軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒロインの行方 2

「そんな……」

驚きを隠せない一方で、ようやく納得がいった。

なぜ私に『全ての言語を理解できる』という特殊能力が備わっていたのかを。全てはこのゲームの隠しキャラである、メレディスのルートに繋がっていたのだ。

そして初めて会った時、違和感を覚えたメレディスとの会話も、今なら理解できる。

『あー、いちいち話しかけんなよ。どうせ無駄なのに』

『お前、俺が何を言ってるか分かんの?』

彼の言葉を誰も理解できないからこそ、私が普通に会話できたことに驚いていたのだ。

わずかな会話しかしていないのに「気に入った」と言っていたのも、それが理由だろう。

「う、嘘でしょう……」

神様がFランクスタートの哀れな私に与えてくれた唯一のチート能力だと思っていたけれど、まさかの地獄への切符だったらしい。

──けれど、誰にも自分の言葉を理解されず意志の疎通ができないなんて、あまりにも寂しくて悲しくて、胸が痛んだ。どうにかすることはできないのだろうか。

「メレディスは一回関わるごとにものすごい勢いで好感度が上がっていくから、気をつけてね。ランダム機能の部分を頑張りすぎて、雑になったんじゃないかって噂もSNSではよく見たなあ」

「すごい、どこまでもクソゲーだね」

ヒロインらしからぬ言葉をリアルで使ってしまったけれど、本当にどうしようもない。

とにかく今の私は運に身を任せつつ、高ランクを目指すことしかできないようだった。

「そういえば、こないだ元の世界に戻っちゃったの」

「ええっ!?」

まさか私だけじゃなかったなんて、と大きな声が出てしまう。私も学祭期間中、爆発に巻き込まれたのをきっかけに、元の世界に戻ってしまったのだから。

「実は私もなんだ! アンナさんも死にかけたの?」

「ううん、私は急に足元に魔法陣が出てきて、ふわって感じだったよ?」

「…………」

また始まった、私とアンナさんの圧倒的格差。

Sランクにならないと死んでしまうかもしれない危機的な私と、Fランクさえ回避すればセーフのアンナさんに、まだこれほどの不平等さがあったなんて。

「でも、まだ死んでなかったんだって驚いちゃった」

アンナさんもまた、元の世界で暮らしている形跡があったのだという。周りの人々から話を聞いたところ、記憶喪失という設定で過ごしているらしい。

やはり本物のアンナ・ティペットさんもまた、アンナさんと入れ替わっていたのだろう。

「一日で戻ってこられた後、身体が入れ替わるような魔法がないか調べてみたの。そうしたら過去に異世界人と入れ替わったことがある、って人がいたみたいで」

「ちょ、ちょっと待って」

あまりの急展開に、頭がついていかなくなる。

順を追って話を聞いてみたところ、アンナさんが良い感じの攻略対象の王子様にお願いして、調べてもらったらしい。彼の出身国はこの国よりも、魔法の研究が発展しているんだとか。

