軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最後にもう一度 1

夏休み最終日も、私は朝から庭でユリウスと共に魔法の練習をしていた。

「うん、かなり良い感じになってきたね。レーネ的にはどう?」

「身体に馴染んだ感覚みたいのはあるかも。それに最大出力にさえしなければ、だいぶコントロールできるようになった気がする」

ユリウスの素晴らしい指導のお蔭で、魔力をかなり制御できるようになったように思う。

『大丈夫、何かあっても俺が全部なんとかするから。思いきりやっていいよ』

最初は何度も失敗して暴走しかけたけれど、ユリウスは言葉通りその度に自身の魔力で押さえつけてくれて、自然と加減を覚えられたからだろう。本当に感謝してもしきれない。

そしてその度に、胸が高鳴るのを感じていた。

「最近、よく本を取り寄せてるのも魔法の勉強?」

「あっ……そうですね、そうです」

練習を終えて屋敷へ戻る途中、不意にそう尋ねられて冷や汗をかいてしまう。

ユリウスが言っているのは、私が呪いに関する本をメイドに用意してもらっていることについてだろう。

ひたすら呪いについて学んでいるせいで、私が誰かを恨んでいるという噂がメイドたちの間で流れていると聞いた。呪い殺そうとしているわけではないのでやめてほしい。

ちなみにアンナさんからは【えっ、やば! うけるね! 夏休み明けの交流試合で会えるはずだから、そこで作戦会議しよう♡】という軽い調子の手紙が届いた。こちらは全くうけない。

「……ふうん?」

ユリウスはあまり納得していない様子で、何の本を読んでいるのかも耳にも入っているのかもしれない。

けれど神の使者と言われているメレディスが本当は呪いを受けている、なんて事実を伝える訳にはいかない。ユリウスまで危険な目に遭ってしまうからだ。

「そ、それにしても今年の夏休みも、あっという間だったね!」

慌てて話題を変えると、ユリウスも同意してくれる。本当はまだまだやりたいことがあったのに、予定が大幅に狂ってしまったのが悔やまれた。

ただ吉田邸への訪問は別の機会になったため、万全の状態でお邪魔しようと思う。

「ユリウスとも、もっとお出掛けしたかったのに」

「そうだね。でもそれは夏休みじゃなくてもできるから大丈夫だよ」

いつでもどこでも私の行きたいところに行くと言ってくれて、笑みがこぼれる。

ちなみにユリウスは美術館が好きだと知り、今度一緒に行こうと約束した。前世と合わせても一度も行ったことがないため、勉強をしておかなければ。

その後は一緒に昼食をとり、汗を流すためにお風呂に入ってすっきりした私は、先ほど練習中に借りたものの使わなかったタオルを返そうと、ユリウスの部屋へと向かった。

「……レーネってさ、本当に俺のことを試してるよね」

「えっ? 何のこと?」

「こっちの話。おいで、髪乾かしてあげる」

そのまま腕を引かれ、ベッドの上に座らされる。暑くて髪を乾かさずにいた私の後ろに座ると、ユリウスは魔法で丁寧に乾かしてくれた。

「ありがとう、ごめんね」

「俺のためだから気にしないで」

「…………?」

どういう意味だろうと思いながら、程よく温かな風に身を任せる。手ぐしで髪を梳くユリウスの手つきは優しくて、とても心地良い。

毎日やってもらいたいと冗談交じりに言うと「勘弁して」と素のトーンで言われてしまい、甘えすぎも良くないと反省した。

「ふわあ……」

「かなり魔力を消費しただろうし休んだ方がいいよ。俺は仕事でもしてるから、ここで寝てて」

髪を乾かし終えた後、ぽかぽかして眠たくなった私の頭を、ユリウスは優しく撫でてくれる。

私は後ろに座ったままのユリウスを見上げながら、改めて夏休みのことを思い返していた。

──ユリウスは私にこんなにもたくさん良くしてくれているのに、私はただ照れてばかりで受け身でしかなかったように思う。

本当は、すごくすごく好きなのに。

今回の夏休みを通して、これまでよりもさらにユリウスのことが好きになった気がする。

「…………」

どうしたら、大好きなユリウスに恩返しができるだろう。どうしたら喜んでもらえるだろう、もっと好きになってもらえるだろう。

そう考えた結果、私は意を決して勇気を出してみることにした──のだけれど。

「わ、わっ」

ユリウスに思いきり抱きついたところ、勢い余ってそのまま押し倒す体勢になってしまった。

突然のことに、ユリウスもアイスブルーの両目を見開いている。

「……レーネ?」

私自身も思わぬ展開になってしまったけれど、ここまで来たらもう後には引けない。

抱きついていた腕を離してベッドに両手をついて、ユリウスを見下ろした。

「なに? もしかして襲ってくれるのかな」

「そ、そうです!」

「は」

冗談めかして笑っていたユリウスも、私の答えに戸惑った様子を見せる。

──自分からキスをしようと決意したけれど、ハードルが高すぎて心臓が破裂しそうだった。