軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正しい結末 1

開会式の後、ステージを借りてユリウスと個人戦の練習をした私は、アンナさんとの待ち合わせ場所であるカフェテリアへと向かっていた。

「レーネ、本当に成長したね。相手が悪くなければ一回戦くらいは勝てるんじゃないかな」

「そうだといいな、でも全部ユリウスのお蔭だよ! 私にできる限りのお礼はするから」

「レーネからのキス100回でいいよ」

「それ以外でお願いします」

そんなふざけたことを言うユリウスは、待ち合わせ場所のカフェテリアまで送ってくれていた。

一人で行けると遠慮をしても「少しでも一緒にいたいから」なんて言う。

「寂しいな、レーネちゃんはしたくないんだ?」

「そ、そんなことは言ってないけど……」

「知ってる? 休みが明けてから一回もしてないの」

もちろん、言われなくとも分かっていた。

頬などにはされていたけれど、夏休みの終わりにして以来、唇には一度もしていない。どうしてだろうと気にはなりつつ、恥ずかしくて話題に出すこともできずにいた。

けれどこの流れなら言えると思い、「どうして?」と尋ねてみる。

「レーネからしてくれるのを待ってるんだ」

「えっ?」

「あの時は俺を喜ばせようとしてくれたんだよね? そうじゃなくて、レーネ自身がしたいと思った時にレーネからしてほしいなって」

戸惑う私を見てユリウスは不敵に笑うと、こちらへと手を伸ばし、親指で私の唇に触れた。

「俺ばっかりが好きだから、少しは駆け引きでもしようと思ってる」

とにかくユリウスは本気で、自分からはもうしないつもりだと悟る。

──もちろんユリウスのことは大好きだし、触れたいとも思うし、キスだってしたいとは思う。

ただ慣れなくて恥ずかしくて、いっぱいいっぱいになってしまうだけ。

けれどユリウスはきっとそんなことも全部分かった上で、恥ずかしさとか照れなんてもう気にならないくらいになってほしい、と言っているのだろう。

「あ、もう着いた」

いつの間にかカフェテリアに到着していて、ユリウスは足を止めると私の頬にキスを落とした。

「屋敷で待ってる。楽しんできてね」

そして私がお礼を言う前に、離れて去っていく。

ユリウスとの駆け引きになんて勝てる気がしないと、火照る頬を抑える。

それでも、自らすると言うのはハードルが高い。前回はユリウスに恩返しをしたい、喜んでほしいという強い気持ちから、行動を起こせたのだから。

「レーネちゃん、見てたよ。ラブラブだったね!」

「わっ」

そんなことを考えていると、後ろからアンナさんに抱きつかれた。背中に当たる感触により、自分の体型とはかなり差があることに気付いてしまう。

まさか私だけ死亡BADありの理不尽ハードモードというだけでなく、そんなところにまで格差があるとは思わなかった。私だけ命のストックが五つくらいないと、割に合わない気がする。