「まだ調べてもらってる最中だから、何か分かったらレーネちゃんにも教えるね。杏奈は元の世界に絶対に戻りたくないから、なんとかしようと思うんだ」

「うん、ありがとう」

こんなにかわいらしくて明るいアンナさんも、元の世界に戻りたくない理由があるようだった。

この件に関しては手詰まりだと思っていたけれど、お蔭で解決の糸口が見えた気がする。

「レーネ、ここにいたんだ。そっちはお友達?」

「あ、ユリウス」

そんな中、ユリウスがこちらへやってきて、自然に私の腰に腕を回す。ユリウスは初対面であるアンナさんを見て、首を傾げている。

「ユリウス・ウェインライト!? わー、本物だ! 超かっこいい!」

一方、ユリウスを視界に捉えたアンナさんは目を輝かせ、興奮した様子で口元を手で覆った。

「俺のこと、知ってるんだ?」

「はい、それはもう!」

ゲームをプレイしたから知っているとは言えないものの、ユリウスはそもそも有名人だし、アンナさんの発言を不思議に思う様子はなかった。

アンナさんは「さすがマイラブリン屈指の美形、本当にキレイ」と頷いている。

「やっぱり無印キャラに会うと、感動が違うね! ちょっと泣きそう」

クソゲーをフルコンし何周もして、自ら「歩く攻略サイト」を名乗るだけあるアンナさんは、本当にこのゲームやキャラに思い入れがあるらしい。

目を潤ませて喜ぶ姿に、王子やヴィリーなど、友人達を紹介したいと思っていた時だった。

「あれ、レーネちゃん。ユリウスもここにいたんだ」

紺色の正装に身を包んだアーノルドさんがこちらへやってきて、輝く笑顔を向けてくれる。

アンナさんはアーノルドさんが最推しだと言っていたのを思い出し、早速紹介しようとしたのだけれど。

「え……」

アンナさんは時が止まったかのようにその場に立ち尽くし、アーノルドさんに視線を奪われていた。

「こんにちは、初めましてかな」

そしてアーノルドさんがにこやかに声をかけた瞬間、ふらっと後ろに倒れた。

そんなアンナさんの腰をすかさずアーノルドさんが支え、まるでおとぎ話の一場面のような光景になる。

二人の顔が近づき、アンナさんの大きな目はさらに見開かれた。

「大丈夫? 具合でも悪い?」

「……あ、う……」

そっと立たされたアンナさんはふらふらと数歩あとずさると、私の腕にしがみつく。

「ま、待って無理、アーノルドが生きてる動いてる同じ世界にいる待ってやばい、同じ空気を吸うのも申し訳ないし、えっ? 同じ人間? あまりにも尊い顔が良い、存在が奇跡」

いきなりアンナさんが限界オタクになってしまった。

陽のパワーが強すぎてアンナさんにオタクのイメージはあまりなかったけれど、しっかり仲間だったらしい。

「や、やだ……もっと可愛くしてくれば良かった、どうしよう、無理、待ってかっこいい」

「よく分からないけど、俺のこと好きなの?」

アーノルドさんのストレートな問いに、アンナさんはこくこくと必死に頷く。するとアーノルドさんは嬉しそうに微笑み、アンナさんの手をきゅっと握った。

「ありがとう。俺も君のことが好きになりそうだよ」

「アッ」

アーノルドさんのガチ恋距離と過剰なファンサに、アンナさんはオタク特有の悲鳴を上げると、そのまま意識を失ってしまった。

オタクにアーノルドさんの距離感バグが耐えきれるはずもなく、アンナさんの死体を支えたセシルは「黙ってくれてた方が楽で助かるわ」と言うと、細い身体を担いで去っていく。

「あはは、面白い子だったね」

「そ、そうですね……」

私も前世では気合の入ったオタクだったため、もしも推しが目の前で動いて生きていたら、無事ではいられなかっただろう。

そして結局、アンナさんから今回聞けた情報はしょうもないタイトルと、メレディスについての恐ろしい話、元の世界に戻ってしまう問題についてだった。

交流会では改めて、色々と聞かなければ。

「レーネ? ぼうっとしてるけど大丈夫?」

「あ、うん! ごめんね」

慌てて顔を上げると、ユリウスは私の手を取り、吉田に声をかけた。

「ねえヨシダくん、レーネを借りてもいい?」

「どうぞ」

「ありがとう。代わりにアーノルドをあげるね」

「結構です」

「ヨシダくん、俺と遊ぼっか」

狩猟大会で仲良くなったアーノルドさんに腕を組まれ、吉田はどこかへと連れて行かれる。多分アーノルドさんは、吉田のことがかなり好きだと思う。

ユリウスに手を引かれながら、中心へと移動する。

「ご機嫌だね」

「このためだけに今日来たからね。他のダンスの誘いは全部断ったし」

ユリウスと踊りたい女性なんて星の数ほどいるだろうし、社交においては大事なコミュニケーションだと聞いている。

社交界での付き合いも大事にしている中で、無理に断る必要なんてないのに。

「私は気にしないし、断らなくてもいいんじゃ……」

「俺がレーネに『他の男と踊らないで』って強制できなくなるのが嫌なんだ」

「…………」

本当にブレないなと笑みがこぼれるのを感じながら、私はユリウスのリードに身を委ねた。

◇◇◇

「──おい、アンナ。起きろ、さっさと帰るぞ」

「セシル……? やだ、アーノルドの前で気絶しちゃってた!? 元の世界でマイラブリン3が出てたってレーネちゃんに伝えるの忘れてたし……今度でいいよね?」

「知るか」