッカート……! 生きていたのね」

「あはは、殺さないでくださいよ」

呑気にアーノルドさんは笑っているけれど、アレクシアさんは眉を顰めて後退している。

当時の三年の女子グループを崩壊させたことでユリウスを好いていない様子だったけれど、どうやらアーノルドさんも同様らしい。

「あいつ、アレクシア先輩の友達に刺されかけたんだよ」

「ええ……」

隣にいたユリウスが、苦笑いしながら教えてくれる。

けれど悲しいことに「何か誤解があったのかもしれない」とか、アーノルドさんを庇う言葉はひとつも出てこなかった。多分、いや99%アーノルドさんが悪い。

「とにかく私が来たからにはもう大丈夫よ。あなた達の演劇をより良いものにしてみせます」

「ア、アレクシアさん……!」

なんて心強いんだろうと、涙が出そうになる。

照れ屋の吉田がお姉さんにお願いするのだって、きっとかなりの勇気が必要だったはず。私は二人に何度もお礼を言い、絶対に良いものにしようと改めて気合を入れた。

「そう言えば、吉田のもう一人のお姉さんって一年の時の学園祭以来、会ってないよね」

「あいつは危険すぎて、俺が必死に周りと関わらないよう食い止めているからだ」

吉田の陰の努力による結果らしく、より気になってしまう。妖精のように可愛らしくて優しそうな人だったから、不思議で仕方ない。

「吉田の姉ちゃん、すげー美人だな! 吉田に似てるし」

「ヴィリー君、とても見る目があるわね。今度ぜひうちに遊びにきてちょうだい」

「お前が誘うな」

三年生組と王子と私以外とは初対面らしく、和気藹々と挨拶をし合っている。

「あなた、レーネの弟なんでしょう? レーネによく似て、とてもかわいいわね」

「ありがとうございます、綺麗なお姉様にそう言ってもらえると嬉しいです」

「まあ、お上手ね。ぜひ今度レーネと二人で遊びにきてちょうだい」

「だからなぜお前が招待するんだ」

アレクシアさんとルカは初対面だったけれど、よそ行きの愛らしい笑みを浮かべたルカはよしよしと頭を撫でてもらっている。

美女と美少年の組み合わせは眼福でありがたい。

「アレクシア先輩、俺は?」

「あなたは駄目です」

けれどやはりユリウスへの当たりは強いままで、不信感は根深いようだった。どうにか今回の演劇の練習期間で、和解してもらいたい。