「でも、去年は『皆そういうのじゃない』なんて言ってたのに、ユリウスといるレーネちゃん、超恋する乙女って感じでかわいかったよ」

「あ、ありがとう……! 実は付き合ってるんだ」

「やばーい! 超愛されてる感じだったし、素敵!」

まるで自分のことのようにはしゃぐアンナさんに照れてしまいつつ、つられて笑顔になる。

二人で空いている席に腰を下ろした後は、飲み物とケーキを注文した。

「ハートフル学園のカフェテリア、懐かしいな」

「やっぱりゲームにも出てくるんだ?」

「うん、放課後デートの鉄板だからね。そうだ、後で聖地巡礼に付き合ってくれる?」

「もちろん良いよ。任せて!」

やはりアンナさんはマイラブリンが大好きらしく、どこが良いのかと尋ねたところ「こちらの想像を軽く超えてくるところ」と即答された。

アンナさんは生粋の乙女ゲームオタクらしく、彼女くらいの玄人になると、他ゲームにはないぶっ飛んだ展開や理不尽な設定に振り回されるのが良いそうだ。

私もかなりの乙女ゲーマーだと自負していたけれど、自分はまだまだなのだと思い知った。

「でも、やっぱりメレディスに目を付けられちゃったんだね。ヒロインの宿命って感じ?」

「本当に助けてください、お願いします」

テーブルに両手をついて助けを乞うと、アンナさんは「降りかかった船だし、任せて!」と親指を立ててくれたけれど、色々と不安しかない。どうか降りずに乗っていてほしい。

「けど、メレディスのビジュアルはシリーズ内でもトップクラスで人気なんだよ。アンナも顔はアーノルドの次に好きだもん。実物もかっこよかった?」

「うん、確かに綺麗だったよ。なんか他とは違う生き物ってくらい」

神の使者なんて言われても納得してしまうくらい、メレディスは綺麗だ。何かを綺麗すぎて怖いと思ったのも、生まれて初めてだった。

「それで早速なんだけど、ゲーム内ではメレディスの呪いをどうやって解くの?」

紅茶やケーキが届いて一息吐いたところで、本題に入る。するとアンナさんは優雅な仕草でカップを置いた後、私の右手に長くて細い指でつんと触れた。

「この指輪の力を使うんだよ」

「えっ?」

どうやら右手の薬指で光る、真っ赤な宝石がついた指輪のことを言っているらしい。

これは一年の宿泊研修の際に謎の地下遺跡にて、望まずに手に入れてしまったものだ。何をしても外れてはくれず、もはや諦めて身体の一部だと思い込んで過ごしている。

「この指輪ってそもそも何なの?」

以前、パーフェクト学園に行った時にアンナさんは『レアアイテム』『全員の好感度が高くないと現れない隠しダンジョンを攻略』と言っていた記憶がある。

「これはトゥルーエンドに辿り着くためのアイテムだよ。難易度は高いんだけど、超泣けるの」

「トゥルーエンド……」

──乙女ゲームには、各攻略キャラクターに対してそれぞれバッドエンドやノーマルエンド、そしてハッピーエンドが存在する。

そんな中でも《トゥルーエンド》は最も物語の核心をつく「正史」のようなものだ。

全ての伏線が回収されたりと、ゲームストーリーの一番のエンディングと言っていいだろう。

「つまり、そのトゥルーエンドでメレディスの呪いを解くってこと?」

「うん。永い時を一人で生きてきた孤独なメレディスが救われるシーン、杏奈は五時間泣いたな。他ルートのメレディスはサイコパスすぎて苦手だったけど、最後は超好きになっちゃったもん」

アンナさんは感動したように両手をぎゅっと組み、目を潤ませている。

「むしろ真相を知ってメレディス視点を見ちゃったらサイコパスになるのも当然だって思えるし、エンディングとしては一番好きだったなあ。ファン投票でもトゥルーエンドが一位だったもん」

熱く語るアンナさんの姿を見る限り、よほどトゥルーエンドは良い話らしい。

「それでこの指輪と、どういう関係が……?」

「実はそれ、古代魔道具なんだ。その指輪を四つ集めると、どんな願いでも叶うの。トゥルーエンドのヒロインはその力で、メレディスの呪いを解くんだよ」

「…………?」

ふざけたクソゲー学園ラブコメと、いきなりのファンタジー展開との差がすごすぎる。

製作者が別ジャンルの作品に影響され、後付けした設定だとしか思えなかった。

「え、ええと……とにかく指輪を四つ集めれば、本当にメレディスの呪いが解けるの?」

「うん! でもメレディスとの契約なんてなければ、レーネちゃんは別のお願いができたのにね。どんな願いでも叶うなんて夢みたいな話だし、初代にしかないシステムだから貴重なのに」

アンナさんは残念がっているけれど、私からすれば涙が出そうなくらいの朗報だった。

私なりに必死になんとかしようとはしていたけれど、あのメレディスが数百年かけても解けなかった呪いをどうにかするなんて、実際は不可能に近いという自覚はあったからだ。

どんなに大変だったとしても道筋が示されたことに、どうしようもなく安堵していた。

『俺は今、ものすごく気分がいいんだ』

『多分、レーネが俺の呪いを解くって言ってくれたのが嬉しかったんだろうな。これまでずっとこの呪いを一人で抱えてきたから』

それに私自身、メレディスに幸せになってほしいと思っている。

正直ものすごく怖いし、何かあれば容赦なく私を殺してしまうと分かっていても、一人で何百年もの間苦しんできたことを思うと、放っておけなかった。

もしかすると、このクソゲーの被害者仲間という意識もあるのかもしれない。

「となると、あと三つ集めれば……はっ」

そこまで言いかけた私は、衝撃の事実に気が付いてしまった。

「じゃあいずれ、私の右手は悪趣味な成金みたいな状態になるってこと……!?」