軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脱出への道 6

砂埃の向こうには、屈強な見張りの男達の姿がある。

「何でここに男がいる? その光はなんだ?」

「お前ら、まさか脱走を──くっ」

見張りがそこまで言いかけたところで走り出したルカが地面を蹴り、軽やかに浮いた身体から空を切るような回し蹴りが放たれる。

かなりの重みがあったらしく、咄嗟に受け止めた男の腕はびりびりと震えていた。どう見ても素人ではないルカの動きに、驚きを隠せない。

「このガキ、殺すぞ!」

「やってみろよ、おっさん」

キレた見張りの一人が拳を振り上げたものの、ルカは素早く後退して軽く避けてみせる。

それからも息を吐く間もない攻防が繰り広げられ、思わず息を呑む。

「す、すごい……」

ルカは地下で理不尽なことがあった際、すぐに暴力で解決しようとする節があったものの、これほどの実力があるからこそだったのだろう。

素人目にも、かなり強いことが窺える。

また新たな沼るきっかけ──ではなく新たな一面を知り、やはり私はまだまだルカのことを知らないのだと実感した。私の弟、かっこよすぎる。

「クソ、調子に乗るんじゃねえぞ!」

けれどもう一方の男もルカ目掛けて殴りかかり、二人がかりではとても避けられそうにない。

それなら私が代わりにとルカを庇って飛び込もうとしたのも束の間──勢いよく突き出された男の拳を受け止めたのは、なんと吉田だった。

その手には木の棒があり、掃除用具の先を折ったものを剣代わりにしている。

「お前の相手は俺だ」

吉田師匠もかっこよすぎて、いい加減にしてほしい。

ただの木の棒だというのに、美しい構えをする吉田が持つだけでまるで剣に見えてくる。

「クソガキどもが、ふざけるなよ! 絶対にここで潰してやるからな!」

「こちらのセリフだ」

それからは、二対二の戦いが始まった。

何もできないことがもどかしかったものの、余計なことをしては邪魔になるのは明白で。固唾を飲みながら、二人がどうか無事に勝てるよう祈ることしかできない。

「くっ……!」

けれど古い小屋の床が激しい戦いに耐え切れず、抜け落ちた床にルカの足が取られた。

体勢を崩したのを好機だと言わんばかりに、見張りの男の口角がにやりと上がる。

「はっ、終わりだ! このまま殺してやるよ!」

「ルカ!」

男がルカへと手を伸ばし、私が悲鳴に似た声を上げた時だった。

「──待たせてすまない」

凛とした王子の声が小屋に響き、男たち二人の身体は激しい音を立て、床に這いつくばるように地面に叩きつけられていた。

既に魔法陣からは光が消え、王子の手からはブレスレットが外れている。

無事に作戦は成功したのだと悟り、安堵から腰が抜けた私はその場にへたり込んでしまった。

「お、お前、なぜ魔法を使って……!」

「…………」

王子は顔に苛立ちを滲ませると突き出した右手を握りしめ、男たちの苦しげな悲鳴が上がる。

どんな魔法を使ったのかは分からなかったものの、男たちは完全に意識を失ったようだった。

「あ、ありがとうございます……!」

王子は私に向き直り、手を差し出してくれる。

その手を取って立ち上がると、王子は私についていた砂埃まで払ってくれた。どこまでも紳士で優しい王子にひれ伏したくなる。

「いやー、危なかったな。セオドア先輩、ありがとうございました」

「本当に助かりました」

吉田も足を取られたルカを引き上げていて、私は二人の元に駆け寄った。

「大丈夫だった? 怪我はない!?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった、私だけ何もできなくてごめんね」

「当たり前だ。こういう時は俺たちに任せておけ」

「二人とも一生推すからユニットでも組んで……」

ルカと吉田があまりにも格好よくて、この勇姿を私しか見ていなかったことが悔やまれる。

その後は王子が私たち三人のブレスレットも壊してくれて、それぞれ魔法が使えるかを確認した。

「良かった、ちゃんと使えた。セオドア様、ありがとうございます! これで脱出できるね」

「ああ。本当にセオドア様のお蔭だ」

吉田の言葉に対し、自分だけの力ではないと言わんばかりに王子は首を左右に振る。

ルカと吉田もいなければ、絶対にこの作戦は成功していなかっただろう。

改めてみんなに感謝しつつ、後はもう残りの見張りの目を掻い潜り、脱出するだけだ。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

けれど誰一人として、この場から動こうとはしない。

無言のままお互いの顔を見つめ合い、四人全員が同じことを考えているのだと察した。

「……やっぱり一発殴らないと、終われないよね?」

「ごめんね、俺は一発くらいじゃ終われる気がしない」

「ああ」

「暴力は好きではないが、今回ばかりは同感だ」

このままただ逃げるだけでは終われないと、みんなの心が非常に良くない形でひとつになる。

私たちは頷き合うと半壊した小屋を飛び出して、地下へ続く道へと駆け出したのだった。