軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒロインの行方 1

「そもそも男側から誘うものなのに、先走りすぎだ」

──後から知ったことだけれど、吉田の言う通り男性から女性を誘うのが普通らしい。

ユリウスも私を誘ってくれないかと吉田に声を掛けるつもりだったようで、翌日の朝から私が誘ってしまったと話すと「説明不足でごめんね」と笑っていた。

あの時の吉田の困惑した反応にも、納得がいく。

「よ、吉田……ありがとう……!」

そして今世紀最大の吉田のデレに、私は胸がいっぱいになっていくのを感じていた。

「……私ね、吉田と友達になれて本当によかったなっていつも思うんだ」

もちろん他の大切な友人達に対しても常日頃思っているけれど、吉田は誰よりも遠慮なく甘えられて、何でも話せる存在だった。

吉田は金色の瞳を少し見開いた後、柔らかく細める。

「お前のそういう、何でも素直に言えるところを俺は羨ましく思っている」

今度は私が驚く番で、吉田がそんな風に思ってくれているなんて想像すらしていなかった。やがて曲が終わって足を止めると、吉田の手を両手で握る。

「ねえ、何をしたら吉田は喜んでくれる? 私、吉田になら全財産も差し出せるよ」

「重いな」

それでも小さく笑った吉田は、繋いだ手をそっと握り返してくれた気がした。

そうして無事にデビュタントの必須イベントを終え、吉田との友情も深めた私はうきうきで友人達の姿を探していた。

すると再び騒がしい一角を見つけ、足を止める。男性も女性も頬を染めて囁き合っていて、どうやら相当な美形や美女がいるようだった。

またユリウスだろうかと様子を窺うと、ぱっちりと青い大きな瞳と目が合った。

「あれ、レーネちゃんだ! 久しぶりだね」

「はっ……アンナさん!?」

そこにはなんと同じ転生者でマイラブリンの続編ヒロイン、パーフェクト学園に通うアンナ・ティペットさんの姿があった。

超絶美少女である彼女の桃色の長いふわふわとした髪はハーフアップに纏められ、白いドレスを着ている姿はまるで女神のようだった。

どうしてここにと驚いたけれど、彼女もまたこの国の侯爵令嬢であり、同い年なのだ。このデビュタント舞踏会は国をあげてのものだから、よくよく考えると当然だった。

交流会で会えると思っていたけれど、今日ここで遭遇するなんて。そして彼女の隣に立つ美形を見た私は、さらに驚いてしまう。

「セ、セシル……!?」

そう、アンナさんのパートナーのポジションに立っていたのはなんと、従姉弟のセシルだった。

「よお、レーネ」

「久しぶり! 先日は色々ありがとう」

「ああ」

相変わらず俺様な態度のセシルは、水色のウェーブがかった髪を後ろへ撫で付けている。

完璧な正装姿は続編の攻略対象なだけあり、輝くような美貌が眩しい。

「ここへ来るまでレーネちゃんに会えるかなって話してたんだよね、セシル?」

「おい、無駄に近づくな」

「…………?」

セシルはアンナさんを苦手に思っていたはずなのに、なぜ一緒に参加しているのだろう。

そんな疑問が顔に出ていたのか、セシルは続けた。

「こいつがいい感じの王子、他国の人間だろ。だからこの場にはこれないわけ」

「なるほど、確かに」

「王子も王子でこいつが好きだから、他の男とパートナーになるのは許せないとかなんとか言い出して、絶対にこいつを好きにならないって枠でこんなことに……」

納得の理由に、同情を禁じえない。こちらで言う吉田枠なのだろう。

一方、セシルの腕に細くて白い腕を絡ませたアンナさんに、全く気にする様子はなかった。

「でもちゃんとエスコートしてくれるし、ずっとアンナのこと見てるよね?」

「黙れ、お花畑女。お前が余計なことをしないか見張ってるんだよ」

「もうセシルったら、素直じゃないんだから」

「殺してくれ」

セシルはげっそりしていて、アンナさんから離れると「吉田を見てると安心する」と言って吉田の方へ寄っていく。

「久しぶりだな」

そういえば以前、パーフェクト学園に潜入した際、吉田とセシルは変な乗り物を一緒に見に行っていたくらい仲良くなっていたことを思い出す。

二人が話している隙に、私もアンナさんに少しでもマイラブリンについて聞かなければ。

「あの、アンナさんに聞きたいことがあって」

「なあに?」

「ええと、その……うーんと……なんだっけ……マ、マイラブリンって何の略?」

聞きたい大事なことはたくさんあったはずなのに、一番しょうもないことを尋ねてしまった。

「マイスイート♡ラブダーリンin the schoolだよ」

「聞かなきゃよかった」

正式名称を知ってしまった以上、私はこれから『マイスイート♡ラブダーリンインザスクールのヒロイン』という意識のもと、生きていかなければならない。本当に聞かなければよかった。

ありふれすぎた死語を組み合わせており、何のひねりもないのがシンプルにダサくて辛い。洒落たつもりなのか、無駄に英語のインザスクール部分がまた辛くて仕方なかった。

色々と聞こうと思っていたのに、いざとなるとパッと出てこない。質問をまとめたものでも用意しておけば良かったと、後悔が止まらない。

「あ、そうだ! メレディスって、どこで出会うの?」

死亡BADを引き起こす隠しキャラについて、聞いておいて絶対に損はないだろう。

アンナさんは人差し指を口元に当て、ああと微笑む。

「そこ、ゲームでもランダムになってるから分からないんだよね。アンナも全パターンは把握してなくて」

「そんなことある?」

さすがクソゲー、力の入れどころを間違えすぎていて最悪すぎる。誰も求めていなかった無駄な工夫に、心底泣きたくなった。

いつメレディスに遭遇するか分からないという、地獄のドキドキが待っていることになる。

「そもそも何でメレディスは私、というかヒロインを殺そうとするの……?」

「あれ、話してなかったっけ? メレディスってね、誰にも自分の言葉を理解されないの。誰よりも強い魔力を持つ代償として、かけられた呪いなんだ」

「えっ?」

「だから、唯一理解できるヒロインに執着するんだよ」