軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交流会・事件続きの魔の森編 9

ユリウスは側にしゃがみ込むと「ねえ」と声をかけた。

「さっきの防御魔法、どうやるのか教えてよ」

「……は?」

「あの形は初めて見たし、しばらく考えたけどどういう構造なのか分からなかった」

ウィンさんは呆然としたまま、ユリウスを見つめ返すことしかできずにいる。

少ししてようやく彼の口が紡いだのは「なんで」という、ひどく小さな掠れた声だった。

「君の魔法は効率がいいし綺麗だから、レーネに教えるのにいいなと思って」

ユリウスの言葉に、ウィンさんは驚きでいっぱいの、信じられないという表情を浮かべた。

私も予想外の行動に驚きつつ、二人の姿を見守る。

「あと、君のことは覚えてるよ。決勝での相手くらいは」

「……覚えていたのか」

「何度倒しても立ち上がってきたあの姿、忘れる方が難しいよね。もう最後は顔もボコボコで原型を留めてなかったから、同一人物だと気付くのに時間がかかったけど」

あれだけの人が見守る競技場で、そんなにも頑張れたウィンさんはすごいと素直に思った。

きっと勝機なんてなかっただろうし、普通なら周りの目を気にして諦めてしまうはず。

「それに眼中になかったわけじゃない。あの頃は何に対しても興味を持てなかっただけ」

ユリウスは昼食タイムもずっと、なんだかんだウィンさんの話を聞いてあげていたようだった。私やみんなともずっと食事をしながら会話をしていたし、聖徳太子すぎる。

「今は違うとでも?」

「少しはね」

そう答えたユリウスをウィンさんはじっと見つめていたけれど、やがて身体を起こした。

そして静かに、深く頭を下げる。

「……すまなかった」

声音や態度から、心から反省しているのが伝わってきた。

ユリウスは何も言わず、その姿を見つめている。

「僕はただ、お前みたいになりたかったんだ。そしてお前はどんどん変わっていくのに、固執した自分だけ取り残されていくのが怖くて、愚かな真似をしてしまった」

もう一度謝罪の言葉を紡ぐと、ウィンさんは目を伏せた。

──周りに取り残される恐怖は感じたことがあるし、自分自身を変えようとすることにも勇気が必要だと知っている。

私だって前世では何度も今の生活を変えたいと思っていたのに、何も行動を起こせずにいた。

異世界転生なんて機会を与えられなければきっとずっと、あのままだったと思う。

だからウィンさんの言葉はどこか他人事には思えなくて、胸に来るものがあった。同時にこれほど自分を省みることができている彼はもう、間違えないだろうとも思う。

必要だったのは、きっかけに違いない。

「それとうちの学園の奴らは悪くないんだ。僕を応援してくれただけで、俺が責任を取る」

「ルール違反をしたわけでもないし怪我人だって出てないんだから、問題はないと思うけど。仮にあったなら、既に先生方が行動を起こしているはずだし」

「ウェインライト……」

ユリウスはもうウィンさんを許しているようで、これで一件落着だと安堵した。

いきなり競技が百八十度変わってしまった時はどうなることかと思ったけれど、残りの三時間ほどは再び魔蝶の捕獲に専念できるだろう。

「まあ、色々あったけど良かったな。俺は面白かったし」

「……ああ」

「二人の活躍、すごかったよ!」

ヴィリーと王子と和気藹々と話をしながら、ユリウスもそろそろ戻ってくるだろうと何気なく目を向けた瞬間、ユリウスが思いきりウィンさんを踏み付けたのが見えた。

「…………?」

何かの見間違いだろうと目を擦ってみても、見えているものは変わらない。

ユリウスは眩しい笑顔のまま、ウィンさんのお腹の上にある足先を動かしている。ゑ?

「ていうか、謝るべきはそこじゃないんだよね」

「ゲホッ……いや今……どう考えても……え……?」

「まだ許してないからね。俺の大事なレーネちゃんにちんちくりんって言ったこと。どう見てもレーネが世界で一番かわいいし、そもそも最近の俺のことを知ってるのも気持ち悪いからやめてくれない?」

再びの前言撤回、全然許してなんかなかった。

私は王子とヴィリーと共に仲裁に入ると、なんとかウィンさんからユリウスを引き剥がした。

「ほ、ほら、もう残りの時間もあんまりないし、魔蝶を捕まえに行こう! ね?」

「レーネがそう言うのなら」

今の今まで魔王みたいだったのに、私の言うことはあっさり聞いてくれること、先程までとは別人みたいな甘い笑顔を向けてくれることに、うっかりドキドキしてしまう。

ギャップに弱すぎる自分に活を入れていると、激しい戦闘後よりもボロっとしたウィンさんが私達を驚いたように見つめていた。

「……本当に、変わったな」

「俺もそう思うよ」

ユリウスは私の手を握り、背を向けて歩き出す。けれど不意に足を止め、ウィンさんの方を振り返った。

「それに俺、今の自分の方が好きなんだ」

そう言ってアイスブルーの両目を細めたユリウスの笑顔は、とても眩しいものだった。