軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

体育祭はラブチャンス 4

フェンシングの一試合目を終えて観客席を見回すと、こちらを見ているレーネと目が合った。

笑顔で手を振ると、眩しい笑顔で「すごかったよ」と唇を動かす。

いちいち可愛いなと思いながらコートを後にすると、ぱちぱちと雑な拍手をするミレーヌに「お疲れ様」と出迎えられた。

ミレーヌは女子の方に出場する予定で、男女ともにフェンシングの優勝は固いだろう。

「あの、ユリウス様、よかったら……」

「ごめんね。今は喉が渇いてないんだ」

ベンチに腰を下ろすと、すぐに名前も知らない女子生徒たちにタオルや水を差し出される。

適当な笑顔で断っても、俺と言葉を交わせたことが嬉しかったのか、はしゃいだ様子で去っていった。

「相変わらず人気だこと。受け取るくらいしてあげればいいのに」

「怪しい惚れ薬だとか睡眠薬だとか入ったもの、これまで何度渡されたと思う?」

「ふふ、美形も大変ね」

そもそも彼女達は俺の容姿や肩書きにしか興味がないのだから、中身なんてどうだっていいはず。

「…………」

友人達と楽しげに話しながら体育館を出ていくレーネの姿を、じっと目で追う。

最近は自分でもどうかしていると思うくらい、レーネへの想いが膨らんでいくのを感じていた。

「俺さ、これまでは望めば何でも手に入ったんだよね」

「でしょうね。ユリウスだもの」

「まあ、全て実力で手に入れてきたんだけど」

突然そう話し始めても、ミレーヌは表情ひとつ変えずに相槌を打ってくれる。

俺はミレーヌのこういう部分を気に入っていて、気安い関係だからこそ、長く付き合っていられるのだろう。

「だから、手に入らないと余計に欲しくなるのかな」

「子供みたいだね。でも嫌いじゃないわ」

「……俺もだよ」

俺は幼少期ですら、子供らしいことなんて何ひとつしたことがなかった。

普通の子供のように無邪気に遊ぶことも、感情を表に出すことさえもしなかった──許されなかった。

恋愛感情なんてものに振り回されている今の自分を見たら、過去の俺は愚かだと嘲笑うに違いない。

「そもそも、こんなにも何かを欲しいと思ったのも初めてなんだけど」

「でも、レーネも可哀想だわ。こんなにもしつこくて厄介な男に捕まって」

「本当にね」

そんな会話をしていると、見知った顔がこちらへ向かってくるのが見えた。

「あー、やっぱユリウスの試合は間に合わなかったか」

走ってきたらしいジェレミーは、残念だと言わんばかりに肩を落とす。体育祭の運営委員として朝から忙しそうにしていたものの、ようやく少し落ち着いたらしい。

そしてミレーヌとは反対側の俺の隣に腰を下ろすと、大きく息を吐いた。

「最後の最後でこんな委員やらされて最悪だよ。ユッテの試合も見に行けなかったし……」

立候補者が出ず、くじ引きで委員を引き当ててしまったことを心底恨んでいるようだった。

レーネの友人の恋人とは順調らしく、たまに惚気話を聞かされることもある。

「借り物競走はジェレミーが担当だったんでしょう? 変わったお題ばかりで面白かったわ」

「そうそう、教師からはちょっと怒られたけど、どうせなら楽しくやろうと思ってさ。ユリウスも盛り上げてくれて助かったよ」

「自分のためだけどね」

頬にキスをした時のレーネの反応を思い出すと、口元が緩む。あれだけ目立てば、去年のようにレーネに近づこうとする男は現れないだろう。

「でも、お前ばっかりレーネちゃんのことが好きだと思ってたんだけど違うんだな」

「どういう意味?」

「さっきの借り物競走だよ」

ジェレミーの言葉の意味が分からず、眉を顰める。

「もしかしてレーネちゃんが引いたお題、知らない?」

「…………」

レーネは「兄妹」だったと言っていたが、学園内に兄妹がいる人間など限られている。全員にあてはまらないものなどあり得るのだろうかと、違和感を覚えていた。

何も言わずにいる俺に、ジェレミーは続けた。

「実はレーネちゃんのお題、好きな人だったんだよ」

「は」

予想していなかった言葉に、戸惑いを隠せなくなる。

背中越しにミレーヌの「まあ」という楽しげな声が聞こえてくる。

「可愛いよな、迷わずにお前のところに向かってさ」

「…………」

ジェレミーは、俺とレーネの血が繋がっていないことを知らない。隠しているのではなく、あえて言うタイミングもきっかけもなかったからだ。

だからこそ、レーネが兄の俺に懐いているのだと、微笑ましげな視線を向けてくる。

「……好きな、人」

レーネがそのお題を引いて、俺以外の人間の元へ行ったら、俺がどんな反応をするか分かっているからこそ、仕方なく選んでくれたのかもしれない。

だが本当に仕方のない理由だったとして、嘘をついてまで隠す必要があるだろうか。

「ユリウス、顔赤いわよ。可愛いわね」

「……黙ってくれないかな」

つい期待してしまっては、どうしようもなく嬉しいと思ってしまう。こんなことで一喜一憂するなんて、本当に俺らしくないというのに。

「ははっ、もう恋じゃん」

「血が繋がってないからね」

「なるほど、血が──ってマジ? 冗談だよな?」

「さあ?」

それからはやけに興奮した様子のジェレミーに質問攻めされながら、ミレーヌが相手を叩きのめす姿を観戦することになる。