軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はじめての 1

「これは僕のお祖父様から聞いた話なんだけど──…」

魔法があるファンタジー世界にもやはり、幽霊という概念はあるらしい。

ラインハルトの語りが上手すぎてかなり怖く、テレーゼと抱き合って何度も叫んでしまった。

平然としているのはアーノルドさん、ユリウス、王子、ラインハルトだけ。女子組は私だけでなくテレーゼ、そしてまさかのミレーヌ様まで怖がっている。

「だって、怖いじゃない。幽霊って魔法も物理攻撃も効かないって言うし……」

いつも凛として強気なミレーヌ様の可愛らしい姿に、恐怖心よりときめきが優ってしまう。

ミレーヌ様は私が守る! という気持ちにはなったものの、やっぱり私も怖い。

「俺ね、こういうミレーヌを見るのが好きなんだ」

「死んでちょうだい」

アーノルドさんとミレーヌ様はそんなやりとりをしていて「もしや好きな子ほど……?」という妄想をしてしまったけれど、ユリウスは「絶対にない」「ただの嫌がらせ」と言っていた。

男子組はというと、全く怖がらなさそうな吉田、ヴィリーもしっかりびびっていて意外だった。

「俺さ、ガチで見たことあるんだよ。金縛りも年に一回は必ずなるし、だから怖くてさ」

そうして語られたヴィリーの実体験は、それはもう恐ろしいものだった。

親戚の屋敷に泊まった際、天井裏から出てきたムカデのような女性に追いかけ回されたという話は全員が息を呑むくらいリアルで怖くて、正直ちょっと泣いた。

「や、やっぱりお化けって本当にいるんだね……ねえねえ吉田、怖すぎない?」

「……俺は怖がってなどいない」

「…………」

「………」

「ワッ」

「うわあっ! くそ、ふざけるな! もうお前とは口をきかない!」

「あはは、ごめんって」

強がる吉田を脅かしたところ、ペしんと頭を叩かれて怒られた。びびりな吉田も好きだ。

そんなやりとりをしているとルカが近づいてきて、私の身体に腕をするりと回した。

「姉さん、こわあい」

「お、お姉ちゃんが守るからね……!」

「いやお前、さっきまで真顔でつまんなそうに聞いてたよね?」

怖がるそぶりを見せるルカの首根っこを掴み、ユリウスはぐいぐいと引っ張る。

いつしかホラーな雰囲気も失われていき、怖い話大会は幕を閉じたのだった。

そうして各自部屋へと戻り、私もルカと仲良く寝る支度を済ませてベッドに入った。

「おやすみなさい、ルカ」

「姉さん、おやすみ」

「…………」

「…………」

「……ねえルカ、まだ起きてる?」

「起きてるよ」

「…………」

「…………」

「ねえねえルカ、まだ起きてる?」

「うん、起きてる」

「…………」

「…………」

「あの、ルカーシュさん」

「怖くて眠れないなら、寝付くまで見ててあげる。大丈夫だよ」

「本っ当にすみません……」

灯りを消してベッドに入って目を瞑ると、先ほどの怖い話たちがやけにリアルに脳内で再生されてしまい、ドアの方やベッドの下、天井までついつい気になるいう最悪の恐怖のループに入ってしまった。

窓の外の風の音にさえ、びくっとしてしまう始末。ルカは身体を起こして灯りを再度つけ、私の手を握った。

「これでもう怖くない?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

「姉さんが眠るまで適当に話をしておくね。相槌もいらないから、眠れそうな時に寝て」

脳裏で襲ってくるイマジナリー幽霊たち、それから救ってくれるどこまでも出来た弟を前に、私は雀の涙ほど残っていた姉としてのプライドの全てを捨てた。

苦手なものはもう苦手でしかないし、こればかりは仕方ないと開き直る。別の部分でルカにはしっかり恩返しをしようと思う。

「ルカ、私のお兄ちゃんにならない?」

「うーん……間をとって双子とかどう?」

「ふふ、それはそれで楽しそう」

そんな他愛のない話をしていると安心して、ルカの手がとても温かくて、だんだん瞼が重たくなってくる。やがてルカの心地良い声が遠ざかっていき、私は夢の中へ落ちていった。

「おやすみ、姉さん。ずっと側にいるからね」

◇◇◇

ルカのお蔭で睡眠不足にならずに済み、迎えた最終日。今日は再び数人のグループに分かれる予定で、私はユリウスと二人で行動することとなった。

「行こうか、レーネ」

「はい、よろしくお願いします!」

「あはは、なんで敬語なの?」

みんなと別れ、いつだってキラキラと輝くユリウスにエスコートされて馬車に乗り込む。

いつものように隣り合って座り、窓の景色を眺めていると、後ろから手が伸びてきてぐっと引き寄せられた。バランスを崩したことで、膝の上からユリウスの顔を見上げる体勢になる。

「ねえ、外なんかより俺の方見てよ」

「すごい、そんなセリフが似合う人って存在するんだ」

膝枕状態の私に顔を近づけ、ユリウスは微笑む。

「俺たちが付き合ってから初めてのデートなんだし、もっと俺はいちゃつきたいんだけど」

「はっ……確かに」

言われてみると付き合ってからというもの、デビュタント舞踏会やらなんやかんやで、二人きりでちゃんとお出かけする機会がなかった。

「しかも旅行中だってあんなことになって、全然レーネと過ごせなかったし」

「返す言葉もございません」

「だから今日は俺が満足できるよう、頑張ってね」

ユリウスの満足ラインがどこなのか何なのか分からないものの、私がそこを超えるのは至難の業だということだけは分かる。

けれど実は私もそれなりに気合を入れ、覚悟を決めてきていた。

『じゃあ夏休みの間に、キスさせて』

あの約束が果たされるのは、なんとなく今日この日なのではないだろうかと思ったからだ。